危険信号
異様な数の写真で溢れかえったおり、床に散らばった写真を見ている西宮。
俺も壁に貼られている写真を覗き込む。
壁に貼られていたのは男の人の写真。
断定的なのは、写真一枚一枚の顔にバツ印が付けられていて顔が分からないのである。
写真を見る限り背丈格好や雰囲気が同じなので、おそらく同一人物の写真が部屋中にあった。
「なんで香織ちゃんと結ちゃんの写真が?」
ボソリと呟いた声が聞こえた。
「中邑歩夢、これ!」
西宮の声で床に散らばった写真を見た。
「なんだこれ...」
床にある全ての写真に八神さんが写っていた。
それともう1人...八神さんにそっくりな人も。
「八神さんが2人?」
「香織ちゃんの双子の妹、結ちゃん」
西宮は俺の知らない八神さんのことを知っている。
じゃあこの人のことも分かるかもしれない。
「西宮、この人は分かるか?」
壁に貼られていた写真の中から顔が見やすいものを取り西宮に渡した。
「伊弦くん...これどこで」
「壁中に貼られてる」
「うそ...全部伊弦くんの写真...?」
部屋の壁を見回す西宮。
「この人も知ってるのか」
「...前特攻部司令官。3年前に亡くなった香織ちゃん達のお兄さん」
“3年前” “亡くなった”
偶然に重なった2つの言葉。
胸が嫌な音を鳴らしている。
「あの大厄災を自らの命を懸けて止めた人よ」
聞かなきゃよかったと少し後悔した。
「そうか、八神さんのお兄さんだったんですね」
それならあの強さも納得だ。
この人に俺と妹は救われた。
「どうりで見つからない訳だ。ん?」
壁を見ていると写真の下に白い紙が見えた。
壁に直張りされている画用紙。
「西宮」
白い画用紙には北小路の考察と図が書き込まれていた。
八神兄妹の顔写真と共に死神・胡蝶・治癒?という単語と張り巡らされた矢印。
八神香織という文字を囲む二重丸。
工場の男達が話していたように北小路の狙いは死神ではなく...
「香織ちゃんが危ない...」
西宮も北小路の計画が読めたようだ。
「ああ...北小路の狙いは死神じゃない八神さん本人だ。急いで戻るぞ」
盲点だった。
まさか本当の狙いが八神さんだなんて...
男達の話を聞いてこの事件に関わっている全ての人が納得し、その話を疑いもしなかった。
部屋を出ようとすると西宮に腕を引かれて前に進めない。
「待って。北小路の狙いが分かった今、大事なのはあの武器を壊す方法を探すことだと思う」
西宮の言ってることも一理ある。
けど、人命がかかっているなら話は別だ。
「八神さんが危ないんだぞ?」
「落ち着け中邑歩夢。それは通信機で伝えればいい。香織ちゃんは強いし、朔夜くんもいる」
俺は知らない間に焦っていたのかもしれない。
出動の時にいつも付けている通信機の存在を忘れていた。
「私は北小路よりもあの武器の方から嫌なものを感じた。あれは“あってはダメなもの”だ。作り方が分かれば壊し方も分かるかもしれない」
俺の相棒はこんな状況でも冷静だった。
羨ましいほどに。
両手で頬を叩いた。
いきなりの行動に驚いている西宮と目が合う。
「西宮のそういうとこ、すごいと思う。ごめん、落ち着いた。で、どうする?」
「あの武器に関するものがないか探そう。あと、すごいのはお兄ちゃん。お兄ちゃんならこうすると思っただけ」