祭りの思い出
彼女は人見知りで、それは家族や友人以外の全ての人が対象になる。
いつもいつも、誰かに話しかけることも、話しかけられることもない。ただ、そこにいる空気のような存在。
雑踏に紛れてどこからか太鼓の音が聞こえてくる。彼女の目に留まるのは、たこ焼きやお好み焼き、りんご飴に綿飴と食べ物ばかり。
たまたま行った夏祭り、そこには彼女の通っていた小学校の時の教師が来ていて、彼女は勇気を出して話しかける。
「お久しぶりです」
教師は隣のクラスの担任であったが、関わりがあった。受け持つ生徒ではなくとも、覚えられている生徒は沢山いた。
「誰、だっけ?」
彼女に返ってきた言葉はそれだけ。彼女は一度、ぎゅっと下唇を噛み、口を真一文字にした。
だが、どこかスッキリした様子の彼女。すぐにその顔はパッと明るくなり、言うのだ。
「数学のクラスで教わってたんですよ、クラスは違ったんですけど」
教師はとても申し訳なさそうに微笑んだ。
「あら、そうなの。覚えてなくてごめんね」
彼女は「いえ」とだけ言って、その場を後にする。歩いて行く彼女の背は少し丸まっていた。数歩先、彼女は立ち止まってグッと前を向く。
そして、まっすぐ前を向いて歩き出した。