涙
幹部達とは長い付き合いである。
良いところも悪いところもお互いに全部見てきた。
それでも尚、私達は関わり合うことを辞めなかった。
そんな関係でも朔夜の泣いてる姿は初めて見た。
どんなに辛いことがあっても涙を見せたことがない朔夜。
泣いてるのは戸惑ってしまう。
よくよく見ると目元にクマまで出来ている。
たくさん心配してくれたのだろう。
私が朔夜の立場なら絶対にしんどい。
新しいティッシュを取ると朔夜に奪い取られ、私の左腕に押し当てられた。
朔夜とは違い、赤い液体が滲む。
点滴を引き抜いたところから血が流れていた。
「知ってる?涙も元は血液なんだって」
「......」
「私達2人とも血を流してるね」
わざと笑って見せたが反応は返ってこない。
「ねえ泣かないで?私は朔夜を独りにはしない」
絶対に...
朔夜の目にはさらに涙が溢れてきた。
泣いている朔夜が愛おしいと思った。
抱きしめたいとも思ってる、でも....
代わりに朔夜の頭を撫でて、ベッドにいる結を見た。
叶人はこれ以上にツラい思いをしている。
精神状態が安定しているのが不思議なくらいだ。
人の夢を渡り歩くことができる胡蝶でさえも結の夢の中には入れない。
今でも“あの日”の出来事は私達に大きな影を落とし続けている。
「...あのさ」
「ん?なに?」
「最近抱きついてこないよね。前はそんなことなかったのになんで?」
虚をついた質問にドキッとした。
真っ直ぐ目を見て問いただされ、隠しても見透かされるだろうと悟った。
「...2年前のバレンタイン覚えてる?」
「うーん?」
「あぁ、香織から直接貰えなかったやつか」
今なんて言った?
私から直接貰えなかったって...
「渡したのが結って気づいてたの?」
「俺を舐めすぎ。香織と結ちゃんを間違える訳ないじゃん」
何年一緒にいると思ってんだよ、と言っている声が遠くに聞こえる。
「...でも結が抱きついたって」
「結ちゃんがつまづいたから受け止めただけだけど?」
朔夜と結の話が違いすぎる。
どっちかが嘘をついている...?
聞いた感じ朔夜が嘘をついている様には見えない。
「待って、もしかしてそれが原因?」
「うん...だって結が抱きしめてもらったって...」
あれ言ってたっけ?
《記憶を操作されているな》
「え?誰に?」
「香織、大丈夫か?」
突然、死神の声が聞こえたので私も声に出して返事をした。
朔夜から見れば“いきなり独り言を言い出した人”になっているので、思い切り心配された。
誤解を解くべく、私が眠っている間の意識下での状況を最初から説明した。




