初めてまして
◇◇◇
長く目を瞑っている香織。
「小僧、小娘の目が覚めるまで時間を稼ぐぞ」
「...え?」
目を開けたと思ったら聞き慣れない口調で話し出した。
「おい、聞いているか?」
「あ、いや...香織だよね?」
「身体はな」
ニヤリと口角を上げて笑った。
この雰囲気既視感がある。
新人合宿で香織が全力を出した時だ。
そうか、これが
「死神...」
「小娘の目を通して見ていたが、こうやって話すのは初めましてだな」
以前に中邑が言っていた意味がよく分かった。
これは逆らってはいけないやつだ。
今までに何度も死神の力を目の当たりにしてきた。
が、今までの力なんて比にならないくらい強く感じる。
「香織は?」
「魘力の使い過ぎで眠った。小娘がどうしてもあやつと戦うというのでな、時間を稼いでやることにした」
ここまで魘魔が人間のために働くなんて。
それもナイトメアが力を欲しがるほどの魘魔が、だ。
そういえば香織から死神との過去は聞いたことがない。
一体どんな契約を結んだのか甚だ疑問だ。
「稼げるのか?」
「稼ぐさ。呪いまで掛けられたからな」
「呪い?」
魘魔に呪いをかける方法なんて聞いたことがない。
この死神に呪いをかけれる香織も大物すぎる。
「私を“相棒”などとぬかしおった。あの小娘め...益々気に入った」
あ、違うな。
死神も香織に魅せられた中の1人だわ。
「小僧集中しろ。20、いや15分稼ぐ」
砂埃が晴れて北小路さんの姿が見えてきた。
「手に持ってる武器、俺が調べてたやつ...」
まだ不十分で報告はしてなかったが、解析で出た情報では魘魔と似た物質で出来ていた。
「似てるが別ものだ。ちょうどいい、時間を稼ぐついでにあの不愉快な武器も破壊する」
香織がギリギリだったのに俺に太刀打ちできるのか?
それより壊し方知らないんですけど...?
「あれに当たるなよ、何が起こるか予想できん...それと白虎。聞こえているならお前も力を貸せ」
俺は白虎の声が聞こえるわけではない。
だから死神の声が白虎に届いているのかすら分からない。
「元より闇には光が勝つ。雷も一種の光であろう。お前の力が必要だ」
死神にとってあの鞭は闇のように見えているのか。
腰から下げている鞘が少し光っている。
白虎が死神に力を貸すと言っているみたいだった。