表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

「好き」と言うのが遅すぎる

作者: 墨江夢
掲載日:2022/10/21

 よし、告白しよう。

 17歳の誕生日、俺・尾高昭也(おだかあきや)はそう決心した。


 誕生日だからって、何か特別な理由があるわけじゃない。誕生日というのは、あくまできっかけだ。

 ずっと告白しようと思っていたけど、なかなか勇気が出なくて。誕生日で一つ大人になったことを、口実にしようとしているのだ。


 俺はスマホでSNSのアプリを開く。

 数ある連絡先の中で、一番に登録して、一番メッセージのやり取りをしている女の子の名前をタップした。


 伊南氷花(いなみひょうか)。それが俺の恋焦がれている、幼馴染の名前だ。


 氷花と初めて出会ったのは、12年前。互いに5歳の時だった。

 当時は毎日のように遊んでいて、成長するにつれて段々と疎遠になりつつあったけど、それでもなんだかんだ今でも交流が続いている。


 テスト直前なんかは深夜まで一緒に勉強しているくらいだ。……訂正。成績の悪い俺が、学年上位の氷花に教えて貰っているくらいだ。


 幼馴染だから。一番近い異性だから。そんな言い訳をして、俺は今まで氷花に告白することから逃げてきた。

 幼馴染という関係も、いつかは自然と恋人関係になれるだろう。そんな甘い考えていた。


 だけど、俺は聞いてしまったのだ。

 クラス1のイケメン・白井弓弦(しらいゆづる)が、氷花に好意を寄せているという状況を。


 白井は顔が良いだけじゃなく、性格も良い。加えて成績や運動神経も良いとか。……わかっていたけれど、俺に勝っている要素なくない?


 そんな白井に告白されれば、氷花もOKしてしまうだろう。だから俺に勝ち筋があるとすれば、白井よりも先に氷花に告白するのは必須だ。


『夜の9時頃、会えないか?』


 俺はスマホにそんな一文を打ち込む。

 あとは「送信」ボタンを押すだけだ。押すだけなんだけど……緊張するあまり、俺はボタンを押せずにいる。


 何ここに来て怖気付いているんだ! 勇気を出せよ、このヘタレ!


 自分で自分を叱責していると、母さんがいきなり俺の部屋に入ってきた。


「昭也ー、お風呂沸いたわよ」

「!」


 突然の来訪者に、俺は驚く。そして驚きのあまり、つい「送信」ボタンをタップしてしまった。


 最近のスマホって、めちゃくちゃ感度良いよな。ちょっと指先が当たっただけで、すぐ反応してしまう。

 お陰で俺は覚悟を決める前に「送信」ボタンを押しちゃったわけで。これも科学技術発展の弊害ってわけか。


「何? どうかしたの?」

「いいや、何でもない。……風呂だったよな? 入る入る」


 こうなってしまった以上、仕方ない。

 当初の予定通り、俺は今夜氷花に告白するとしよう。



 


 夜9時。俺は氷花の家の前に立っていた。

 隣の家に、それも入浴後に行くだけだというのに、俺はばっちりおしゃれをしている。なぜならこれから、告白するのだから。


 数分後、氷花が家の中から出て来た。

 彼女は俺とは対照的に、寝間着姿だった。


「メッセージじゃなくて直接会いたいだなんて、どうしたのよ? しかも何、その格好?」


 告白しようとしているんだ! 当たり前だろう!

 お前こそ、仮にも異性と会うのにすっぴん&寝間着ってどういうことだよ? ……まぁ、可愛いんだけど。


 俺の不満を他所に、氷花は何か思い出したように「あっ」と声を漏らす。


「誕生日おめでとう。まだ言ってなかったわね」

「……覚えていてくれたのか?」

「幼馴染の誕生日を忘れるほど、薄情な女じゃないわよ」


 幼馴染として、型式上だけの「おめでとう」。そうとわかっていても、嬉しいと感じてしまう。


 ……今だ。今なら、言える気がする。

 ようやく告白する覚悟が出来た。


「なぁ、氷花」

「ん?」

「好きだ。俺と付き合って欲しい」

「……え?」


 あまりに予想外だったのか、氷花は俺の告白に目を見開いて驚く。

 一瞬換気を見せたかと思うと、すぐに俯いてしまった。


「……遅いわよ、バカ」


 微かな声量で呟いたかと思うと、


「私、彼氏いるから」


 突きつけられる、恐れていた現実。

 俺は目の前が真っ白になった。


「……その彼氏って、俺の知っている奴なのか?」

「えぇ。同じクラスの白井くん」


 ……そうか。白井だったのか。

 俺が白井に勝つ可能性があるとすれば、それは彼より早く告白することだった。しかし現実は、白井の方が早く告白していた。そりゃあ恋が成就しない筈だよな。


「白井と幸せにな。幼馴染として、応援しているよ」

「……ありがとう」


 口では強がってみるけれど、本音はめちゃくちゃ悔しかった。


 誰よりも早く彼女の魅力に気付いたというのに……「好き」と言うのが、遅すぎたみたいだ。





 氷花にフラれて、一週間が経った。失恋の傷は、未だに完治していない。


 生まれて初めて女性向けのファッション誌を買って、綺麗な読モを見て氷花を忘れようとしたが、そんなことは出来ない。

 すぐ隣に氷花が住んでいるんだ。当然か。


 しかし氷花を忘れる努力は怠らない。俺はこの一週間、一度も氷花と会話していなかった。

 メッセージだって、送っていない。


 高校を卒業したら、一人暮らしを始めようかな? 物理的な距離が遠くなれば、心機一転出来るだろう。


 そんなことを考えながら、撮り溜めしていたドラマを視聴していると、スマホにメッセージが送られてきた。


 どうせソシャゲの公式アカウントからの通知だろう。

 そう思いながらスマホを見ると……送信主は氷花だった。


『今から会える?』


 メッセージじゃなくて、わざわざ直接会いたいなんて……いや。メッセージじゃダメだから、会いたいと言っているんだろう。


 俺は即座に既読を付けて、『会える』と返信した。


 俺は寝間着のまま、家を出る。

 家の前では、氷花が座り込んでいた。


 滲み出す悲壮感は、気のせいなんかじゃない。よく見ると、目尻に涙の跡がある。


「……氷花」

「昭也……」


 氷花は俺に抱き着くと、わんわん泣き始めた。

 俺は何も聞かずに、優しく彼女の頭を撫でる。

 今下心を抱くほど、クズに成り下がったつもりはない。


 数分後。

 氷花はようやく泣き止んだ。


「それで、何があったんだ? お前が俺の前で泣くなんて、子供の頃以来だろ?」

「うん、あのね……白井くんに浮気されたの」


 今日の放課後のことだった。

 氷花は白井をデートに誘ったらしい。

 氷花の誘いに対する白井の返事は、「NO」だった。


「今日は予備校があるから」


 予備校ならば、仕方ない。今から受験勉強するなんて、流石は白井くんだ。氷花はそう思ったらしい。


 しかし実際は違った。

 気まぐれで立ち寄ったファストフード店で、氷花は目撃してしまったのだ。白井がクラスの別の女子と、仲睦まじくしている光景を。


 最初は単に一緒に遊んでいるだけだと思った。いや、そう信じたかった。

 だけどその希望も、瞬時に打ち砕かれる。……白井はその女子とキスをしていたのだ。


 彼女は遊びなのか、それとも自分の方が遊びだったのか。白井の真意はわからないが、裏切られた事実は変わらない。


 ファストフード店から逃げ出した氷花は、その足で俺の家に来たのだ。


 話を聞いた俺は、怒髪衝天だった。

 白井の野郎、許さねぇ。一発ぶん殴ってやる。

 

「愚痴を聞いて貰うために、俺のところに来たのか? ……いいよ。幼馴染なんだから、愚痴でも何でも吐き出してくれ」

「いいえ、違うわ」

「じゃあ、何? 慰めて貰いに来たの?」

「そうでもない。……私、気付いたの」


 そう言うと氷花は涙を拭って、俺を真っ直ぐ見た。

 その瞳には、「覚悟」が垣間見える。


「私を本当に見てくれていたのは、好きでいてくれていたのは……昭也だけだったんだって」

「……」


 氷花の言っている意味が、初めはわからなかった。え? それって……


「こんなこと、凄く虫が良いと思っているわ。でもね、もし昭也がまだ私のことを好きでいてくれているのなら、私と――」


 その先は、言わせない。俺は氷花の口を塞ぐ。

 すると氷花は、悲しそうな顔になった。


「……そうよね。一度フったのに、それはないわよね」

「そうじゃない。そうじゃないんだ。今告白しても、それって俺が白井の代わりみたいじゃないか」

「そんなことない! 昭也はあんな男とは違う!」

「わかってる。でも、そう思えてしまうってだけだ。ただの自己満足。だから……その時になったら、また言うよ」


 俺の気持ちを聞いた氷花は、「えぇ、待ってるわ」と嬉しそうに微笑んだ。





 氷花が白井と別れて半年、ようやくその時はやってきた。


「好きだ、氷花。俺と付き合って欲しい」

「その告白は、受けられないわ」


 OKを確信して臨んだ告白の答えは……まさかの拒絶だった。


 ……そうだよな。あれから半年が経っているんだ。新しい彼氏が出来ていても、おかしくないよな。

 

 クソッ。こんなことなら意地を張らずに、あの時付き合っていれば良かった。相変わらず俺は、「好き」と言うのが遅すぎる。


「……因みにだけど、誰と付き合っているんだ? 俺の知っている人?」

「誰とも付き合っていないわよ。でも、好きな人ならいる」

「……そっか。クラスの奴なのか?」

「そうよ」


 頷いてから、氷花は俺を指差した。


「私はあなたが好きなの」


 ……え? どういうことだ? 

 だって俺はたった今、フラれたばかりじゃないか。


「でも氷花は今、俺とは付き合えないって……」

「「その告白は受けられない」って言っただけよ。付き合えないだなんて、一言も言っていないわ。言うわけないじゃない」

「どうしてそんなわかりにくいことを?」

「私の意地かしら? もしくは半年前告白を先延ばしにした仕返し」


 そう言って、氷花は舌を出す。


「最初に告白してくれたのは、あなたの方よ。だから今度は私から言うって決めていたの。……好きよ。付き合って。あなたになら、全てを捧げられる。それとも……言うのが遅すぎたかしら?」

「……そんなことないさ」


 早かろうが遅かろうが、俺の答えは変わらない。いつまで経っても、変わらない。

 

 勢いのあまり、あわよくば「結婚してくれ」と言いそうになってしまった。

 だけど、それは流石に早すぎるから、またの機会にするとしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ