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ある日のジロー


「お兄様、さぁお召し上がり下さいませ」


「う、うん、頂くよ…………ねぇ、姫様。これは本当におままごとですか?」


 おままごとなのにご飯がちゃんと用意されてて……部屋には布団も用意されてるとか。それは最早おままごとではないのでは?


「むっ! ちゃんと設定通りにやるのじゃ! この『兄と妹~禁断のデステニー~』通りにじゃ!」


 姫様は本をズビシと掲げた。


「それ、どこから……いや、良いけどさ。でもさ……お父さんがすっごい見てる中でも続けるの?」


 姫様の手にあるのは何処かで見たラブコメ漫画だ。確か発禁になってなかったか、それ。





 里に来てからちょくちょく遊ぶことになった鬼の里の姫様。里長(さとおさ)のお家でおままごとはいい。姫様もまだ子供っぽいし。小学生位かなぁ。おままごとするにはちょっと年齢高すぎな気もするが。僕は……まぁ子供にしか見えないのは承知してる。


 鬼の里はとってもオリエンタルな所で、中国……古代中国とアラビアンを足して、更に和風をちょい足し! したような懐かしくも大陸風味満点で、チャイナテイストな異国情緒溢れる場所だ。


 ここにきて中華が来るとは思わなかったが、姫様の服はチマチョゴリにも似たフワフワなスカートで……素足が結構見えてたりする。まぁ、テーブルもあるけど、どちらかと言えば床の文化みたいだし。


 おままごとも、ちゃぶ台に料理が乗っかってて、ここだけすごく和風だ。料理はエスニックだけど。スパイシーなのよ。色もカラフルだし。


 まぁ、そんな本格的なおままごとなんだけど……姫様の部屋で開催……でいいのか? 開催されてるのは……まぁいい。僕も見た目は子供だし。なにかと遊んでくれてるから里の人とも上手くいってるし。


 でも里長(さとおさ)。なんで父親のあんたが監督してるの? いつもの穏やかで優しげな里長ではなく……鬼のオーラをまとってるのは何故? 冷や汗が止まらないんですけど。


「父上は置物役じゃ。気にせんでよい。それよりも……ご飯が終わったのなら次は一緒にお布団で……」


 ギリギリギリ! 


「……姫様ー。僕そろそろ修行の時間だよー。という訳で続きはお父さんとしてね。このご飯は仲良く食べてねー。では」


 さっさとトンズラさせてもらう。歯ぎしりし始めた里長はマジで鬼の顔をしていた。洒落にならん。鬼の里の人は大体が褐色の肌で、おでこの左右にちょこんと角が生えてる。それ以外は人間とまるっきり同じ。でも怒ると角が大きくなるの。


 今の里長みたいにな。


 うわー、ちょこん、から、ズモモ、位に変化したー。あれは本気だ。酒が入ったおっさん達レベルで危険すぎる。


 つか、お父さん同伴のおままごととか止めようよ。旦那役は間違いなく胃がやられるよ。これが鬼のおままごと……な訳無いけどさ。姫様……もうちょい常識を学ぼうよ。


「あっ! 待たぬか次郎丸ー!」


「うん、姫様またねー!」


 この里に来てから学んだ気功術で肉体を強化して窓から飛んで逃げる。何故なら出口に里長がいるからだ。里長このやろう、逃がす気無しかよ!


 ちなみに窓には綺麗なガラスがステンドグラスのように嵌め込まれてる。なんともオリエンタルな感じだ。絵柄が鳳凰っぽい。柄が細かくて、すごすぎるわ。ちょっと丸い鳳凰だけどね。ボディが丸々としててコロコロしそうな鳥さんだ。


「ぐぬぁ! またしても逃したか!」


 聞こえない。姫様の悔しそうな声は僕には聞こえないんだ。里でも珍しい肉食女子の姫様が一番やべぇ!


 『気』で全身を強化してるから遠くの声まで聞こえたりするけど……里長の気配が大きすぎてそれどころちゃうわ!


 本物の鬼に襲われるとかマジ止めてよ! 僕、ただの子供なんだからね!




 僕が国を追われて放浪の旅に出たのはもう……二週間くらい前か。家族や家庭を捨ててこの里へと転がり込んだ僕を里の人達は暖かく迎え入れてくれた。


 ついでに鬼の武術というか、健康法も教えてもらっている。


 万物に流れる『気』を感じ、操るという、気功そのまんまな概念が鬼の里にあった。第一印象は『胡散臭っ!』だ。だって実際どのくらい『気』で変わるのか、よく分かんないのよ。だって元々怪力で頑丈なんだもん、この里の人たち。


 鬼っていうのは生まれながらに『気』を使ってるそうなんだけど、普通に岩を拳で砕くから。ジャンプで二階まで簡単に跳ぶし。もちろん男女問わず。ワイヤーアクションみたいで感動した。生カンフーだよ。壁登りとか普通にするし。


 それで……僕が教わっているのは『流転派』と呼ばれる寂れた流派だ。弟子が一人だけとかもう終わってると思う。里長の伯母に当たる人が師範で、里長が紹介してくれたんだけど……合気にとても近い武術だった。元々そういう戦い方が得意だからあっさりと弟子入りして、毎日しごかれてるんだけどさ。


 剛と柔。僕の体では剛は向いてない。だから柔を極めたとするこの『流転派』はすこぶる相性が良かったのだ。


 まぁ、毎日ボコボコにされてるがな。


 魔力を無くした僕は普通の子供だ。たとえ『気』という胡散臭い力を習っていても、すぐに強くなるわけでもない。それでも二週間そこらで実感できるレベルまで『気』を使えるようになったのは自分でもすごいと思う。


 種明かしをすると強化魔法と根っこが同じだから、だったんだけどね。


 だからこそ僕は今、こうして飛ぶように池の上を走っているのだ! 池の上を走っているように見えて実は少しだけ頭を出してる石を足場にしてるんだけどさ。これも修行なんだけど……マジでカンフーだよ。軽功っていうのかな。体をまるで羽根のように扱う技術。まさか使えるようになるとは思わなかった。


 これならいつか……ビームも出せるかも知れない。師匠はまだ出してないがきっと口から出すんだ。ずびびーって。


 ツルッ!


「あ」


 ジャボン!


 ……ごぼごぼ……苔むしてるから滑るんだよね。ごぼごぼ……とりあえず里長からは逃げ切れたからいいけど……よそ見してるとやっぱり駄目だねぇ。ごぼごぼ……。




 今回はおやすみよー。

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