武器の中枢
「あの鞭を作るには大量の魘魔が必要だった」
《ああ》
「魘魔を集めるために伊弦の血を使った...?」
《そうだ、あれの中枢からは兄の魘力を感じる》
死神は嘘をつかない。
気まぐれではあるが良いことも悪いことも、聞けば全て答えてくれる。
私が無意識にそうしたのか、胡蝶が操ったのか分からない。
いや、きっと胡蝶が操っていたのだろう。
気付けば固く握られた拳が北小路の頬を殴っていた。
北小路もまさか殴られるとは思っていなかったのだろう。
反応すらしていなかった。
倒れた北小路の胸ぐらを掴む。
「答えろ北小路。なぜ伊弦を殺した?」
「血だ、お前ら名家の血が必要だったんだよ。だから刺した!私の計画の妨げになるからついでに殺してやったわ!」
“私”?
北小路は自分のことを“私”なんて呼ばない。
《言っただろう、そやつは魘魔に操られている。女郎蜘蛛なんぞに乗っ取られるとは笑わせる》
「女郎蜘蛛...」
死神が笑っているのが気になるが女郎蜘蛛は間違いなく私の敵。
「死神の入り知恵ね。仲良しごっこは楽しい?」
なにも知らないくせに。
知らない人に私達のことを語る資格はない。
心を乱されるのが嫌で北小路から手を離した。
《小娘、心を乱されるな》
「...」
地面に尻餅を付いている北小路を無言で見下ろす。
《いいか、あれ自体は弱い。ただ心に入り込んで来やすく、魘力を得ると能力が厄介だ》
深呼吸を続けるうちに落ち着いてきて、死神の声がよく聞こえる。
《特殊な糸を使って人をも操る。他人の夢の中まで入り記憶の操作もすると聞いたことがある》
宗佑の情報通りだ。
みんなの記憶も結の暴走も、この魘魔が引き起こした。
「あなたの狙いなんてどうでもいい。私はあなたを倒す」
「この鞭があるのよ私は倒れないわ。そしてあなたの力をもらうのも私よ」
北小路の姿をした女郎蜘蛛はゆっくり立ち上がり、鞭を構えた。
「香織、隙を見て同時に攻撃だ。タイミングは香織に任せる」
朔夜が隣に来て小さく言った。
「分かった。鞭を弾きながら北小路に突っ込む。後ろから着いてきて」
「了解」
回復したとはいえ魘力を使いっぱなし。
2人の魘魔にも魘力を取られている。
いつ限界が来てもおかしくない。
「よし、行くよ」
鞭を弾きながら北小路目掛けて進み続ける。
鎌より短い分、日本刀は扱いやすいが鞭が近い。
胡蝶のおかげで手を伸ばせば刃が北小路に当たる距離になった。
すかさず刃を向けるが、スレスレで避けられる。
「チッ、来るな!」
北小路の手から鞭が離れ、手から糸が出た。
「朔夜!」
糸が絡まり鞭を見失った。
「香織、ここだ。頼む!」
声を頼りに目を向けると朔夜が鞭に剣を当てている。
黒い荊から元となった武器が現れた。
錆びのついたナイフ。
付着しているのは恐らく伊弦の血。
「胡蝶、許せ」
両手で日本刀を持ち、ナイフに向かって振り下ろした。