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第二部/第一章 新たなる境遇(四)

(四)家督相続


 各国の首脳を招待してのパーティーは当然、外交合戦の場ともなる。あちらこちらで各国首脳達が言葉を交わし、活発な外交を進めていた。

 とはいえ、今日の一番の相手は十六歳となったばかりの梓であった。ひっきりなしに各国首脳が言葉をかけてくる。

 それもそのはずで、十六歳となった今日のこの日をもって梓は成人するのだ。

 パーティーも盛況のクライマックス。

 渚が設えた壇上にのぼって、出席者全員に向かってスピーチを始めた。

『みなさん。娘の梓の十六歳の誕生日にお集まり、まことにありがとうございます。

 ご存じの方も多いかとおもいますが、真条寺家は女系の家系で、代々女子が家督を継ぐことが家訓に取り決められております。すなわちわたくしは母である響子から十六歳の誕生日にこの家督を受け継ぎました。

 そして今日のこの日。我が娘の梓も十六歳の誕生日を無事に迎えることとなりました。アメリカのほとんどの州、及び日本では法律上でも結婚を許されおり、もう立派な大人の仲間入りをしたと言ってもよろしいでしょう。わたくしは、今日この良き日に、この梓に真条寺家の家督長の地位を譲ることにしました』


 おお!


 というどよめきが湧き上がった。

 世界に冠たる真条寺グループの総帥たる、その家督を引き継ぐ新しい風。

 ここに集まった多くの首脳たちの多くが、その発表を見届けるために、今日のこの日をスケジュールを明けて待っていたのである。

『グループ企業の新しい名前は、アズサフィナンシャルグループとします。梓は、グループを統括運営する財団法人「Azusa Foundation Corporation」、略称AFCの代表に就任します。当面の間、わたくしが、相談役として梓をサポートする予定です』

 招待された人々の反応は様々であった。

 新しい風を歓迎する者、十六歳という若さに先行きを心配する者、それぞれの考え方があるだろう。

『十六歳で家督長を譲られるとはねえ』

『俺は、正しい判断だと思うよ。天使のような優しさと、女神のような美しさを兼ね備えた我らがお嬢様だ。傘下企業三百二十万人にも及ぶ従業員のトップとしての資質は充分あると思うね』

『まあ、従業員達の評判や人気の度合からいっても、渚様より梓様のほうが上だからなあ。パーティーの招待者の出席率は、梓様が出席するというだけでぐんと跳ね上がる』

『ああ、そうだとも』


『梓、ちょっと来なさい』

 手招きする母親のそばには、米国大統領と体格の良い米国軍人将校らしき人物がたっていた。

『大統領は知っているわね』

『はい。はじめまして、梓です。大統領』

『いやいや。三歳の頃に一度お会いしてるんですよ』

『え? そうなんですか』

『ええ。私がまだ上院議員だった頃です。その頃も可愛かったですけど、十六歳になられて一段とお奇麗になられましたね』

『あ、ありがとうございます』

 引き続き隣の人物を紹介する渚。

『こちらは、米軍太平洋艦隊司令長官のトーマス・B・ファーゴ海軍大将』

 母親が紹介し、梓も応答した。

『はじめまして、梓です。お忙しいなかわざわざご足労いただき、ありがとうございます』

『そういえば、梓さんは、日本の高校に留学なされているんでしたね』

『はい。ジュニアスクール卒業までニューヨークにいましたが、今は日本に留学しております』

『長官には、日頃から大変おせわになっているのよ。梓、真条寺家所有の船舶の中に、原子力潜水調査船があるのは知っているわよね』

『はい。伺っております。ハワイ・パールハーバーを母港として、原子炉の整備点検や核燃料の交換など、米海軍の施設と技術要員をお借りしています』

『その通りです。長官には、その手続きを通して大統領の許可を頂くまで、随分と骨を折っていただきました』



 突然パーティー会場で騒乱が沸き起こった。

 見ると、慎二が招待されていた若者と口論していた。

『慎二!』

 驚いて駆け寄る梓。


「いやあ、こいつ日本人で日本語を話せるくせに、英語ばかりで話しかけやがってよ」

「当たり前じゃない。ここでの公用語は英語なのよ」

「ああ、知ってるさ。で、意味が判らないから絵利香ちゃんに翻訳してもらってたら、聞き捨てならないことを言いやがる」

「なんて?」

「どうやって梓ちゃんに言い寄ったんだ? とか、手ぐらい握ったんたのか? とかさ。果ては下賎の身でよくもやってきたものだ。とか、言いやがった」

「本当なの?」

 翻訳係の絵利香に確認する梓。

「慎二君の言ったとおりだわね」

「で、こいつが誰か知ってるか?」

 慎二が若者を指差して尋ねている。

「まあね……」

 あまり気分よさげではなさそうな表情の梓。

「誰?」

「かみじょうじ家ゆかりの西園寺俊介」

「かみじょうじ家じゃない! 神条寺家だ! しんじょうじと読めよ」

 英語会話していた相手が、興奮して日本語で反論する。

「どっちだっていいじゃない。区別するのに都合がいいんだから」

「早い話、どういう関係なの?」

「さあね……かみじょうじの方で、勝手にあたしの婿候補を送り込んできているという噂は聞いてはいるけどね。その一人なんじゃない?」

「婿候補?」

「そう。神条寺家ではさあ、本家であることを鼻にかけていてさあ。何かと因縁つけてくるのよね。分家の婚姻を仕切るのは本家の特権とかいってさあ。真条寺家では、とっくに縁を切っているはずなんだけど」

「つまり本家と分家の争いに巻き込まれたってことか」

「さっきから聞いていたら、さんざ悪口ばかり言いやがって。神条寺家では分家の存在など認めていない! 過去に本家から資産の半分を横取りしてアメリカに逃げてきたんじゃないか。資産を返還し神条寺家の傘下に入るのが尋常だろう」

「へえ。梓ちゃんのご先祖って、本家から資産を横取りしたの?」

「おまえはあほか! 以前話してやったことをもう忘れたのか?」

「うーん。覚えていないなあ……」

 頭を抱えて思い出そうとしているが、

「すっかり、忘れたな」

「まったく。真条寺家は、昔々に双子として生まれた一方の娘が、神条寺家から資産分けしてもらい、アメリカに渡って興した家系だよ。横取りしたんじゃないわい! その時に一緒について来てくれた大番頭が竜崎家と深川家で、麗華さんと恵美子さんはその子孫というわけ。どう、思い出した?」


「そういえば……そんな話を聞いたような……」

 梓の解説と、俊介のそれとを比較しながら感想を述べる絵利香。

「そうね。それぞれの家系が自分の都合の良いように解釈するのは良くあることだわ」

「ようするに負け惜しみのひがみ根性が染み付いているというわけか」

「君、無礼だぞ!」

 片方の手袋を脱いで、慎二の顔目がけて投げつける俊介。


「決闘だ!」

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