歯止め
欠点にあった光と力。
それらが合わさり、鞭の中枢にあったナイフが粉々に壊れた。
恐ろしい雰囲気を纏った武器が壊れた今、それを操っていた男なんて怖くない。
北小路に向かって走った。
仇を取る、という考えで頭の中が埋め尽くされていた。
北小路なのか女郎蜘蛛なのか見当もつかないが、怯える人間に刀を振り翳した。
これでやっと全てが終わると思った。
が、左手が刀を持つ右手を止めていた。
《これを殺してもお前の兄は帰って来んぞ。気絶している。十分だ》
「でも、殺さないと...」
こいつは殺さないと他の人が被害に遭う。
消滅させないと。
《胡蝶、誰が私の契約者を操ってよいと言った?》
手の力がふっと抜け、握っていた日本刀が地面に落ちる。
カチャンという音と共に意識が鮮明になる。
「あれ、私...おかしい」
現実なのに薄っすらとモヤのかかったところから今の場面を見ていた気がする。
《胡蝶の仕業だ。これを殺したところで女郎蜘蛛はまた誰かの夢で甦るだけだ》
前に死神から聞いた話だ。
「どうしたらいい?私は善人にはなれない。北小路も女郎蜘蛛も許すことはできない」
《簡単だ、縛ればいい。鍵の中にでも閉じ込めれば逃げることは出来まい。人間のことは知らん》
北小路を殺したところで女郎蜘蛛を逃すのと同じこと。
また誰かが被害者になるかもしれない。
「分かった...」
死神の意見を採用しよう。
[八神より特攻部、旧教会内にて3年前の大厄災の重要参考人を確保。至急、応援願う]
『特攻部、了解』
全てが終わった瞬間だった。
安堵と悔しさでどっと疲れが襲ってきた。
「死神、眠らせて」
《ああ...》