満月
「今日は満月だね」
月の満ち欠けによって月詠の力も左右される。
“照らせ癒せ。月の赴くままに”
結が小さく唱えると魘力が大量に私から流れ出ていく。
満月で月詠の力が高まっているとはいえ、かなりの魘力を持っていかれる。
《おい、お前の妹はどれだけ私の力を吸えば気が済むんだ?》
また死神の声が頭の中に聞こえてくる。
そもそも死神の力じゃないし。
《私は小娘の中にいるんだ。小娘の魘力は私のものと言っても過言じゃなかろう》
「過言でしょ!あ、」
頭の中で死神と会話していたが興奮しすぎて口から出ていた。
「かおちゃん、集中」
「ごめんなさい...」
結には注意される始末。
〈死神のせいで結に怒られた〉
《小娘の自業自得だろう》
死神のことは放っておいて、いつ見ても結の力はすごい。
さっきまで顔面蒼白で苦痛な表情を浮かべていた宗佑の状態が落ち着いていくのが目に見えて分かる。
遠くから笛の音が聞こえてくる。
優しく包み込んでくれるような癒される音。
結と手を繋いでいることで月詠との繋がりが強くなっているから聞こえるのだろう。
鍵を持たないかと、いつの日か結に聞いたことがある。
“私はかおちゃんみたいに力をコントロールできない。鍵を持ったら敵味方関係なく治しちゃうし、傷つけると思うの。それなら鍵を持たずに手の届く範囲の人達を助けれればそれでいい”
と結は困ったように笑っていたのを覚えている。
だから結は鍵を持たないし、BAKUにも所属してない。
欲望が渦巻いているこの世界で誰よりも優しい理由で。
こんな結を疑った過去の自分を殴りたい。
「かおちゃん、もういいよ」
ハッとして宗佑を見た。
さっきまでの状態が嘘かのようにスヤスヤと眠っている。
「....ありがとう...」
結の肩にもたれ掛かった。
「かおちゃんの魘力のおかげだよ」
「それもだけど、独りにしないでくれてありがとう」
「...伊弦くん、いなくなっちゃったんだね」
黙って頷く。
私が月詠を感じたように、結も私の中にいる胡蝶を感じたんだろう。
「私のせい...だよね」
「違う、結のせいじゃない」
そう、結のせいじゃない。
全てはあいつのせい。
「かおちゃん、何か知ってるの?」
「うん、だから決着をつけてくる。その後全部話す」
丸々3年分を包み隠さず。
「...分かった。ちゃんと帰って来てね」
「うん」
宗佑も結もまだ退院はできないので病院で別れた。
病院を出るとタイミングやく電話がかかってきた。
「はい八神。ええ、では...また後で」