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潜夢士  作者: 藤咲 乃々
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血の繋がり

「この子は大陽。今年で3歳で、」

言い淀んで先生が少し悲しそうに笑った。


「伊弦くんと私の子」

伊弦の子ども...?


「3年前に報告しようと思ってたんだけど、2人が喧嘩してたから言えなくてね」

先生が子どもの頭を優しく撫でる。


「伊弦くんが“香織と結が揃ってる時に報告する!”って言ったもんだから遅くなっちゃった。ごめんね」


そうか。

あの時、私達が喧嘩してたから生きてるうちに言えなかったんだ。


「...付き合ってる人がいるのは聞いてました。子どもができたのは知らなかったけど」

結も少し困った表情でゆっくり話しはじめた。

伊弦の惚気話を聞かされてる時のことを思い出しているんだろう。


「伊弦のことだから言いたくて堪らなかっただろうね...」

「そうだね、伊弦くんだもんね。喧嘩してなかったら直接聞けてたかな」

悲しそうに揺れた結の肩を抱き寄せて隣に座った。


「あれはいろいろと重なった結果。誰のせいでもない」

そう、誰も悪くない。


結から離れて、大陽くんと目線を合わせる。

まだ小さいのに伊弦の面影がしっかり残っている顔つきをしている。


「初めま「かおり?」」

「うん...」

いきなり大陽くんに私の名前を呼ばれた。


先生の方を見ると「あんた達、顔似過ぎて教えるの大変だった」と笑った。


「...っ」

「かおり、いたい?」

大陽くんの小さな手で頭を撫でられた。

伊弦の小さい頃なんて知らないのに、伊弦と姿が重なった。


首を振って大陽くんを抱きしめた。

「ありがとう...大陽くんは優しいな」


大陽くんはあったかくて、少しだけ懐かしい匂いがした。


《香織、伊弦からの伝言があります》

...伝えるよ、だから声を貸して。

私は今、口を開いても声にならない。

それに胡蝶なら...


『志穂、勝手に死んでごめん。大陽産んでくれてありがとう』

「この声、伊弦くん...」


「伊弦から、の伝言」

大陽くんは分かっていない様子だったが、大人はみんなして泣いた。


「大陽くんのこと八神の人にはバレないようにしてください。もちろん他の名家にも」

「うん、伊弦くんからも言われてる」

伊弦の血を引いてると知られれば、きっと大変なことになる。

血の争いにこの2人を巻き込むわけにはいかない。


「困ったことがあったら何でも言ってください」

「私もできる限り力になります!」


「ありがとう」

お礼を言うのは私たちの方だ。

この世から消えたと思っていた伊弦の血が密かに繋がっていた。


私達が伊弦にしてきてもらったことを今度は返していく番。

この子が安心して暮らして行けるように。

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