誕生日
特攻支部に戻ると変な空気が流れている。
どこか緊張したような、ソワソワした感じ。
それにまだ時間じゃないのに来ている隊員が多すぎる。
特攻部の勤務時間は2100から0700
今の時刻は1900
時間的に考えても早すぎる出勤だ。
「ねえ君達、今日なにかあるの?」
前を歩いていた2人の隊員に話しかけた。
「八...神さん!」
「な、なにかとは?」
明らかに挙動不審な2人。
「早い時間に隊員がたくさんいるから気になって」
「新人が入ってきたので抜かされないよう訓練してました」
「なるほどね、ありがとう」
新人という存在は良い影響与えているようだ。
「あ...どちらに?」
我ながらいい仕事をしたと思いながら立ち去ろうとすると、呼び止められてしまった。
「え、私も幹部訓練室行こうかなって」
「今は使用中なので第一の訓練場を使え、と如月師団長からの伝言です」
「へーありがとう」
叶人が人を使っての伝言とか珍しいこともあるものだ。
言われた通り第一師団の訓練場に向かう。
そこには叶人の姿はない。
朔夜達の第四師団は今日休みだから訓練場使えないしな...
「......」
そういえば、今日は誰一人幹部を見ていない。
仕方なく通信機を耳に付けると同時に呼び出しが入った。
[八神香織。至急、幹部訓練場に直行しろ]
叶人の声だ。
指定された訓練場に来ると電気が消されていた。
顔に何かが触れ、背後に気配を感じる。
「誰?叶人?」
「......」
返事がない。
腕を前に出し、肘を勢いよく後ろに打ち込む。
「ゔっ...交、代」
「え!ちょ、そのまま前に歩け」
私の肘は誰かにヒットし、顔に触れる感触が変わった。
指示通り黙って前に歩く。
「よし、止まれ」
気配がなくなるといきなり灯りがついて、目が眩む。
目が慣れてくると幹部が全員揃っている。
パンパンといきなり大きな音がした。
「なに⁉︎」
キラキラ光るビニールテープが身体に付いていた。
訓練場に不釣り合いな机の上にケーキやジュースが置かれている。
ケーキのチョコプレートには“香織 誕生日おめでとう”と書いてある。
「え...これ私に?」
「他に誰がいる?」
叶人が呆れた表情で私を見てくる。
「香織、20歳誕生日おめでとう」
「ありがとう」
みんながギョッとした反応をしている。
頬を触ってみると涙が勝手に流れていた。
「香「怖がらせたか?」」
朔夜が私の涙を拭った。
「違う...嬉し涙。嫌なことあった後にこれはずるい」
「そうか...」
「私、陸口のせいで泣いたのかと思った」
「私もー。むっちゃんの“背後から目隠し”って悪質だよね」
蘭と麻子が口を揃えて言った。
ということは、最初の目隠しは礼央だったのか。
「礼央、ごめん」
「いい肘鉄だったぜ」
むっちゃんこと陸口礼央、第六師団長
「朔夜は今日休みなのにありがとう」
「みんなでお祝いしたかったからな」
家族は最低でもいい仲間を持って幸せだ。
みんなでワイワイ話していると、麻子が突如手を挙げた。
「自慢させて、これ私の手作りなの」
なんとケーキは全て麻子の手作りらしい。
「すごいでしょ〜」
三上麻子、第三師団長
ケーキを切ってもらって口に運ぶ。
「美味しい!」
クリーム多めだけど甘すぎないので食べやすい。
「朔夜でも食べれそう」
「ほんと?」
ひと口分のケーキを朔夜の口に入れた。
「ん、いける」
「よかった。辻ちゃんだけ食べれないかと思ったよ〜」
甘い物が苦手な朔夜も一緒に食べれて嬉しい。
「あ、叶人。結の花ありがとう」
「ああ、行ったのか?」
「本部の帰りに少しね」
クソ眼鏡に会ったこと以外は幸せな誕生日だ。
誰しも自分の誕生日が幸せとは限らない。
ケーキを食べ終えて会話を楽しむと、いい時間になったので朔夜以外のメンバーは自分の師団の方へ行ってしまった。
誕生日効果なのか、今日は比較的楽な出動しかなかった。