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巫女 早瀬 六話

 先達は、せんだつと読みます。先輩と同意ですね。先輩という言葉ではニュアンスがちゃうねん。日本語ってややこしいわぁ。


 あれは私が十八になった夜の事。里の女として認められた……私の待ち望んでいた日の事。


 ささやかな宴を開いてくれた先達の方々。今宵ばかりは巫女ではなく一人の女性として扱ってくれた。勿論次郎丸もその場に居てお祝いしてくれた。


 これで……これで私はもう結婚出来る。嬉しさのあまり、いつも以上に澄ました態度を取ることしか出来なかった。そんな私を周りの大人達はすごく生暖かい目で見てたっけ。


 すぐにでも次郎丸と結婚出来る。その事実に私は有頂天になっていた。ちなみに姫様は姫なので十八になっても勝手に結婚出来ない。


 勝った! そう思った。


 姫様もお祝いに参加してたけど牽制がすごかった。すごく邪魔だったけど折角のお祝いだから握りこぶしは引っ込めた。足元では爪先で蹴り合っていたけれど。


 そしてお祝いが終わって……私は……夜の部屋に次郎丸を呼んだ。大人になった女性の特権。一度限りだけど許されている女の子の切り札。そこで私は……次郎丸に想いを伝えようとした。そしてあわよくば……その……一線を……ぶっちぎろうと。


 ……まあ、当然のように姫様も部屋に来ましたが。


 なんとなく分かっていたというか、やっぱり一人では心細かったので姫様と二人で私達は次郎丸を逃がさないように囲んで話をすることになりました。


 そこで私達は……次郎丸に想いを……惹かれてる事を遂に言葉にしました。


 多分お互いに引けなかったのでしょう。確かに好きではあったけど、お気に入りのおもちゃを取り合う子供のような私達だったから。大人の恋なんて知らなかったあの頃の私。本当に大人になるって事を知ったあの日……私達は次郎丸の過去を教えてもらったのです。


 次郎丸の過去……それは予想すらしなかった前世の話から今世に渡る、愛と贖罪の記憶だった。私達は子供だった。本当の醜さというものをを知らなかった。愛と執念というものを。そして……破滅というものを。


 一通り語り終えた次郎丸は最後に……自分の想い故に全てを狂わせたと、静かに締めくくった。何度聞いてもはぐらかされ続けていた次郎丸の過去は……私達が聞いていいような話ではなかった。重く苦しく……いつもの次郎丸とは別人のようで……憂いに満ちていた。


 次郎丸が里の女性を受け入れない理由はそこにあった。あんなに女性の体に興味津々なのに決して手を出さなかった次郎丸は……いつも苦しんでいたのだ。贖罪と後悔と責任と劣情に。


 自分の弱みを全てさらけ出した次郎丸はまるで……親を亡くした子供のように見えた。捨てられた子猫のようにも見えた。


 ……私は気付いたら姫様と一緒に次郎丸を抱き締めていた。


 私達は泣いていた。泣きながら次郎丸を抱き締めていた。次郎丸は淡々と話すだけで泣いてなかった。でも見てるだけで胸が締め付けられるくらい……次郎丸は傷をさらけ出していた。


 聞こえない声で泣き叫んでるように見えた。


 その時に私は骨の髄まで次郎丸に惚れて……この人を守りたいと、そう思った。いつもの飄々とした明るい次郎丸を……いや、どんな次郎丸でも安心させてあげたい。こんな悲痛な次郎丸にはもう絶対にさせないって。


 そう……心を決めたのだ。


 姫様も泣いていた。泣きながら次郎丸を離さなかった。その様子を見て私もようやくその時、悟った。私達の好きな人は決して一人の力では支えることも出来ない程に業を重ねていると。悔しいけれど私の想いだけでは足りない……そう直感した。


 世界を歪ませる程の想いに苦しんでいた次郎丸。そんな桁違いの存在を満たすには……私だけでは到底足りない。納得したわけでも妥協するわけでもない。ただ……愛する人の為。あの人がいつものあの人で居られるのであれば……いや、やっぱり、むかむかする。


 この時も私は姫様と競うように次郎丸に抱き着いていたのだから。


 他の人の力なんて……むむむ! 


 でも……私の全てを懸けて……なんて、どれだけその言葉が薄っぺらいものか、思い上がっていた私は鼻っ柱をぶん殴られた気がしたから。だから……泣いた。泣いて許しを乞うていた。


 でも……次郎丸は私達を引き剥がすでもなく、泣きじゃくる私達の頭を優しく撫でてくれていた。私達が泣き疲れて寝てしまうまで。朝が来て私達が起き出すまで……ずっと抱き留めていてくれた。


 一晩中次郎丸布団を経て……姫様もこの時、完全に心を決めたらしい。


 この優しくて照れ屋で真面目なのか不真面目なのか、いつも飄々としていて誰よりも強い心を持つ……この愛しい人を必ず守るって。たとえ世界が敵に回っても絶対に譲らないって。


 だから……私と姫様は共同戦線を取ることにした。完全に同盟を組むことにしたのだ。私も姫様も本気だったから。私達は子供だった。でも今でもあの時の想いは変わらないし、ずっと胸の中で私の心は燃え続けている。


 ……でも……は、破廉恥なのは……やっぱり無理というか……ちょっと恥ずかしいっていうか……。


 というか一晩中抱かれてたのよね? 私達。あの次郎丸の胸に抱かれて……。


 ……ぼふん!



 輪廻カンカンのおさらい。



 神魔大戦の決着。


 神様に力を与えられた英雄達が天使と悪魔のトップをぶち殺す計画を実行に移す時がやって参りました。


 悪魔のトップ『獣の王』は山と見まごうほどに大きな巨体を持つ毛玉でした。山のような毛玉から動物の脚や腕がニョキニョキ生えてる桁違いの化け物です。ちょっと歩いただけで国を簡単に蹂躙できるすごい毛玉です。


 これには多くの英雄が当たりました。というかほぼ全員です。戦える英雄の大半はこの毛玉を相手にしました。


 戦いが苦手な英雄も居て、後方支援に回っていたりします。この中に前世の記憶持ちが居て……まぁ細かい話は輪廻カンカンの4に書こうと思っていたのですが書いてませんっ! 

 

 そして毛玉は討伐されました。多くの犠牲を払って『毛玉の王』……『獣の王』は退治されたのです。


 さて、もう一方の天使の主導者はと言いますと……英雄の中から選りすぐりの者だけで討伐に当たることになりました。


 その数僅か四名。


 『紫飛猿』、『赤の狂犬』、『聖女』、『人間要塞』の二つ名を持つ四名でした。


 頭脳派の英雄の策略により孤立した天使の主導者をこの四名がアサシンしたのです。


 そして戦争は終わりを迎えました。世界は救われたのです。



 しかし物語はここから始まるのです。


 輪廻カンカンの1はここから始まるのです。


 ……やっとだよ。



 まだまだ続く。

 


 『紫飛猿』とか。


 二つ名って格好いいよね。ちなみに読み方は、しびえん、です。紫の飛ぶ猿ですね。ちなみに女性です。なお彼女の芸名は『ソイ・大豆・ソイソイ』だったりします。芸名ではなくてペンネームかな。


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