夜と虎
剣を抜くと刀身が青白い光に覆われていた。
「及第点だな。何故普段から出さない?」
これで及第点...
俺、今までこんな光なんて出したことないですけど。
出せるものなら出したい。
「それはお前の言い訳だろう?」
全てを見透かされてるみたいでドキッとした。
俺に対して言ってるのか、白虎に対して言ってるのか分からない。
「白虎は...なんて?」
「それは自分で聞け。すぐに戻れよ」
死神に額を指で弾かれ目の前の景色が歪んだ。
どうやら白い世界に入ったらしい。
目の前に白い虎が蹲っている。
〈白虎...死神と何を話してた?〉
《......》
黙ったままの白虎。
これも俺達にとっては通常運転。
〈なんか答えてくれよ...〉
《......お前は何故強くなりたい?》
〈守りたいんだ〉
《八神の娘はお前が守らずとも強い》
白虎の言う通り、香織は強い。
いつも一歩先を歩いてて、俺はそれを追うばかり。
〈それでも俺は香織と肩を並べて戦いたい。大切な人のあんな姿はもう見たくない〉
伊弦くんが亡くなってからの香織は悲惨だった。
側で見てて壊れそうなくらいに。
助けてあげたいのに力がない自分が不甲斐なかった。
《...変わったな》
〈え...〉
白い虎が人間の姿に変化した。
筋骨隆々で猛々しい漢が目の前に立っていた。
人間の姿の白虎を見たのは初めてだ。
《お前は他人に否定されればすぐに諦めていた。だから俺もお前を諦めた。だが、今のお前になら力をやろう》
相変わらず表情は読み難いが優しい目をしてくれている気がした。
《早く戻れ。俺がハデスに叱られる》
〈また話してくれるか?〉
《...機会があればな。行ってこい》
白虎が言葉を唱えると白い世界の中でも眠気に襲われた。
目を開けると鎌を持った香織の背中があった。
悔しいことにまた背中を見ている。
「小僧、いつまで私1人に相手させるつもりだ?」
「すぐ行く」
中身は香織ではないが、隣で戦うという夢はもう叶うみたいだ。
〈白虎...力を貸してくれ〉
心の中で念じ剣を抜くと、さっきと同じように刀身から光が出ていた。
「出た...」
白い世界での出来事は本当の事だったと証明された。