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第二部/第二章・宇宙へのいざない(六)

(六)結婚許諾か?


 数日後。

 ブロンクス本宅のバルコニーで、お茶の時間に会話する梓と渚。第一・三土日は、母親のもとで過ごすことにしている梓だった。もちろん真条寺家の執務も休みである。また世話役の二人も水入らずの母娘の会話を邪魔しないように席を外している。

『梓、眠くないの?』

『大丈夫よ。飛行機の中でぐっすり寝たから』

『無理して、私達に合わさなくてもいいのよ。会いに来て元気な姿を見せてくれただけで、母親として嬉しいんだから』

 渚が心配しているのは、日本とニューヨークの時間差、昼と夜がほとんど正反対になっているからだ。今こちらでお茶を楽しんでいる時間は、日本ではぐっすり眠っている時間であるからだ。本来なら眠っている時間に無理に起きていて、体調を崩して欲しくないと切に心配しているのだった。

『そうは言ってもお母さんが寝てる時に起きてて、起きてる時に寝ていたんでは、こちらに来た意味がないわよ。麗香さんには、寝ていなさいと言ってあるけどね』

『しようがない娘ねえ……』

『時間の問題がなければ、絵利香も連れて来るんだけどね』

『慎二君とは、その後うまくいってる?』

 突然話題を変えて切り出す渚。

『なんで慎二が出てくるの?』

『だって、好きなんでしょ』

『だ、誰が、好きなものか。ただの喧嘩相手だよ』

『でも喧嘩するほど、仲が良いっていうじゃない』

『そんなこと……』

 否定できない梓だった。

『ともかく、あなた一人だけでなく彼もたまには一緒に連れておいでよ』

『なんでなのよ。どうしてそんなに肩入れするの?』

『一応、沢渡君はあなたの婚約者ということになってますからね』

『こ、婚約者……、いつからそんな話しができてるのよ』

『あなた誕生日に、招待された俊介君と彼を戦わせたじゃない。そして彼は、見事俊介君に勝ったわよね』

『それがどうしたのよ』

『しきたりのなかにあるのよ。真条寺家の娘を嫁にしたき者は、娘が指名した者と戦って打ち勝つべし、さすれば望みをかなえよう。とね』

『そんなしきたり、知るわけないじゃない』

『真条寺家の娘と花婿候補の男性が決闘することを承認することは、すなわち結婚を許諾したことになるのよ。そういうわけだから、彼はあなたと結婚する権利を持っているわけ』

『承認ったって、単に決闘に立ち会っただけじゃない。それに花婿候補ってどういうことよ』

『立ち会えば承認したことになるのよ。神条寺家が婿候補として西園寺俊介君を送り込んできていたのは知ってるわよね』

『知ってるわよ。馴れ馴れしくて嫌気が差してたんだ』

『そもそも、真条寺家の娘が十六歳になるということは、法律上結婚が許されると同時に、花婿候補選びがはじまることを意味しているのよ。家督長であるあなたに限らず、一族郎党すべての娘がね。あのパーティーに出席した若者の大半が、真条寺家にゆかりのある由緒ある血筋の中から厳選された花婿候補だったのよ。麗華さんが一人一人あなたに紹介していたはずだけど。その最後に沢渡君が紹介されたはずよ。彼は私の推薦として特別に候補に入ってもらっていたの。一応命の恩人として、その権利があってもいいでしょ』

『そうだったのか。どうりで馴れ馴れしいやつらと思った。自分が花婿に選ばれようと精一杯だったんだ。その中に紛れ込んできたのが俊介というわけね。もっとも慎二はえさに釣られてやってきたんだろうけど』

『まあ、そういうことね。一応血筋には違いないから、向こうからの祝辞を持ってきた俊介君を断るわけにはいかなかったののよ』

『祝辞ねえ……それ持ってると、誰でも受け入れるしかないんだな』

『まあね、社交上の礼儀よ。例え「村八分」を受けていても冠婚葬祭なら参加しようということね』

『なにそれ? 村八分って、どういう意味?』

『日本の古いしきたりの一つでね、直訳すれば「Ostracism」追放ということになるのだけど。意味が違うわね。八分の残りは葬式と火事の二分ということ。仲間はずれにはするけど、葬式と火事には助け合うという精神よ』

『でさあ……でさあ。その村八分はともかく。決闘に立ち会っただけで、なんで結婚を承認したことになるわけ?』

『それも真条寺家のしきたりよ。決闘して勝った者を花婿とすると決められているのよ。それを知ってか知らずか、あの二人が決闘をはじめて、それにあなたが立ち会った。その他の花婿候補の人たちも、沢渡君が花婿候補だと知らされていたはずだから、決闘で勝利したのをみて、しきたりということで、諦めて全員途中で帰ってしまったわ』

『決闘の後、急に閑散としたような気になったのはそのせいだったのか。でも、たかが決闘ぐらいで、花婿が決められるなんて……』

『真条寺家の跡取り娘でなければね。梓、あなた、自分の立場がどれほどのものかということ、真剣に考えたことあるの? 一国の王にも匹敵する財力と権力を持ち、世界経済を自由に動かすことができるのよ。こんなこと言いたくないけど、一般庶民が手を触れることすらかなわないあなたの御前で戦われた決闘の勝者に、祝福を与えるつまり結婚を承諾するのは当然の義務なのよ』

『そんなこと……』

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