尋問
特殊部隊の隊員とか、一部の特別な人たちを除けば我々は一般人とそう変わらない。彼女自身もまた、その肉体のことを除けば我々と大差ない。
彼女は格闘家ではない。そういった技能も知らない。我々ですら訓練時に学ぶような技能ですら、知らぬできぬというものが多いほどだ。これについては教わらないのではなく、教えてもらえないらしい。
人間の意志を持った化け物を抱えるにしても、自分らの力で抑え込めなきゃ危険すぎる。互いにそういう線引きでいるんだよ。
彼女は以前、そう呟いた。
そのために動きは滅茶苦茶だ。それでも、その小柄で身軽な体格と体力というものは厄介である。その素直な感想については、嫌みかと本人にすごまれた。しかし事実だろう。屈強で大柄な格闘家は近接戦闘においてはその腕っぷしと質量で圧倒できるだろうが、撃ち合いでは大きめの的だ。いくらタフといえども銃弾を受ければ戦線に留まり続けるのは難しい。あるいは、待ち伏せなどのシチュエーションにおいても、小柄な彼女は優位であった。標準男性の体格では入ることすら困難な場所についても出入りに困らない。相手の想定しえない場所から奇襲を仕掛けることが可能である。
これについて無警戒なままということはないものの、いよいよどこから襲撃があるか予測できないというプレッシャーはすさまじいものだ。彼女はそういう類の嫌がらせを好む。
彼女はそれらについて『毒』と言った。短期的な成果ももちろん嬉しいが、どこかで蒔いた種が長期的に相手に損害を与え続けるのは心地がよいとのことであった。その『毒』を浴びた者、すなわち魔女と対峙した者は大なり小なり精神的な障害を持つと言われる。
性格が悪いようだが、戦術的には間違いではない。人道に対して少々背を向けているだけだが、人間が死んでいる時点でそんなものは機能しているのだろうか。言い訳だが、そう注釈をつけて彼女は愚痴をこぼした。
一方で、戦場での彼女を見るに、行為への抵抗や疑問は一切ない。迷いなく行動し、成し遂げる。どちらかは嘘、ということもないのだろう。銃を向けてきているから敵、どうなったって知ったことではない。だが、敵意のない一般人に対して害を与えるのはおかしい。その境界についての話なのだ。長期的な作用というのは戦後も続く。生きている限りは退役してもなお続く。彼女はそれについて間違っていると感じているのだろう。それでも続けている、それが結論なのかもしれない。
彼女はあくまで人間であった。




