避難
◇◇◇
九重宗佑は泣いていた。
家族を人質に捕られてよく2年も頑張ったと思う。
「2つだけ聞かせてほしい。結を暴走させたのはあなたじゃないよね?」
「うん...違う」
この言葉が聞けたならもう十分。
私は迷うことなくただ真っ直ぐ宗介に力を貸せる。
「あなたを脅して結を暴走させたのは誰?」
『……』
宗佑が近づいてきて耳元で犯人の名前を囁いた。
「その人で、」
夜の屋上にバーンという音が鳴り響いた。
「なに?銃声?」
あたりを見回すと別のビルの屋上に人影が見えた。
さっきまで話していた宗佑から抱きしめられた。
「香織ちゃん、痛いとこない?」
「うん」
「ならよかった...」
ハハっと笑っている宗佑。
何が起こっているのか頭をフル回転させる中、手にヌルっとした温かいものが付いた。
何か黒いもの。
月の光に照らすと私の手は紅く染まっていた。
「え」
「やっぱ見られてたか...くそ...」
血だ、宗佑が撃たれたことを理解した。
抱きついたのは私が撃たれないように守るため...
「宗佑、動ける?とりあえず寮の中に入るよ」
「うん」
建物の中に入ると服に宗佑の血で染みが出来ていた。
私服なので余計目立つ。
「誰か!緊急で寮に救急車呼んで!」
手で宗佑の傷口を押さえながら通信機に向かって叫んだ。
通信機なら誰か出るはず。
『呼んだぜ。なんかあったのか?』
出たのは礼央。
「宗が撃たれた。寮の屋上に救急セット持ってきて!」
「香織ちゃん、叫びすぎ...」
自分の事なのに呑気に笑っている宗佑。
「叫びもするでしょ。目の前で人が撃たれたんだから」
「みんなを騙してた、バチが当たったんだろうね...」
「もう喋んないで」
バタバタと下の方から足音が聞こえてきた。
麻子と蘭が頼んだ荷物を持って来てくれた。
タオルで傷口を押さえて、その上から包帯をキツめに巻く。
麻子が屋上に出て行った。
「出血が多いわね」
「弾が貫通してないからまだこのくらいで済んでるんだよ」
暗視スコープを首から下げて麻子が戻ってきた。
「どう?まだ狙われてる?」
「残念だけど狙撃手はもう逃げてるね。向かいのビルからライフルで一発」
麻子の魘魔の力で弾道を見たのだろう。
遠くから救急車のサイレンが聞こえてきた。
サイレンの音に安堵したのも束の間、宗佑を見ると顔色が悪い。
出血量も多いし、喋るなと言ったものの反応も薄くなってきている。
「下まで連れて行こう」
「私はいいけど、3人で運べる?」
蘭は私と麻子しかいない事を心配しているのだろう。
動かすのはあまり得策ではないけれど...
「いや、飛ぶ」
「「え⁉︎」」