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第六章・ニューヨークにて(三)

(三)メトロポリタン美術館

 

『さあ、みなさん乗車してください』

『はーい』

 専属メイド達は、ウキウキしながらフリートウッドの後部座席に乗り込む。

 神田美智子、花咲美鈴、井上明美の三人にとって、こんな超高級車に乗るのは、初めてのことだろう。

 ちなみに、エルドラドの定員数は5名、フリートウッドは6名である。

 小柄な日本人なら、後1名は余裕で乗れるだろう。

 梓と絵利香は、運転手がドアを開けて促す後部座席に鎮座する。

 麗香は前部助手席に腰を降ろす。


『しかし梓って、大きな車が好きだね。ファントムⅥもこのエルドラドも』

『え? 白井さんの好みじゃないの。あたし、知らない』

『いいえ、お嬢さまがお選びになられたのですよ。お忘れですか?』

『うそ』

『お嬢さまが五歳の時でした。送迎用の車をお決めする際に、車庫にお連れして、どれでもお好きな車を選んで下さいと申しましたら、一番にファントムⅥ、次にエルドラドを選ばれたのですよ。大きい順に選ばれたようですね』

『そうなの? 覚えてない』

『五歳ですから、仕方ありませんよ。それで二台選ばれたので、どちらかにしてくださいと申しましたら、だだをこねられまして、結局二台ともお嬢さまの送迎車になりました。特にお気に入りのファントムⅥは常にお嬢さまのお側に、エルドラドは本宅用に置くことになりました』

『そんなことがあったんだ。でも確か三歳の頃から、白井さんはあたしのお抱え運転手じゃなかった?』

『そうですよ。五歳までの間は、渚さまのインペリアル・ル・バロンにお乗りでした。渚さまは、車よりも飛行機で移動なされることがほとんどでしたから』

『そのル・バロンも大きいね。お母さんの車でなかったらきっとエルドラドじゃなくてそっち選んだんだろうな』

『というよりも、ル・バロンには渚様とご一緒によく乗っておられましたので、すでに自分のものと思われていらしたからですよ』

『そ、そうなんだ……あはは。あたしって独占欲強かったんだ』

『でも本当のところは、絵利香さまや私にプレゼントなさるおつもりで、車をご用意なされたようですよ。実現はしませんでしたけれど』

『そっかあ、絵利香ちゃんと麗香さんに……全然覚えてないな。五歳だから、しようがないか……』


 メトロポリタン美術館前にエルドラドとフリートウッドが停車している。

 麗香とメイド達はすでに先に降りて、梓の降車を待ち受けている。

 降りる準備をしている梓達。

 みんなで美術館での鑑賞会というところだが、麗香は別行動ということになっている。

『これを渡しておきます』

 麗香がメイドの一人一人に紙包みを渡している。

『お小遣いです。無駄使いしないように』

『ありがとうございます』

『はい。お嬢さまにも』

 麗香が梓と絵利香に渡したのは紙包みでなくちゃんとした財布だった。

『あ、ありがとう』

『ありがとうござます』

『それじゃあ、お嬢さま。午後五時にワシントン広場でよろしいのですね?』

『うん。その時間に迎えに来て』

『かしこまりました。十分前にはお迎えに参ります』

『よろしく』

『じゃあ、あなた達。くれぐれもお嬢さまをよろしくね』

 麗香がメイド達に再確認をとる。

『はい。おまかせください』

 ぺこりと頭を下げるメイド達。

 二台の車が走り去って行く。手を振りながらその後ろ姿を見送る一行。

『ねえ、いくら入ってる?』

 やはり紙包みの中身が気になるのだろう、メイド達が袋を開けて確認している。

『十ドル紙幣が十枚で、百ドルよ』

『これって多いのかな、少ないのかな』

『どうかな、ニューヨークの物価しだいだね』

『あの……お嬢さま方のお財布の中にはいくら入っていました? よろしかったら教えていただけませんか』

『わたしは五百ドルよ。梓ちゃんは?』

『ん、五百ドルとあたし名義のクレジットカードが入っていた』

『カード持ってるの? 見せて見せて』

 絵利香がカードを覗きこむ。

『わあ、梓ちゃんの写真が印刷されてる。可愛いじゃない。写真映りばっちりよ。不正利用されないためね』

『でも未成年でもカード持てるのですか』

 ここでいう未成年とは、アメリカでの成人年齢に対しての十八歳未満を意味している。日本での二十歳ではない。

『現にここにありますよね。要はカード会社が本人を信用できるかどうかでしょう?

 その点、お嬢さまは完璧』

『カードがあるのは、どうぞご自由にお使いくださいってことでしょうか』

『違うと思いますよ。カードは万が一の時のためのものでしょう』

『ところで、このおこづかいって麗香さまのポケットマネーかな。やっぱり』

『多分ね。だってわたし達の外出って、公務じゃないもの。公費から出せるわけないわ』

『お嬢さまの分は?』

『絵利香ちゃんの分も含めて必要経費から出てると思う。お小遣いにしても、ホテルを使用した時の宿泊費とか、あたしが使うお金って麗香さんが管理しているんだけど、お母さんの方から年間いくらって予算が与えられているみたいなのね』

『その予算っていくらくらいなんですか?』

『教えてくれないの。「お金のことで思い悩む時間があったらお勉強してください」ってね』

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