手
ルームミラーからチラチラと視線を感じる。
「朔夜に用事でもありました?」
「いや、お前ら付き合ってんの?」
獏さんの側近で本部所属の北小路さんが珍しいものでも見たような目で見てくる。
「付き合ってませんよ。朔夜が寝る時は相手が叶人でもこのスタイルです」
「そ、そうか。というか四辻って寝るんだな...」
「そうですね」
以前までの朔夜は人前では眠らない人間だった。
獏さんの息子であることは知られていないが、いつ狙われてもおかしくない状態で常に気を張っていた。
名家に生まれたというだけで誘拐されるという事件も少なくない幼少期を過ごしてきた。
しかし、今では私か叶人が側にいれば人前でも眠れるまでになった。
「少し遠回りしてもらえますか?15分くらい」
「四辻を寝かせるため?」
「それもありますけど、私も頭の中を整理したいので」
「了解ー」
窓の外を見ながら今日の出来事を頭の中で振り返る。
犯人達は特攻部が科学部に出入りしていることを知っていた。
1週間という期間限定の出入りを...
その間に襲撃する計画性も実行力もあった。
胡蝶の力で何とかなったが、確実に私達を狙った犯行。
獏の血筋の存在と私の拉致。
銃を使用していたことから犯人達の本気度も窺える。
朔夜の存在を知ってる時点で犯人達に依頼した人もある程度絞られてくるが、獏さんがどれくらいの人に話しているかにもよるので見当がつかない。
情報が少なすぎる。
もう少し犯人達と話しておけばよかった。
もし、あの時拉致されてたらどうなっていたんだろう。
あの場所にいたのが私じゃなく朔夜だったら...
この肩の重みも感じれなかったかもしれない。
変な想像をしたせいで今になって手が震えてきた。
北小路さんは私の変化に気づいてない様子。
同じ車内にいるからバレるのも時間の問題だろう。
気づかれる前に早く止まれ...
寝てたはずの朔夜の手が私の震える手を包んだ。
「⁉︎」
『大丈夫。深呼吸して』
私にしか聞こえないくらいの小さな声に言われるがまま数回深呼吸をすると手の震えは止まった。
『ん、落ち着いたね...』
お礼を言う暇もなく眠ってしまった朔夜。
ありがとうと心の中で感謝しながら朔夜の手に自分の手を重ねた。
「着いたぞ」
「ありがとうございました。朔夜、着いたよ」
「ぅん...」
朔夜は起き上がり目を擦っている。
外に出るとBAKUの本部前。
いつ来ても入る前の変な緊張感がある。
朔夜が降りると車は走り去ってしまった。
「寝れた?」
「うん、スッキリした」
言葉どおりスッキリした表情をしている。
「香織は?大丈夫?」
さっきの出来事は起きたら忘れてると思ってたけど、しっかり記憶に刻まれていたみたいだ。
「後でちょっとだけ話聞いて」
「うん。聞かせて」
朔夜から笑顔が返ってきてつられて微笑んだ。
「じゃあ、ここからは切り替えね」
「そうだな」
本部は特攻部と違って私達をよく思っていない人が多い。
そんなところでボロを出す訳にはいかない。
2人で本部の中に足を踏み入れた。




