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第八章・太平洋孤島遭難事件(七)

(七)資源探査船


 ……第一、慎二と二人きりなんだから……しかもこんな水着姿で……黙っていたら、息苦しいよ。喋ってないと間がもたない……


 洞窟に閉じこまれた水着姿の若い男女二人。(B110,W81,H96,T180)の筋骨隆々たる青年と、(B83,W58,H88,T165)のプロポーション抜群のうら若き娘。並んで座ればおのおのの骨格のつくりの違いを意識せずにはおられない。自分の胸元に時折注がれる青年の視線に鼓動高鳴る娘の恥じらい。娘の髪から漂うほのかな香りに理性が押し潰されていく青年。喧嘩しながらも、実は好きあっている二人。近づく青年の顔、熱く感じるその吐息。静かに目を閉じる娘。唇と唇が合わせられる。やがて折り重なる二つの影。


 ……やばいよ。実にやばいシチュエーションじゃないか……


「なあ、梓ちゃん」

「ひゃ!」

 慎二の声に思わず反射的に飛びのいてしまう梓。

「ち、近づくなよ」

 手を横に振り回しながら拒絶の態度を示す。

「はあ?」

 慎二は、梓の豹変ぶりにわけがわからない。

「おまえ、何言ってんだよ」

「な、なにって……。慎二は、何か言いたかったのか?」

「何かって……水面が上がってきてるんじゃないか? と、言いたかったんだが」

「え?」

 驚いて足元を確認する梓。

 落ちて来た時にはくるぶしの位置にあった水面がだいぶ上がってきている。

「そうか潮が満ちてきたんだわ」

「で、何を考えてたんだよ。さっき」

「なんでもないよ!」

「そ、そうか……」

 改めて足元の水面を見つめる梓。

「一帯が珊瑚礁だから、あちこちに小さな穴が明いていて外界に通じているのよね。この水面が外の海面と同じと考えていいでしょう」

「潮が満ちたらどうなるんだ? 洞窟のどこまでの高さまで海水が入ってくるのかな」

「ここは太平洋の直中の小島だから、有明海のような入り江と違って干満の差が大きく変動することはないと思うけど、気圧や風向きでどうなるか判らない。でも……大丈夫よ」

「どうして?」

「今は干潮のピークを少し過ぎたところだから、満潮になるのは六時間後よね。でもってこの島にたどり着いたのがちょい一時間前で、迎えの船が来るのは二時間後。上では麗香さんがあたしのいないことに気づいて動いているはずだから、四時間もあれば助けてくれるよ、きっと」

「そうなのか?」

「大丈夫。麗香さんは、助けに来てくれる」

「信じているんだね、麗香さんのこと」

「ええ……」



 砂浜から何もない太平洋の洋上を眺めている一同。

「そろそろ時間だよね」

「うん。不時着から三時間経ったよ」

 麗香が預かっている梓の携帯電話が鳴る。

『麗香です。はい……構いません。浮上してください』

 麗香が携帯電話を閉じてしばらくすると、環礁帯の外側に大きな海水の盛り上がりが発生し、やがて黒光りする巨大な潜水艦が出現した。

「な、なに! 潜水艦?」

「うそー。救助船って潜水艦なの?」

「じゃあ、アメリカの海軍が救助に来たの?」

 驚愕の声を上げるメイド達。

「いいえ。真条寺家の持ち船ですよ」

「あ! 〔梓〕って船体に漢字で書いてあるよ」

「じゃあ、お嬢さまの船なんだ」


 やがて探査船から小型ボートが繰り出される。

「一番に機長を運びます。脱出シュートを使い、機長の身体にロープを掛けてそろりと降ろしましょう。さあ、みんな手伝って」

 麗香がメイド達に指示を出し、再び飛行機に戻っていく。

 これまでは篠崎側の乗務員が働いていたが、今度は真条寺家のメイド達が働く番である。

 機長を飛行機から降ろして最初に搬送した後に、順次小型ボートに乗船して、探査船に移乗していく。


 砂浜にいた全員の収容が終わり、船の居住ブロックのレクレーションルームに集められた一行に麗香が案内する。

「それでは、みなさまこの部屋でおくつろぎくださいませ。他の場所には精密機械や企業秘密に関わるものがありますので、この部屋からお出にならないように、お願いします」

「梓ちゃんは、どうなるの?」

「もちろん、これから探します。ご心配なさらないで下さい。この船は資源探査を任務としています。探査のための装備とプロフェッショナルな人材が揃っていますから、すぐに発見できますよ」


 操艦や司令を出す統合発令所の階下に、資源探査部のセクションがある。

 各種の探査機器を操作しているオペレーター達。

 麗香が探査部の技術主任と打ち合わせしている。

『お嬢さまの髪飾りには発振器がついています。周波数は、12.175 ギガヘルツで探索してください』

『了解、12.175 ギガヘルツで探査します。しかし、なぜ発振器などつけておられるのですか?』

『お嬢さまがご幼少の頃、迷子になられた時があって、すわ誘拐か? と大騒ぎになりました。以来どこにいらしても探し出せるように、渚さまのご指示でお嬢さまには内緒で取り付けています』

『そうでしたか、誘拐されても大丈夫ですね』

 主任はマイクを取って、

『艦長。微速前進で島を周回してください』

 と指示を出した。

『了解した。微速前進で島を周回する』

 艦長からの応答があってしばらくすると、静かに船が動きだした。一点に留まっているよりも、ぐるりと周回しながら探査した方が、正確な位置が把握できる。

 探査という任務に従事している間は、この技術主任に船の行動に関する指揮権の優先が与えられているようだ。


『主任。他に使えそうな機器はありますか?』

『資源探査気象衛星に搭載されている遠赤外線探査レーダーを使用しましょう。生きている人間なら熱を発しています。遠赤外線なら洞窟の壁を通過して中にいる人間の形状を視認できます。丁度上空を「AZUSA 5号B機」が通過中です』

『AZUSA 5号B機ですか?』

『はい、この船と同じで、ARECが運用している人工衛星です』

『その衛星って、地表を映し出せる超高感度の監視カメラを搭載していますよね』

『はい。人物の表情までも識別できる超高精細度も誇っています。ただ、そのカメラのオペレーションは真条寺家本宅の地下施設でしかできないと伺ってます』

『そう……やっぱりね。とにかくそのレーダーを使ってください』

『了解しました。遠赤外線探査レーダーを使用します』

 主任が答えると同時に、一人のオペレーターが機器を操作しはじめた。

『衛星監視追跡センターより、コントロールの引き継ぎを完了。これよりAZUSA 5号B機のオペレーションを開始します。遠赤外線レーダーの照準をこの島に合わせます。セット完了まで二十分かかります』

 てきぱきと機器を操作していくオペレーター。レーダーの照準を合わせる事は、すぐにはできない。仮に探査レーダーを右に振ると、反作用で衛星自体が左に傾いてしまうからだ。衛星を姿勢制御しながら探査レーダーを徐々に所定の位置に持ってくるという操作が必要だ。

 やがてディスプレイに島の探査映像が現れる。

『どうですか?』

『はい。微かですか反応があります。この周囲より色の明るい部分がそうです』

『場所は?』

『島の南東、地表から十メートル下です。丁度海面付近です』

『そう……、やっぱり洞穴に落ちてしまわれていたのですね』

『格納庫に遠赤外線探知機を搭載した小型深海掘削艇があります。装備の掘削機が使えるはずです、降ろしましょう』

『お願いします。潮が満ちてきています、早く救助しなければ』

 深海探査船の下部格納庫から掘削艇が降ろされる。一旦海中に出てから浮上し、自身の自走力で外海から礁湖へと進入し南東の崖に取り付く。

『反応が強いのは、この辺です』

『遠赤外線探知機の方は、いかがですか』

 掘削艇には麗香も同乗した。

『はい。ご覧の通りに、人間から発せられたと思われる熱源が、この壁の向こうに存在します』

 オペレーターの指し示すパネルスクリーンには青く低温を示す中に、黄色に色付いた像がはっきりと映し出されていた。

『低周波反響感知機には、この先に大きな空洞を示すデータが出ています』

『間違いありませんね。この先に洞窟があってお嬢さまと慎二君が閉じこめられているようです。早速、掘りましょう』

『はい。掘削機を始動します』

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