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巫女 早瀬 三話


 里に来た男の子は次郎丸と名乗った。ヒトガタには珍しく、私達と同じような名前で……実は十五才である事が分かった。どう見ても一桁の子供に見えてた。その時はヒトガタとはこんなに成長が遅いのかと驚いたが、おかしいのは次郎丸本人だった。


 見た目は十才いかないくらいの子供なのに、いつも大人ぶって理路整然と話をして……口を開くと、ちっとも子供っぽくなくて。


 だからなのか子供扱いすると、すぐにむきになって……とても可愛かった。

 

 里の女の子達の誰よりも可愛くて。里一番の美少女と言われて、かなり天狗になっていた姫様が次郎丸と対面して……すぐに膝から崩れ落ちたのは笑った。脇腹が、つりそうになった。


 思えばこの時から姫様は次郎丸の事が気になってたんだろう。次の日から次郎丸に付きまとうようになったからすぐに分かった。ああ、この男の子が気になるんだなって。


 あくまでお姉さんとして接する姫様と適当にあしらう次郎丸の姿が里のみんなに知れ渡るのも早かった。まだ子供だからと温かく見守る里の者達と……次郎丸を見る目が少し怖い里長。


 子供のじゃれあい……今思うとそんなものだった。


 でも……。


 次郎丸が実は既婚者で子供も居るという情報も同様に里全体へと瞬く間に知れ渡った。


 子供がいるといっても、妊娠中で出産は三年から五年後だと言われて……冗談だと思った。どう見ても次郎丸は子供が出来るような体をしていなかったし、魔力なんて微塵も感じなかったから。


 結婚は……可能性として無くは無い。でも赤ちゃんはどう考えても無理があった。


 だから……てっきり男の子の照れ隠しで言っているものと皆は思っていた。次郎丸は……少しスケベさんだったから。


 女性の太ももが好きで……二の腕も好き。お尻も好きみたいだし……胸も興味津々で、基本的に女の子が好きみたい。本人は極力見ないように頑張っていたけど……ちゃんと見てる事を里の女衆は当然気付いていた。


 チラチラ見ても分かるから。そのあと必ず悶える次郎丸の姿が……とても(いと)おしくて。


 そんな次郎丸は、抱き締めるともっとおかしくなった。真っ赤になって、わたわたと狼狽えて……だからきっと結婚してても次郎丸は……子供だったのだろう。これだけ可愛い次郎丸の相手が少し可哀想に思えたが詳しく聞くことは無かった。


 聞けなかった。……怖くて。


 いくら可愛いとはいえ次郎丸はヒトガタ。私達鬼とは違う。すぐに死ぬ弱い生き物。みんなそう思っていたから。決して我々と結ばれる様な相手ではないと、みんな分かりきっていたから。


 ……本当にそう思ってたのに。現実は……違ってて……でもそれは私にとっては嬉しい誤算だったりした。


 でも誤算すぎだったかなぁ。まあ今となっては別に良いけども。



 ◇



 私達は鬼。完成された種族と言われる人種。


 鬼の特性として万物に宿る気の操作とそれによる肉体の強化がある。魔力の扱いが苦手な鬼ではあるけれど、それを差し引いても頑強な肉体を更に『気』で強化する我々は生まれついての強者だった。すぐに死ぬようなヒトガタとは存在そのものが違う。


 ヒトガタの中にいる『英雄』と呼ばれる一握りの存在ならば私達と対等に戦えようも出来るが……幼く可憐な次郎丸はどう見ても弱者にしか見えなかった。


 すごく可愛い見掛けだったし。私よりも華奢だったし。


 次郎丸の傷付いた足は……結局薬で治した。一週間ほどで歩けるようになった。そして動けるようになった次郎丸が最初にしたことは里長への挨拶だった。


 意外としっかりしてて驚いた。意外と常識人な所もあるんだなと。


 歩けるようになったと言えど重傷なのは変わらなかった。なので看病しながら色々な話をして、何故この里に来たのかも聞いたけど……本人も首を傾げていた。


 あれだけ血塗れになりながらこの里に来たのに、里に来た理由は特に無かったみたい。でもそんなことはどうでも良かった。日に日に怪我が治っていくのは……嬉しくもあるし……ずっと怪我していればいいのに、と思う事もあった。


 巫女として失格かもしれない。でも次郎丸といると自分が普通の女の子で居られたから。次郎丸は私を女の子として……普通の女の子としていつも接してくれていたから。


 私はそれが……何よりも嬉しかった。


 私の白髪も……巫女としての立場も次郎丸にとってはどうでも良かったみたいで。むしろ……私の髪を積極的に触ってきて……髪を褒められて私は泣き出してしまったのを今も覚えている。


 あのときの次郎丸はオロオロしてすごかった。泣き止まない私を優しく撫でてくれて……そんなことされたら泣き止まないよ。だって嬉しくて泣いていたのだから。私の嫌いなものを認めてくれて……褒めてくれて触ってくれた。


 里の人と違う白髪。それは私の心に壁を作った。巫女として生きる事が決まったときに両親から離されて家族の縁も断たれてしまった。お務めに情を挟まないように、との配慮だが子供心に寂しい思いをした記憶がある。本当はすぐ側に居たというのに……あのときは気付きもしなかった。


 いつも両親は親であることを隠したまま私の側で支えてくれて……でも掟により決して親とは名乗れなくて。なんて鈍かった自分なのだろう。考えたらすぐに分かったというのに。


 あの頃の私は……なんて子供だったのだろう。



 私の髪、白い髪は『違う事』の象徴だった。この髪のせいで家族が居ない。里の人とは違うこの髪のせいで……。そう思っていた髪を次郎丸は……褒めてくれた。綺麗で柔らかい素敵な髪だと。


 だから……思ってしまった。願ってしまった。子供心に響いてしまった。


 次郎丸が家族になってくれたら……と。ずっと一緒にいて欲しいと。こんな私と添い遂げて欲しいって……心の底から思った。


 だから私は……。


 泣き疲れて眠ってしまった私を優しく抱き締めてくれていたあの人を本気で支えたいと思った。


 ……本当に子供だったな。これが次郎丸の言っていた『黒歴史』というものなのだろう。




 子供心に決意をしてしまった私は巫女として立派になる事を己に誓った。次郎丸と一緒に居たい。次郎丸の役に立ちたい。その一心で私は巫女としての修行をこなしていった。次郎丸は……弱いってその時は思ってたから。私が守らなくちゃって……。


 でも!


 動けるようになった次郎丸は……里の中でも修めるものが極端に少ない『流転派』の門を叩いた。どんな屈強な者も三日で逃げ出すような修行をする恐ろしい門派。里長の叔母が師範を務めるその一派は柔の極み……とかなんとかに重きを置いているらしい。


 なにせ弟子入りした者が、みんな逃げ出すから謎なのだ。次郎丸はそんな所に武術を習いに行ってしまったのだ。それも里長の陰謀で。


 すぐに死んでしまうような脆弱なヒトガタなのに。子供なのに。本人は強くなりたいから、なんて言っていたけれど……。


 里のみんなも止めようとした。でも流転派の師範であり、姫様の叔祖母様に当たる『芙蓉(ふよう)』様が、すこぶる乗り気で誰も止めることが出来なかった。


 だからせめて……泣いて逃げ出すであろう次郎丸を慰めようと……姫様と道場の前で待機してたのに……。


 次郎丸は……泣いて逃げ出す事もなく、正式に流転派の門弟となり、芙蓉様の弟子になった。


 これには里の誰もが驚いた。私も驚いた。姫様はもっと驚いていた。顎が外れるんじゃないかと思うほどに驚いていた。外れれば良かったのに……ちっ。


 大抵の者は初日の試験で心を折られて泣きながら逃げ出すというのに。次郎丸は鼻唄を歌いながら試験を乗り越えたのだ。……こっそり見てたから間違いない。


 決して反撃することなく十分間、芙蓉様の攻撃を受け続ける。それが試練だった。ちなみに芙蓉様は鉄の棒装備の鬼ババアという鬼の中でも最強の組み合わせだ。


 そんな試験を次郎丸は無傷で乗り越えたのだ。……正直動きが気持ち悪かった。なんかぐねぐねしてて。


 魔力も無い。筋力も無い。ただの非力なヒトガタの子供のくせに次郎丸はすごかった。芙蓉様の振り回す鉄棒を受け止める、ではなく……絡めとる……のかな。あるいは自ら吹き飛んで威力をいなす。


 全ての攻撃をまともに食らっているはずなのにぬるりと受け流していたのだ。


 まるでタコみたいな動きの次郎丸に姫様と二人で言葉が出なかった。こっそり覗いてたから元から静かにしていたのだけど……開いた口が塞がらなかった。


 試験は最終的に本気を出した芙蓉様が次郎丸を引っ掴んで、思いっきり床に叩き付けて終わった。次郎丸に怪我は無かったけれど……芙蓉様大人げないと子供心に思った。


 床を毬のように跳ねていく次郎丸は……少し面白かった。


 まぁ、それぐらい次郎丸の動きはなんか……いらっとさせるものだったから仕方無いかもしれない。


 姫様と一緒に笑って見てたなぁ。べしゃりと壁に張り付いた次郎丸の姿は傑作だった。

 

 そして……これで私には『理由』が出来た。


 日々辛い鍛練をする次郎丸を癒す。巫女として必要な事。私が次郎丸の側に居る理由。必要性。もうなんとでも言えばいい。


 ただただ嬉しかった。私が必要で。次郎丸の側に居れて。だからこそ巫女として早く一人前に成ろうと。巫女として次郎丸を支えるんだと。


 ……あの時は本気で思ってたのになぁ。




 人物紹介は続く。



 次郎丸。


 一応前世の記憶を持つ人間。前世では地震によって命を落とす。その際、妹を命がけで助けるが、泣きじゃくる妹の姿に死して後も未練が残り背後霊として妹に取りつく。妹は大往生して輪廻の輪に進むが……。


 強力な背後霊と化していた次郎丸によって妹の魂は正常な転生に失敗。妹も記憶を残したまま別の世界に転生を果たしてしまう。勿論主人公も背後に取りついたまま異世界に転移……したことになるのか?


 そして新しく生まれた命、妹の転生体であるショコラちゃんは異世界転生をヒャッハーしてブイブイしまくる事になりました。


 異世界転生のお約束。子供の頃から鍛えまくってブイブイを素でこなしました。何せ中身は大往生した老婆です。まさに圧巻。素敵な下僕(後の旦那)を引き連れて世直しをしていったのです。


 ここまでが輪廻カンカン1のプロローグ……の半分ですかねぇ。続きはまた次回。



 加護について。


 この世界は人間に対して神様の加護が存在する。その理由は、ただのえこひいきなのであまり気にしなくても大丈夫。深い意味は少しだけしかありません。


 人間には生まれながらに不思議な力が与えられています。人によっては『美白』とか『美肌』とか。当たり外れが著しいので大して重要視はされていませんが、勝ち組は大概が当たり組です。


 人間の場合、重要視されるのは『魔力』の量となります。生まれながらにある程度の器が決定されているので、魔力によるマリョハラが人間界で横行。社会問題になっています。輪廻カンカン3では、ほとんど話題にもなりませんけどね。


 で、主人公にも『加護』があります。それは『念話』という外れスキルです。テレパシーでびびびーと意思の疎通が出来ます。思っていることが駄々漏れになったり、相手の心を覗けたりします。中々に生きにくくなるスキルですね。


 そこまで使い勝手の良くない加護ですが、動物とすぐに仲良くなれるという利点があります。次郎丸はこの加護によって生涯の『相棒』を赤ん坊の頃に得ています。


 物語の最初の方にはほとんど出てきませんけどね。そこはほら、新キャラ優先ということで。


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