表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/322

一巻(三)

西征(三)

 盛夏[八月]三日早朝。

 (とり)(かご)[(てん)()(きゅう)](※1)にて、樫の木に止まっていた無数の黒揚羽蝶が、一匹の鳥のような形を保ちながら、西へ向かって飛び去るのを見たと、女官が言い出した。

 真偽不明(※2)かつ前代未聞の現象を、宮廷の占い師は吉兆と断じた。これを伝え聞いた大公[ムゲリ・スラザーラ]は、初秋[十月]と定めていた西征の開始時期を晩夏[九月]に早め、その旨を各州へ伝えた。


 このため、晩夏十五日に都で予定されていた馬ぞろえは盛夏二十五日に繰り上げられ、本来参加するはずであった、西征軍の主力である東南州の兵馬は準備のために不参加となり、西南州の軍のみが摂政(※3)の閲兵を受けることとなった(※4)。



※1 鳥籠[天鷺宮]

 天鷺宮は、国主であるデウアルト家当主の宮殿の名。鳥籠と通称されていた。


※2 真偽不明

 後年、サレはウベラ・ガスムン宛ての書状にて、国主ダイアネ五十五世の夫である摂政ジヴァ・デウアルトの策謀であると言及しているが、その目的と証拠については触れていない。


※3 摂政

 ジヴァ・デウアルトのこと。

 生来病弱であったダイアネ五十五世は、「短い内乱」がはじまる前から人前に出られる状態ではなく、摂政であった夫ジヴァが政務を代行していた。

 五十五世の女婿であるジヴァは、ムゲリ・スラザーラを陰から支え、その覇業を成し遂げさせた人物。

 東南州の上流騎士階級の出で、権力はあれど権威の足りないムゲリを助けたのが、権力はなけれども権威をもつジヴァであった。

 ジヴァの働きで、ムゲリは国主の勅令を盾に他州への介入を可能とし、ジヴァは傾きかけていたデウアルト家をムゲリの財力で立て直した。そして、それと同時にデウアルト家内での自分の地位を盤石なものとした。

 ムゲリに対してジヴァが成し遂げた最大の功績は、ムゲリと()(けん)する名声を得ていたスザレ・マウロを懐柔し、ムゲリの同盟者、後には彼の家臣にしたことであった。


※4 閲兵を受けることとなった

 この時点での、その他の州の動きとしては、近西州は遠西州との州境へすでに兵を進めており、宿営地を造ると共に、補給路の確保を進めていた。

 東部州は、州を統括する(しゅう)(ぎょ)使()ボンテ・ゴレアーナの体調が思わしくなく、その回復を待って進軍を開始する予定であった(結局、ゴレアーナが病死して派兵ならず)。派兵が遅れることにムゲリ・スラザーラは難色を示したが、その代わりとして大量の火縄銃が届けられたので、その機嫌は直った。

 近北州は、半年前に行われた遠北州征伐に主力として参加したため、今回の遠西州の討伐については不参加を認められた。

 最後に遠北州だが、ムゲリの旗下に加わったばかりの遠北州は、戦禍が癒えておらず、また、検地の最中であったので、同じく不参加が認められた。しかし、馬の産地として、軍馬の供出は求められた。この処置には、ムゲリの支配を未だに受け入れていない者の多くいる、遠北州の戦力を削ぐ目的も加わっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ