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四巻(十)

第二章 南衛府監(一)

 新暦八九六年初夏[七月]。

 近北公[ハエルヌン・ブランクーレ]が兵を引き払った後、表面上だけではあったが、都に大きな動きはなかった。


 前年の盛夏[八月]に(なん)(えい)()(かん)に任じられ、コステラ=デイラの行政に関する全権を手に入れていた、サレの諸施策は実を結び、都の半分は彼の好む形へと(へん)(ぼう)していた。

 「南衛府監のおかげさま。きれいになったコステラ河。澄んだ水には魚もおらぬが」などと、みやこびとから陰口を叩かれたが、サレは一向に意に介さなかった(※1)。



※1 サレは一向に意に介さなかった

 サレには、この時期に都で大流行中だった、自身に対する風刺劇を楽しげに鑑賞したという逸話がある。

 供として付いて行ったオーグ・ラーゾは、上演を禁止にするべきだと進言したが、「なぜだ? かわいいものではないか」と、サレから相手にされなかった。

 サレがコステラ=デイラを管理した時代は、その前後に比べて、表現に対する規制がゆるく、宗教とハランシスク・スラザーラに関する事柄に気をつけていれば、政道批判が含まれていようとも、上演禁止や発禁処分になることは(まれ)であった。

 その表現面での自由な雰囲気のなかで、サレからの援助は皆無であったが、この時代特有の文化が、平民の間で花開いた。

 しかしながら、終生、サレは藝術に感心を抱かなかったので、そのところについては、本回顧録では一切触れられていない。

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