表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

後編 「心地良き緊張の糸」

 それにしても、最初の手札に『乱れ髪』が入っているとはね。

 この『乱れ髪』のカード、山札からカードを引き直せるから便利なんだけど、使うタイミングは見図らなくちゃ。

 とは言え私の手札には、他にも便利なカードはあるんだけど。

「先攻だから私のターンだよ、和歌浦さん。オクトパス僧正に、地形カード『狭山池』を使用。そして必殺技『仏罰の触手』を発動!」

 狭山池ウォークで貰った地形カードは、水属性の技効果を増幅出来るんだ。

 この『オクトパス僧正』とは、相性が良いんだよ。

「チッ、ダメージ割り増しか…まあ、『激走する地車(だんじり)』のカードを出されなかっただけ、良しとしなくちゃな。」

 ダメージを受けた『軍神マサシゲ』のライフを減らしながら、和歌浦さんがブツブツとボヤいている。

 あのカードは、岸和田市に所縁のキャラクターなら属性無関係にパワーアップ出来るから、手札にあったら使っていたよ。

 なかなか思い通りのカードが出ないのはヤキモキさせられちゃうけど、それもカードゲームの醍醐味だよね。


 割と幸先良くターンを終えた私だけど、後攻の和歌浦さんも、なかなか見事な立ち回りだったね。

「『軍神マサシゲ』にアイテムカード『黒姫山の襟付単甲』を装備。そして地形カード『高野街道』を発動。」

 あの地形カードは河内長野由来のキャラクターと相性が良いから、防御系のアイテムカード『黒姫山の襟付単甲』との相乗効果もあって、『軍神マサシゲ』の耐久力は大幅に強化されてしまったんだ。

 どうやら和歌浦さんは、このターンでは守りに徹したみたい。

 地形カードでブーストした『仏罰の触手』も、この鉄壁ガードでは致命傷にならなかったの。

 仕方ないので、もう一枚引いていたキャラクターカード『いたすけ古墳の豆狸』を後衛に付けたんだけど、このキャラはヒットポイント値が低いんだよなぁ…

 前衛の『オクトパス僧正』がやられた時の保険のつもりで、召喚したんだけど。


 そして迎えた次のターンで、和歌浦さんは攻勢に転じたんだ。

「よし!アイテムカード『黒姫山の襟付単甲』を捨てて『鉄砲町の火縄銃』を装備。そして後衛の『いたすけ古墳の豆狸』を武器攻撃!」

「えっ…そう来る?そっち狙うの…?」

 和歌浦さんが山札から引いたばかりのアイテムカードは、後衛キャラも直接攻撃出来る遠距離武器。

 その上、『軍神マサシゲ』との相性抜群な地形カード『高野街道』の効果もまだ生きているんだよ。

 後衛の『いたすけ古墳の豆狸』は、何も出来ずに沈んじゃった。

 元々ヒットポイントが低かった上に、召喚した直後で何のアイテムカードもつけていなかったんだから、無理もないんだけど…

「あーあ、あと二体やられたら私の負けか…下手に後衛を出しても、そっちが倒されちゃったら仕方ないね…」

 私は溜息を付きながら、力尽きた『いたすけ古墳の豆狸』を、捨て札置き場に移動させたんだ。

 捨て札置き場に追いやられたキャラクターカードを見ていると、何ともアンニュイな気分になって来るよ。

「そう悄気げるなって、お町!今度、大仙公園の市立博物館で『堺の鉄砲・刀鍛冶』って特別展があるんだ。今度の土日、お町も一緒に行こうよ。」

 そんな私へ笑いかける和歌浦さんが示したのは、堺市立博物館のペア招待券だったの。

 注意深く見てみると、「新カード、限定頒布」って書いてあるじゃない。

 これは見過ごせないよ。

「銘刀・国光に斬馬刀、それに大筒…さっきの火縄銃に負けず劣らずの強力な武器系のアイテムカードが頒布されるんだってさ。お町も欲しいだろ?」

「勿論だよ、和歌浦さん!そんな強いアイテムカードがあれば、きっと…」

 思わず身を乗り出した私だけど、そこでふと我に返ったの。

 ペア招待券で入場するって事は、当然ながら和歌浦さんも一緒だよね。

 すると、私と同じカードを和歌浦さんも入手する訳で…

「もしかして、和歌浦さん…国光や斬馬刀とかのアイテムカードで、『軍神マサシゲ』を強化するつもりなの?」

「まぁね、お町。どれもこれも、『軍神マサシゲ』と相性良さそうなカードだからな。デッキに組み込む時が、今から楽しみだよ。」

 ここまで屈託がないと、いっそ清々しいよ。

「こうしちゃいられないよ!和歌浦さんのマサシゲが、これ以上強くなるなんてさ!」

 私ったら、居ても立っても居られなくなっちゃったみたい。

 ジッとしているのも落ち着かないし、そうかと言って、やらなきゃいけない事も見つからない。

 仕方無いから山札のシャッフルを始めたんだけど、手元が狂ってバラけちゃいそうだよ。

「まぁまぁ…落ち着けって、お町。仮に私のデッキが強くなったとしても、勝負は時の運次第。山札から引けなきゃ、それまでだからな。」

 至って冷静に宥めてくる和歌浦さんだけど、すっかり私はヒートアップしちゃったの。

「今のうちに勝ち星を拾わなくちゃ!和歌浦さん、ゲームを続行するよ!」

 どうにか切り終えた山札から一枚引き、高らかに宣戦布告を決めたんだ。

「面白い!相手になるから掛かって来なよ、お町!」

 それに応じる和歌浦さんの美貌には、いつもと変わらぬ涼しげな微笑が浮かんでいる。

 そうして笑っていられるのも、今のうちだよ。

 次こそは必ず、ギャフンと言わせてやるんだから!


 変則的なブレイクタイムをさっさと切り上げ、私達のカードバトルは再始動の時を迎えたんだ。

 緊張の糸がピリッと張り詰めながらも、不思議なほどに心地良い。

 全てのカードゲームに共通する、豊かな時間だね。

 だけど「堺っ子TCG」は、他のカードゲームにはない魅力が備わっているんだ。

 堺県に所縁の深い偉人や伝承を擬人化したキャラクター達が、博物館の展示品や県内の特産物をモチーフにしたアイテムカードを装備した上で、私達の想いを背負って戦っている。

 アイテムカードと同様にキャラクター達をサポートするのは、県内の名所や史跡の名を冠した地形カードだ。

 そうした郷土愛が、ギュっと凝縮されているの。

 私達の住む堺県の魅力が込められたカードゲームを、同じ堺県に生きる友達と興じる。

 そんな豊かな時間を、私と和歌浦さんは存分に満喫していたんだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 企画より拝読しました。 「軍神マサシゲ」とか、「オクトパス僧正」とか、TCGのキャラっぽいところに歴史的・文化的要素を落とし込むセンスがすごく好きです! 小学生の頃、こんなゲームがあった…
[一言] こんにちは。 企画より参りました。 私の時代の郷土学習は、調べ学習や語り部さんからの聞き取りがメインでして、申し訳ないことに「面白さ」がなかったんですよね。農作物や漁獲量のランキングを必死…
[良い点] 友情と郷土愛に溢れた、よいお話だと思いました。 語り口調も噛み合っていたと思います。 [気になる点] このカードゲームは、どこで売っていますか?やはり堺県ですか? 堺県ってどこでしたっけ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ