他人行儀
部屋に入ると八神さんは“司令官”と書かれたプレートの置いてある席に座っていた。
「この書類だけ終わらせるから、ちょっと待って」
「...ああ」
アームホルダーから見える左腕が痛々しい。
恐らく骨折...手書きの作業も大変そうだ。
「......終わった〜。はい、どうし」
書類との格闘が終わり伸びをした八神さん。
俺達の方に顔が向いたかと思ったら、目を見開いた。
「叶人だけかと思った...こんな大勢でどうしたの?」
「3人が香織の決定に納得いかないそうだ」
「へー」
怪我した左腕は机に置いたまま右手で頬杖をついている。
「俺達のせいで八神さんが怪我したのに、なにも罰がないのはおかしいです」
少し沈黙を挟んでから姿勢を正して八神さんは真顔で口を開いた。
「私が判断を見誤っただけであって3人に直接的な責任はない」
今までの八神さんからは想像できないくらい他人行儀で無機質な言葉。
「君達に罰を与えたところで私の腕は治らないし、君達が上官の命令を無視した事実も変わらない」
少しの拒絶さえ感じる。
「......」
「だから君達に罰は与えない。次からは考えて行動すること、いいね?」
最後だけいつもの笑顔になった八神さんを見て何も言えなくなる。
ある意味、次はないと言ってるようなもんだ。
「この件は終わりね、はい解散。あ、叶人は少し残って」
司令官室を出てから五十嵐師団長が大きく息を吐いた。
「あんた達、気をつけなさい。新人だから許されたのよ。普通ならもっと大変なことになってるから...」
「「「はい...」」」
八神さんは怒らせたらいけない人だということが分かった。
「切り替えなさい。こうしてる間にも悪夢は発生してるんだから、期待してるわよ」
師団長に“期待してる”と言われて奮い立たない隊員はいないだろう。
「「「はい!」」」
◇◇◇
「さすが蘭だな」
「だね」
扉が完全に閉まってなかったので外の会話が丸聞こえだった。
相変わらず蘭は人をやる気にさせるのが上手い。
上司にしたい師団長No. 1だ。
「で、なんか用があるんだろ?」
早く言えと言わんばかりに話を振ってくる叶人。
「腕が完治するまでの間、私の仕事を叶人に任せようかと思って」
と言うと、叶人はハーっとため息をつきながら腰に手を当てた。
「そんなことだろうと思ったよ...」
まだ出勤して少ししか経ってないが、片腕が動かせないのは不便でこのままだと仕事に支障が出る。
真白1人に負担をかける訳にはいかない。
「思った以上に使えないんだわ〜この腕」
さっきだって書き込むだけの書類作業も一苦労で時間がかかった。
痛み止めも数時間おきに飲まないと少し動かしただけで痛いから何も出来なくなる。
今の私は役に立たない...
「このままだとみんなの足手纏いになっちゃうからさ」
「仕事はやる。だから無理に明るく振る舞うな。お前は特攻部に必要だ」
「アハハ...」
笑いながら顔が見えないように少し俯く。
今そんなこと言われたらさ、堪え切れなくなるじゃん...
「...じゃ、明日から頼んだ」
「ああ」




