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3話 まだまだ色々足りないよで

 チョコッと休題。夜宵の休日。と、いうのも……金が無いからと近域のクエストを一人でこなし過ぎてクエストが無いし、働きすぎだから休め。となり、今日限りはギルドに関わらない感じで過ごす事にしてた。


 朝。いつも通りの4時起床。いつもの病室と暗闇の……身紋の、医蛇神「アスクレピオス」と心器、「断刀・絶」の呼びかけの夢はもう見なくなった。夜渡からもらったポーチの食品保存用(要は冷蔵庫等)の枠から、昨日の内に下準備しておいた食材と、寝具の上メイドを確認して。


 オイ待て。


 おう?


 何故メイドがいる?


 あぁ……。言いつけを破ってしまってな、夜宵の罠の毒針が左の太腿に刺さってな。後、1分も有れば、神経毒で心臓も止まってたんだ。幸い、アスクレピオスが発現しているのも有って、異能や魔法無しではできない処置がなされたから生きているけど。復帰には3日はかかるね。


 即死にも近い神経毒か。夜宵らしい。


 その後、いつもの、黒に黄緑色の模様が入ったジャージに着替え、いつも通りの早朝トレーニングへ向かう。


 義手作成で余った金属で作った、片刃の大剣と、重りを装備。そこに、万能自己強化魔法「ビルドアップ」(効果は全ステータス小上昇)、風衣の旅人、八艘飛びで魔力を体に慣らしながら、その身で走り、風を切る。こんなことをすれば確実に、少しであれ、「異性魔力の拒絶反応現象による炎症」で体は痛い。


 怪異達を(話)相手しながらのランニングを終えたら、小休憩を挟み……結界で鉄棒を作り、片手に大剣をぶら下げ、片手で懸垂を始めた。


「……息、切れませんね」

「短い人生の割には、長いことやってるからな」

「貴女は最近でしたっけ?家に来たの」

「声からして、「元日本人の探索者」で「イーキルスに殺された」「アイルランド産雪女だろ?」あそこに行ったのは高1の夏だからかなり最近だな」

「ちゃむいやつ?」

「あぁ、寒かったな。あれは」


 氷山風箱舟「イーキルス」。クトゥルフ神話に登場する奴で、蛆みたいのが乗っている。あるだけで周囲の生態系を変えちゃうやべー奴である。


 今、この場に出てきているのが……小さなこっくりさん8匹、本来の姿に戻ったこっくりさんの九匹目にして九尾の妖狐の霊な元豊穣神の使い「華仙」、アイルランド産雪女、さわり猫、姥ヶ火、犬神、ダリアといったレパートリーである。夜宵が一人だと、こんな感じで、不特定多数の怪異達が出て来たり、出てこなかったりする。


「けん、ばりばりしてる?」

「びりびりしてう!」

「ん?あぁ、雷属性を意図的に混ぜてるからな。触るなよ?」

「きけーん」

「危険」


 小休憩を挟まず左右を入れ替え、それが終われば使いまわして腹筋を始め。小休憩を挟んで素振りを始める。もちろん、魔力をたっぷり行使して。魔力を行使しながら体を動かすのは慣らさないと難しいからね。


 重い剣が風を切る、纏った風が風を切る。それらが総計2時間程。水を浴び、汗を流したら朝食を作る。


 いつもの通り集まり食べて。いつもの通り一人で片付け。いつもの通りの仕事はできないので修練に……。


「ダメだ」

「……」


 突然かけられた声。無表情で考え、声も出していないにもかかわらず。掛けて来たのは嘉島桐子、謎にドヤ顔……だったか?そんな顔をしている。


「なに?その顔」

「糞めんどくせぇのに遭ったなって顔」

「まぁ失礼な。それはいいとして、私と息抜き抜きしないか?」

「くたばれ」

「なぁんでさぁ!」

「デカいだけの蜘蛛に単身じゃ碌に攻撃が通せない。そんな弱いままじゃ安心もできん。今は只鍛えるのみ。そんなことやってられるか。それに」

「それに?」

「性的快楽のみを目的とした性交渉を一定未満の浅い関係で行う奴は大っ嫌いだ」

「一定有れば良いんだ……じゃぁ!」

「無し」

「ケチ」


 そのままついてくる変態を無視してやって来ました、いつもの滝。来る道中で八艘飛びで河を下ったので、取り合えず小休憩がてら瞑想に入る。


 ……戦闘、戦闘戦闘弁当戦闘戦闘負傷戦闘医療戦闘戦闘戦闘遊戯戦闘戦闘死戦闘殺殺殺殺殺殺殺殺………………無――――――。


「すぅ(吸ってぇ)……ふぅ(吐いてぇ)よし」

「長いっすね」(気がかなり高まってる……尋常な精神じゃここまでは普通行かないし使い手かな?……反復動作だコレ!)


 瞑想だと……気が鎮まる。反復動作だと……気が高まる。……はず。


「雑念が多いだけだ」


 そう言うと、夜宵はその場で脱ぎだした。全裸まで。


「なんだぁ?ヤルかぁ?」(なかなか、いや、常人にはかなり良い筋肉!多様性有りにしてどの用途にも高水準の出来。良い!エロい!)グヘヘヘ

「服が濡れるのが嫌なだけだ。あ、いや、濡らす事前提の奴をギルドで買ったな……」

「おぉ!それは」


 それは、昇進天花の修行服の一つ。水分を多く吸収し、とても重くなる代物。水属性の使い手や、水の多い場所での修行で好んで使われる。カラーはスカイブルーな和風の簡単な物で、少し涼しげに見える。常用には向かない。


 こいつを着たら即、滝つぼに飛び込む。


「おぉ、いった」

(……重い)


 夜宵が一度、上がって来たと思ったら、即潜る。からの水面からイルカか何かの様に飛び上がる。


「オォ!」


 そして……。


「跳ねてる……?!」


 跳ねてる。水の上で、その場で。水の変形より早く。


(懐かしいなぁ……。私も昔、こんな事やってたなぁ。今でもでき……うん、できるよね!……たぶん……)


「さて……」


 そう言って取り出す大剣が一振り。水の刃をチェーンソーの様に纏い、前後に跳ねながらの素振り。それが終わったら、滝をダッシュで登りだした!……まぁ、1~2m程も登れば15分後には落ちるんだが……。


「クッソ。やっぱり高度な自己強化がないと首が折れるレベルの滝じゃぁ登れないか」

「10分も滝登りで昇りの降りもしないのはまぁまぁすごいと思うよ?」


 内心、中々面白奴だ。と思っている嘉島さんであった。そんな嘉島さんが提案する。


「私に、気を習ってみない?」

「気?」

「アレ?知らないの?君の魔法が安定しないのは気や波導が混ざってるからだよ?」

「……安定してないのか。まぁ、素人だしな」


 メタ目線で言うと、慣れてない人程度のブレだし、他の人達もそう思ってる。呪素が強すぎて判別しずらいんだろうね。


 この世界どれだけの謎エネルギーが有るんだよ……。


「うん、安定してない。技術不足も確かにそうだけどね。君は魔法よりも、「波導」「気」に長けた適性を持ってる。適性が有るとかじゃないけど、他にも「呪素」とかあるね。私なら気の使い方を教えてあげられる」


 呪素の適性ないのか?


 慣れで現状一番の性能だけど、適性は無い。


「代償は性行為だろ?却下」

「いいじゃん別に(ぷー)何なら好いのさ?すっごい教えたいんですけお!」

「何故?」

「何故?それは当然、こんな才能の持ち主、他に居ないからさぁ!(ふんす)後、すごく筋肉の付き方がエッチだから!」

「……料理」

「おぉ!出来ると!私は故郷の料理やギルドの料理ばっかりで、自分じゃ出来ないからさぁ。興味ありますねぇ」

「……飯食う時に少し呉れてやるよ。今回は」

「やったぜ」


 発言者、変態糞侍。と、言う訳で午後に闘技場に集合した。


「いやぁ。よく君が私に教わる気になったね?」

「一応、同胞だぞ?なり立てだが」

「同胞?」

「昇進天花の。義手の素材の購入に最低限必要だったからな」

「やっさしぃ」

「何より、お前の実力自体は本物だしな」

「慧眼も現実には勝て無い訳ね」


 他の3人も後に、昇進天花に加入した。これが無ければ夜宵が何かテコ入れをしていただろう。入ってくれた方が補助しやすいからな。


「まずは」

「「まずは!」」

「気を見せるね」

「「気?」」


 刀を抜き、構える嘉島……思い描くのは、鬼。夜宵、皐月には見えた、彼女に現れた揺らめく力を。その力、「気」は、白から黄へ、黄から赤へと変化する。そして、色の変化に合わせて、力が大きくなっていく。暦は白から、ハクノは黄色から見ることが出来た。少しして、嘉島は刀を仕舞った。


「これが気。弱い順に白、黄、赤、黒って変化していくんだ。慣れてないと黒以外感じれないとかあるみたいだけどね」

「私黄色から」

「白」

「白」

「要はこういうもんか?」


 刀を取り出した夜宵が力むと、刀と夜宵に、瞬く間に白、黄、赤と変わる力が現れる。しかし、波導や魔力が多少混じっているようだ。


「「「おぉ!」」」

「速ッ!でもまだちょっと混じってるね。反復動作も出来てるから「気刃・充月輪(きじん・みつるげつりん)」はいらなさそうだね」

「なんだそれ?」

「基準、または見本として作られた気刃……つまり気を用いた斬撃を軸とした場合の技の一つ。反復動作を促して、気を高めるための物だよ」


 こんな世界観じゃなければ一定時間気が減らなくなっていた。そういう技。この辺は本人の気分次第。


「さすが夜宵君だぁ……」

「向き不向きとやる気だろ?」

「これぐらいなら私もできるもんね」


 その宣言通り、皐月はクナイを構え力むと、夜宵より誤差程度に遅く、気を赤まで高めた。ただ、二人とも、構えを解いた瞬間に気が消えている。


「いいなぁ」

「緊張感を持って戦闘しているからか?」

(その辺の心得は有るだろうな、二人とも)


「おみごと。二人とも、後は維持と行使だね」

「ん?これもしや行使と維持が糞面倒くさいやつでは?」

「そう思う?」

「なぜそうなる?短絡的にならないのは良いが」

「だって簡単すぎるじゃん!」

「心構えと修練でどうとでもなるからねぇ、気は。かくいう私も気への適性自体は特に高く無いんだよねぇ」


「何が違うんだろう?」

「心構え?生活習慣?」

「取敢えずは反復動作からだよ。レッツチャレンジ!出来る二人は、技をいくつか見せるから、気を維持したまま見て学んで」

「は~い」

「あいよ。ハクノは以前の窮地でも思い出せばできるだろうが……」

「そういうタイプは心が持つかなぁ……?疲弊強めなんだよね。焦りかな」

「ハッ!……夜宵君と一緒!」

「「それ良くない奴だろ」お前自分で言うのか」


 ハクノと暦は端の方で座禅を組む。どうにも中々上手く行かないようだ。他はというと……。


「これが「気刃・憑喪怪器」。これが「気刃・種因子」。これが「気刃・散華一閃」。これが「気刃・天駆斬」。これが「気刃・水鏡の返し刀」だぁ!解ったか!」

「んな無茶な」

「取り合えずやってみようか」


 ……なんだって?


 はいはい。


 「気刃・憑喪怪器」または「気刃・憑喪妖器」……読みは「きじん・つくもかいき」または「きじん・つくもようき」。気を武器に込め、高める技。本当に命が宿ってしまった例もあるとか。使い手の有り方が強く出るため、人によっては魂を喰らう怪物を一時的に生み出してしまったりする。


 「気刃・種因子」……読みは「きじん・しゅいんし」。相手に自身の気を植え付ける技。離れれば長くは持たないため。相手の居場所を探り出したりするのには向かない。次の物と合わせて使う。


 「気刃・散華一閃」……読みは「きじん・さんげいっせん」。手練れなら、斬撃が遅れて発生する様に見えるほどの居合切り。「気刃・種因子」を植え付けた相手に使うと、「種因子」が爆散する……ように調整することが前提。


 「気刃・天駆斬」……読みは「きじん・てんくざん」。気版、飛ぶ斬撃。


 「気刃・水鏡の返し刀」または「御神の返し刀」……読みは「きじん・みかがみのかえしがたな」または「きじん・みがかみのかえしがたな」。その技は神に護られているが如く、全てを跳ね返す技。実際はそんな事をする神はいない。単純に凄い技術と力の産物。刀に纏った気が、敵からの攻撃を喰らい、その威力をそのまま、或いは自らの物を加えて敵へと返す。下手だと1:1交換になるカウンター(成功と命中が前提)。


 ゑ?何?どういう理屈?このカウンター。


 創作物に理屈を求めすぎるなって言いたい。が、有ります。他者が叩いた音叉で殴り返すイメージ。


 気が音叉で、振動が威力と見るのね……?


 さぁ、実際に技を使ってみている最中。また、嘉島が声を上げた。


「さぁ行くぞ!」

「オイコラまだ準備出来てねぇぞ」


 そう言いながらも、夜宵は鹿島の天駆斬を刀で受け、流すように、踊る様に1回転、つまり攻撃がUターン。さらにそこから、出来損ないの螺旋回転する風を撃ちだし、攻撃を返す。


「いやそれ水鏡じゃ、なー!うせやろ!?「恋舞返し」も「気刃・逆之災牙」も見せてないじゃん!なんでできるのさ!狙ってないのは分かるけどさ!」

「うるせぇよ落ち着け」

「何がなんだって?」


 「恋舞返し」……読みは「れんぶがえし」。気を使って踊る様にして投げ返すカウンター技。威力と性質を真似て返す「水鏡の返し刀」に対し、相手の技をUターンさせて、そのまま投げ返すのが「恋舞返し」。時間がいるが、最も低燃費なカウンター技。


 「気刃・逆之災牙」または「気刃・逆之砕牙」……読みはどちらとも「きじん・さかのさいが」。天より襲い来る災いを、竜巻を起こして無理やりまとめ、天へと返し、災いを退けたとか。竜巻で敵の力を巻き込み返す、カウンター技の中で最も力業な技である。


「と、言うものさ。相性とか有るし、似たような技でもいろいろ試してみるといいかもね。さぁ、もう一回見せてみろ」

「ざっけんな」


 打ち合いで荒れだす二人を眺める隅の二人は、今日この日はステップアップできませんでしたとさ。


 限界突破……意図的に、無理やり脳のリミッターを外し、体に無茶な負荷がかかる自己強化スキル。更にキャストバースト、強化に使った魔力を全て放出し……寝る。


 夜宵もやってたな。……魔力慣れと同時に、魔力の枯渇で意図的に魔力の生成を促すんだったか。


 魔力の生成速度は、総計であれ、長時間の枯渇状態から生成を促さないと伸びないからな。


 これ、嘉島が居なかったらどうなってたんだ?


 修行修行休息修行飯睡眠。


 だよなぁ……。



 数日後、森の中。夜宵の背中を視界に捉えた者達が居た。教師、井之頭姉妹、飯塚剛士にエイリスである。


 あの後も、何度か夜宵に接触していたのだが、敦さえいなければ、しつこくしないだけで、多少の会話は出来ていた。それでもクエストに同行する事は出来なかった。故に今、ストーキング中である。


(これもあの子の為……)


 なんて、自身に言い聞かせながら。


 後ろからの視線に気づきつつも、このまま死ぬ程度に酷い目に合わせた方が早いと軽く考え、無視し、夜宵はその手に持つ貰い物の刀の事を考えていた。


 修練刀「朧夢」……嘉島がギルドをから購入し、くれた「昇進天花」の修練用武具。物理にはとことん弱く、脆いが、異能に関しては非常に長けている。直接触れずに、スキルを連発して戦わなければならない。


 夜宵の場合、全体的に謎エネルギーは普通より多くは有る。が、普通(C~Bランク)が比較対象な時点で戦闘に十分かというと不安が残る。加えて、基本の戦闘スタイルが近接戦闘で、魔法等の技術はまだまだ未熟なのだ。最近は気と体術の修練がメインだし。


 さぁ、そんなところに都合よくホッパーマン三体が登場。夜宵を見つけ、軽く何かを話すと夜宵に突撃してくる。夜宵も納刀し走り出す。正面から衝突はせず、夜宵が直前でフロントフリップ。相手を飛び越し後頭部に「波導・槌蹴砲」(波導系の蹴り技。蹴りの命中と同時に圧縮した波導を叩きこむ)を放ち、吹っ飛ばす。自身は前転して直ぐに立て直し、抜刀。「風纏い」で朧夢に風を纏わせ、適度に距離を取りながら「鎌鼬」(妖術)「気刃・天駆斬」「波導・爪閃」「シュートエッジ」(使用する力が違うだけで全部似たような技)を叩きこみ続ける。が、素人のシュートエッジで成虫態のホッパーマンが怯む訳が無い。何度も何度も接近されてしまうが、其処は刃渡りからの跳躍とシュートエッジで切り抜け距離を取る。


 で、「波導・槌蹴砲」を受けたホッパーマンは……。倒れまいと足を前に出している内に樹に衝突、仰向けに転げる。故に、そこに隠れていた人間たちを、見上げる形で発見する。


「「ウオッ!?」」

「キャァァ―――!!???」

「なんでこっちに!?」

「来るか!」


 教師は驚き、後退の途中ですっ転ぶ。井之頭妹、飯塚は多少驚きながらも構える。エイリス、井之頭姉も戦闘態勢に。


 最初に動いたのはエイリス。「ヴォルケニックバスター」を上から叩きこむ。が、交差した腕のガードに阻まれる。相変わらず……硬いッ!そのまま押さえつけようと力を籠めるも蹴りを肩に喰らい軽く吹っ飛ばされる。すぐさま体勢を立て直そうとするホッパーマン。に、井之頭姉妹が突撃、頭部を狙い体勢を崩させようとするが、ダメージが碌に通らず反撃を喰らい、吹き飛ばされる。幸い、受け身を取れたので「まだヤレるッ!」これでも、骨が1~2本折れている。


「何を言っているんですか!こんな、こんな事を!」

「する必要がある。その手の数が足りないから呼ばれた訳だろう」


 その声の主は、夜宵。


「余裕そうだね。手伝えるかい?」

「こっち3対1なんだが?」


 このセリフのタイミングで跳び蹴りで乱入するホッパーマンが一匹。流しながら位置を調整して同族に当てさせつつ、夜宵自身は華麗に回避、ぶっ飛んでいった先の、乱入した個体と乱入に巻き込まれた個体が起き上がるのを確認しながら残りと戦闘を続行する。


「チッ!……鍛えようが足らねぇな!」


 仲間の負傷を見て飯塚がホッパーマンと一対一に!飯塚は攻撃を受けながらも、一発一発を確実に叩き込み、着実にホッパーマンを追い込む。そこにエイリスも加わり、背面にヒット&アウェイ。夜宵が傍から見るに、どうやら手数はホッパーマンが上だが飯塚が優勢の様で……?


 やっぱ、あの辺りは戦えるんだ?


 こっち来る途中で不幸中の幸いみたいな選択した連中はね。


 (一発一発への力の籠めようが足らねぇかな?)そう考えだした夜宵の、腕が痛くなるほど溜めての「シュートエッジ」。以前の2~3倍デカくなった魔力の刃は少しだけ相手を怯ませる。


(まだ足らないか?少し魔力が霧散したようにも……)


「ウオオーーー!」


 方向と共に放たれた飯塚の拳は、ホッパーマンの顎を捉え宙へと打ち出す。木々の枝や葉を通り過ぎ、再び地に落ちた時には見るに堪えない姿になっていた(主に頭部)。


「終わったか。こっちも終わらせるかね」

「手をk」

「要らん」


 同族に蹴られた個体のファストタイムに2体のホッパーマンを素手で捌きながら(朧夢は納刀した)周囲から吸収したリソースと殺意で夜宵の衣装は白い着物に姿を変える。


 「絶―死白装」……まるで死人が、これから火葬されるかの様な、死装束の様な着物(もちろん左前)。絶を完全では無いが使用した際に、余波で生まれた姿で、即死周りの能力が著しく落ちる。ただ、死装束モチーフな為か、炎の力を使うこともできる。絶本体は、依り代が無いと腹切り刀の程の大きさになる。


 まずはファストタイム中のホッパーマン。まだファストタイムの精度が低いため、夜宵を中心点とした五芒星の様に動きながら攻撃を仕掛けるも、全て流され躱される。その最後は、ルートを読まれ、置き「冥黄裁断衝」が直撃。凍ったホッパーマンが黒い軌跡を残しながら滑り、その先でコケて、表面が砕ける。


 残り二匹。という所で一匹が距離を取る。その姿を横目に見ている夜宵に右ストレートをかけるホッパーマンだったが、水月に刺突をもらい、そのまま「怨焦泥奈」で吹き飛ばされ、内側から焼かれつつ膨れ上がる様に爆散する。


 最後の一匹。再びの必殺技系跳び蹴りで賭けに出るが、回避され、土煙で視界が塞がっている間に首を切り落とされる。


「強ぇ……!」

「強い……!」

「さすが、と言った所か?」


 なんでこれ使い分けたんだ?


 使い分けたんじゃなくて、力みが強く、精神的に洗練された状態だったから「冥黄裁断衝」がでた。ファストタイム中の奴を捉えるのは難しいからね。


 気が緩んでると呪素が混じるのか……。


 戦闘が終わっても脱げぬ死白装。力の抜けた状態から斬り上げる様に、夜宵は「冥黄裁断衝」を、教師たちへ向けて放つ。


「ゑ!?」

「ウオッ!?」

「何故!?」


 黒い斬撃の波に、樹が一つ、切り倒される。飯塚姉によって教師が押し倒された事で、なんとか全員無事であった。


「何をするんですか!」


 そんな事言う時には、先ほどいた場所に夜宵はもういない。そして、森に木霊するように声が聞こえる。


「目障りだな。そんな事をしてまで邪魔がしたいか?なら斬るが」

「そんな……貴方のことが心配で!」

「心配される覚えは無い。そんな事をするなら自分の心配と修練からすることだな。0~10まで邪魔でしかない。帰れ」

「そんな……!」

「おい!出てきたらどうだ?」

「続けるつもりなら……仕方あるまい」

「待ちな!判った、ここは引く」

「騎士さん!?」

「これで良いだろう?」

「……」

「一度帰ろう。ホッパーマンは、私も難しい。それに、最近は多い気がする」


 今日この日はそれ以降、その者達は夜宵の声を聞くことは無かった。



 また別の日をチラッと。


 近くには仕事も発見も無いと、分身で少し遠出した夜宵。その先、森を抜けた所で見たのは崖と、鉱石、……いや、抜け殻になった魔法石の山だ。


 この世界において魔法石というのは、石等に魔力が集中し、多少変質した魔力リソースである。その抜け殻となると、魔力自体は殆ど残っていないが、性質上、只の石よりも魔力を集めやすい石ころである。ようは不当に捨てられているゴミなのだ。


 崖の上は鉱石や宝石の原石が多少露出している。


 ……少しもらって帰ろう。


 後日、拾った素材の研究や、マジックアイテムや武具の作成担当の分身が生まれた。真っ先に作ったモノは、アタッシュケース形態で持ち運べるショットガン兼ガトリングだった。


 この辺の話を、時系列を無視して、少し書いてみよう。



 食事の時間です。勿論ギルドです。


「龍の鱗とかと違って、俺でも扱える程度の素材が手に入ったんだが、何が欲しい?簡単な物なら作ろう」

「マジか!」

「本気だ」

「えっとねぇ」

「まず、どういう素材なんだ?」

「鉱石系。武器限定な」

「ライオン!」

「ハクノ、お前はこれだ」

「アタッシュケース?」


 先ほども記載した、アタッシュケース形態で持ち運べるショットガン兼ガトリングだ。持ち手とトリガーの有るaパーツ持ち、ヒンジでbパーツを開く様に動かして展開して使う。さらに、機銃用のcパーツがbパーツのバレルにくっついているので、こいつを展開してガトリングもどきにできる。弾は使用者の魔力の為、リロードはいらない。


「腕への負荷を考えてな」

「なるほど」

「以外と気が利くんですね?」

「以外かね?」

「嫌味ったらしい印象しかないですね」

「あぁそう」


「はい!剣がいい!」

「いる?」

「いるよ」

「要らないだろ?」

「要るよ!」

「何故?」

「何故!?……気分的に?」

「却下」

「に゛ゃ゛ーいいじゃん」

「五月蠅い」

「「はい、すいません」」

「お前のはこっちで考えとくよ」

「ブー」


「お前は?」

「今必要な物は無いだろう」

「了解。押し付ける物を考えておく」

「嫌がらせか」




 大会まで後2~3週間程。この頃から、外国から冒険者などが増えだした。


 ギルド―アルター王国・戦闘商街支部―


 仕事に復帰していため、いつも通りに討伐を終わらせて帰ってきた夜宵が、今扉を開け、ギルドに入ってきた。そんなタイミングで誰かが声を荒げる。


「何故じゃ!何故誰も受けんのじゃぁぁ~~!!?」

「やかましい殺すぞ」

「王女様、落ち着いてください。直ぐに誰かが」

「ッ誰が来るというのじゃ~」


 金髪の小女が騒ぎ立てる。それを騎士……それもアルターに比べ装飾が豪華な金と赤の鎧、詰まる所、他所の国の騎士が宥める。ギルド関係者が一部キレかけているのが……ヤバい。


「なぁ、なんだこいつ」

「近隣国家の第3王女です。我儘で有名で、今は「力の実」が食べたいと騒いでるんですよ」

「「力の実」?なんだ?その碌な事がなさそうな名前のは」


 力の実……それは場所も時期も選ばず、様々な果実を実らせる摩訶不思議な木「力の木」になる実。魔力を多く含み、小さな力でも炸裂する。その炸裂が弱めの物は、今でいう強炭酸の様で、貴族王族等の高い身分の傲慢な慢心した存在や、実力者や命知らずに人気である。もちろん、炸裂が強ければ……頭が吹き飛ぶ。異性魔力の拒絶反応現象による炎症や、魔力の超過集束による死者は絶えない。


「ちょっと興味あるな」

「あ、受けてくれますか?」

「ある程度情報を貰うぞ?」

「えぇ。では、受理しますね」


 ちょうどその時、ギルドの入り口が開き誰かが入ってくる。


「お、ちょうどいい。こういう依頼なんだが、来るか?」



 クエスト名「力の実が欲しいのじゃ!」 と、言う訳で近隣の森に来ました。


 力の木があるという森は、無い地域に比べて、何となくではあるが活気?があるように見える。


「珍しいな。お前が誰かを呼ぶなど」

「大正生まれが古風にしすぎるなと。今回は大した意味は無い、直感も働いてないしな。で、アレを見てみろ」

「ん?」


 夜宵が指をさした場所、そこに転がっていたのは、頬が抉れた雷公の亡骸であった。夜宵はそれに躊躇なく近づく。


「どう見る?さっきの話(描写の無いところでの情報交換、力の木、実についてのもの)の通りなら、成長しすぎた物(力の実)を食べた風だが……」

「だろうな。雷公の名の通り、雷属性に長けた種のはずだが、こいつからは植物属性の魔力を多く感じる。死因は異性魔力の拒絶反応現象による炎症と超過集束だろうな。触り辛い」

「そう言いながら淡々と素材を剥ぐなお前は」

「只の死骸と放るなら、素材にした方が幾分かマシだろう。羅生門にも書いてある」

「そうだが……」

「まぁ、呪術はこちらの分野だしの」


 本命である力の木。それの元にたどり着くまでに、似たような亡骸をいくつか見た。木を中心として円状の範囲にまだ亡骸在るのだとしたら……低めに見積もっても15は超える事は想像に容易かった。実の狂暴化したのか、襲ってくるもの幾つかいた……。


「上から。避け」

「もうちょい緊張感をだなお前は」


 そう言いながら飛び退けば、今の今までいた場所に大きな影が通り過ぎる。大きな一対の翼、鋭い鈎爪、割かし可愛らしい嘴。


「鳥かぁ」

「急激に力がついて高揚してるだけか……取り合えず首から落ちてもらって」

「落ち着かせるとかないのか!?」

「無い」


 雑談しながらも、夜宵の気刃・天駆斬が、旋回してきた鳥を襲う。


 鳥は、自らに飛んできた刃を螺旋回転しながら華麗に回避するが、態勢が戻るころには展開されていた数多の雨粒「弾幕飛沫」を回避出来ず、眼に入った痛みで暴れまわっている僅かな間に……。体が軽くなる。そのまま落下していく。


「一太刀で首を切り落とすか」

「お見事」

「観てないで動けや」


 降り立つ夜宵の姿は「ライダー:アスクレピオス」の白衣が翼に変わった姿。飛び立つ直前に使用した「フライト」と鳴いた小さい箱の力だろう。


「ケツァルコアトルか……。アステカの文化、農耕、風の神だったな」

「この力を使うと酒の匂いがキツイな」

「呪われた酒を飲まされて~ってやつか」

「性的暴行を加える趣味も相手も無いがな」


 酒は飲んでも飲まれるな。


 さて、そんなこんなありまして、本命の力の木までたどり着きました。力の木は、柿の木程の背丈、網状脈で、今もオレンジ、パイナップル、イチゴ、バナナ、マンゴー、リンゴ、レモン、スイカ、ブドウ、キウイ、メロン、ピーチ、チェリー、ドングリ、マツボックリ、クルミ、ドリアン、栗、ザクロ等々、様々な実を付けている。その根元には、熟れて落ちた物がいくつも転がっている。アスクレピオスでケツァルコアトルの力を使った時の「酒の匂い」はここからだろう。


「さて、いくつか貰いたいところだが……。力ある植物の話と言えば何だと思う?」

「対価、とかか?そもそも手を出すのは難しそうな……」


 雑談しながらも、夜宵はその手に何かを作り出す。


「鍬?」

「今のは、魔法か?」

「投影魔術、と言うんだそうだ。仕組みを理解している物を魔力で再現する魔法だ。この世界では魔術=魔法らしいぞ?」


 この、鍬で、落ちた実と、持ってきた腐葉土を土に混ぜながら耕す。


「何故?」

「いや、ちょっと気になったから」

「変なとこ気にするよなお前」

「だが、この木にとっては……都合がいいらしい」

「「?」」


 夜宵が見た木の魂は、驚きに支配されるも、小さな笑みを溢していくかの様に軟らかくなっていった。その時である。


「そこまでだ人間共!」

(吸血鬼なんだが?)

(そういう事じゃないと思う)


 そう声を張り上げて現れたのは、……仮面の鎧武者だった。白いスーツの上に、赤い果実の様な装甲と複眼を持つ者。


「……何?お前」

「お前たちの好きにはさせな!」

「話にならんか」

「ゑ?良い?好い?いぃ?」

「?」


 止めようとした鎧武者は、木の方を向いて驚きだす。何度も確認しながら。


「木が、止めてくれた、感じ……なのか?」

「止める意味も解らんぞ?依頼とはいえ、その身を貰いに来たのは身勝手だからな」

「……」


 鎧武者が問う。


「この子に何をしたんですか?」

「何も?強いて言うなら腐葉土と落ちてた実をその辺の土と混ぜただけだが?」

「へ?」


 間抜けな声を上げるが、いやいやと首振り再び問う。


「いつから?」

「今日」

「今日!?」


 何かを考える鎧武者を尻目に、木の魂から無い顔を窺いながら、夜宵は木の実を採集していく。その時、幾つかの見たことも無い果実が1種類在った。勿論採った。


「ここまでかな」

「な!何取ってるんですか!?」

「じゃぁな、嬢ちゃん。帰ろ」

「ん、あぁ」


 納得いかない様子の鎧武者が変身を解き、背を向けた夜宵を呼び止めある者を渡す。それは、植物の描かれた、拳の3分の1程の何か。これは何かと聞こうにも、ワンピースドレス姿になった鎧武者は直ぐに立ち去った。


「コレ、何だか解るか?」


 時間を少し飛ばしてギルドのカウンター。クエストの処理を待つ傍ら、夜宵はギルドの神格に問う。


「コレは、彼岸花に桃ですか……。私は観たことありませんね。使ってみればいいんじゃないですか?おそらく、傾向の在る魔力リソース兼強化アイテムですよ。植物由来の」

「お前じゃ知らないか」


 後日、夜宵の注意書きによる気遣いを無視し、碌に相性等を確認せず口に放り込んだ第3王女は、口内に激痛が走った後に味覚を失った。お前の所為だと、隣国の騎士達が、夜宵に突撃してきた。


「貴方が、影月夜宵、ですね?」


 声を掛けて来たのはスーツの女性。眼鏡の似合いそうなお堅い雰囲気だ。


「肯定しよう。何かご用ですかね?そんな(3~40程)に騎士を連れてまで」

「貴方が第3王女のm」

「あ~はいはい、注意書きは残しといたぞ?確認しないそちらさんの責任だと言わせていただきたいね。選ぶ必要性を無くせてもおかしいだろう?」

「なるほど、自身のした事を理解しているようですね。では」

「ハァ~。どうしても?」

「正直、理解しています、理不尽さを。しかし、我らも命を受けていますので。悪く思わないでください」

「そっ、そちらさんも悪く思ってくれるなよ?」


 騎士たちが夜宵に向け、剣を向け、向かってくる。


 この時間は午後の2回目以降、その日最後ののクエストを終えた分身と合流する程度の時間。夕暮れ時である。ずっと修行とクエストによる実践続きだった夜宵は、この後の馬鹿共の相手や料理も有り、非常にだるい。詰まる所、顔を中心に走る紫色の亀裂を隠しづらくなって……今出ている。


「第3王女を狙った暗殺者って事にでもなってそうだな。最悪本当に王女の方を潰すか……」


 そう言いながら夜宵は、素材と交換して買った時間、所謂「ワイン」を取り出す。栓を抜き、香りを楽しむ時間を挟んで口に含み、舌で転がして味を楽しんだら、騎士に向かって噴き出す様にぶっかける。ただ噴き出す訳ではない、もちろん、呪素まみれの魔法で発火したワインだ。


「ウァアアア!??」

「貴様!」

「話にならないなら仕方ない。かかってこい。火遊びじゃすまないぞ。「変身」」


 きっちり蓋をし、仕舞いながらの宣戦布告。飛び出したファントムゼクターをキャッチし、「変身」の掛け声と共に装填。怪鬼、ここに現る。街中だが、いざ、開戦。


 敵討ちと言わんばかりに突撃してくる騎士が1人。そいつの振り下ろす「パワースラッシュ」(魔力を込めて強化した斬撃)を、左の手甲でガード、から右腕を巻き付く様に捕らえ、右の拳で殴打。「撃鉄け~ん」。兜を拳が捉えた瞬間、発火。騎士は、撃ち出された銃弾の様に後方へ吹っ飛ばされ、仲間を巻き込み、下敷きにして倒れる。今度は別の騎士数人のシュートエッジ。動こうともしない黒鎧に確実に命中したが、無傷。


「……はぁ、だっっっる。終わらせるぞ?」


 その宣言と同時に、左腰についていた場違いな「ブルータルファイル」からストライカー「奇怪逆十字棺桶(ファントムクロス)」のカード射出され、燃え上がり消失、右手にファントムクロスが現れる。ここに突撃してきた騎士達にパイルバンカー+「撃鉄拳」。腹部に喰らった一人は、荒々しく分割され、後方に吹っ飛びぶつかった衝撃と合わせて気絶。他の騎士も爆発に巻き込まれて距離が生まれる。そこに一方的な重機関砲の連射。呪素の弾丸は、一つとして外れる事無く、確実に騎士達を元生命の肉塊へと変えていく。


「な、なんなの!??こいつ……?!???」


 腰が抜けた。どうあれ彼等は訓練兵などではない、立派な騎士だ。それが、たった一人に、蹂躙される?


 過剰防衛の蹂躙が終わり、鎧を解いた悪魔が声をかけてくる。


「おい」

「ヒッ……!??」

「お宅の上に伝えておけ、「次に殺しに来たなら第3王女を、それ以上来るなら国を亡ぼす」と。面倒だ二度と来るな」


 伝言役を残すとは珍しい。しっかし、騎士弱いな。


 呪素を使った時の夜宵が異様に強いんだよなぁ。それだけ怪異達に関わってきたし、憩いの時間も無いし。生きてきた時間=呪素の生成時間で通るからな。



 人が増えてきた事で、もちろん商店街を中心に町は賑わっていく。通りすがる中や、ギルドなどで見かける人々には、この国には無い風習、文化が在る事を示す「服装」や「武器」、「食べ物」が見つかる。中にはFSチックな武装や、重火器、露骨なマジックアイテム等も見つかる。少なくとも、夜宵達転移勢の持ちうる知識技術は普通に有るであろう事は分かるだろう。なんならトンプソン機関銃やデザートイーグルも見かけた。


 ならば、問題が起こるのもまた、必然だろう……。



 ある日の朝、ハクノが使っている部屋の天井、ベットに穴が開いた。


「何をしたんだバカ」

「してないよ!?」

「……破損の仕方と軌跡。ふむ、何かが落ちたか?ちょうどこれくらいの」


 そう言って夜宵が出したのは、リバイブのメモリ。―下の階には穴が開いてないな……。


 時間を飛ばして。これからクエストに行くため、夜宵(本体)とハクノが並んで、商店街を通っている。商店街はごった返す程では無いがかなり人が多い。ギルドの中もそれ相応に。


 残り時間が少なくなってから、夜宵が本体で他メンバーに同行するようになった。もちろん本体が一人の時も在る。同行すればするほど、夜宵の基本ステータスの伸びは悪くなるだろう。そもそも魔法が無ければ、人間としての限界値には程近いところに既にいるのだが。



「銃、剣、槍、斧、弓。より取り見取りですなぁ」

「そうだな。これもう何も隠す必要性ねぇんじゃねぇかな。……ちょっと待ってろ」

「ん?」


 ギルドを出て直ぐの所に野次馬が出来ている。ハクノに待つよう言ったのは、そこからの喧騒が明らかに喧嘩の物だったからだ。屋根の上に飛び乗り中を見てみれば、確かに武力を行使する2組がいた。


「ならこいつでどうだぁ!」


 そう言いながら一方のうちの一人が拳銃「ベレッタM92FS」を取り出し向けた。そこから喧嘩は硬直する。


「魔法も魔弾も在っても拳銃は強いのな」

「純物理はポピュラーな謎エネルギーの魔法じゃ防ぎづらいしな」


 魔法の行使の基準、魔力で他者を直ぐに殺せるレベルだと、物理干渉が確実に存在する。つまり、魔法だろうがテーブルでも立ててやれば防げるという事だ。威力次第だが。でも、結局の所、即座に高火力を叩き出すなら魔法の方が良い。純物理攻撃・防御に困るのは、魔法の使い手として3流の証拠である。


「クッ!ふざけたマネを……!」

「ハハハハハ!何とでも言え」

「じゃぁ、他所でやれ!」

「「あ?」」

「「は?」」

「聞こえなかったのか?他所でやれと言っているんだ」


 他所でやれ、と言うのは夜宵である。実際、街中で火器、そうで無くとも喧嘩なんて迷惑である。が、義憤でも安易に首を突っ込むのはやめようね。


「ふざけてんのかテメェ」

「大真面目に、街中で喧嘩なんて迷惑だろう?原因も何も見てないし誰がどうなろうとどうでもいい。が、それでも他所でやれや」

「おい!に兄ちゃんよしなって」

「ハッ、望みどおりに消してやるよ」

「夜宵君ストップ」

「なぜそうなる?」


 最後のセリフと共に、1つの炸裂音が街に木霊する。拳銃を持ち出した、喧嘩していた奴の頭が、野次馬の前で消し飛んだ。夜宵が拾いもしない内に持っていた拳銃を仕舞う。頭を消し飛ばしたのは、夜宵のクイックドローである。


「夜宵君!」

「あん?どうした?」

「殺す必要あった!」

「有った」

「あぁ、君はそう言うだろうさ!無いよ!殺す必要ないよ!銃を飛ばせばいいでしょ」

「そうしたら、もう一方が動き出すだろ。俺は街中での喧嘩がなくなれば誰がどうなろうがいいんだよ」

「最低限の平和解決に向かう意思を持ってください!」

「無かったら他所でやれなんていってねぇよ」

「……!こいつ!(小声)」

「俺以外が死人増やしそうだが……行くか?」

「そう言われたら行けないよ!」ウガー!

「てよ。取り合えず、移動しよっか、お宅等。な?」


「何者なんだ?お前たちは」

「横暴なだけの一般人だよ」

「普通じゃないけど一般人です。一応」


 夜宵の脅迫によって、剣描いていた者達は外へと移動し始める。


「勝ったつもりでいるなよ……!」

「お前はいったい何と戦っているんだ?」

「夜宵君は最初から戦っていなかった?」

「迷惑なら殺処分ってのはどこ行っても変わらねぇだろ?」

「変えて?」

「やだ」


 たまたま選んだ道が、騒動の場所から外への最短ルートが一緒だった為、半分監視しながら歩いた先で、また。今度は「蛾」のナイトメアが今、現に生まれ落ちた。


「え!?蛾!?」

「!(あの辺り、この記憶!)チッ!」

「あッ!ちょッ!?置いてかな。ゑ?下の部屋の人?ゑ?」


 いつどこで見たのか……。ハクノ達が使っている真下の部屋を使っている男が、ゾンビみたいにハクノに抱き着くと溶けた。真っ黒の何か……ナイトメアの最期がこんな風になっていた事をハクノが思い出せるかはわからない。溶けた物が全て落ちた後、ハクノの手に残っていたのはメモリの様な物だった。「スピリット!」


 ハクノを置いて蛾の方に走り出した夜宵は、「メディック!」変身していた。記憶を基に、3体のインストーラーを見つけると、速攻で必殺技を放つ為、小箱を右腰のフィニッシュホルダーにセット。


「ヒーリングスネーク!Standby」「クライマックス!チャージ!」


 さらに押し込んで必殺技。


「「Finish!」」


 杖蛇刀「アスクレピオス」(杖刀「アスクレピオス」の本来の名)でインストーラー3体を、踊るように切りつけ、反対へ抜ける。


「グオッ!?」

「テェ!?」

「ヅッ!?」

「何だテメェ!?」


 そしてまとめて一刀両断、爆散。攻撃の軌跡に現れた白蛇が、「シャイニング」「サンダー」「オーシャン」のメモリを回収し、夜宵に戻っていく。そして、そのまま変身を一度解除。追記、なんだかんだメモリの仕様者達は気絶こそしているが無事だ。以外だね。


 蛾が発生した原因……自称神の子(実際、ギルドのとこの神格と似たような力有り)とやらを取り除いたら次は蛾。と思ったがその蛾が羽ばたきで風を起こしながら毒の鱗粉をまき散らす。幸いな事に、ハクノは根性で耐えられ、夜宵はそも毒物が有効じゃ無いが、それでも強風で立っていられるのがやっとだ。


「強い!(風が)なんか痛い!(毒)……子供?子供!?」


 蛾が足で子供を抱えている。その子供は、夜宵に「2人はふうふなの?」と聞いて来た子である。「お母さん!」と叫ぶその子にも、紫色の亀裂、ナイトメア化の兆しがある。


「行きつけの商店の子だ。蛾は母親。元々景気が良かった訳じゃ無い所に横暴な奴が来たみたいでな」

「なるほど」

「今そいつをぶっ飛ばした」

「なるほど?で?どうすれば助けられるの」

「心器、ブレイブもナイトメアも、要は心の問題だ」

「夜宵君には無理だね?!」

「……そうなんだよなぁ」


 夜宵に、心の問題を解決した経歴は……無い訳では無い。が夜宵が意図したものは無い。かといってこの母親を救えるほどの交流はハクノには無い。


 それはそうとして、強風の間に造った抗体をハクノに平手で打ち込む。


 強風を起こすのをやめた蛾は、そのまま子を抱えてどこかへ飛び立とうとする所に。


「おい待てェ!」


 大きくなった片腕でのロケットパンチが炸裂。体勢を崩した蛾は、子供を潰さないように抱えていた所為もあり落してしまう。が、そこに白い布が巻き取り隠すようにキャッチ。屋根の上に行ったその布から、夜宵と子供が出てくる。


「お兄ちゃん?」

「おう。今日もお宅で買い物したいからお母さん起こしてくんね?」

「お兄ちゃん!お母さんが!お母さんが!」


 思い出し、パニックになった少女は夜宵に縋りつく。夜宵は只、軽く頭を撫でる。


「解ってる。安全な場所に居ろ。屋根や壁の近くは強風で破壊されると危ないから無しだ。あれはお前を守るために動いている。お前が見えなくなったら何をするか分かったもんじゃない。ハクノ!」

「あいさ!」

「この子抱えて逃げてろ。あれは俺が叩き起こす」

「……夜宵君だし大丈夫なんだろうけど……。う~ん」

「場合によってはGOサイン出すからショットガン使え」

「は~い。アッ!忘れてた!」


 蛾のナイトメアが、子の方へ猛進。掠め取るために直情を過ぎようとする。ハクノは子を抱え、別の屋根へと飛び移る。


 夜宵は、右腕に少女の声を乗せ、直上を過ぎるナイトメアを殴った。何事も無いようにナイトメアは過ぎ、旋回して子へと向かう。


 効果は薄いようだ、薄い。そう、有りはする。夜宵には、極僅かだが、魂が揺らいだのを確かに見た。叩き起こす方法は、愛娘の声である。


 しかし、声を乗せる方法は、滅魔の音の力を基礎に感覚で組んだ、音属性魔法モドキだ。夜宵が自力でこれ以上右腕に乗せた少女の声を大きくしようとすると、滅魔の性質が強く出すぎる。


 その時、希望はカ-ドになってブレイクコレクターから射出された。


 「同調加速」……読みは「どうちょうかそく」もしくは「シンクロブースト」。一人でできないことも無い、というか一人の方が簡単なコンビネーション技。チューニングリング(或いはチューニングゲート)を一人が用意し、その中に技を通してやる事で、その技を強化するというもの。技の威力が星で現れるため、強化された技の威力を「輪と星の足し算」で測られる。輪、星と合計値を「レベル」と呼称されている。


 夜宵はこいつを、発動。3つのチューンリングを用意し、その中を自身が潜る。


「夜宵く~ん!?」


 ハクノは屋根の上で、子を抱えた状態で追われている。夜宵がちんたらしている間に。下手に加速しようとすると、屋根が抜けて落ちかねないのだ。もう、直ぐ近くにナイトメアは来ている。


 その時である。閃光と共にナイトメアに衝撃が走る。ナイトメアは、少しの間体勢を崩し、墜落しそうにもなるが持ちこたえたようだ。


「チッ!無駄に厚い雲だな」

「夜宵君!?何それ?」

「話は後だ。正直、長くは持たん。出力を上げてでも短期で終わらせる」


 ナイトメアの耐性を崩した右腕は、音の波でぶれ続ける光と風の手甲兼メリケンサックが装備されていた。チューニングリングの向きがナイトメアに合っていなかったので自分から入って調整した結果がこれである。


 更なる同調加速。二つのチューニングリングで、手甲から矢へと変えた声をチューニング。募る思いが、曇天を裂き闇夜を照らす路を成す。射出。


「キュィ!?」


 小さな悲鳴。凶星の届ける少女は声は、確実に母の心を呼び起こしている。


 足りぬならもう一度。射出した声を呼び戻す。離れたせいでレベルが5に下がっている様なので、さらなる追加は3つの輪。夜宵自身が輪を潜る。集いし心が、闇夜を照らす輝きを放つ。


 「同調加速」によって強化された夜宵は、アスクレピオスのフライトコアトルス形態の様に、白い大きな一対の翼で天へと羽ばたき、龍の頭部を模る右腕から叫ぶ様に悪夢へ声をぶつける。



「ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ーーー!!!ア゛ァ゛ッ゛!!ア゛ァ゛ッ゛!!」


 その者は唯々叫んでいた。夫を魔物に殺された。戦う力は自分には無かった。子の為にもと、稼ごうとしたが殆どで跳ねのけられ、店を開いても稼ぎは良くは無かった。それでも、あの子の笑顔のおかげで決して不幸せでは無かった。……そんな状態から!子供のためさえまともに稼がせてはくれないのか!子供さえ奪おうというのか!何が神か!神は救ってはくれない!ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ーーー!!!私がこの子を護るんだ!


 敵と悲報が木霊し続ける曇天の闇夜。彼女は唯々、叫んでいた、頑張っていた。


 そこに、強い衝撃と共に、曇天に罅が入り、声が聞こえた。「お母さん!お母さん!」


「ハル……?ハルは……私が!」


 正気に戻りかけると同時に、悪夢の原因はより強く響きだす。また、天は、雲に覆われていく。



「だ~れも救ってくれはしないさ。だからお前が守ってるんだろう?お前が堕ちてどうするよ。ハクノ、リソース不足なんで貸してくれ」

「了解!」

「わ、私も!」


 ハクノの拳が光りだす。光から現れた星は輪となり、普通よりももっと大きく展開される。少女の新たな星と夜宵が持っていた力を、救いの力の輪「セイヴァー・チューニングリング」が束ね、より一層輝きを増す。集いし想いの輝きが、軌跡の力で心を救う。


 閃光と共に飛び出した夜宵は、飛び立とうとしていたナイトメアを貫く。



 悪意と悲報が渦巻く曇天の闇夜に、また、曇天を裂き、やい砕き、強烈な光が差し込み、声が響く。光が悪意と悲報を払いのけ、響いた声が正気を、心を救い上げる。見上げた先、光が入ってくる天の大穴に、男の影を見た気がした……。



 貫いた後、出て来た夜宵の両腕には、女性が一人抱きかかえられていた。夜宵の腕の中で、女性は目を覚ます。


「ん……?貴方は……」

「ん?おはよう奥さん。悪夢は覚めたかい?」


 優しい微笑みに、奥さん今度は熱くなってきたようだ。


(同僚が居たら笑われてたな。俺の役割じゃねぇ……)


 残念な話、その笑顔は8割がた作られていた。


 そのまま夜宵がハクノと少女のいるところまで連れて行く。


「お母さん!」

「ハル……!もう大丈夫。ごめんね、心配かけたね」


 母の帰りに抱き着く子。それを頭を撫でて宥める母。もう大丈夫だろう。


「感動の再開ですな。……だよね?夜宵くん?」


「大丈夫ですか!?」


 夜宵は、力尽きて屋根から転げ落ちた。夜宵の適性は高水準ではあるが、光属性、セイヴァーの力はとりわけ低い。同調加速も、本来使えない量の魔力を短期間だからと無理にコントロールしていた付けが回ったのだ。


 この後、あの家族はゴンが屋根から降ろし、ハクノが夜宵を連れて帰った。さらに後、白き翼の噂が流れだしたそうな。


 良くない話を1つだけ。夜宵の呪いによって、人型を取っているだけで、今現在もかの母は死者である。ナイトメアになった際に内臓や体液が纏めて謎物質になったままなのだ。直す手立てを持つのは、唯1柱のみ。



 人が増えだして一週間程経っただろうか。夜宵達はいつものように、ギルドでほのぼのやーやー言いながらお昼を楽しんでいた。いや、昼に関してはックエストの影響でバラバラの方が多かったかな?


 そこに入ってきた一人の女性に、ハクノの目が奪われる。


「なッ……!セクシー!エロい!」

「「「ん?」」」


 その女性は、長い金髪、(三原色では無く、和色の)青い眼、健康的な肌、そして黒一色の軍服。歩く姿は「美しい……ハッ!」と自然に出てしまう者もいる程だ。


 夜宵に見えたのは……過去、魂、その在り方。その全てを見る前に、その女が夜宵達の方を見てほほ笑む。


「こっち見たよ!こっち!」

「……」

「可愛い、いや美しいなぁ」


 そして、見えなくなった。魔力を強める事でジャミングしたようだ。


(ビアンカ・ブラックベルト……。強いな、彼奴)


 視線を食卓に戻すと、隠しているため判らない程僅かであるが、ロゼが彼女に何かを感じているようだった。夜宵が記憶を巡らせれば、ビアンカとロゼの二人は同じグループに属している事を思い出す。恐らく、ロゼにとって予想外の出来事……と言う訳でもなさそうだ。忘れていたかな?


 ロゼに「友人だろ?会ってきたらどうだ?」なんて促しても動くことは無かった。夜までは。



 これはまた別の日。ギルドで飯を食いながら他の参加者を観察していたら、白百合の様な女性が夜宵達に近づいてきた。名前は「フローラ・ブラックベルト」と言うらしい。ビアンカの妹なのは直ぐに見えた。


「ご無事な様ですね」

「?あぁ、あの時の」

「どの時の?」

「同調加速を無理に使って屋根から落ちた時、「大丈夫ですか!」って声かけて来た子」


 無事に回復こそしたが、アレは非常に危なかった。超過集束と魔力拒絶でボロボロな所に回復魔法は逆効果、身紋であるアスクレピオスの行使しも魔力を使うため、自力の回復力だけが頼りとなるからだ。


「覚えていたんですね。という事は噂の「白き翼の龍」(或いは天使)は貴方なんですね?!」

「ん~。まぁそういう事にしとけ」


 言えぬ、今見たから知ったなどと。というのもそもそも眼は開けていないし、記憶しようにも回復で手いっぱいだったから覚えられる要素が無い。


「用事はそれだけか?」

「はい。良かったです」

「何が良いんだ?平気で他人の頭叩き潰す奴が生きていて」

「するんですか!?」

「必要なら」

「割と必要ない場面多いと思うんですけど……」

「感性の違いだ」


 この話はここで終わるが、別の話がすぐに始まる。今度はビアンカの方が来た。彼女はこちらに来て直ぐに、その美貌と戦闘力で名を上げた。


「あれ、フローラ?」

「あ!お姉ちゃん!」

「はぁあ!?何このエッチで綺麗で美しい姉妹!ちょっと心臓に悪すぎるでしょう!?」

「ハクノ。ステイ」

「すみませんフローラ、話は後で。今は……」


 視線が夜宵へと向くビアンカ。動き始める前に何かを察知して席を離れようとした夜宵に声をかける。


「影月さんでしたね。少しよろしいですか?貴方の考え方理解できます。場所を変えましょう」

「何時誰に名を?」

「先ほどギルドで」

「……金があれば何でも聞けるんだったな」

「私のランクも有りますからね」


 AAランク。それがビアンカ・ブラックベルトのギルドでのランク。力だけのAランクと違い、信頼され散る証だ。この辺から多少の値引き等も有る。


 場所を変えた先は人気のない路地裏。屋根が無くとも壁で日が遮られ、今の時期だと少し寒いかもしれない。変な奴らも居ない。


「で、何用だ?」


 余裕がある風だが、夜宵は内心ビビっている。勝ち目が薄すぎる上に有り方的に、心器、身紋を含めた全力が出せるか怪しい。


「その眼」

「よお!夜宵!」

「誰ですか?」

「アカシック☆お兄さんだ」


 会話を遮って入ってくる、フードを深くかぶった黒いローブの男。夜宵はその声に聞き覚えが無、有ったは。


「夜渡か」

「おう。はいコレあげる」

「ん?」

「夜渡、と言ったら「夜渡之神」ですが……」

「知らない方が良いと思うよ?」


 夜宵がもらった箱の中身は、黒い眼帯。ただ何かが有る。


「そいつはな、両眼が「魔眼」成りかけているのを、片方に集約させて、封じ込める能力がある。眼の無い所に着けておくと眼が生えるからやめとけよ?」

「やっぱそういう物か」

「やはり特別な眼だったんですね」


 最近、肉体に入っている魂を直視しすぎたのが原因で、只の?眼が魔眼になりかけていた夜宵。放置していれば、視界にいる者全ての魂から常時情報が入り続け、すっごいうっとおしかっただろう。先ほどの観察は、圧倒的情報量に慣らすの意味もあった。


「ありがたいな」

「左目に着けるか。うむ、髪染めが落ちて白いメッシュみたいになってるのと合わせて中二臭いなw」

「ほっとけ。つか、お前が言うな」

「私は堂々とやってるしぃ?ダメージを受ける心も無いしぃ?ま、頑張れや。じゃぁの?」


 変態黒ローブは消滅するかの様に去る。


「貴方の眼、どういう眼なんですか?」

「教える義理、信用は無いな。じゃ」


「……一人で抱えるのは辛いですよ」



 聖なる剣を賭けた大会まで、後3日程。そんな頃の夜宵達は、闘技場で、少し前に新たに加わった師「風斬 辻」(かざきり つじ)辻ちゃんに夜宵と皐月が、嘉島にハクノと暦が鍛えられていた。


 風斬辻は、宗教団体「昇進天花」の最高齢「夜渡り」である。なんと御年78歳。戦争にフラッと現れて、喧嘩両成敗の名の元殲滅する話が各地域に残っている。ここに来た時は、弟子だという嘉島をハリセンで芝居ていた。


 昇進天花には、「退官」と言うものが有り、これをすると試練等が無くなり、旅(異国へ行くこと)は禁止になる。これをした者は、隠居や指導者として夜渡之国で頑張っている。


 今も結界を張り、実戦訓練中。夜宵と辻ちゃんが睨みあっている姿を、皐月が見ていた。睨み合いは10秒も続かず、次の瞬間には出鱈目な程広範囲の中で火花が散り、刃を乗せた嵐が起こる。次の瞬間には夜宵が端まで転がる。


「見えねぇー。「瞬走」無しじゃ無理だよねぇ」


 「瞬走」……読みは「しゅんそう」。瞬歩を進化させた純粋な技術で、人間版「ファストタイム」の様な物。昇進天花では必修技だが、極一部では機動力特化の極みみたいな扱いを受けている。が、極端に目がいいとか、起動力特化でもかなり上位の領域じゃないと見えないので、基本的には無いもの扱い。


「如何した小僧!その程度か?」

「あぁ、ハイハイ」


 怠惰に起き上がり、構え、「瞬走」。「強化門」「同調加速」からの居合の一閃。これが、正面、右後ろ、左、上方と立て続けにくる。強化門で通る場所を簡単に判断できる技を四方八方から通り抜け様に放っても、辻ちゃんには通用しない。水の膜を張った刀身を滑る様に流れて終わる。果てに辻の足を氷で止め、跳び蹴りで終いにしようとした夜宵だが、辻の3連天駆斬の2撃目には完全無力化され、吹き飛ばされる。


 「強化門」……読みは「きょうかもん」もしくは「ブースターゲート」。カードや魔法陣の様な姿で展開されたリソースを潜る事で強化するスキル。強化内容は術者次第だが、性質の都合上「機動力」と「筋力」が多い。


「……」


 結界が解け、体が元に戻った夜宵だが、心は戻らなかった。隙が無い、力押しも無理。死と敗北からくるストレスが黒いオーラの様になるほど、夜宵から呪素を溢れさせていた。


「君はそういうタイプじゃないだろう?(力押しの話)落ち着け。瞑想始め」


 瞑想を挟むことで落ち着きを取り戻す夜宵。力不足を感じる夜宵に辻はこう告げた。


「大会まで休憩」

「はぁ?」

「はぁ?じゃないよ」

「まだ力が足らねぇってのに休んでられるか」

「何をそんなに生き急いでるんだい?休まなきゃ倒れるよ。肉体的にはいたって健康なのに精神がかなり疲弊してる」

「……死にたくないだけさ」

「なら休んだ方が良い」


 哀愁漂う背中を見せて去っていく夜宵を見てから、辻は「次はアンタだよ」と皐月を呼ぶ。


 実戦訓練を始める、その前に。


「あの子、今までに何をやってきたんだい?全部教えな」

「夜宵君?夜宵君はねぇ、お父さんもお母さんも居ないからずーっと一人で家事やら家の管理をしてたでしょ~。あ、うちの家、結構広いんだよ?田畑有、道場有、やたら多い和室有、二階もある」

「それ何時からだい?」

「5歳、いや3歳行かない頃から」

「アンタは?」

「遊んでました」

「馬鹿垂れ」

「はい。それから」

「まだ有るのかい!?」

「世界を救う仕事を3年程。邪神や狂信者を相手にずっと戦ってたよ。私もだけど、夜宵君は2~3倍以上。負けたら世界が終わる。そんなお仕事」

「親は?死んだのかい?」

「同じ仕事してます。だから帰れなかった。けど弥生君の方が出勤多いよ?学生と本職の警官だけど。その上お父さん達はねぇ、連絡も無しにほんッとにたまに帰ってきて「ご飯作ってー」って夜中の2時とかに」

「バカしかいないのかい?」

「バカやってる人たちのお世話と、修練とで、ほんと毎日手一杯みたい。心の休まる場所が無いし、私達じゃ用意できない。下手に強い所為で周囲が大体邪魔にしかならないのも有って、他者を信用しない。裏切りも有るしね。テロ(正確には人間)は止める、悪霊も止める、邪神も止める。通り魔も秘密結社もぜーんぶ夜宵君の担当。……改めて並べるとすごいなぁ」

「それじゃぁ、すぐに壊れるね。んじゃやろうか」

「は~い」

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