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潜夢士  作者: 藤咲 乃々
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屋上

8月中旬、あり得ないくらい暑い日が続いている。

陽が落ちると多少マシになるが、生ぬるい風が頬を撫でる。


「香織ちゃん無事でよかった。こんなところに呼び出してどうしたの?」

明るい声が後ろから聞こえて振り向くと呼び出した人物がゆっくりと歩いてきていた。


ここは寮の屋上。

屋上に出れると知っている人は少ないので、聞かれたくない話をする時にはうってつけなのだ。


「たまにここ来るんだよね」

「綺麗だね。屋上に出れるなんて知らなかったよ」


「この景色を見て自分を戒めてるの」

伊弦と話した最後の場所であり、司令官になると決意した場所。

あの日の気持ちを忘れないように。


目覚めてから真白に報告を受けた。

「ねえ(しゅう)、」

「ん?」


屋上の手すりを持ち景色を見ながら問いかける。

「九重家って知ってる?」

「知らないな〜」


「私よりも知ってるはずよ。そうでしょ?九重宗佑(そうすけ)

「...ハハ、何を言うかと思ったら...なんで分かった?」

少し間が空き、宗もとい九重宗佑の笑いが乾いたものに変わった。



「私達は最初から八家が揃ってた」


歴代の師団長に必ずしも八家が揃っていたわけではない。

“揃わぬ八家”という言葉があるほど歴史は上手く噛み合わなかった。


一つの家で強い者が出れば、一つの家で強い者が死んでいく。

イタチごっこの様な歴史。

そんな中、私達は近い年齢で八家全員が揃っていた。

それなりの力を持ってあることから“揃いの代”と呼ばれている。


タイムリミットのある揃いの代だけど...


「そんなはずない!二がいない!」

九重宗介からはいつもの余裕は見られない。


「あなたの隣にずっといたでしょ?」

「叶人が...」


壱柳、如月、三上、四辻、五十嵐、陸口、七尾、八神。

いずれも名家であり“八家”と呼ばれている。

一の家の壱柳から八の家の八神まで、八家は昔から数字が絡んでくる。


「二の家だけは暦が使われている。他の家が滅んでも生き残れるように」

獏の一族を守れるように...

だから二条という名は潜夢士の歴史には存在しないのだ。


「なんで名を変えた?」

「こうするしか方法はなかった!昔の俺じゃ師団長にはなれなかっただろ⁉︎」

屋上の地面を力一杯殴った。

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