できること
◇◇◇
「通ります!」
担架に乗せられた香織が目の前を通る。
約30分前、BAKUの特攻支部に一本の電話が入った。
連絡してきたのは中邑。
電話を受けて香織達が監禁されていた廃工場に飛んできて今に至る。
痛々しい切り傷だらけの身体。
香織の姿を見ていられなくて俯いていると、すれ違う途中で腕を握られた。
「おい、止まれ」
救護班がそれに気づき、その場に止まってくれた。
「香織、分かるか?」
「...ゃ」
微かに声が聞こえたので香織の口元に耳を近づけた。
「しらべ...て...」
と言うと声が寝息に変わった。
香織が隠すように俺の隊服のポケットになにかを滑り込ませた。
隠したということはナイトメアに何か関わりがあるものだろう。
返事をする間もなく眠ってしまった香織が運ばれていくのをただ見ていた。
「それにしても香織のやつ、やりやがったな...」
「そうだな...」
いつの間にか隣に来ていた叶人が呆れた声を出したので便乗した。
廃工場だったからいいものの、ほぼ全壊。
地上から地下にある部屋が丸見えだ。
「何をしたらこうなるんだか。叶人、ここの調査任せていいか?」
「ああ、お前は行って来い」
本部の隣にある病院へ向かった。
搬送された香織の状態を聞いた後、先に治療を受け終わった中邑の話を聞きに病室に入る。
「元気そうだな」
ギャッジアップさせたベッドでなにかを考え込む中邑の姿があった。
「四辻師団長...八神さんは?」
「なんとか無事だ。あそこで何があった?」
俺が香織に庇われ部屋の外に出されてからの出来事を中邑が話してくれた。
「俺が起きた時、八神さんはヘルメットの様なもので気絶させられました。その後、八神さんの姿をした死神に会いました」
死神に会った...?
香織の話にもよく出てくる“死神”と呼ばれる魘魔。
魘魔が契約者の意識を乗っ取るなんて聞いたことがない。
「あいつらの狙いは死神です」
「...そうか。この事は他言無用な。叶人にもだ、いいな?」
「はい」
「じゃあな、ゆっくり休めよ」
病室を出て、胸ポケットに移した香織に渡された物体を出す。
医者の話だと香織は明日にでも目を覚ますだろうと言っていた。
大丈夫だ。
香織は生きてるし、病院という安全な場所にいる。
居場所も分からなかったさっきまでとは違う。
「フー」
切り替えろ、今は任された調べ物をする。
香織が目を覚ました時に情報を伝えられるように。
俺には俺のできる事を。




