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第二部/第二章・宇宙へのいざない(八)

(八)未来に向かって


「なるほど、そこまでお考えでしたか」

 代わって麗華が説明を続ける。

「高出力原子レーザー発振器の開発は、AFC直属の機関として高エネルギー研究所を新たに設立して、すでに基礎研究に取り組んでおります。篠崎さんに担当していただきたいのは、恒久的な月面基地と原子レーザー発電機の開発ですが、もう一つ中間基地としての宇宙ステーションの建造があります」

「宇宙ステーションですか?」

「そうです。原子レーザーといっても、大気中では減衰が激しく実用には向かないでしょう。宇宙ステーションに搭載すれば、大気の減衰もなければ、BEC回路や超電導素子を作動させる極超低温も、宇宙空間という天然の冷却材が利用できます。原子レーザーの本格的な運用は、宇宙ステーションが完成してからになるでしょう」

「理にかなっておりますな。が、問題は人材の確保と資金面です」

 再び梓が答える。

「その点に関しましては、アメリカの大幅な予算削減であぶれたNASAなどの研究者を一部登用しますし、研究資金は当方で用意いたします。といいますのは、これらの計画実行にあたっては、篠崎重工とAFCの資金提携による合弁事業としたいのです」

「合弁事業?」

「はい。新たにアメリカ国籍企業としての篠崎重工アメリカを設立し、そこで開発していただきたいのです。これはアメリカ政府と軍の干渉を少しでも和らげる苦肉の策でもあります」

「つまりアメリカ国籍企業なら、アメリカの国益にもつながると判断すると?」

「そうあってくれるといいんですけど。それに莫大な金額になる研究開発費税額控除が、アメリカにおいては日本より格段に優遇されていますからね。例えばエレクトロニクス分野などは、法人税が五分の一ですみます」

「なるほど……。それで合弁事業のことですが」

「資本金は両者の折半でいかがでしょう。全額こちらで出資してもよろしいのですが、その場合はAFCグループの傘下に入ることになります。どちらにしても、実際の会社の運営は篠崎重工側におまかせします」

「AFCは金は出すが口は出さないというのが基本政策でしたな」

「もちろん計画の提案者がこちら側ですので、多少の諮問はするでしょうけど」

「わかりました。我々二人だけで結論は出せないので、重役会議にはかってみることにします。しばらく時間をいただますか?」

「結構です」


 莫大なる資産を有するAFC代表となった梓の最初にして壮大なる開発計画が始動しはじめた。

 今後二十年間の間に、宇宙に人類を住まわせるというコンセプトではじめられた、今回の新規事業組織の内訳は、主だったものだけでも以下のごとくである。

 高エネルギー研究所、原子力発電協会、極超低温冷媒製造保管基地。

 宇宙貨物輸送協会、スペースシャトルバス開発機構、月面調査開発協会。

 ロケット推進技術研究所、宇宙航行体構造物研究所、宇宙船内生命維持装置研究所。

 火星探査協会、スペースコロニー研究開発機構、宇宙移民局設置準備室、宇宙環境問題委員会、宇宙資源開発国際協力会議。宇宙飛行士養成協会。

 原子力兵器諮問委員会。

 そして篠崎重工アメリカ側の事業としては、

 宇宙ステーション開発事業部、月面基地開発事業部、原子レーザー発電事業部の三部門が設立された。

 などなど、今後二十年間で資本投下される金額は、真条寺財閥の総資産の三分の一に相当する二十兆ドルにおよぶ。

 そしてこれらの頂点に立つのが、一介の女子高生、AFC代表の真条寺梓十六歳である。


 ブロンクス屋敷バルコニー。

 午後のティータイムをくつろく渚が、美恵子からの報告を聞いている。

 話題は、梓の宇宙開発計画についてである。

『新たなるフロンティアスピリッツだと絶賛の声が上がっています。新企業に採用される従業員は総勢七十万人におよび、完全失業者がいっきに減少して産業界からは拍手喝采で歓迎されています』

『議会の方はどうなっていますか?』

『はい。例の「宇宙産業分野における研究開発費税額控除特別法案」をハンフリー上院議員を通して上申していましたが、まもなく法案は可決成立する見込みとなっております』

『政府に干渉することは、梓が嫌うところだけど、これだけは目をつぶってもらわなくてはね』

『そうですね。宇宙開発には莫大な研究開発費が必要です。今後最低十年間は研究開発のみが続くでしょうし、本格的な宇宙ステーション等の建設がはじまるのはその後十年間といいますしね』

『AFCの総資産の三分の一を投入するのですから、出来うる限りの策を施しておいておかなければ』

『しかしお嬢さまも、思い切ったことを決定されましたね』

『これからは梓の時代です。宇宙開発はその根幹となる事業となるでしょう』


第二章 了

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