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四巻(二十三)

都、狂い乱れて(五)

 翌二十日昼前。

 自室にて、ホアビウ[・オンデルサン]()ての書状を記していたサレのもとへ、ポドレ・ハラグが血相を変えて飛び込んで来た。

 ポドレによると、コステラ=ボランクの薔薇園[執政府]を、徳政令を求める平民が取り囲み、大騒動に発展しているとのことであった。その余波はコステラ=デイラにもおよび、一部で不穏な動きが生じていた。

 サレはポドレからの報告を聞くと、即座に、公女[ハランシスク・スラザーラ]の名で、コステラ=デイラに(かい)(げん)(れい)()くことを決めた。

 戒厳令の建白書を手短に(したた)めると、サレは自宅をポドレに任せ、執政官[トオドジエ・コルネイア]とその家族を護衛しながら、鹿()(しゅう)(かん)へ向かった。


 鹿集館に参上したサレは、午睡中の公女の寝室へ入り、寝起きの彼女へ事を報告した。

「戒厳令、いいじゃないか。常に敷いておけよ。……騒がしいのは困るぞ。あとはおまえの好きにしろ」

 そのように言いながら、公女はけだるそうに筆を動かし、よく読みもせずに、建白書へ花押を記した。

「徳政令とやら、どうするのだ?」

「応じるわけがありません。薔薇園もそこまで愚かではありますまい」

「そうかな?」

「……少なくとも、コステラ=デイラとラウザドの商人の財産はわたしが守ります」

「その徳政令とやらが出れば、おまえも借金が減るのではないか?」

「金を借りたら、適切な利子をつけて返すのは、人の世を成り立たせる大前提です。徳政令で借りた金を返さなかったなどと言われては、サレ家の名が(けが)れます」

 サレの回答に、公女があくびをひとつ与えた。

「おまえは金がからむと熱心に動くな。金を大事にするように、もっと私を大切にするべきだと思うがな」

「公女の資産は、ラウザドとコステラ=デイラの商人に、その運用を任せております。他人事ではありません」

 自分に対して、いらだちを隠さないサレに対して、公女は(おう)(よう)な態度のまま、「それは知らなんだ」と応じた。

「スラザーラ家の財務の状況については、毎月、ご報告申し上げているではありませんか」

「あのようなもの、聞いているわけがないではないか。見ていてわからなかったのか。おまえも案外、抜けたところがあるな」

 公女の言い草に、「もう結構です」とサレは席を立ち、部屋を出ようとした。

 すると、その背中に対して、「むやみに人を殺すなよ。死んだら、生き返らないのだから」と(よく)(よう)のない公女の声が投げかけられた。

 公女の言葉に、サレは(きびす)を返し、次のように答えた。

「それが人間のよいところでもあるのですが、まあ、最善は尽くします。ただし、人命よりも、騒動の鎮圧を優先いたしますのであしからず。それでは、報告をお待ちください」

 それに対して公女は「午睡の時間には来るなよ」と言い、寝台にもぐり込んだ。

 公女のありさまに小さくため息をついたあと、「おやすみなさいませ」と声をかけてから、サレは部屋を後にした。

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