巫女 早瀬 四話
次郎丸が早く里の生活に慣れるために……という口実で私と姫様は毎日次郎丸の側に居ることになった。里の仕来たりや、歴史、名産品等、話すことは沢山あったし、次郎丸に聞きたいことも沢山あった。
この頃は……まだみんな子供だったから。
だから毎日が楽しくて……次郎丸も可愛くて……一緒にお勉強したり、遊んだりした。悩みも不安も無い本当に楽しい時だった。やっと私は一人の女の子になれた。そんな気がした。
きっと姫様も同じだったのだろう。次郎丸は……姫という立場なんてまるで気にしていなかった。隠れて見てる里長の視線が怖いくらいに姫様を普通の女の子として扱っていた。
具体的に言うと、生意気な事を言うとほっぺをぐにーっとされた。アレは痛かった。私もやられた。でも悪いのは大概は私達で次郎丸はちゃんと言葉でも優しく諭してくれていた。
まぁ姫様は素直になれなくて何回もぐにー、とされていたけれど。でも私達はそれが何よりも嬉しかった。
里の人達はそこまで無遠慮に触ることをしないから。私は巫女。姫様同様に立場があったから。だから普通に触ってくれて普通に叱ってくれる次郎丸は……私達の王子様だった。
いえ、お姫様だったかもしれない。里の誰よりも可愛いかったから。
でも隠れてる筈の里長の闘気が、怒りでちょくちょく膨れ上がるので結構ハラハラしたりもした。次郎丸も何となく感じていたみたいで冷や汗が毎日すごかったし。
毎日が……本当に楽しくて。いつまでもこうして居たいって思ってた。巫女の勉強の時間も次郎丸の事が頭から離れなくて、よく叱られた。
そんなある日、気づいたら次郎丸が隣に座ってて一緒にお勉強してた。
意味が分からなかったけど、勉強が楽しくなった。難しくて大変だった勉強が、がらりと変わった。次郎丸の前で情けない姿は見せられない。だから私は必死になって予習復習することになった。
そして……数日後……今度気づいたら次郎丸が先生になっていた。
意味が分からなかった。本当に意味が分からなかった。数日前には一緒に文机で筆を持っていたのに。今度は教鞭を取って先生になっていたのだ。
そして……何故か生徒が増えていた。先達の巫女達まで私と一緒にお勉強だった。勉強部屋に里の巫女が勢揃いとか……おばば様まで参加しての次郎丸先生の勉強会が開かれて……私はとても驚いた。いや、今でも分からないって。
しかし教師次郎丸の説明は全てが論理的で合理的だった。とことん理詰めでまるで別人のような次郎丸に私は……ちょっとドキッとした。その小さくてお猪口のような可愛い口から出る言葉は全てが異世界の言葉だったけどね。
次郎丸の授業は里に伝わる物とは次元が違いすぎて……里の巫女達は愕然としていた。当時の私は……違いすら分からなかった。その時の話を聞くに一人ポカンとしていたらしい。
しかしながら、次郎丸の言った通りに治療すると……いつもの治療魔法の効果が段違いだった。これには里一番の巫女で古株のおばば様も大層驚いていた。
まぁ私達普通の巫女は別の事で驚く事になったのだけど。まさか……自分の腕を傷つけて治療の実践をさせるなんて思わなかった。
この時、里の巫女達は次郎丸がただの子供じゃ無いことに気付いたのだろう。
私は、とりあえず怒っていた記憶が残ってる。次郎丸が躊躇い無く己の腕に刃物を突き立てた事に。
私は泣いて怒っていた気がする。そのときの次郎丸の困った顔が今も私の心に残ってる。
小刀を腕に刺したまま苦笑いするあの人の困ったような顔。ばつの悪そうな感じで……私には分からなかった。読めなかった。あなたが背負っていたものを。
その困った顔の奥にある真実に。
腕に小刀が刺さった程度の傷は傷ですらないという修羅のような生き方をしてきたあなたの苦しみや悩み。美少女のような見た目でありながら、鬼よりもよほど鬼らしい生き方をしてきたあなたの過去。
当時は何も分からなかったんだよ。というか読めてたまるか。
おばば様からも正式に巫女の教師役として認められた次郎丸はいつも全力だった。見本として治療魔法を実践することは無かったが巫女に対して全く容赦しなかった。それは勿論私にもだ。
『痛みを伴う経験はすぐに身に付く。というか自分の体で練習が一番だよ。はっはっは』
なんて軽口を言う次郎丸の手には小刀だったり焼きごてだったり……日によって恐ろしい物が握られることになった。
……怖かった。普通に怖かった。この時の次郎丸は理解出来ない化け物に見えた。大人の巫女達なんてチビってた。私は……内緒。
でもその次郎丸の狂気……いや、熱意のお陰で里の巫女達は飛躍的に力を付けたらしい。私も気付いたら里で一番の治療魔法の使い手になっていた。以前は絶対に出来なかった骨折の治療も一週間で治せるぐらいになった。
それも次郎丸が来てから一年経たずに、だ。
当時の私は気付いてなかったが、魔力の扱いが苦手な鬼としては異常な程の成長だったらしい。巫女頭のおばば様でも骨折は大体一週間なので……まぁ放っておいても二週間もすればどんな骨折も全快するのが鬼なんだけど。
次郎丸曰く、鬼の巫女は『へっぽこすぎる!』だそうだ。そんな辛口の採点だったのに私達は治療魔法の使い手として里の内外を問わずに有名になってしまったのだ。そんなこと私が望んでいた訳でもないというのに。
これのせいで他種族の里にまで引っ張りだこになって次郎丸と一緒に居る時間が減ることになった。次郎丸の馬鹿……鬼教師……おたんこなす。
私にとってはそれが何よりも困る事だったけれど、この頃には次郎丸も巫女の教練時以外は修行に専念していたから、どのみち一緒に居られなかったのかも知れない。
里に居られない時間が増えて……外を廻る事が増えて……里に帰る度に次郎丸がどんどん大きくなっていくのを見てた。
帰ってくる度にどんどん大きくなっていくその姿に私は……自分が女であると強く意識した。胸がドキドキして顔もろくに見れない時もあった。帰ってくる度に勝ち誇ったような顔で自慢話する姫様に拳で応えるようになった。とりあえず顔面に当たっても治せたし……治療魔法の真髄をそこに見た気がした。
もうこの時には分かってた。姫様も次郎丸が好きで……でも、どうしたら良いのか分からなくて。次郎丸の側に居られるだけで私達は幸せだったから。次郎丸は決して私達の思いには応えない。でもその距離感はとても……心地よかったから。
あまり側に寄ると逃げていく。でも隙を見せると釘付けになってしまう次郎丸が可愛くて姫様と色々といたずらして……大胆に太ももを見せたその夜には二人して真っ赤になって布団の上を転がったりした。
姫様が伝統衣装を着始めたのはこの頃から。私が巫女の衣装を好きになったのもこの頃から。次郎丸がチラチラと私達を見ることが……女の子として誇らしくて。
でも私には姫様みたいにスカートを自分で捲るとか無理だった。あれは狡い。反則。とりあえずグーで殴っておいた。鼻っ柱をね。
人物紹介……ではなくおさらいかなぁ?
ショコラちゃん。
主人公の前世の妹。主人公が背後霊として取りついていたので記憶を残したまま転生をしてしまう。
異世界に転生してブイブイしていたショコラちゃん(8才)は当時の生まれ故郷が腐敗しきっていることに腹を立てて国崩しを敢行しました。ショコラちゃんは前世の記憶を武器に子供たちを扇動し、悪い大人を叩きのめして回りました。そして最高権力者に実の母親を据えて一つの国を救ったのです。
この辺は輪廻カンカンの4に外伝として書く予定でしたが書いてません! ごめんなさいー!
まぁブイブイ言わせていたショコラちゃんですが、それはあくまでも一つの国の中のお話。
世界ではもっとヤヴァイ事が起こっていたのです。
それが『神魔大戦』と呼ばれる双子の神様の喧嘩です。
神と魔で別れていますが、天使と悪魔をそれぞれの神が代表というか駒として扱っていたのでこの名前になっています。天使だから善ではなく、悪魔だからといって邪悪でもありません。
天使と悪魔の偉い人達は神様の無茶ぶりに頭を悩ませました。たかが喧嘩ごときで戦争を起こすなと。そんなバカな事で死にたくねぇよと。
そして天使と悪魔の両陣営は戦争の代替案を出したのです。
それは互いが『魔物』を召喚して戦い合わせるという更なる代替戦争でした。
戦争はどんどんとヒートアップしていき、戦場であった神界は大騒ぎになりました。これには他の神々も無視できずに文句を言う事態になったのですが……。
これによって戦場は神界ではなく、人間達のいる世界……悪魔と天使の住んでいた世界に舞台を変えることになってしまったのです。
……設定なのになんでこんなにメンドイのかなぁ。
続きはまた次回。
次郎丸は美少女?
次郎丸はものすごく可愛いお母さんと、ものすごく格好いいお父さんから産まれてきました。言わば勝ち組確定野郎です。
ちなみにお父さんの加護が『美肌』だったりします。お父さんの小さい頃は、お母さん(ショコラちゃん5才)から女装を強要されたりしていたそうです。
まぁお約束ですね。
輪廻カンカンの1と2では性別転換もしてたりしますが……本編ではしないので大丈夫だ。問題ない。とりあえず、すっげぇ美形って思ってくれれば問題ありません。ショタの美形……。