表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狂獣戯画  作者: ばーぼん
8/9

第1部 3章 友達

そして時間は流れ、能力試験後は特にこれといった行事は無く、座学や戦闘訓練をメインに授業を受け2週間程が経過し、そして現在昼食で賑わって居たはずの教室には緊張感が漂っていた。

 その原因は、1つの机を挟み凛と十六夜楓が睨み合い今にも言い合いが始まろうとしていたからだ。


 時間を遡り時刻は朝の7時、場所は第1高校女子寮の食堂での出来事。この時間帯はまだ起床するには少し早いのか、食堂にはまだ数人の女子生徒がちらほらといる程度でほとんどガラガラの状態だった。

そしてその中の生徒の1人が凛と十六夜楓の2人だった。凛は朝のトレーニングの為6時に起床する。起きる時間が早いためこの時間帯に朝食を摂るのが日課になっていた。

 十六夜楓はというと、彼女も起きる時間は他の生徒よりも早いが凛程早く起きる訳では無い。起床するのは7時少し前で、起きて直ぐに朝食の為食堂へと赴く。この時間帯に彼女が朝食をとるのは、極力他の生徒と合わないようにするためだった。食堂が混み始めるのは7時半頃からで、生徒が多くなればそれだけ騒がしくもなるし、密集度も高くなり他の人からの視線も多くなる。それが嫌であえて人数が少ないこの時間帯を選んでいる。

 そして早い時間を選べば、この2人が鉢合わせしてしまうのも必然というものだろう。

 奥の席で1人朝食を摂る十六夜を見つけた凛は自分の朝食を受け取り彼女の元へと近づいて行き声をかけた。


「おはよう十六夜さん。いつもこの時間に朝ごはん食べてるよね? 私もいつもこの時間にご飯食べてるんだ!」

「・・・・・・・・・・・・」


 満面の笑みを浮かべながら十六夜へと声をかけた凛を無視し、黙々と朝食を食べ進める十六夜のその反応に少し眉をひそめる凛だが、少しでも気を引こうと話を続け始めた。


「いつも十六夜さんがこの時間にご飯食べるとちょっと見てたんだけど、気になって声掛けちゃった」

「・・・・・・・・・」

「あっ、朝はいつも何時頃起きてるの?・・・私は朝のトレーニングがあるからいつも6時頃起きてるんだ・・・」

「・・・・・・・・・」

「もしかして、私迷惑かな?」

「迷惑」


 凛の会話に無反応を続けたいた十六夜だったが、遂に口を開いたがその反応は非常に辛辣なものだった。

 さすがの凛も迷惑と言われてしまうとそれ以上会話を続ける気にはなれなかったのか、十六夜がいる席を立ち別の席へと移動し1人朝食を食べ始めた。

 朝食から少し時間が経ち時刻は7時半、凛は学校へ登校するために寮の玄関で靴を履き替えて居るとそこへタイミング悪く十六夜楓も登校のためやってきた。

 食堂での事もあり、気まずさが残る2人は少しタイミングをずらし玄関を出た。距離にして約10メートル程間隔をあけて、十六夜楓での後を追う形で凛が後ろを歩く。

 凛が少し近づこうものなら、その気配を察知し歩く足を早め、寮の玄関を出てからの2人の距離を決して崩さ内容に保っていた。

 

 その後何も無いまま2人は学校へと到着し、中履きへと履き替える。十六夜楓は靴を履き替えるとそそくさ自分のクラスへと向かったが、一方凛は昇降口で偶然鉢合わせたクラスメイトと会話をしていた。

 そこからは特に何事もなく普段通りの学校生活を送っていた。朝のホームルームをし、1、2限目の座学を受け、3、4限目の実技の訓練を受けた。

 だが凛だけは、座学の時も実技の時も十六夜楓の事が気になり全く集中出来ていなかった。

そしてそれは授業中に留まらず、休み時間の間もそれは続いていた。十六夜楓が席を立てばその後を目で追い、クラスメイトと会話していてもずっと上の空で全く聞いていなかった。その様子を不審に思った雷音は昼食時に凛がクラスメイトと離れ1人になったタイミングを見計らい声をかける。いつもならこんな事はしないのだか、流石に今日の凛は見るに耐えなかったのだろう。


「どうした凛? 朝から様子が変だぞ。 何かあったのか?」


 凛の視線から十六夜と何かあった事は雷音自身わかっていたが、部外者があまり触れすぎのも良くないと思い、あえてそこには触れずやんわりと聞くことにした。

 雷音に聞かれた凛はしょんぼりとし俯きながら、今朝起きた出来事を詳しく説明した。

 凛の説明を聞き少し考える素振りを見せた後、雷音は自分の考えを俯く凛に優しくするだけでは無く、ダメな所もしっかりと伝えた。


「まぁ話を聞く限り、少ししつこくし過ぎたのかもしれないな、凛もそう思っているんじゃないのか?」

「・・・うん・・・ちょっとしつこくし過ぎたのは自覚してる」

「自分の悪かった所をちゃんとわかっているのは凛の良い所だ」

「・・・・・・雷音は優しいね、ありがと」


 雷音の言葉に落ち着いたのか、微笑みながらお礼を言う凛だがその笑顔はどこか悲しさの混じった複雑なものだった。その表情を見て、何か思う所があったのか雷音は更に話を続ける。


「結局の所お前はどうしたいんだ? 相手から拒絶されたから諦めるのか?」

「・・・・・・・・・自分でもどうしたからいいのか分からないの、あそこまで拒絶された事が今までないから」

「それは嘘だな、幼い頃に1度だけあるだろ。徹底的に拒絶され続けたことが」


 雷音のその言葉に凛はハッとなり幼い日の事をおもいだひた。かつて幼い頃にある少年に拒絶され続けた事を思い出した。今では普通に話し、家族であり幼馴染であり、誰よりも長い年月を共に過ごしてきた雷音の事を。


「あの頃のお前は1度拒絶されたくらいで諦める様な奴じゃ無かった。どれだけ拒絶されてもしつこく関わってきて、相手側が折れざる負えない位に。

 でも、お前のその行動のお陰で1人に成らずに済んだ奴だって居る、そうだろ?」

「でもあの頃は歳の近い子が雷音居なかったから必死だっただけで、今とは状況がちが、」

「違わない」


 昔の事を思い出し表情が戻りつつあった凛だが直ぐに暗い表情に戻り、俯きながら諦めるための言い訳地味た事を言っていると雷音は食い気味に否定した。先程までは凛の隣に立ち、顔すら合わせずに話していた雷音だが、今は凛の方を向き、力ず良い眼差しで見つめていた。

 その眼差し少しドキッとした凛だが透かさず目を逸らし、顔を赤らめながらも雷音の言葉を更に否定する。


「全然違うよ。今は他の子達も居るしそれ以上関わって皆に心配かけたくないし、クラスの雰囲気悪くしたない」


 あまりにも消極的で覇気のない凛に、流石に痺れを切らしたのか、いつも静かで塩対応な雷音が感情をあらわにして凛を問い正す。


「お前が十六夜と仲良くなりたいと思う事に周りの人間は関係ないだろ!」

「うっ・・・・・・・・・」


 今までに聞いた事のない雷音の声色にびっくりし怖気付く凛に、間髪入れずに更に畳み掛ける。


「あの頃のお前は俺と仲良くなりたいから、なりふり構わずに自分のやり方でやってきたんじゃないのか? 今のお前は情けなく惨めで俺の知っている守武凛とは正反対だ」


 いつもの雷音と変わらない話し方と言葉使いなのに感情が篭っているせいなのか、心にくるものがあり心臓が締め付けられた。

 雷音話を俯きながら聞いていた凛の目尻からは溢れ出した涙が溜まり、頬をつたい流れ落ち声を殺しなが泣き出してしまった。

 突然の事に驚いた雷音は言い過ぎたと慌てながら周りの人に見られていないか確認し、どうすれば良いか少し考え再び凛の方に向き合い、先程とは違い優しさのこもった暖かい声色で凛に質問をした。


「凛、お前は十六夜と仲良くなりたいのか、なりたくないのか、お前人身はどうしたいんだ?」


 すると凛は雷音の顔をしっかりと見つめ泣きながら、


「な か よ く゛な り た い !」


 涙混じりながらも力強く雷音目をしっかり見つめしっかりと言葉にした。

 やっと凛の本心を聞くことが出来た雷音は優しい微笑みを浮かべながら、凛の頭に優しく手を時ゆっくりと頭を撫で始めた。すると、少し気恥ずかしくなったのか目を逸らしまたしても下を向いてしまったが、気にせずに頭を撫で続けながら話を続ける。


「なら、周りなんか気にせず自分のペースでお前のやりたい用にやればいいさ」

「うんっ!」


 力ずよく頷き、先程までの泣き顔とは違い満面の笑みで雷音の顔をしっかりと見つめる。泣いていたせいか目の下は少し赤くなっているが、表情はいつもの元気な凛の表情へとなっており、そして何かを決意した凛々しさも含む良い表情だった。


「私頑張るね、十六夜さんと仲良くなりたいから!」

「おう、頑張れ」


 拳を握りしめそう伝える凛に対して、いつもの静かで塩対応な状態に戻っていた雷音短くそう言うと自分のクラスへと戻るため歩みを進め始めた。凛もそれに続くように早足で雷音の後を追い横へと並び同じ速さで歩く。

 すると横から顔をひょこっと覗かせ、


「ねぇ雷音ってなんで私にそんなに優しいの?」


 突然そんな事を聞かれた雷音は一瞬戸惑いの表情を見せたものの、直ぐにいつものムスッとした表情に戻り平然を装っていた。そして「別に普通だろ」と特に顔色を変えることなくそう告げ、少し足を早めた。

 そんな雷音の少し後ろを歩く凛はクスクスと小さく笑い、雷音に聞こえるか聞こえないかの声量で、


「いつもありがとう、大好きだよ」


 と小さく呟き雷音の後を追いかけ、自分のクラスへと向かう。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ