黒幕
指定された場所は街中てはは珍しい寂れた教会。
周囲には空き地が広がっている。
その前に電話を掛けてきた人物が既に来ていた。
「こんばんは。まさか北小路さんから呼び出されるなんて。何かありました?」
私を呼び出したのは獏さんの側近、北小路。
「いや、ちょっと話したくてね」
「奇遇ですね。私も話したいことあったんですよ」
教会に入るよう促される。
外観は古そうに見えたが、中に入るとステンドグラスが月の光に照らされて優しく光っていた。
礼拝堂の中のチャーチベンチに座り、十字架の前に立った北小路を見る。
「八神の話から聞こうか」
「いいんですか?」
「いいよ」
本人が話していいって言うんだから遠慮なくいかせてもらおう。
「ナイトメアのボスが分かりました。でもまさか、あなたが黒幕だったとは思いませんでしたよ。北小路さん」
北小路は口角を上げてニヤリと笑った。
宗佑が撃たれる前に耳元で北小路の名前を呟いた。
常に獏さんの近くにいる人が犯人だったとは思いもしなかった。
「なんでこんなことを?」
「お前にもわかるはずだ」
「?」
何のことを話しているのか見当もつかない。
「あいつは生きていた昔もも死んだ今も俺を苦しめる!ただ...名家に生まれて少し強かっただけの分際で...」
この人、情緒が上がったり下がったりしておかしい。
「俺が出世しても同期ってだけであいつの名前がついて回る。みんな口を開けば八神伊弦、八神伊弦、八神伊弦!」
ものすごい勢いで頭を掻きむしる姿に狂気を感じた。
「だから殺してやった。だが、死んだ今でもあいつは俺に付いてくる...」
今なんて言った?
「伊弦を殺した...?」
「あぁそうだ!混乱に乗じてあいつにとどめを刺してやった!」
この人...こいつのせいで伊弦は死んだのか。
結も暴走させられて2年も眠ったままだった。
私はこいつを殺したい...
「だからあいつが霞むくらいの世界を作る。死と恐怖で満ちた世界。そのためにお前の中にいる死神が必要だ」
こいつはまだ私から奪うつもりらしい。
日常も大切な人も、死神も。
服の上から鍵を握る。
〈一応言っとくけど、私はあなたを手放すつもりないから〉
《私にも選ぶ権利がある。あんな奴の人生に付き合うほど暇ではない》
死神の言葉に少し安心した。
「私、そこまで聞き分け良くないの」
死神も嫌がっていることだし...全力で抗せてもらう。