病室の来訪者
◇◇◇
目が覚めた時にはすべてが終わっていた。
夢であったかのように。
北小路は警察で洗いざらい全て話したそうだ。
九重宗介を脅し、改名やBAKUへ侵入させたこと。
記憶を操ったことや伊弦を殺したことも...
女郎蜘蛛は昔ながらの方法で封印された。
一つの石に封じ込められ、半永久的に出て来られないだろう。
私は丸一日眠り続けたらしいが次の日にはいつも通り起きていた。
結は...
「はーい」
病室の扉をノックすると元気な声が聞こえてくる。
すっかり目覚めて会話を楽しんでいる。
「結、着替え持ってきた」
「ありがとう」
着替えを棚に入れてベッドの隣の椅子に座った。
「どう、リハビリは?」
「頑張ってるよ。3年も寝てたら筋力がなくなって歩くのも大変なの知ってた⁉︎」
「そっか...」
3年間目覚めなかった代償、筋力低下と戦っている。
「そういえば髪切ったんだね。似合ってるよ」
結が私の髪を触る。
「私が似合うなら結も似合うよ」
「たしかに...」
「「プッ」」
久しぶりの双子ジョークで笑い合っていると病室の扉が叩かれた。
結の返事でゆっくりと開いた扉。
「こんにちは」
「え、先生...?」
顔を覗かせたのは意外な人物だった。
「かおちゃんのお知り合い?」
結が知らないのも無理はない。
「うちの医務室のドクター」
でも、なんでここに...?
結の質問に答えていると入江志穂がふふっと笑った。
「香織ちゃんと結ちゃん、聞いてた通りほんとそっくり」
結と入江志穂の間に入る。
今、BAKUにいる人間で結のことを知っているのは特攻部の幹部と獏さん、中邑くんと莉子ちゃん。
そして、クソ眼鏡しかいないはず。
先生が結のことを知っている理由が分からない。
「そんなに構えないで?2人に合わせたい人を連れてきたの」
「「合わせたい人?」」
見事にハモったので結と顔を見合わせる。
先生は笑いながら「ちょっと待ってて」と扉を開けたまま廊下に消えた。
廊下から話し声がすると、すぐに戻ってきた。
他の人の姿は見えない。
やっぱり嘘なのか?
首から下げている鍵に触れる。
「ほらなんて言うんだっけ?」
「こんに、ちは」
子ども...
先生に言われるがまま、前に出てきたのは子ども。
てっきり大人が出て来ると思ってたから拍子抜けした気分だ。