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序章・新入部員は女の子 二

二、乱闘


「おい、裏門のところで喧嘩してるぞ」

 誰かが叫ぶのが聞こえた。ぞろぞろと移動する人々の群れ。

「喧嘩!」

 梓の眉間がぴくりと動いたかと思うと、次の瞬間には走り出していた。

「ええと、このメモでいうと。裏門は……こっちだわ」

「ちょっと、待ってよ。梓ちゃん」

 必死で遅れないように梓の後を追いかける絵利香。

 梓達が裏門に到着すると、大勢の男達に囲まれながらも一人で奮戦する男の姿があった。喧嘩慣れしたその男は、迫り来る相手をなぎ払い、次々と倒していく。

「へえ、あいつ。強いな。あ、ここに座って観戦しようっと」

 膝上のあたりまで積み上げられたレンガブロックの花壇の縁に腰を降ろす梓。絵利香もその隣に腰を降ろす。

「こらあ。もっとしっかり戦わんか!」

 右手を振り上げて軍団の方を応援したかと思うと、

「おーい。少しは手加減しろよ。あっさりかたづいちゃ、つまんないぞ」

 メガホンのように両手を口の前で広げて、男の方を牽制する。

「どっちも頑張れ!」

 足を軽くぱたつかせながら、じつに楽しそうにしている。


 やがて喧嘩の決着がつく。結局男はたった一人で軍団のすべてをなぎ倒してしまった。

 肩で息をしながら呼吸を整えている男だったが、

「おい、そこの女」

 ふと振り向いて、つかつかと梓の方に歩み寄ってくる。

「なに?」

「てめえ、俺が戦ってる時に、手加減しろとか言ってただろう」

 喧嘩を終えたばかりで、まだ興奮冷めやらぬ表情ですごむ男。

「へえ、喧嘩しながらも、あたしの声が聞こえてたんだ。余裕じゃない」

「なめんなよ。こら」

 と肩を掴もうとしたその手を払いのける梓。

「喧嘩した手で触らないでよ、新しい制服が汚れるじゃない」

「梓ちゃん!」

「行こう、絵利香ちゃん」

 すっくと立ち上がり、スカートについた汚れを払って歩きだす梓。

「う、うん」

「待てよ、こら」

 梓の手をつかんで引き止める男。

「離してよ」

 男の手を振りほどく梓。

 梓と男が三十センチほど離れて対面する格好となった。身長差が歴然であり、男は百八十センチくらいで、百六十五センチの梓は、かなり見上げなければ男の顔を見られなかった。

「おめえ。良く見りゃ、まぶいじゃんか。どうだい、俺の女にならんか」

 右手で梓のあごを、くいと持ち上げるようにして、その美しい顔を眺めている男。

「汚い手で触んないでって、言ってるでしょ」

 男の右手を跳ね上げ、ぴしゃりと平手打ちをくらわす梓。

「行こう、絵利香ちゃん。こんな馬鹿、相手にしてらんない」

 絵利香の手を取って、再び歩きだす梓。

「て、てめえ。痛い目にあいたいのか」

「痛い目ってなんだ。魚の目のことか? 確か足の裏にできるやつ?」

 立ち止まり、横の絵利香に尋ねる梓。

「そうね、確かに痛いわよね。ってちがうでしょ」

 ぼけとつっこみを演じている二人。

「こ、このお。俺を馬鹿にしてるな。女だと思ってやさしくしてりゃつけやがりやがって」

 辛抱腹にすえかねて、いきなり殴りかかってくる男。

 しかし次の瞬間、梓は目にも止まらぬ速さで動いていた。振り出してきたその右腕にたいし、態勢を屈めて軽くかわしながら腕取り、重心のかかった左足を足払いする。思わず前のめりとなったところを、前進する勢いにのせて、一本背負い。梓の身体がばねのようにしなったかと思うと、男の身体は宙に舞って花壇の中へ投げ飛ばされる。あまりの素速さに受け身すらとれないまま、男は脳震盪を起こしてその場にうずくまった。

「女だと思ってなめてるから、こうなるんだよ」

 汚いものを触ってしまったわ。という表情で、手を擦りあわせぱんぱんと叩きながら、汚れを落とすような仕草をする梓。

「あーあ。また、やっちゃったね。梓ちゃん」

「しようがないでしょ。襲いかかってきたんだから。正当防衛じゃない」

 ふんと鼻息を荒げ、胸を張って自分の正当性を主張する梓。

「ところで、大丈夫、このひと?」

「平気よ。喧嘩なれしてんだから。放っておいても気がつくわよ。行こう」

「う、うん」

 男が気掛かりなのか、時折振り返りながら、梓についていく絵利香。

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