巫女 早瀬 二話
私は生まれつき髪が白かった。里の者は皆、黒髪だというのに。それは魔力の扱いに長けている、ということを現していたのだけど、そのせいで産まれた時から私の未来は決まってしまっていた。
里の巫女として癒しの術を学ぶ事、そして里の為にその力を振るうという責任重大なお役目が、私の意思とは無縁に決まっていた。
小さい頃は少し寂しかった。同い年のみんなが遊んでるときも勉強があったから。でも友達の為にも巫女としての勉強は必要だったから苦では無かった……と思うようにしていた。
巫女の勉強はとても難しくて……私はいつまでも自信なんて持てなかった。里の人の治療も先達の巫女に付いて、いつも側で見てるだけ。大人の巫女のお務めを眺める毎日に少し心苦しさを感じていた。
本当に私なんかが巫女になれるのか不安だった。
そんなふうに悩む私に唐突に試練が訪れた。
本当に突然。何の前触れもなく。唐突にそれは現れた。里に一人の子供がやって来たのだ。その子は上半身は汗だくで、下半身は血塗れで里の入り口に……まるで彫像のように拳を天に突き上げた格好で立ったまま気絶していた。
私はその血だまりに立つ子供……恐らくは女の子……だと思われる子の、その異様なまでの満足げな顔と足元の血の池に……意識をあっさりと失った。だって足が……足が真っ赤で、本当に赤一色で。
血には慣れてたつもりだったのに、あの光景は……無理だった。
気絶から目が覚めた時、私は救護室の寝台の上で寝かされていた。私の隣の寝台には治療された女の子が可愛い寝顔を見せていた。
……何故か全裸で。
……股間に何か付いてる様に見えた。でもこの子、女の子だし。そんな……ね? まさか……ねぇ? 先達の巫女達もしげしげと眺めて頭を傾げていた。私もよくよくと見たけど……やっぱり付いてる……でも顔はすごく可愛いくて……という感じで、どうしたらいいのか分からなくなってた。
巫女全員が足に包帯を巻いているだけの患者に見とれていた。
思えば既にこの時から、私の心も体もこの子に囚われていたのかも知れない。私達とは種族が違う、このぷりぷりつるつるの白い肌を持つ里の女の子よりも可愛いらしい……多分男の子に。
後日分かった事になるが、この男の子はセバヌさんの紹介でこの里へと走って来たとの事だった。三日三晩、本当に走り続けて里までたどり着いたそうで。
その時は意味が分からなくて……今も分かりたくないけれど……とりあえず、すごいなぁ、と思ったのだけは覚えている。男の子がどうして里に来たのか、とかは、もう気にも留めてなかった。だって……男の子の看病が大変でそれどころでは無かったから。
男の子……らしき子は一日経っても二日経っても起きなかった。だから私がお世話した。体を拭いたり……こっそりさらさらの朝焼け色の綺麗な紫の髪をなでなでしたりした。動かないから丁度いいとして先輩巫女から治療魔法の練習もさせて貰った。
あちこちが裂けた男の子の足はあんまり治らなかった。でも毎日包帯を換えて薬を塗るのはとても……こう言ってはなんだろうけれど、充実していた。私が治してる。そういう実感があったから。
でも……男の子は足の指まで可愛くて……大人の巫女達を抑えるのにとても難儀した。もうおばあちゃんの巫女様しか側に置けないくらいに男の子をペタペタ触って騒いでいたから。
そして、ちょっと巫女の風紀が乱れかけた時期。男の子が運び込まれてから丁度三日目の朝。いつものように寝ている男の子の体を拭こうとしたところで……男の子と目が合った。寝ているはずの男の子が目を開いて私を見ていたのだ。
丁度……肌掛けを捲っていた所で男の子の裸が露になった瞬間に視線を感じて……男の子の髪の色と同じ綺麗な朝焼けの空を映した瞳が私をすごい見ていたのだ。
私も固まってしまったけど、男の子は……。
「…………うん」
そう言って何故か諦めた顔で目を瞑ってしまった。今思えば、この時が私に与えられた最初で最後の機会だったのかも知れない。この時に想いを打ち明けていれば……。
……いえ、無理です。破廉恥です。
全ては手遅れで……始まる前に終わっていたとしても……やっぱり私は……まだ諦めるなんて出来なかった。ううん、諦めるなんて考えたくもない。だから私は止まらない。
この時は悩みなんて無かった。毎日が楽しくて……明日を楽しみにして夜、寝ていた気がする。
ねぇ、次郎丸……私はあなたに会えてから、ずっと……胸がドキドキしていたの。毎日が信じられないくらいに輝いていたの。私は上手に言葉で表現出来ないけれど……この想い……どうしたら伝えられるのかな。
いつも真っ赤になって私の髪をすいてくれるあなたは、すぐに『妻がいるから』って言うけど……『赤ちゃんも妊娠中なの』とかも良く言うけれど。
断られるのは分かってる。だから言わない。言えなかった。私は……卑怯な女かな。でも……離れられないの。離れたくないの。いつも一緒に居たいし、温もりを感じていたいの。
だから……あなたを神の手から取り返す。あなたの体を取り戻す。
……あなたを慕う人達と一緒に……必ずね。
人物紹介……というか輪廻カンカン2のまとめ?
次郎丸と妊娠。
この世界には魔力や魔法が普通に存在しています。主人公も例外ではなく、修行の賜物として莫大な魔力を保持していました。しかし、その強大すぎる力は本人の魂を歪めた結果、得られたものでもあったのです。次郎丸が実家への帰省中に出会ったハラペコダークエルフのお姉さんはそんな次郎丸の魔力を体に注ぎ込まれ妊娠してしまいます。そんなつもりが無かったのに出来ちゃった感じです。
エルフは魔力で妊娠するという設定です。突っ込みは受け付けません。
主人公も『マジかっ!?』となりましたが、ダークエルフの悪友であるダイゴローと名乗る女性もショタに妊娠させられたい……げふん! 主人公の魔力に魂の歪みを感じ取り、その苦しみから救うために次郎丸の持つ魔力を全て受けとる事になりました。
ダイゴローも人間ではなく、本性は山のように大きな魔物です。次郎丸の魔力(その本質は魂そのものである)を取り込んでダイゴローもお腹がぽっこりしてしまいました。
一応このときの姿は大人の女性でした。魔物姿ではありません。
己の持つ魔力を全てダークエルフのお姉さんとショタスキーなダイゴローに預けた次郎丸は、そこでようやく『自分』に気づいたのです。そして女性が二人、妊娠することになってしまったのです。
魔力で妊娠するエルフの生態は良しとしても、ダイゴローは魔物です。実は多くの魔物のお母さんでもあります。取り込んだ魔力を自身の中で変換して新たな命を作り出す……ダイゴローの妊娠プロセスは人のそれとは大きく異なりますが、パッと見、普通に妊婦です。
次郎丸はこの事をずっと悩んでいた……というのが物語の裏にある設定です。もうちょいあとにこの話が出てくるけど、ここに出しておかないと違和感がパネーっす。