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第二章・スケ番グループ(七)

(七)新リーダー誕生


 梓の戦いぶりを観戦する慎二、そして絵利香。

「彼女が心配か?」

「あたりまえです」

「なあに、余裕だよ」

「余裕?」

「ああ、戦力分析をして、自分より相手の方がレベルが同じか上と判断した時は、強い奴から先に片付けるのがセオリーなんだ。しかし今のあいつは、あえて下っ端から片付けている。つまり楽勝できると判断しているわけだ。見ろよ、恐怖に引きつったスケ番の表情を」

「表情?」

「たった一人の相手に、手下が次々と倒されていくのを見れば、誰でも恐怖心を抱くものだ」

 最後の下っ端が梓の足元に崩れ落ちる。

 梓は、姿勢を正し髪の乱れを直して、スケ番に向き直った。

「さあて、あなた一人になったわよ。どうするの」

「このお、ふざけやがって」

 スケ番がかみそりを振りかざして突進してくるが、スウェイバックしてそれを軽くかわしてしまう。

「か、かわされた」

 スケ番は何度となく仕掛けて来るが、ただ空を切るだけですべて簡単にかわされていた。相手の攻撃を完全に見切っていた。

「そ、そんな。今まで一度もかわされたことがないのに」

 梓は、平然とした顔を崩さず、スケ番が攻撃して来るのをじっと待っているだけで、自分からは仕掛けることはしなかった。

 疲れきり肩で息をはじめたスケ番。

「どうしたの? もうおしまいかしら」

「ふざけんな。カミソリお竜といわれたあたしが負けるわけないんだ」

 閃いて左の手のひらに右手の拳をポンとたたくようにして、

「おお、分かったわよ! ときメモGS2の藤堂竜子ね。選択肢でバッドチョイスな呼び方よね」

 やおら右手人差し指を相手に向けて突き出す。

「何言ってんだ、こいつ。ふ、ふざけんなよ!」

 闇雲に突進を開始するスケ番。

 にやりとほくそえむ梓。


「お、決めにでるようだぞ」

 慎二が身体を乗り出し、梓の次の行動に注目した。

 梓の顔めがけて振り出してきたかみそりを持つ右腕を軽く払いのけて、急所の一つ脾腹に正拳を一発、苦痛に腹を押さえた相手の左脇に手を差し込んで見事な払い腰を決める。スケ番の身体はきれいな円を描くように宙を舞って、梓の足元に崩れ落ちた。脳震盪を起こして完全に意識を失っているスケ番。

「お見事!」

 勝負あったとみた慎二が、ぱちぱちと手を叩いて歩み寄ってきた。

「悪いけど、あなたとの勝負はまたにしておいてね」

「ああ、いいぜ。おめえとの勝負は、体調万全の時にしてやるぜ。負けた言い訳にされたくねえからな。つまり俺が勝つということだ。がはは」

「とにかく、絵利香ちゃんを守ってくれたことには礼を言っておく。ありがとう」

「礼には及ばないよ。俺の尊敬していた人が言っていたんだ。『女の子には優しく、時には守ってやるくらいの気概がなくてはいけない』とね」

「誰なの? その人」

「それが名前を知らないんだ。その人は本当に女の子を命懸けで救って死んでしまったんだ」

「ふうん……で、あたしも女の子なんだけどなあ」

「おまえは、特別だ。この俺を投げ飛ばし、大勢の男達を撃ち負かす腕前だ。か弱い女には程遠いからな。俺は、おまえをただの女の子とは思っちゃいない。ま、今日の疲れを癒して、首を洗って待っているんだな。がはは」

 高笑いしながら立ち去っていく慎二。

「もう……どうしても、あたしとやりたいみたい。あたしに投げ飛ばされたことを根に持っているのね」


 それから数日後。

 梓の後をぞろぞろとついて来るスケ番達。

「いい加減、ついてこないでよ」

「お願いします。あたい達の新しいリーダーになってください」

「リーダーって、あなたなんでしょが。そう簡単に明け渡しては、面子がたたないんじゃない?」

「いいえ。あたい達全員を苦もなく倒した、その腕前と度胸っぷりに感服しました。このあたいがまるで歯がたたなかったんだ。リーダーは一番強い者がなるべきです。面子はあの時失ってしまいました」

 ……こいつらのリーダーということは、スケ番ということじゃない。冗談じゃないわよ……

「一応、あたいの配下にある青竜会は、富士見女子校、市立川越東三高、城下町女子校、そして城東初雁高校を統一しております。およそ川越市の東半分を勢力下において、川越駅をその活動拠点としております。いずれそれぞれの学校のリーダーを挨拶によこさせます」

「東三高って、普通高・工業高・総合校のことよね。しかしまあ、よくもそれだけ勢力下にしちゃったわね。すごいよ」

「たいしたことないですよ。富士見・城下町・城東初雁は、ほぼ同時期に開校した新設校ですので、何の抵抗もありませんでしたよ。ああ、それから以前姉御を襲った連中にはナシをつけておきましたんで、二度と襲ってくることはないはずです」

 梓とスケ番グループがぞろぞろ道を塞ぐように歩いているので、道行く人々は遠巻きに奇異な眼差しを向けている。

 ……もう、これじゃファントムⅥを呼ぶこともできないじゃない……

 そこへ慎二が歩み寄ってくる。

「おまえ、新しいスケ番になったんだってなあ」

 眉間がぴくりと動いたかと思うと、いきなり蹴りを突き上げて慎二をぶっ倒す梓。

「ふん」

 鼻息を荒げ、気絶して動かない慎二を放っておいて、そのまま立ち去る梓。

「さすが! あたい達の姉御だよ。この鬼の沢渡を一撃で倒すなんて。ますます惚れ込みましたぜ」

 梓の後を追ってスケ番達が続く。

 ……ああ、もういや。誰か何とかして……


 道場。

 部員達の前に立ち並ぶスケ番達。

「今日から空手部に入部しました。よろしくお願いします」

 梓が紹介する。

「押忍!」

 一斉に頭を下げるスケ番達。

 部員達は、唖然とした表情でスケ番達を見つめている。

「おいおい。こいつらスケ番グループじゃないか。いいのか?」

 山中主将が梓に耳打ちする。

「大丈夫ですよ」

「ほんとうか?」

「た、たぶん……」

 実際に、彼女達がちゃんと真面目にクラブ活動に参加してくれるかは未知数だ。他の部員達とも仲良くやってくれるかもわからない。


第二章 了

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