九重
九重宗佑の拳からは血が滲んでいる。
その手を両手で包んだ。
「...こんな事しなくても私はあなたを選ぶつもりだった」
「え...」
司令官権限で各師団長は私が選べた。
7人の師団長の枠に不在の真白を入れる訳にはいかず、あと1人は強くて信頼の置ける人を入れる予定だった。
その候補の中に九重宗佑は上がっていた。
九重宗佑の名前は私達の間でもよく話に出ていた。
剣を操るセンス、努力を惜しまない精神力、広い視野...
なにより、
「伊弦が一目置いてたから」
「伊弦さんが...?」
「うん、勝負してみたいって言ってた。みんなもあなたの実力を認めてた」
人生は木の枝のように分岐点がたくさんあって自分で選択する。
どこで何を間違えるか分からない。
「私は“二条宗”ではなく“九重宗佑”を師団長に選びたかった」
「っ...」
九重宗佑の目から涙が溢れていた。
「あなたがやった事は許されることじゃない。だから教えて」
本当はこんな事するような人じゃない。
正しい道から足を踏み外した理由が知りたい。
「自分の存在を消してまで私達に近づいた理由を」
「.....香織ちゃんをアイツらの元へ連れて行くためだよ」
ナイトメアの意地汚さに怒りを覚えた。
九重宗佑は家族を人質にとられたこと、私を連れて来なければ家族は解放しないと脅されていることを語った。
私に近づくために記憶操作を行って師団長になった。
そして、私をナイトメアの元まで連れて行く作戦だったらしい。
「でも決心が鈍った。香織ちゃんは強いし、何よりみんなといるのが心地よかった。君達は優しすぎるよ...」
宗佑は困ったように笑った。
「ズルズルと楽しい日々が続いた。そしたらさ、向こうから催促がきた」
「科学部襲撃...」
ポロッと呟いた言葉に宗佑が黙って頷いた。
「あれは俺に向けた忠告だったんだ。怖い思いさせてごめんね」
首を横に振った。
「ナイトメアの狙いは私なのね?」
狙いが分かれば対策の仕様はある。
「詳しく言えば、香織ちゃんの契約してる魘魔」
「狙いが死神...?」
冗談を言っているのかと思ったが、宗佑の顔を見ると真剣な面持ちをしているので嘘ではないようだ。
「死神って香織ちゃんが思ってるよりもすごい力を持ってる。アイツらは死神を使って恐怖で世界を支配しようとしている」
それは本当に私の知っている死神の話だろうか。
別の魘魔の話なのでは?
「俺だけの力じゃ止めようとしても無理だった。だからさ香織ちゃん。すっごく烏滸がましいのは分かってるけど、」
「...助けて...」
消え入りそうな掠れた声で助けを求められた。




