観察力
幸い、耳が髪で隠れているので通信機を着けているのはバレていない。
「この中で一番偉い奴は?」
「私よ」
ボスの質問に正直に答える。
「だろうな。隊服の飾緒が他のやつと違う」
このボス、よく見るとガタイもいい上にこの観察力...
みんなが出勤して来るまで適当にやり過ごそうと思ってたけど、考えて行動しないと危険かもしれない。
「じゃあお前、師団長か八神香織をここに呼べ」
「...それは無理。この時間に特攻部は始動してない」
嘘は言っていない。
今の時刻は1330
この前みたいに百合も出勤してないだろう。
早く見積もっても特攻部に人が来るのは1730
「あと4時間は待たないと人は来ないと思う」
「チッ」
ボスは舌打ちをして椅子に踏ん反り返った。
「...なんで師団長達にこだわるの」
「その中にいるんだろ?獏の血筋ってやつがよ」
何も知らない隊員達がボスの言葉でヒソヒソと話し始めた。
その間にもボスは私の顔色を窺っている。
「.....」
正直、驚き過ぎて感情を顔に出さないようにするのがやっとだ。
「やっちゃん、今の本当?」
近くにいる福ちゃんに聞かれ、他の隊員達からも注目される。
「総司令に子どもはいないし、幹部にも獏の血筋はいない」
ボスの目を真っ直ぐ見て言った。
「どうだかな?」
ボスは余裕そうな表情を浮かべている。
この反応は信じてないな。
確かな筋から情報を得てるから余裕があるのだろう。
獏さんに子どもがいることは限られた人しか知らない情報で緘口令も敷かれている。
なのにあいつは知っていて、私の言葉に動揺していない。
犯人達と繋がってる人がいる。
私レベルじゃなくて、もっと獏さんの近くにいる人物...
それも重要だけど、今はどうにかして助けを呼ぶ方が先決だ。
落ち着け、冷静に考えろ。
犯人達は9人程度。
こっちも男性隊員が9人いるが、手錠をされていて自由に動けない状態。
女性隊員も手錠はされているものの乱暴なことはされていない。
「ねぇ、トイレ行かせてくれない?」
「...仕方ねぇな。おい、連れてってやれ」
意外にもこちらの要求は簡単に聞いてくれた。
ボスが指示で少し若い人とおじさんの2人に連れられてトイレへ向かった。
手錠は付けられたままで男が2人もいる。
身体の自由も数の有利も全部取られている。
それに加えて銃を持っているから手を出すのも無謀だ。
ここは大人しく連れられて行くしかないか...
「うわ!危な!」
「なんだよここ...入り組んでんな」
科学部なだけあって機械類が多く、道幅が絶えず変わる。
女性隊員が少ないので女性用トイレも入り口から遠い場所にしかない。
トイレに着くと男2人も入って来ようとしていた。
「まさか入って来ないよね?それとも女子トイレに興味がお有りで?」
「ある訳ないだろ!さっさと行って来い!」
「はーい」
手錠を外してもらいトイレへ入る。
個室に入って蓋をしたまま便座に座り、首から下げている鍵を握る。
本当はこんな場所では嫌だけど、目を瞑り夢の中へ入った。
私の思いとは裏腹に生活習慣が乱れているのですぐに眠れた。




