昼間の開錠
通信機を付けると、案の定荒れている科学部の会話が聞こえてくる。
「...来て正解だったな」
「だね。この場合って残業代出るかな?」
「どうだろ、親父に掛け合ってみるよ。ん」
朔夜が拳を出してきたので、グータッチをする。
「背中は任せた」
「ん、任された」
【レベル2、いや3です!開錠地は...】
「こちら八神、開錠地は中区の高校。レベルは2、現在四辻と応戦中」
【八神...特攻部の八神さんですか⁉︎】
「夢現者特定して。指揮は誰が取ってる?」
あまりにもグダグダ過ぎる。
昼間に悪夢が少ないからって訓練もしてないのかと疑いたくなるレベルだ。
【誰も取ってません】
「え?機本は?」
【出張で出てます...】
出張なんて聞いたことがない。
指揮官のいない科学部なんて使えないし、私自身使いたくもない。
校舎にある時計が1500を指している。
頼む...いてくれ。
「百合、いる?」
特攻部の敏腕ナビゲーターに望みをかける。
『...いる』
この時間にいることに感謝しかない。
「百合、夢現者特定して」
『もうやってる。夢現者は高校教師なんだけど、』
教師ならこの時間はまだ仕事のはず...
『1週間前に休職願出してるね』
「ありがとう。科学部の方は潜夢できそう?」
特攻班くらいは機能しててくれ、と願う。
『...準備してるらしい。そっちは応援いる?』
「もういるから大丈夫」
「久々に高校来たらこれだよ。もう...」
ため息混じりで登場したジャージ姿の最強の助っ人が双剣を持って私達に近づいて来た。
ジャージ姿でグラウンドにいるところを見ると、体育の授業中だったようだ。
「風真、高校生みたいだなー」
「朔夜、写真写真!」
「一応高校生だから。それより2人はなんでいるの?」
冷静に返されてしまった。
今時の高校生は頼もしい限りで...
「うどん食べようと...にしても結構な数だな」
「問題ないね。ちょうどイライラしてたから」
礼央に腹を立てていたので、いいストレス発散になる。
予備の剣とか持って来てないので、最初から専用の魘具で戦う。
ジェスチャーを使って指示を出す。
5を出した後に、下を指すと2人は黙って頷いた。
5秒後2人は屈み、私が鎌で周りの魘魔を刈り取った。
「潜夢は?」
『苦戦してるね。まだ時間かかるよ』
そんな悠長に待ってる時間はない。
どうすればいいかと考えていると、ゲートが目に入った。
「ねえ百合、ゲートって外から入れると思う?」
『...物理的には可能だと思うけど』
「分かった。ということで2人ともここは任せた」
ゲートへ向かって走り出そうとすると腕を掴まれた。
「痛い痛い」
「行くな」
朔夜は相当な力で私の腕を掴んでいて、顔も強張っている。
朔夜が止める理由も分かる。
通常の潜夢は支部の機械を通じ、粒子へと分解されて夢の中へ入る。
夢の中で受けた傷はもちろん生身の身体へと投影される。
私がしようとしているのは実体があるもの、しかも流れに逆らって入ろうとしている。
「ごめん」
いくら私達3人が強いとはいえ、次々に湧いてくる敵を倒しながら一般の人を守れる保証はない。
そして、私は科学部の特攻班を信用していない。
今までの流れからして、彼らでは元凶を倒すことはできないだろう。
「支部に行くには時間がかかり過ぎる。これしか方法がない」
朔夜は黙ったまま。
「それに、私が一度言い出したら聞かないのは朔夜が一番知ってるでしょ?」
「...はぁ、絶対戻ってくるって約束して」
「分かってる。うどん頼んだままだしね」
腕が解放されると、空へ浮かびゲート内へ飛び込んだ。