搬送
待機していた救急車に宗佑と一緒に乗り込み病院へ向かう。
「化野病院にお願いします」
いつもの病院に行くようお願いする。
あそこなら寮からも近いのですぐに治療が受けられるはずだ。
「すいません。化野、立て込んでるみたいで断られました」
立て込んでる?
今日出動だった麻子が寮に助けに来たくらいだから搬送が多いのか?
本当は使いたくないけど、背に腹はかえられない。
「“八神に指定された”と言ってください」
「分かりました」
今は緊急事態、使えるものは使っていく。
「搬送許可おりました!化野病院へ向かいます」
救急車が動き出した。
寮から本部、隣接する化野病院は目と鼻の先。
救急隊も思った以上にスピードを出してくれたみたいで早く着いた。
救急車から降りたと同時に携帯が振動していることに気がついた。
宗佑が病院の中に運ばれていくのを見届けてから携帯の画面を見た。
夥しいほどの着信の数。
それも1人から。
掛け直そうとしたらタイミングよく電話がかかって来た。
「はい」
『香織⁉︎やっと出た!』
画面には“叶人”と名前が表示されているのに電話の向こうからは朔夜の声がした。
「ごめん、救急車乗ってて気づかなかった。何かあった?」
『それが、「八神さん!」』
電話越しの朔夜の声が走ってきた看護師によって打ち消された。
「今すぐ結さんの病室に行ってください!」
あの電話の数、叶人が電話に出なかった、看護師のこの慌てよう、全てが合わさって血の気が引いた。
朔夜の電話も切らず結の病室まで走った。
最上階の1番奥の部屋。
勢いよく扉を開けた。
そこにいたのは、身体を起こして叶人を宥める結の姿だった。
「生きてる...?」
近寄り震える手を同じ顔をした少女の頬に添えた。
手から伝わってくる温かさに安心した。
「ばか...もっと早く起きなさいよ」
「ごめ...ね」
久しぶりに声を発して話しづらそうな結を抱きしめた。
病院に来た理由も忘れて。
「結に話したいことがたくさんあるの」
「う...ん」
あなたが眠ってる間に起きたことを。
共有して、分かち合って...1人にしないでくれてありがとうと伝えたい。
でもその前に、
「その前に助けてほしい人がいるの。絶対に死なせたくない人」
「いいよ。その代わり、かおちゃんの魘力もらうけど」