2話 結局、必要なのは力だろ?
「ば、化け物だ!化け物たちが街を襲っている!」
ハクノはその言葉に直ぐに馬車を降り、御者の見ていた方を見た。大きな蜘蛛とカマキリと兎が暴れている他、大量のホッパーマンが、北戦闘商街の開いている南門前で人間と乱闘になっていた。中に入り込む様子はなく、人間と先に挙げた三体はむしろ外へと出ようとしている。
確実に人間が不利な状態、式上ハクノは走り出し、体の前で交差させた腕を引く形でベルトのボタンを押し、変身。子を抱えた母へのカマキリの一撃を大きくなっていた右手で殴り飛ばす。
「逃げて!」
ハクノが荒げた声にビビるも、子を抱えて母は何処へともなく走る。
殴り飛ばされたカマキリの左の鎌が再生するのを見ることも無く、横やりに襲ってきた個体を皮切りにホッパーマンとの戦闘に入る。皐月も、ホッパーマン攻撃から一般人を守るため、ホッパーマンの首に飛び蹴りを叩きこむ。それによって、勢いさえあればバランスを崩せるという事と、余裕さえあれば首をねじ切るくらいならいける事が分かった。さらに、突撃してくる他のホッパーマン達の対処に放った正拳突き「心破」も通用することが分かった、浅くても十分怯み、しっかり入れば胸を押さえて倒れこむ程だ。
夜渡式体術の技の一つ「心破」は、胸部への正拳突きで、骨などへのダメージは左程だが、心臓のみへダメージが強く入る技。極めれば心臓が潰れた以外一切の異常がない死体が出来上がる。実はこれ、「命導」という、生命力にも似た謎エネルギーで放つ技である。魔力で半分以上を代用しているけど、覚醒は時間の問題かもしれない。
そうして、二分程経ったか。戦場から離れた馬車から見ていた転移勢の教師は後方からの足音に気づきそちらに目をやる。危険だからと止める意図があったとしても無意味であろうその足音の主は、黒と紅い影と夜宵だった。
「何だこれ!??」
「少し気持ち悪いな、こう、虫が集まっているのは」
「蝗害みたいだな。おい、飛んでる奴らを一掃できるか?」
「可能だ」
「よし」
走りながら、二つの声色を持った赤と黒の影は黒と金の剣を呼び出し、鍔ともなる幻想の三日月をスライドさせ研磨、剣身を紅く光らせた三日月は剣先へと登り切ると満月へと変わる。それを振るえば、放たれた所謂剣圧によって広範囲のホッパーマンが爆散する。
夜宵は手の平大の小箱を取り出し、顔の右横に構え起動。
「メディック」
戦場
乱戦の中、自身を狙ったホッパーマンの火炎弾を回避したハクノ。しかしそれは悪手、劣勢の冒険者の方へ火炎弾は飛んでいく。
「ッ!!」
一度、自身への攻撃を大きくなった右腕で殴り飛ばした後、すぐさまベルトの右のボタンを押す、右腕を大きくしていたリソースを足に回し加速。しかし、決して追いつかないスピード、距離の差に絶望の兆しを感じた時、……巨大な白蛇が劣勢の冒険者を飲み込む形で出て来た。
「「何だ彼奴!!?」」暦&他の人全般
「!良し」ハクノ
「おっ、来たか」皐月
「あれは気にするな」
多くのホッパーマンと戦場にいる人間を飲み込むように白蛇は這いずり回る。
夜宵&影
その小箱を某王の様に下腹部でセタッチ、一度長方形のエネルギーにバラバラになったのを介してセタッチした場所で扉の様な比率の小さな長方形に変わる。そしてそれを掴んで外へ引くように回転(エグゼ●ドみたいに)。「Riders up」回転が始まった瞬間に夜宵より一回り大きくなり、夜宵を中心に数回回転。「病にHERO!俺の方法!リングリングヒーリングスネーク!!」なんて夜宵の式神たちが歌いだす。これは気にしなくていいんじゃないかな?そんな中で戦場を駆けまわっていた巨大な白蛇が夜宵の後ろに現れ、夜宵を飲み込む勢いで接近し、薄くなり、回転している物の範囲に入ると消滅、と同時にその分だけ夜宵の体が白くなる。
そして、白衣を着た真白な姿に変わる。白い素体に薄く光沢の無い銀のラインで鱗を表現しているが実際は目を凝らしてもかなり見ずらいく、大きめのつり眼は淡いベージュ色、口元はガスマスクのようになっている。
ついでに、飲み込まれていた者達は、白蛇が薄くなっていく辺りで外へ落ち、双方謎液まみれで、ホッパーマンはぐったりと、人間は眠っている。
それとは別で右足に力を込めながら走る夜宵に式神たちが騒ぎ出す。
「ギャー」「滅魔の力だ」「戻れ―」
そらそうだ。なんせ式神は立ち位置的な話であり、あくまで悪霊なのだから。右足に込めている、母親譲りの滅魔の力を危険視して当然だ。
「おまっ!??ふざけるな!先に行くぞ!」
「奥のデカいのを先に仕留める。突っ込みすぎるなよ」
「はいよ」
「任されよ」
赤と黒の影はホッパーマンとの戦闘へ、白くなった夜宵は空中を駆け、蜘蛛、カマキリ、ウサギの元へと向かう。
「平然と空を駆けるな」
実際は結界を足場にしているので何もおかしいことは無い。
夜宵は、右足に溜めていた滅魔の力は紫の炎となると、その炎で複数の弦を持つ弓を作り出す。その弓から奏でられる音は、母のぬくもりさえ感じる物。「母温抱擁」。
???
騎士をやっている父親、農家をしている母親の元に生まれついたその子は、誕生日プレゼントで両親から貰ったテディベアが唯一の形ある宝物だった。貧しくとも幸せの有った人生に突如として理不尽は降りかかった。黒い炎を吐く禍々しい戦士の登場に、周囲の家屋は破壊され、焼かれた。唯一の宝物を抱え、母に手を引かれ逃げてる途中、母親は転んだ自分に気付かず走っていく。転んだ瞬間に手を放してしまった宝物を拾おうと駆けよるも、逃げている他の人に踏まれ、経年劣化も有り、ズタズタになった宝物を見て彼女の心は決壊、蜘蛛のナイトメアへとその姿を変えた。
戦場
母の温もりを、偽りであれど思い出し、家族の幻を見ながら成仏した元少女の蜘蛛は、赤とピンクのどろどろの肉?の様な物へと変わっていく。
何あれ?あの……半固体の……。
ナイトメアは元自身の肉体に憑依した扱い、その体は魔力で肥大化し、骨や筋肉、心臓といった部位に意味がないため、人一人と同じ素材の一個の肉塊に変わる。で、その肉塊がこれ。悪霊、死霊の扱いだから夜宵をぶつけるのは正解なんだよね。
残りは二体。夜宵が再び弓を引き放たれたのは大きな杭、多数の杭がウサギとカマキリの手足、首、スペースの有る体と周囲に突き刺さる。そしてこの杭、それもウサギの首に刺さっている物に燃える足で飛び蹴りを叩きこむ。
この杭、響清杭と言って、三上の家系に伝わる道具である。響清杭は、夜宵の使っている(強すぎて滅魔呼びされている)退魔の力が発する音を強化&拡散する道具だ。元は加護を与えた50寸程の杭なのだが、猛者が炎で作れるようにした技を夜宵は使っている。荷物だしね。
強制成仏。元性奴隷のウサギと仲間外れの末に肉盾にされたカマキリは蜘蛛と同じく肉塊に変わる。
こいつらの描写は薄いな。
ウサギは描写する方が問題でしょ。カマキリは元が精神的に強くなかったからドラマにはならないかな。
平然と着地した夜宵を取り囲もうとするホッパーマン。夜宵の選択は。
「ホッパーマン」そう鳴く小箱をベルトへ、最初の物と同様に扉に変わると指で扉の右端を手前に叩き適応。白衣「生装―アスクレピオス―」を杖「杖刀―アスクレピオス―」……蛇の意匠を持つ先が刃の杖に変え、「ポイズン」そう鳴く小箱をかざしてスキャン。
見た目に変化は無いものの、力の変化は感じとるホッパーマン。なんせ自分たちがそれと似たように、見た目は大きく変化しないけど力は大きく変わるという能力持っている者が多いからな。制止する人間を観て、理解してから対応しようと判断し、ファストタイムの準備をしていた途中で気付いた。(こいつは、ファストタイムの準備をしている)と。気付いたホッパーマンの一部が阻止しようと走り出した頃にはもう遅い。次の瞬間。
「!?」
「うぉッ!??」
「何事か!?」
見えない津波でも起きたかと言わんばかりの勢いで、3~4割り程のホッパーマン(幼体)が爆散、残りの殆どのホッパーマンが吹き飛び、倒れる。真反対側に突然現れた夜宵は、転がりながら変身解除し、仰向けの大の字に寝っ転がる。
「夜宵く~ん?大丈夫~?」
「気ぃ抜いてんじゃねぇよ戦場だぞ?することは始末だ、敵はまだ生きている。火事場の馬鹿力、窮鼠猫を噛む、瀕死は警戒対象だ良いな?」
「はぁい」
「潰せるとこで良い、確実に仕留めろ」
ファストタイム、不眠不休、殺害対象の無理に許容させられた生存(要は力の差)と、疲労とストレスが溜まりに溜まった体を無理やり起こす。紫色の亀裂の走る腕、どこかで見たような気がしなくもないが、兎にも角にも先にホッパーマンを潰すことにした。
「怖いわ~」
「どういう仕事してるんだって感じだよ本当に。いや、知ってるけど」
「それはそうと、我らで殲滅できただろうに」
「戦場で気を抜けるような奴に頼めるほど簡単な仕事は無い」
「「アッハイ」」
実際、赤と黒の影は慢心していた。どいつもこいつも手加減したうえでワンキル、どう足掻いても緊張するにたる敵ではなかったのだ。
夜宵が転ばせることもできなかった個体を簡単に斬り捨てる赤と黒の影、何を感じたのか、ふと自分たちが走ってきた方を見る。
紫の亀裂が走るホッパーマン。特殊な個体では無い、それは心さえ有ればいかなる存在でもなりうる畏怖すべき兆し「ナイトメアとなる条件を満たしている証」なのだ。そちらを向かずとも幾らか……十数のホッパーマンが同じ様にナイトメア化を始める。
亀裂から紫色の光が溢れ出し、その光に飲み込まれると、壊死した黒い肉をボロボロと落としながらその絶望に比例した巨躯の怪物が生まれる。
このタイミングで、ほんの少し離れた場所に街から吹っ飛ばされた、竜の影を纏う赤い影と黒い影、そして強者に限り虚空さえ感じる黒い影が落ちてくる。虚空の方は華麗に着地、赤いのも拙いが着地、黒いのは無様に転がる。
「まだ何か有る?」
「敵、三体追加。続行s」
「するな。こっちでやるから」
「夜宵君は休んで」
虚空の方の影は、ホッパーマンの中から巨躯になっていない個体を見つけると。
「オーマじゃん久しぶり~。んじゃ死ね」
駆け寄り、拳を振るう。それに、真正面から対抗したオーマの拳がぶつかった瞬間発声した衝撃波は、ナイトメアの殆どを消し飛ばし、他の周囲のモノも吹き飛ばす。変身していた者は全員変身解除させられる、衝撃だが、それによる怪我人は0。謎だね。
虚空の影が戦闘を始めたのを見た赤い方の竜の影を纏っていた男は、なら彼奴は自分がと、デッキケースを突き出し、腰に引いて、右手を左上に突き出し「変身!」手を握りながら胸の前で腕を曲げ、ベルトにセット。三つの影が重なり、赤いアーマーの鉄仮面に姿を変える。
彼奴、離れていた位置でナイトメア化した一体である。黒いその巨躯は、爪だけでも人間の大人の身長の半分以上。赤い電を放ち、このままでは街への被害は、原因の戦闘を上回る。
赤い竜の影を纏う戦士、「竜騎」は最初から切り札をドロー!カードを剣状のバイザーに装填「Finish」。大きく、爪で切り裂く様な動作の後、右手は高めの位置に、左手は腰に(鷹、虎、飛蝗って感じで)、少し腰を落としたら竜と共に高く跳躍、捻り体勢を整えたら竜の息吹と炎で加速し、敵を蹴り飛ばす。大きく揺れるも倒れない敵に直ぐにカードを引く「Strike」。珠を咥えた竜の顎(細かく言うと頭部)状の武器「ドラグストライク」を手に持ち、敵へと突き出すと、竜と共に武器から火炎弾が放たれる。敵の様子も見ずに直ぐに強化へ。竜騎の周囲に炎が渦巻く、バイザーが大きな爪を持つ手甲に変わる。手甲のスロットにカードを入れて「Unite」。覆いかぶさるように来た竜と融合し、姿を変える。ドロー!「Shoot」熱線ビーム、「Strike」武器は無くなったが口から吐けるので火炎弾、そして、「finish」天高く飛び上がると、頭から落ちるように突っ込みながら、自身の炎に包まれ、向きを変えて蹴り飛ばす。全ての攻撃が命中してなお倒れないの敵が悲鳴を上げながら乱射した赤い稲妻に4~5発直撃、ユナイトフォームを強制解除させられ、竜も瀕死に近いようだがまだ手は有る。カードも入れず、腰を落として構え、飛び上がり、急降下するように蹴り飛ばす。
「なッ……!」
強攻撃3発と必殺技3発を受けてもまだ膝をつく事もない敵を目の前に何かないかと考える戦士に、虚空の方から声がかかる。
「Hey!ワイバーンナイト、こっちでやろうか?」
「できるのか?そっちだってまだ」
「よゆー。まぁ見ておけって」
虚空の奴は、よそ見しながらオーマをノーモーションで拘束、ブルータルファイルに似た武器を剣モードで取り出すと、刃に炎を纏わせ空に×の字を描く、奇跡に残った炎が×の字になると敵へ直進、簡単に怯ませる「天駆炎斬」。飛び上がると、剣に纏わせた炎を巨大化させ、横薙ぎに両断、わざと浅くしたので真っ二つになっていないが「大断炎」。そして。
「さぁ行くぜ!エクスプロージョン!ナウ!ナウ!ナーウ!!」
ふざけた掛け声と共に放たれた三発の大爆発は、眼を潰し、四肢を破壊し、その巨躯を消し飛ばした。
「これで良い?」
「お前……最初からやれたろ!」
「それで終わったらあらゆるものに意味がなくなるでしょ」
拘束を自力で解いた(実際は虚空のが解いた)オーマの奇襲を驚いた風に難なく流し、戦闘続行。四方八方から現れ蹴りに掛かったり、一瞬で、アニメ化した少年漫画の超高速移動持ち同士の戦闘の引き伸ばしみたいな、移動と攻撃のかち合いの繰り返しを数千万回行ったりしている。
これを背景に少し時を遡ろう。オーマと影の衝突に吹き飛ばされた直後に。
「……?吹っ飛ばすパワーの割にちぐはぐだな?」
「一部消し飛んでるんだよね~。特攻?」
「全く無い訳じゃないが、この威力の差はそれじゃ説明付かないかな」
「じゃぁ何なのさー」
「影のやさしさ?かな?」
「やさしさねぇ……逃げたいんだがな―」
「強い?」
「勝てん。魂から何か(実力、トラウマ)を探ろうとしたが単純な力量(魔力)で阻害されて見えん。あと……」
意図的に風を受けて遠くに飛び、距離をと取ろうとしていた夜宵、4人が同じあたりに転がり、着地した事に、持った疑問を晴らそうと頭の中を巡らせながら適当な位置で止まり手を伸ばすと……背、戦っている連中がいる方向から自身の手が出て来た。
「ハァッ!??」
「やっぱりか」
「空間干渉か……人間を殺す気のオーマとやらではやらんだろうから」
「あの影と接触が最短の回答か」
魂を直視る目で見えぬ敵が二体、これ以上の距離は取れない、この状況下で夜宵が目を付けたのは「おそらく、この騒動の原因となる黒い竜の影を纏う戦士」。
「あれ殺しとくか」
「お前はもう戦うなと」
「出来んのか?」
「ふっ……任せy」
「られんな」
「む……!」
暦の問い案を即却下、理由はもちろんお分かりですね?
「戦場で慢心する雑魚にできることは無い」
「言ったな?おい行くな!!」
紫色の亀裂が走る体で全力疾走しする夜宵の体は、亀裂から出てくる黒く高い粘度の液体?によって全身が包まれる。
それを追いかけ、止めようとする暦は、蝙蝠風の機械に自身の手を噛ませ、「「変身!」」腰に現れたベルトに付ける。鎖が全身を覆う、三つの影が重なると鎖が砕けると中から、黒い素体に金の細めのマント、紅いヒールと胸を強調するような胸部装甲、血管と血まみれをイメージしたグローブとソックス、赤い月を思わせる大きな複眼の女戦士?が現れる。
「おぉ!……吸血鬼って感じ」
「ライダー「バートリ」、ね」
「グゥッ……!?」
真っ黒の中真丸お目々とギザ歯の口内に、亀裂だけが紫色に見える姿に変わって最初にやることが、「finish」を発動しようとしている黒い竜の影を纏う戦士「竜獄」の首に蹴りを叩きこむことだった。
「ッハ???!」
「待て待て夜宵。滞在する地域で呪素をばら撒くな」
「なら数撃で片を付けろ」
「仕方ない」
「finishじゃ」
ぶっ飛ばされ転がっている敵を前に茶番を一つまみ。最初に引いたカードはバインド「ブラッディチェーン」敵の周囲に飛んだ血の様にも蝙蝠にも見える赤黒い物から黒い鎖が現れ、敵を拘束。止めに「finish」、ベルトに逆様に付いた蝙蝠のバックルにカードを噛ませ、顎を押すようにして読み込ませる。「これで終いじゃ」、ナイトメアウィングを広げ飛び上がると一度空中で止まり、傍から見ると無駄に一回転した後、足に蝙蝠の翼にも見える牙を作り敵を蹴り飛ばす。
爆炎、爆煙が晴れ、赤と黒の影のみがその姿を見せる。
「ふっ、終わったな」
「そら違うぞ」
「なに?」
「ドワッ!!?」
上から振ってきた火炎弾、直撃の直前に離れ、力を奪い返した黒竜はいまだ健在である。咆哮し、羽ばたき、上空から一方的に攻撃するつもりのようだ。
「バインド無しか、どう捕らえるか」
「空中戦と行こう」
「Weapon」発動、「紅夜帝剣 クレセントスカーレット」を召喚、先ほども使っていた鍔が砥石になる剣。finish以外だとガードのカードで展開される「ナイトメアウィング」の飛行能力を生かした空中戦へ移行。この時、普段空を飛ばない付けが来た。飛び方が分からずふらふらと黒竜を追いかける姿は見るに堪えず、終いには尻尾で殴られ壁に叩きつけられる。壁の損傷は軽微だが、長く整備されていないため、簡単に崩壊するだろう。少しの破片と共に地面へと落ちる。
「何時までやってんだ?」
「悪かったな」
「お主も手伝ったらどうじゃ?」
「魔力切れ。呪素でいいか?」
「「No!!」他も相性悪いしなぁ」
「結界に滅魔が通るかどうかだからな」
空から竜の悲鳴と爆音が響く。赤い竜のブレスが、余裕こいていた黒竜に直撃、バランスを崩し地上へ落下する。
「「今!」」
地味に夜宵が結界で翼や首、尾を押さえる。暦は剣の柄頭を指で押し込み、其処にはまっていたものを飛び出させ、手に取る。それは凡そ笛の形をしていた。ベルトが笛を吹いているかのように噛ませ、「finish」。笛から鳴り響くレクイエム、共鳴した鍔で研磨するようにスライドさせ、赤き夜に満月を上らせると、構え、走り、それを一振り。終わりの意味を込めた研磨、それが終わると同時に、紅い切り傷を残した黒竜は跡形もなく爆散する。
ベルトから蝙蝠が離れ、変身は解かれる。
「所で殺す必要あったのか?」
「俺を止めるために殺したのか?だいぶサイコに見えるぞ?」
この呆れた問答に横から声がかかる。竜騎に変身していた青年からだ。
「ありがとう。ずっと追っかけてたんだけどさ、ようやく決着がついたよ」
「あれは何をして?」
「え?あぁ、あいつは、「自分が最強だー」って、力を証明するために彼方此方で暴れてたんだ」
「殺しといて正解だったな」
「結果的に、だけどな」
巨躯のナイトメア討伐、承認欲求黒竜討伐、と言う訳で最後の戦場へ。
「ようやく私のターン?」
そうはさせんとオーマの召喚。オーマには歴代のホッパーマンの猛者の力を使うことができる、召喚はあくまで応用の様な物である。
しかし、影の方が早い。影はローブの下、腰辺りでゴソゴソとすると「アイキャッチ」「変身」「ディレイド」。左右へ(右の物が左へ、左の物が右へ、本体を通り抜け)離れていくように色の抜けたオーロラのカーテンが出現、その中から現れた10の薄い?影は全てが出現すると本体へ集まり重なり、白と黒の装甲を形成する。オーロラのカーテンは小さい黄色いプレートに変わり、左右から頭部へすり抜ける様に刺さり、腰辺りから出て来た最後の一枚が真ん中に刺さる様に合わせて、胸像の様に、左右に三枚づつ形成される。刺さり終わると、装甲に色が付き、完成。某破壊者みたいな。
蛇を連想させるマゼンタ色の釣り目の複眼、鱗模様の白い襟。後ろから抱き着くように伸びた白い肋骨と鎖骨が三対、残りの肋骨も白、加えて腰マント。黄色いプレートの真ん中の物にはシアン色のシグナル。足の裏にハブられた緑。残りは大体白と黒だが、やはり黄色が目立つ印象。これが、消し去る者「ディレイド」。
召喚された三体のホッパーマンの突撃は……一体目は首元にパンチを喰らって爆散、二体目は首元にキックを喰らって爆散、三体目は顎にアッパーを喰らい天上で汚ぇ花火に変わる。
「やっぱレジェンド風情じゃなぁ。おっといけね」
即座に供給される別の三体に対し、ベルトを展開、カードを四枚取り出しスキャン「アイキャッチ」(一枚目)「アーイズ」×3(二枚以降)、ベルトを閉じて「スペル」。まずは「ドッペル」の効果分身を形成、次に各々が「ディバイド」「ブリット」「ブレイク」の効果を受け、本の様な形状だった物のそれぞれ、剣、銃、斧に変形。(剣)左右に分身を作った剣身がイエローの軌跡を残しながら両断、(銃)イエローの銃弾はゼロ距離射撃(接射)で相手の体に穴を開けながら後退させ後、四方八方から終わらせ、(斧)イエローの軌跡を残しながら斧は居合切りの後飛び回って敵を滅多切りにして確実に、爆散。
「風圧来ねぇな」
「今そっち?!」
「あー、来ないね」
(大気圏外かつ最短距離として、距離を考えてもあの爆炎……)
「それよりあれさ、これ(ブルータルファイル)に似てない?」
「あ?おう」
更なる召喚。分身を解除した本体に滑り台の様に並ぶ物で拘束、そのまま蹴りに行く者と、砲撃手二体による必殺技。これが全て直撃する……が。
「はぁ……つまんね」
力技であっさりと拘束を解くと、蹴りを叩きこみに来た奴を砲撃手へ投げつけまとめて爆砕、もう一体も銃弾一発で攻撃そのもの諸共あっさり消去。此処がチャンスとばかりに来たオーマの大剣での必殺技は、肩を捉えるも何の意味も無く、左の裏拳であっけなく砕かれそのまま殴り飛ばされる。
「やるんならもうちょい苛烈にしなよ。先の六体で何を見たのさ?」
歩き迫る「消し去る者」に性懲りのない三体の召喚は、「グランドオーダー」のたった一言で利用される。一体を剣に、一体を超大型の銃、一体を弓矢に変え、銃で拘束後、弓矢と銃で攻撃した後即破壊、止めに剣を突き刺すとポイ捨てみたく、或いは叩きつけるように投げ飛ばし、「アーイズ」(必殺技だと一枚でこれ)「finish」強化門、カード状の魔力をいくつも突き抜け、足に力を集中させながら加速し、剣ごと蹴り抜き爆散。
「方法を舐めすぎたかな」
爆炎が晴れると姿を現すオーマ、一撃で殺さなければ即全回復するうえ、毒を流した状態で長時間粘ることでようやく倒せた歴代のホッパーマンの力を受け継ぐものは伊達じゃない。しかし、攻撃の仕方故に威力が分散し、何とか生き残っただけ、この者の前では無力。それを悟ったか、究極の一体を召喚後、消滅するように逃走を図る。
「逃げるの?良いよ?逃げれたらね」
首を掴まれ逃走を強制中断。仮面がなければ息遣いの分かる距離まで迫り、片手間に究極の一体を大きなクワガタに変え、外せる上に離れた位置で操れる剣先を突き刺す。突き飛ばしたオーマにクワガタを二度ぶつけた後、挟み込みながら上空に運ばせ、「finish」しつこく追いかけるカードとキックによって、大気圏外でオーマの短い生涯を終わらせた。
「帰るか。ただいまー」
変身を解除し、即刻帰ろうとした影に猪が後ろから突進をしかける!!?
「ご主じ~ん♪」
「たっつぁーん!!???」
「はいはい」
(ドラゴン!?)
「いい加減ご主人に突撃掛けるのやめーや」みたいな声がオーロラカーテン越し聞こえる中、ひょっこり現れた龍がキョロキョロと辺りを見回し「落とし物は無いな」と確認して同じオーロラカーテンで帰っていく。
「何だったんだ今の……???」
今になって浮かんでくる既視感、確実に有るにも拘らず異様なほどに何もない者。
「ディレ、夜渡やんけ!!???あいつらしい」
「あぁ、逆なのか。これ(ブルータルファイル)があれ(ブレイクコレクター)に似せて作られたから」
「あぁ」
「強いねぇ、何者?」
「超越者かな?今ので1%も力出してないぞ」
「「えぇ……」」
「あの爆発が出せて地形に傷無しってのは不自然じゃないか?」
「「地形破壊は三流の仕事」あいつが力を振るう者によく言う言葉だよ。まぁ?地形破壊するだけなら扱いきれなくてもできるしな。どうあれ地形破壊しないよう、結界でも貼ってたんだろ?じゃなきゃ虚無化かな?」
虚無化……あらゆる物を消し去る事の出来る夜渡に発現した力。この力故に上限無くあらゆる物を取り込み(限界を虚無化)、最適化(無駄を虚無化)、無力化(存在を虚無化)できる。真に無限の力でもない限り、どれだけの力が在ろうと知覚する事は出来ない。
「ついでに、ディレイドは元々「ルイン」って言う回復特化装甲だった物だ。制御しようとした能力がルインの由来、全てを破壊する法則から外れた力。回復特化装甲はその力で体と融合し、呪いの力を受けて変質、夜渡の手によって最適化された姿だ」
この後、馬車で待機していた連中と合流、ギルドへと向かった。
高い壁に囲まれた戦闘商街の中は、中世ヨーロッパ、つまりよくあるファンタジー作品の様な町並みであった、が、一部が壊れ、崩れていた。焼けている物もあることからおそらく、竜獄と竜騎が戦闘になった結果だろう。
ギルド―アルター王国・戦闘商街支部―
陰都支部の物よりも大きく、焼け跡も何も無い小綺麗な建物。内部の造りは凡そ一緒の様だ。ただ、内部でスペースを借りている飲食店や武器工房が幾つか在る。
「街の修理に人を割くのは最もだが、住居スペース紹介してくれないと困るんだが……?」
「なんでお前はそう自分勝手なんだ」(怒)
「止めんか!」
「落ち着け!」
夜宵の発言に頭を突っ込む篠田弟と、それを止めるハクノと篠田兄。そしてそこに、不変の顔のまま突き出された夜宵の拳。この拳は、あと一歩遅ければ確実に顎を捉え殺していた。この二人(夜宵と篠田弟)に浮かんでいる紫色の亀裂が、周囲が休息を強要する理由になりえるのだがな。
「夜宵は今のところ休息無しだからな、こっちとしては休んで欲しいんだが……」
「了解しました、メイドを一人、案内させましょう。お願いできますか?」
「はい、承りました。では、付いて来てください」
「そうそう、これが欲しかったんだ」
一人のメイドに案内され歩く街、そのほとんどが倒壊していないのを見るに、原因となる戦闘の範囲自体は小規模だったのだろう。地図を見るに、街の中心に王族貴族の居住区、ギルドは割と外側に位置し、壁の周辺はチョコチョコとある騎士の駐在所以外は一般人の居住区である。今通っているのは商業区、その中にも自身の住居となりえる物は有るわけで……。
着いたのは商業区と居住区の外れ、二階建てのアパートだ。左寄りにある扉を開け、中に入ると直ぐにカウンターが目に入る。他にも、入って左の方には、ある程度広い空間にテーブルとイスも有り、共有のスペースだというのは直ぐに解る。ただ、見た限り一階に居住スペースは3か所程しかない。
「少しお待ちください。手続きをしてまいります」
「俺も行こう」
パパっと手続きを終えたら、メイドさんとは別れて二階へ。二階奥の方を三つの部屋を使う手筈、一階もそうだが奥の部屋は一人用で少し狭い。上下階共に、食堂、浴室の様なスペースは無く、タンスや襖の様な収納スペースも、机も無い。
「温泉、でなくとも汗流せる場所……有ったかな……?」
荷物を降ろし、魔除け厄除けの札の他罠や結界も貼り、張る気が無いので風呂探し、着替えをもって外へ。
廊下に出ると聞こえるはしゃぎ声をスルーし、外で町の修繕する人々も無視して練り歩き、1時間ほどだろうか。
「汗を流せるような場所、無いな?」
無かった。食事周りは十分施設が有ったのだが、風呂は無いのだこの町。つまり、この町は全体的に汗臭い。探す事を諦めギルドに聞きに行こうとギルドに入る夜宵は、職員から直ぐに声を掛けられる。
「おっ!夜宵さん、少しよろしいですか?良い話ですよ」
「風呂の場所でも教えてくれるんですかね?」
「夜渡の国になら一家に一つは有るんですけどねぇ、ギルドにも有りますけど職員限定ですし」
そこに一言残していく職員曰く、「近くの森に川が有ったはずですよ?」とのこと。
「まぁ、それは良いとして。先ほどの戦闘の参加者は、ここ(アルター王国)の王の厚意で報酬が出るんです。で、貴方への報酬がこちらです」
このギルドやアルター王国等で使える金貨がざっと百数枚が袋に入ってドン!と置かれる。ちなみに金貨1枚が1000000ベルである。
「加えて、護衛分の報酬と……こちら、あなた宛ての荷物です」
「4つとも?」
「はい、4つとも」
見た目は只の段ボール、実際は厳重な防護術の施された物……自身が触れた瞬間にその魔法も消えたが。差出人には「アカシック」という名が記されている……うん、まったく覚えの無い名だ。
袋は返却し、一度帰ろうかとも思ったが、何があるか分からないので迷惑をかけないためにも、川があるという森へ向か……。
「あっ、森へ行くんでしたらこんなのが有るんですが、如何ですか?受けてみませんか?」
「……OK、ついでにやっておこう」
「はい♪では手続きを」
緊急任務、急を要する際に張り出されるクエストなのだが……「救いを求めて」癒慰の草の採取20個……先程の戦闘での怪我人の手当てをしようにも全員分無いそうだ。
「ゲームだったら随分閉まらんクエストだな」
「いきなり出てくんな童貞。陰の呼吸使うには邪魔だ」
「あん?」
陰の呼吸……影月の家系に伝わる呼吸周りの術の一つ。使っている間、他人の視界に映っても注目されなくなる物。例えるなら、背景やその他になる術。少々、体力を消耗するが、休息に使うための技と、慣れている事前提な為、ちょっとちぐはぐな事になっている。
陽の呼吸……影月の家系に伝わる呼吸周りの術の一つ。使っている間、少し注目を集めてしまうが、身体能力の大幅な上昇が見込める力。かなり体力を消耗するが、普段から使っているため失念している。
アルター王国―戦闘商街―の近隣の森
この辺、特に名前は無いのだ。あっても自分たちの領土だと勝手にいろんな名が付くだろう。
陰の呼吸で息を潜め、不要な戦いはせず、目的地に到着する。そこは少しだけ開け、日の差し込む中に癒慰の草などが生えている少し幻想的な空間。伝説の剣の一本でも刺さっているか、誰かとの思い出の地とかそういう要素が有ったら面白そうなくらいに。
「……場所は把握した、先に汗を流そう」
「冷たい水でな」
少し頭を巡らせた後、一度その場を後にしようと向きを変えた夜宵。その目に映ったのは、「霊的だが死者では無い……端から肉体無き存在として生まれついた人型の何か」が異様に小さい、まさに「森の精」の様な、同様の存在に教導している姿だった。
「今、私の右手に有る物が「癒慰の草」、左手に有る物が癒慰の草によく似た「死慰の草」です。さて、……どちらが癒慰の草でしょう?」
両手を後ろに回した後によく有る問い。これが難問として成立してしまう、その訳が、見た目がとても似ており、素人では見分けがつかないからだ。現に森の精の様な者達(と言っても二人)は全然見分けが付いていないようで、近づいては首を傾げてを繰り返している。
「人じゃ無いな。知ってるか?」
「な~んにも、まぁ、精霊妖精の類だろうな。ちなみに、見分けは付くのか?」
「右。日がある場所で裏から見ると紫色の筋が見えるのが「死慰の草」。同時に使うと毒が加速するぞ、生息できる環境も似てるな。同棲してるせいか、癒慰の草の方に若干毒が混じってる」
「ま~ずい奴では?」
「分けた方が良いだろうな、……先に分けとくか。汗流すのは後回しだ」
「……」
「ん?どうした?」
目が合った、というかすごい観られていr……。
「「ニンゲンだー!!?」」
「おーちっこいの」
慌てふためき走り回るちっこいの、それにのほほん童貞に呆れながら、仕分けを始めるために踵を返そうとした夜宵に、精霊?から声がかかる。返事は返すが足は止めない。
「見えてるんですね?」
「見られたくないなら工夫して欲しいが?」
「……何故?」
「何故?スピリチュアルな側面は得意だから?」
「何を企んでいる?」
「何にも?」
「……」
「「?」ばっか使ってんなこいつら」
「何か疑われてんな。精霊脅してトンデモ武器造らせたりとかあったんですかね?それとも、人が森を荒らしているか」
「どっちも有りそうだな~くっそどうでもいい。……いつまでかかる?」
「しばらく」
「へーい」
黙々と仕分け作業を進める夜宵を、木の影から観ている精霊?達。
「向こうさん、興味自体は有るようだが?」
「気にすな。無駄口叩いてる暇があるなら手伝えや」
「NO」
「じゃ黙ってろ」
「うい」
少しして……。
「ちっこいの!」
「なか~ま?」
「「……」」
ちっこい方の精霊?の目の前に、興味で出て来た子の霊が二匹。
「「オバケ~!???」」
「ワハハー♪オバケだぞー」
「だぞー」
「こわいぃ」
「来ないで!」
驚き、逃げ惑う霊に、笑い、追いかける霊。かなりデフォルメな見た目をしているので傍から見たら可愛らしい。
閑話
「童貞」
「あん?」
「「アカシック」って知ってるか?」
「アカシック……レコード?」
「意味は、「虚無、虚構」平たく言えば空っぽ、何も無い」
「……該当は一件。「あれ」程虚無で全てを持つ奴は居ない。関わるのは最大の悪手と言いたいが、お前は関わること前提だろうな。もう見てるぞ」
「夜渡か」
「そうだ、数多有る呼称のひとつは「アイン」」
「「アイン」は確か~、ドイツ語の「1」、ヘブライ語だと「目」、だったか?」
「あぁ、そうともとれるのか。ぴったりだな」
「と、言うと?」
「アイン(0)ソフ(∞)オウル(000)、つまり零は「無(虚無化)」を、一は「始まり(後から生まれた原初)、頂点(吸収&最適化された全知全能の圧倒的戦闘力)完全(100%)」を、そして目は「アインの紋章」だ」
アインの紋章。涙の様に垂れた舌、牙の様に鋭利なまつ毛、大口を開けた様に開かれた眼……これがアインの紋章。現れれば、只の演出として、舐め腐った態度で全てを滅ぼしうる物。
「過程の虚無化で全部終わるからな、舐めプの証と演出でしか無い」
「この世界の存在なら、そもそも俺に支援することがおかしいしな」
「王様は?」
「あれは名前を誤魔化したりしないだろう。ついでに直接渡したりメイドに頼むだろうし」
「見抜けない裏を感じるほどの裏表のない性格か……」
しばらくして。仕分け、採取を終えた夜宵は、川沿いに森を歩いていた。汗を流すには浅い川だったが、途中に意図して作られたような、2メートルと少しの段差を見つけ、そこで滝行の様に汗を流すことにした。もちろん荷物の確認ごとまるまるカットだ。
帰りの道中、劣勢の人間を助けることが有れば、自分が襲われることも有ったが、刀で首を刺し、頸動脈を広げながら首を落としたのでケガはなかった。
ギルド―アルター王国・戦闘商街支部―
「……数、大きさ、上々ですね、傷も無い。問題ありませんね。こちらが報酬です。よくできましたね」
「解ってるとは思うけど、日の光の下に行けば紫色の筋を確認できるし、手間こそあれど難しくは無いだろう?何だったら少し剪定でもして光を入れてやればいい」
「知ってます?あんまりやりすぎると「自然破壊・環境破壊・生態系の崩壊」でペナルティがあるんですよ?これでも家は「理の監視者」なんて名でやってるんですから」
「夜渡の国の宗教「昇進天花」の傘下のね」
初出だよな?
最大手ギルド「理の監視者」の関係を見たのは「アカシック」から送られてきた荷物に中の宗教「昇進天花」の勧誘パンフレットに記載されていたものだね。
「お?入りますか?」
「冗談きついね。俺は神と神を信仰する奴らは信用しないんだ」
こんなんでも童貞やらカルト教団をたったの4年程でいくつも潰してるからね。
「加えて、供物も祈も無しなんておかしいとしか思えないしな」
「あぁ……、やっぱりそう思います?」
扉が有る、開く、入ってきたそれは夜宵を一目見ると声を上げながら飛びついて来た。
「Hey少年!私とs○くs!!(!?)」
夜宵は紫色の罅を顔に入れながら反撃のため構えるが即後退。飛びついて来た変態も空を蹴り即座に体勢を立て直す。
「どうした?」
「強いな、そして面倒だ。首を落とすつもりだったんだがな」
(その上で引いた?ってことは相手は夜宵の反撃に対応できるのか……鬼斬!?)
鬼斬……影月夜宵の曽祖父が異世界から持ち帰ったという二振りの妖刀の一本。鬼を殺し、鍛え、寄せ来る鬼を全て切り倒したそうな。安全に使うために一般人では確実に死ぬ程の殺気で抑えるが必要が有る。
もう一振りも帯刀している。そちらの名は己龍、曽祖父の友人の物だったとか。
「危ないなぁ!私は只s○xしたいだけなのにぃ」
「誰がするか、性病患者と性行為なんて」
「ゑ?性病?」
「梅毒、性行為やキスで移る感染症だよ」
「……しばらくしちゃ駄目?」
「完治してから暫らくは無しだなぁ」
変態は見るからに落ち込んでいる。
強者の睨み合いかと思ってたが、医師の忠告と落ち込む患者だった。何を言っているか解らねぇと(略)。
ここで、さっきの職員さんに変わって今までにも出て来たエルフ風の職員さんがが来ますよ。
「嘉島さん、問題は?」
「はい、起こしません」
「やはり、彼にも目を付けますか」
「当然」キリッ
「キリッっじゃねぇよ。どうしてこう脳内ピンクの突撃系女子に絡まれるかね?(怒)」
「クッ、先約が居たか。……あれ?絡まれる?」
「なぁ?、クエスト受けてから日を跨ぐと報酬減ったりするか?」
「物や時間帯によりますね」
「ならヤれる可能性が!」
「無ぇよ黙れ」
「はい」
「なんなんだ此奴は?」
「……このクエストを。あっ何時から開いてる?」
「8時です」
「ここで食事をとることは?」
「可能です」
「OK、了解した。朝採ってくる」
また癒慰の草の採取クエストか。
それ以外受けられないも同然だからね。
「今日はこれで」と夜宵は帰り、就寝した。罠と札まみれの部屋で。
月明かりがアルターの街を照らす夜……メイドさんが肩で息をしながら走る、何かから逃げるように。物陰に隠れ、息を整えようとしだすと聞こえる、自身の物では無いコツコツという足音。静かさを心掛け、距離を取ろうと影へと向かった瞬間、後ろにいたはずのそれは、影から姿を現した。恐怖に悲鳴を上げる暇も無く、メイドさんは死神を思わせる大鎌で首を刈り取られた。
朝、7:10、夜宵の部屋の前に一人の女性が現れた。
(まだ、起きていませんよね)
女性はドアノブに手を掛けr
「ノックも無しとは非常識じゃないかね?」と声が掛かる。
「まぁ解っていた事だが。入るといい」
「……失礼します」
驚愕と硬直を短時間で振り払い、平静に戻って女性は扉を開けた。
「おはようございます影月様」
「やぁ、おはよう「ロゼ」」
部屋には男性が一人、有るはずの無いキッチンで料理をしていた。恐らく彼が「影月夜宵」だろう。そう考えた女性は同時に疑問を覚えた、何故こちらを知っているのか?少なくとも、彼の何かしらを知っている人伝の情報だったからだ。例えば、この宿の資料からとか。
「……初めまして……でしたよね?」
「だね、私は君を一度見かけただけだよ、街中で、夜に、メイドさんと鬼ごっこでもしていたのかね?大鎌まで持って。椅子は無いが座るといい。粗茶しか無くてすまないね」
畳みかけられた言葉に幾度も、段々と強くフリーズしてしまう。何時?いやあの時間しか無い。何処に居た?人が寝静まる時間な上に屋根も見た。思考を巡らせながらも生成を装って(ほんの僅かに装えていない)指示通りに、テーブルと言うには小さい、ちゃぶ台にに近くに座り、出されていたお茶に手を掛け……かけた所で(ハッ!)と我に返り飲んだふりをして置きなおす。
夜宵の部屋が見える屋根の上、童貞がメタ目に呟いていた。
「ポンコツメイドか、あの嬢ちゃん」
ここで断定するか?初対面に知られたくない事全部知られてたら怖いだろ。お前だと細工しようとした先で夜宵に会って「よう童貞」からの手口全公開だぞ?
怖!?なにそれ怖ッ!?
「テンパりすぎて情報が探れない、か?じゃぁこっちから聞こう。朝食は食べたかい?」
「いいえ、まだですね。皆様の分もこれから作ろうかと思っていましたから」
「気遣いの出来るいい子だね。でも残念な事に、私は基本他者の作ったモノは口にしない主義でね、料理は私がやるよ。それでも、こっちの料理を知らないから教えて欲しいかな?一週間後くらいから」
「お望みなら今からでも。しかし、何故一週間を?」
「食べ合わせって物が有るからね。知らぬ内に(結果的な物であれ、直接的な物であれ)毒を盛られても困るから。しばらくは生かすつもりだろうけど」
「……どこまで知っておいでで?」
「そうだねぇ、……君の所属、本名、一時期奴隷や娼婦、景品だった事、服の下の傷の原因、とか?生まれまでは見れて無いかな」
言い出せなかったロゼの服装について言及しよう。
言葉選びェ。
この国のメイド服ともなる彼女の服装は、クラシカルなタイプだが袖が短く、某画像ではスチームパンクの方が近いかもしれない。黒にも見える濃紺では無く、瑠璃色と白色(フリル等)の配色。彼女はこれに加えて、外付けの袖とズボンを追加しているね。
「何時?」
「昨日」
「どうやって?」
「君を見て」
「……」
警戒。何を見たのか、どうやったのか、全く予想の出来ない相手に。
ハッタリでも何でも無い、予想など出来るはずも無い。彼の物は魂から全てを読み取るのだから。
夜宵は弁当箱に朝食を詰めると、ロゼに「少し待ってて」と言い部屋を出る。向かった先は暦の部屋だ。
触れると警告の微弱な電流が流れる扉を無理にこじ開け(消音を中心に結界や呪符を貼っているからこうなる)、腹に膝と多少の体重をを乗せる。
「起きろー」
「グエッ!??う~ん……」
(妹さん見習って少し暴れるかな)
暦の朝はいつも、実の妹2人に叩き起こされて始まる。
「ほら起きろアホ共!朝だぞ」
「「ギャーッ!」」
ただ、今回は夜宵が相手なので8割がたは的確に急所を突き、再び眠りかねないのであった。
「「殺す気か!」」
「これくらいじゃ死なんだろ、人間じゃあるまいに。飯で来てるぞ、ギルドで食べよう。ほら、着替えろ」
「「はぁ~い」」
荒々しく叩き起こされた性か、まだおねむである。もうおねむという事は無い……はず。
着替えを待つ間に、メイドと飯に、癒慰の草を回収し、ギルドへと向かう。
到着は大体08:03。既にギルド内で待っていたハクノと皐月と同じ卓に暦とロゼを着かせ、先に食べているようにと言いつけ、夜宵はクエストの手続きを行う。もちろん終わらせたのである。ついでで童貞もいる。
「早いんだな2人とも。何してたんだ?」
「「朝のランニング」バイトも無いしね」
「夜宵君と走ろうと思ってたらさぁ、クエストに行ってたんだよ?酷くない?酷いよね」
「もうか!?早いな」
「金策する身になれアホ共」
「ちなみに、このメイドさん誰!?聞いてないんですけど!エッチ!」
「エッチだ……!」
「ふふ、お望みとあらば……」
「公共の場で朝から何言ってんだ?アホ共。あの王がこっちに寄こしたんだろ?」
という体なんだろうなぁ。なんて考える夜宵であった。
「えぇと、どれが誰の物でしょう?」
困ってしまったメイドさん。なんせ初めてみる物だからどれが誰の弁当箱か、配膳しようにも分からない。弁当箱は基本一律に、円柱状の物に持ち運びやすくするための帯と、箸入れの箱が付いた物。
「中身はさほど変わらん。が、指定は有ったよな?」
リアル童貞が次に述べる物は……。夜宵の物……満月と桜に花びらの舞い散る夜景が描かれた物。皐月の物……三日月と紅葉の夜景が描かれた物。ロンシェンの物……木の実を入れる箱の中に緩衝材が敷かれた物。これを、木の実が描かれた巾着袋に入れて持ち運ぶ。
暦の物……紅い三日月に西洋風の城影になっている夜景が描かれた物。?の物……紅い満月に西洋風の城が影になっている夜景が描かれた物。
ハクノの物……青空に浮かぶ朱色の太陽、風の走る草原が描かれた物。ゴンの物……太陽が見えているのに、青空が見えているのに、黒い雲に覆われたかのように雨の降る草原が描かれた物。
ロゼ……紅一色。
それぞれが自身の物を取り、「いただきます」といつもの文言を言ってから食べ始めてすぐ、ハクノが次の話題を出した。その前に、今日の朝食は、川魚の塩焼き、麦ご飯、切っただけの野菜のサラダ、澄まし汁である。シンプル。
「夜宵君、昨日のことについて聞きたいんだけど」
「またか?」
「またです。白い姿に変身したことについて」
「知らねぇよ」
カットされたギルドまでの移動中にこんな話が有った。寧ろない方がおかしいだろう、力の有る物を欲するモブ、兎にも角にも突っかかる篠田弟、じゃれつくハクノと皐月がいるのだから。疲れてたのであしらったのだが。
「思い返すならやたらと体の調子や見たものがおかしいとは思うが」
「それは私も思った。なんか腕が太くなってたりとか」
心器と身紋だからな、常識の範囲内にないと知覚しずらいんだよな。
今の世界では混同されてブレイブだけどな。この世界で心器、身紋呼びは基本お前と夜渡だけだろうよ。
「お前はがっつり「変身」とかいってやってただろ?」
「その言葉そっくりお返ししますぅ」
「お姉ちゃんは……あー、変身してないねぇ。こよみんは?」
「したぞ?」
「ん?あ~、紅いの」
「そうですね」
「黙って喰え」
「「へーい」」
「みぃぃぃ……」声のする方を皐月が覗くと、ペタンと座って皐月を見上げるロンシェンがいた。ハッ……!
「夜宵君、ロンシェンの分は?」
「巾着袋」
「あぁこれ?おやつかと思った」
指定された袋の中の小箱から木の実を出して、ちょっと意地悪、少し離れた位置に持っていって飛びついたロンシェンに合わせて木の実を上げる「ほれッ、ほれッ」。2回程で泣き出しかけたのはさすがに可哀想だったので、3日目の跳躍で取らせてあげた。夢中になって木の実に齧り付く様はとても可愛らしい。
食べている内にまばらであれど人が入ってくる。時計も時間用の鐘も無い(緊急時にならす者は有る)この国では、日が昇ってしばらくしてから動き出す位には時間にルーズなのだ。
入ってきた人達の中には、食事の匂いに釣られてシバかれる奴もいれば、ロンシェンに触ろうとしてシバかれた奴もいれば、夜宵に「おっ!昨日の」と近づいてシバかれる奴もいた。
「一回戻ろうか」
食事を終え、弁当箱を回収した夜宵が声をかける。元は、自分だけが帰って昼飯の準備をしている間に仕事を探させるつもりだったのだが、何分、昨日帰ってから会話をしていないのでそうはならない。一応、夜宵が先に食べ終わったタイミングでその話は食事中にしている。
帰り、戦闘用の服なんて無いがそれっぽいものに着替え、再びギルドに戻ってきた。クエストボードの前、4人は仕事を探す。
「決まったか?」
「夜宵君はどれ行くのさ?」
「これ」
まーた「癒慰の草の採集」のクエストだね、言うてこの手の物以外に受けられる物は無いが。なんせ、夜宵はギルドランクC、夜宵以外まだギルドランクは最低値Dのだから。ちなみに、ランク有りのクエストボードの最低値はCなのだが、急を要する際に出され、ランクを指定しない「緊急」のクエストボードから選んでいる。
他にも癒慰の草の採集は多く、よく見れば採集してくる「場所」が違うことが分かる。その他にも、(破棄された建造物の修復のため)石材の調達や(ショップの倒壊で一部食品がダメになっている)食糧調達等が有る。
「いや、全員で行くんじゃないのか?」
「俺は一人、他は二人一組で行く、金策と同時に修練でもあるからな」
「ん?4人じゃ?」
「行けば解るさ」
「行ってきまーす」
クエストを決め、各自仕事場へ向かう……その途中、街を出てしばらくした辺りで、ハクノ(皐月、暦)の後ろから人影が駆け寄ってくる。彼等彼女等が見たものは全く同じ、見慣れた者、夜宵だった。
「夜宵君?もう終わらせたの?」
「分身体だ気にするな。この世界に普通に有るか解らないからな、人目の有る所じゃ使いたくないんだよ」
「あぁ、……なるほど?二人一組……じゃぁ他も」
「分身体が行ってる」
「本体は?」
「基礎トレーニング」
「メディック」「ポイズン」と鳴いていた小箱の同胞の力でなんと、心臓(本体)を除いて8まで頭数を増やす事ができる。「ドッペル」と鳴く。生成された分身は、3体が各々のサポート&強化に、他は探索、金策、後に生産をするものも出てくる。
本体の方は、汗を流しに行った場所から川沿いに下り、大きな滝となっている場所で、水泳、滝行、水上走り(機動力)、滝登り(機動力)、魔法?による水噴射でのホバリング(魔力)等をしている。……たまに熊や鮭が落ちてきて、死ぬ。
「分身出来たんだ?!」
「初めての試みだが?」
「初めてでこれかぁ~。やっぱりセンスがある人はすごいなぁ~」
本人は小箱の力を自覚していない。そもそも、その力の存在を常識として捉えていないと自覚が難しいのが心器、身紋の特徴である。
「つまり!」
「黙れ」
「はい」
なにを言おうとしたんだ……?
下ネタ。
だろうね。
「兎にも角にも、お前は基礎トレーニングからだ。お前自身が知覚していないあの力、上限が見えなかった。状況次第で能力が変化するのも見えてる。最悪、体の許容量を超えるぞ?」
「……パンク?」
「イメージとしてはちょうどいいだろうな」
「ちなみにどうやって見たの?」
「お前は感情次第で大きく能力が変化する、怒り辺りだと特に飛躍的にな。この世界の心器、ブレイブだったか?あれにぴったりだし、自覚の無い見た目の変化と合わせて発現してるとみていいだろう。俺が昨日の戦場に向かう途中に聞いたお前の破壊音と、到着した後の破壊音は、俺の到着と民間人の避難で安心した結果能力が低下した分差が出ていた。以上だ」
「……つまり?」
「危険な程お前は強いけど、限度が有るから、限度を広げるために鍛えような?」
「は~い」
暦編?
「兎にも角にも、お前(暦達)は緊張感と技のレパートリーを増やすとこからだ。その体、鍛える意味は無いだろうしな」
「回復力が体を最善の状態に持っていくからな」
「技か……イメージすれば最適ではなくとも出せるらしいし、吸血鬼っぽい技でも……」
この二人、元の世界だとそんなに戦わない、というより戦いにならないのだ。故に、戦いの為にと言われても思い浮かべるのは難しい。今はそれだけの強さを持っているとだけ覚えてくれればいい。
「ゲームはやってるんだろ?」
「たまに」
「そんな感覚から始めたら良いんでない?よくは知らんが、出が早いとかなんとか、後隙がどうとか」
「あー……」
「まぁ、こちらで考えておこう」
「俺も俺でやることあるしな」
皐月編?
「兎にも角にも、お前は……どうするか?」
修練の時間が夜宵より長い皐月は、基本的な身体能力は夜宵に勝る。対し、夜宵はそれ以上に手札が多い。
装備、魔力等による強化を覗いた場合、身体能力はこの二人は人間のほぼ上限に位置し、退化を防ぐ以上に修練する意味は薄い。身体強化にしても十分に慣れているため、必要なのは……。
「体の外での魔力操作が必要かな?」
「だな、激流槍や水輪刃も使いたいしな。俺は本体が滝でホバリングしているが」
「私も行く!」
「却下。風属性なんだからどこでもいいだろ」
「ちぇー。じゃぁ取り敢えず、風の鎧をまとう感じでこう……」
捲れる物は無いが、吹く風に衣服が揺れ動きだす。割と簡単?
「出来てる?」
「出来てる」
「やったぜ☆」
実際の所、強者格と比較すればまだまだと言わざるを得ないが、初心者としては十二分の出来である。
ちなみに、これどういう技?
旅人の風衣、もしくはアーマー・エア。中級、戦闘に使えるうちの最下級の風魔法で自己強化系スキル。バフと言うより装備をその場で作るイメージ。強化版だと弾丸を弾いたり、近づけなくしたりできる。体がちょっと軽く感じる。後、彼女の場合、軽い静電気が走っているね。2つあげた名前は翻訳にも近い関係だけど厳密には違うんだよね。赤とレッドくらい違う。
今回、基礎トレーニングを並行しているハクノの選んだクエストは「建材の調達」。と言う訳で森の中でゴロゴロしている岩を、ゴン、夜宵と取りに来ました。目の前には人の背丈の1.5倍程の大岩が有る。
現在のゴンは人に化けている。目立つので金から狐らしい茶色に変えた髪、碧く少し濁った目、綺麗な白い肌。青を基調とし、銀や金、黒の入った、袖が独立して脇が見えたり、ミニスカートの様な袴の着物。超絶美形にナイスプロポーション(APP18)。
「改めて、岩なんだね?」
「街中観てるだろ?岩をレンガ状にしたものをセメントでくっつけてんだよ。コンクリートや普通の石畳も有ったがな」
「やっぱ中世ヨーロッパの建材と言ったらセメント、コンクリート……だっけ?」
「知らんしどうでもいだろ」
「セヤナー。加工するならある程度大きい方が良い?」
「だろうな」
「よし」
「「よし」じゃない」
「ほえ?」
おお、見よ。そこには自身の背丈の1.5倍あろうかという大岩を持ち上げようとする少女がいるではありませんか。
「アホなことするな、腰をヤるぞ」
「ふん~~~……ダメ見たいですね」
「だから」
「ふん~~~……」
押してダメなら引いてみろ、と言わんばかりに持ち上げられないからと今度は押して転がそうとするバカの図。もちろん、ピクリとも動かないが息は上がっている。
「ぜぇ……ぜぇ……」
「砕くか小さいの選ぶかしような?」
「はいぃ」
ドロリと溶けるようにずり落ちるハクノを余所に、夜宵は軽く岩をノックし当たりを付け、其処に魔法で強化した蹴りを叩きこむ。敵の本拠地から脱出するか、或いは乗り込む時に蹴りを入れた壁や扉の様に、その大岩は吹き飛び砕ける。
「狐は手伝わないのか?」
「……何だ此奴……?」
「口に出すかそれ?」
「夜宵君の障害物粉砕キック(仮)相変わらずの破壊力」
狐は警戒に集中し、夜宵(分身)とハクノで岩を運ぶ帰り道である。一陣の風が過ぎた直後、夜宵が上へ岩を上げると水を纏った拳をハクノの方へと突き出す。すると、その拳から多数の雫が飛び散りハクノを少し濡らすと同時に、体の中心以外が小さな穴だらけのホッパーマンが現れる。
「うぇ!?ナニコレ!?きもい!??」
「高速移動の弊害、かな?仕留める」
言葉以外でショックを受け、穴が開いたホッパーマンは泣きながらも帰ろうと背を向け、フラフラと歩きだす。が、即殺を決めた夜宵の横薙ぎの飛び蹴りを首に喰らい、倒れる途中にさらに、首に回し蹴りを喰らい昏倒、止めに激流槍で削る様に心臓と脳に穴を開ける。おまけで甲殻を剥ぎ取る。
「速い……!」
「しゅごい……!」
「「何だ此奴……?!」」
「練習だが、遊び半分だな。物騒な奴だ」
これが、「逃げる」ではなく、「帰る」と表現した理由である。子供がゲームをするように殺しにかかったら、殺された。ただ、それだけの話である。
どういう動きをすれば倒れる前に二度蹴れるんですかね?まぁ、予想は付いてるが。
彼女たちも疑問に思ったそれだが……。まず、横薙ぎの蹴りを叩きこむ時、左足は曲げている。ヒットした瞬間に、左足に結界の足場を生成、跳躍、とんだ先にも生成し、跳躍で接近したら着地しつつそのまま蹴りを叩きこむ。勿論だが筋力、跳躍力を中心に自己強化をしている。終わり。
「呪術、体術に結界?」うわっ……。
「サスガダァ……。私も自己強化しなきゃ……!」
「してなかったのか?」
「……」
「おうこら」
少し微笑ましく、遊戯(鬼ごっことか)で逃げるように帰っていく。
街を出てから凡そ2時間後、戦闘商街のギルドの前で他の2組と合流、清算。契約金、仕事の精度、云々かんぬんしている内に、職員2人、嘉島と雑談が始まった。
「これって多いんですかね?」
「仕事内容と比較するなら多いですよ?緊急扱いにしてるぐらいですしね」
生活費として考えると?
具体的には決めてないが、アルターでの買い物は、基本的に安い。と言うのも、他から搾取される食糧も養殖は無いし、農家の産物だと質も量も悪い。その他、例えば金属、鉱物は収集する場所は基本無いし、観光地としての価値も無い。と、売買での利益は基本無い程安い。
「加えて、あなた方3人分の別の報酬です」
「これは?」
「昨日のアレだろ?」
「はい」
昨日のアレとは勿論、ホッパーマンとの戦いの事。夜宵の半分にも届かないものの、なかなかの量が有る。
「おぉ!……中々?」
「これが全体のどれ位になるんですかね?」
「あの戦いでの報酬の、少なく見積もっても6割以上が貴方方4人に入っていますよ」
「あれ!?そんなに?」
「単純な数なら夜宵、彼が最多です。ホッパーマンにのみ効く毒を全身を斬りつけてノータイムで侵すのをあの数は中々の離れ業ですよ。中々面白い方ですね」
そんなことしてたのか……。
毒が全身に回る時間が惜しいので全身から回らせた。かなり力技だね。
「で、その夜宵は?」
「また仕事に出ましたよ?」
「はやいなぁ」
「なんでみんな単独なのさ?」
「余裕が無いらしい」
そんな会話をしていると後方から扉の開く音がする。夜宵(金策担当の分身体)だ。
「お帰r」
「そう思うんなら働け」
「はい」
「一か月先の大会に合わせて鍛え上げるってのも割と無茶なんだから。休憩時間は取るから今はキビキビ動け」
「はぁい」
「その大会、町の修理に時間と人でを回しているので開催が伸びましたよ、二週間ほど。後一ヶ月半ですね」
「ありがとよ。それでもまだまだ時間は足りないがな」
こんな会話の後ろで、職員さんが「Hey、パスパス」と言わんばかりに主張するのでギルドカードを投げて清算してもらう。窓口へ向かいながらクエストボードを確認、身の丈にあった代物を瞬歩で取りに行く。
「こいつにするか」
「あ、ついでに「山有り、谷有り、熊がおり」も持ってきてくださーい」
「?あいよ」
「あ~、その手使ってるんだ。上がるのは早いけど、下がるのも早いよ?」
「上がる下がるはランクの話しか?そんなこと言ってる余裕もないんでな」
「その手って?」
「クエストのついでに「自己防衛」という体で別のクエストをこなす。ランクcだと戦闘系のクエストはないも同然だし、早くランクBに上がりたいならそれくらいしかないらしいんだよねぇ」
「基本的に心証よくないんですよ?場合によりますけど」
「今は~?」
「好印象です。というのも、騎士達Aランク相当の人達が勇士の育成に回っているとかで人手が無いんですよね。ここのBランク相当の人達はストライカーグリズリーや鋼蜂、スネアスパイダーとか討伐しませんし」
勇士、そう言うにはあまりにも貧弱ではあるが、ハクノ達の同級生等の事で間違いは無い。彼らの事は少し後に話すとしよう。
「そうなってるんだ」
「あいつらを教育しても無意味だと思うがな。んじゃ行ってくる」
「「行ってら―」」
「いってらっしゃい」
こうして、夜宵が午前・午後双方で3回以上と超ハイペースで、他三組が2~3回クエストをこなし続ける事になる。
ギルド―アルター王国・戦闘商街支部―
18:00頃。ギルドのスペースを借り、夜宵達が食事の乗った卓を囲っていた。
「「「「いただきます」」」」
そう、夕飯である。
今回の献立のメインは「フランベルグのステーキ」だ。地域によっては「炎上軍鶏」とも呼ばれるフランベルグは、危機が迫ると全身を炎で包み走り回り、激情すると自身の炎で丸焼きになるニワトリ。油が甘く、全体的に鳥としては軟らかめ肉で、食用の鶏肉としては人気が有る。今回は、皮がパリパリになる程度に焼き、味付けは塩胡椒等でピリ辛にした。一口齧り付けばパリパリと子気味いい音が鳴り、溢れ出した肉汁一部調味料と共に落ちていく。
「ん~~♪旨い!」
「だな。ロゼに手伝ってもらって正解だった」
((結局手伝ってもらったのか))
「ロゼちゃんか~……珍しいね?夜宵君が誰かの作った御飯を食べるなんて」
「…………(飲食店、義母……ぐらいか?)そうだな」
「何故、お食べにならないのでしょうか?」
「小さい(小学生の)頃、親が作った飯がクッソ不味くてな、他人の飯は基本信用しない主義なんだ。何が入っているか分かったもんじゃない。今回はこちらに知識が無さ過ぎた、かなり難しいの判断だったよ」
夜宵の母、その一方は割といい加減な性格をしていた。束縛を嫌い、家を飛び出し、狂気に抗う彼の物が自身の子に最初に振るまった食事は、食べられる物を相性も考えずぶち込んだチャーハンという体の何かであった。その日、夜宵は初めて嘔吐した。
「ロゼちゃんは休みの日とか何してるの?」
「御休みに、ですか。そうですね、…………」
「あれっ?休みとか無かった感じ?」
「まぁ、知ってもあまり面白くはないかと」
「じゃぁさじゃぁさ、なんで体を隠してるの?」
「それ初めて会った時に言わないのな」
「情報が多いから。黙れって言われたし(小声)」
「それは……」
「あえ?!これも?」
「ケロイドとか有るぞ?見たいか?見せたいか?……お前等ケロイドで通じたっけ?」
「火傷だね。羨ましい!このエッチ!」
「は?」
「待って待って待って待って!え?!だって見たから言えるんだしょ!!???その性なる槍で魔(性)の宮を貫いたんでしょ??!」
「直接は見てないしやってねぇよ」
「そういったモノがお望みとあらば、今晩にでも」
「いらん。もう黙ってろ」
「ぷ~」
飯と片づけの時間の後は、夜宵が各々の部屋を回ってマッサージが始まる。
「やったzい゛い゛ぃ゛ででででででry」
「はーい静かにしてね~」
バカ言ってるとこう(健康に)なるのだ。しかし、世界の外側の狂気に巻き込まれたり、挑んだり、抗ったりする奴がこんな痛みで懲りる訳が無い。
「くぅぅ、しかし耐えればこの後エッチな展開に」
「なりません」
なりません。
マッサージで火照った体も冷めた後、みんな寝静まる頃、女性が物陰に1人、何かをしようとしていた。
が、しかし必要な道具が無い事に気付く。焦り探しだして秒経たぬ内に上方から声が掛かった。
「探し物は何ですか?」
その聞き覚えの有る声は……。
「例えば」
全てを見透かし笑うかのように。そして、月明かりに照らされた声の主は……。
「こんな感じの物じゃないかな」
探していた「通信機」を片手に嘲笑を顔に貼り付けていた。
「もう、寝た頃かと思いましたが」
「普通ならね。いや~それよりも、こんなものが有るとは、思わなかったよ」
「それを返しては」
「ダメ」
飛び下り近寄り、やる事が挑発か。しかし、どれだけ小物臭く感じようとも、背を向けようとも僅かばかりの隙も感じられない。
「では最後に一つ。何時それを?」
「朝」
「……」
「まぁそう睨むな。ほれ、帰るぞ」
こうして、彼女は報告も何もできぬまま、留まり続けるしかないのであった。
3日目の昼、糸色暦は人気の無い程度に森の奥へと薬草の採取に来ていた。その帰り、夜宵は分身を解き、機械仕掛けの蝙蝠は美しい女性……人に似た姿で共に歩いている。他愛の無い会話が有るにせよ無いにせよ、その二人の後ろから大きな鉤爪が襲ってくることには変わりない。
女性は襲ってきた鉤爪を持つ手を片手で掴む。体格と腕力の差に驚くも、襲ってきた鉤爪の持ち主である巨躯の狼は背中を中心に纏っていた雷撃で女性を襲う。が、女性の顔が少し歪むだけ、その間に腹部に空いた拳と暦の拳がクリーンヒット。そのまま撃沈した。
「ハッ、図体の割りに大したことは無かったな」
「躊躇いが無いな!」
「どうする?持ち帰るか?」
「だな。夜宵に見せるかギルドに見せるか」
後にギルドから聞いた話である。
雷公……ライコウ。風属性(厳密には雷属性)の狼の魔物。電気を作る袋状の器官を持ち、放出、集束、纏うなどして戦う。通常は非異能世界の狼と同じくらいの体格で、群れるのだが、この個体は一人狼尚且つ巨躯であった。こういった例はまま有る。
4日目の昼、影月夜宵は採取クエストを隠れ蓑に「人喰い毒蜘蛛」を討伐しに来ていた。基礎訓練だけではなく、実戦も経験しておこうと本体で。細い人の腕ぐらいの太さを持つ蜘蛛の糸が張り巡らされた深い森の奥には、蜘蛛の糸で出来た繭の様な物が所々にぶら下がっていたりする。
受けたクエストの採取対象も探しつつ練り歩いていると、5時の方向から蜘蛛の糸が飛んでくる。簡単に回避し、弾道から逆算し、射手の位置を見れば、この周囲一帯の主が姿が有った。
スネアスパイダー……元は只の毒蜘蛛であったが、有る事が原因で巨躯の魔物になった者をさす。習熟した個体の罠は見つけることが難しい。蜘蛛らしく、糸で身動きを取れなくした獲物に毒を打ち込み丸呑みにする。この毒に侵されると、身動きは取れないが意識は有る。
人の気配が無いのなら、また上方に視界が通っていないのなら手を選ぶ必要は無い。「メディック」
蜘蛛は上下左右に動き、観察の後に、毒を吐いてきた。それに対し、巨大な白蛇が夜宵の盾になるよう現れ、毒を防ぎ、夜宵を上から飲み込むようにして変身を終わらせる。
とりあえず斬るか。杖刀アスクレピオスを片手に突進するように接近をしかけて直ぐ、白い糸が俺の手前に飛んでくる。次の瞬間には巨躯の蜘蛛が突っ込んでくるのを見て、スライディングしながら、すれ違い様に下から腹を掻っ捌く。抜けた時には杖刀は無い、掻っ捌いた傷口から蛇の姿で蜘蛛の体内を食い荒らしながら蜘蛛の体の構造を探る。どうにも刀一本程度の長さでは簡単には死なないらしいので切り替える。体内の脅威に逃げ回る蜘蛛を捕捉しながら変身を解除、代わりに夜渡に貰った黒く角と足の無い大きな甲虫の様な物を呼び出し、一緒に現れたベルトのバックルにセットする。
青白い焔がベルトから全身広がる、その焔を境界に黒くゴツイ装甲が姿を現す。紫色の炎が燃えるステンドグラスの複眼、ボロボロのカーテンの様なマント、新明鳥居の様な肩装甲、瓦模様の兜、蜘蛛の巣模様の入った足の装甲を持つ姿へと変わった。
「痛ぇなこれ」
当然である。異形化は、場合によっては骨格や筋肉も大きく変形する代物のため、痛みを伴う。痛みには慣れるしかない。
ファントムゼクター……夜渡産の宿兼兵器で夜宵への贈り物の一つ……の愛称。正式名称は「幽鬼怪棺」。夜宵はもともと巻物に連れ歩く怪異達を収納していたのだが、ボロボロになっていたための替えで、中は幽霊や妖怪といったオカルト系の存在には割と快適な空間となっている。棺がモチーフの黒を基調としたカラーリングで、足は有るが上から見るとほとんど見えない。中にいる怪異達の意思で、ポルターガイストを利用した浮遊、飛行が可能である。
怪鬼……「かいき」と読む。ファントムゼクターを利用することで変身した姿、後にハクノに名付けられた。社や、洋館等のホラーな「場所」をモチーフとした今の姿が「閉鎖形態」。閉鎖形態は、呪素の量に比例した範囲を支配する能力が有る。
ブルータルファイルから「ストライカー」のカードをドロー、カードが青白い炎で燃え上がる様に消失すると、身の丈を超える黒い十字架が現れる。暴れまわる蜘蛛からアスクレピオスを脱出させ回収。やぶれかぶれに突撃してくる蜘蛛に、機械逆十字棺桶の弾丸を重機関砲の様にぶちまける。
「いたぞぉ!いたぞぉぉぉおおお!!」
「でぇてこくそったれぇぇぇ!!」
「うってうってうちまくれー!」
「「わーーー!」」
幼い幽霊の声に、なんか、もう、すっかり気が抜けてしまった……。そんな夜宵の前で蜘蛛は弾幕によって穴だらけになって絶命した。アッサリ。
「さて、何か使えるもんは有るかな?」
蜘蛛を解体し、毒を生み出す器官、堅い甲殻や牙等を持ち帰ることに。繭を興味で開くと……。
「あぁ、ま、だろうな」
中には息絶え絶えなホッパーマンや人間が……助かる見込みの有る者は帰し、助からない者……そこでは終いにした。
5日目の昼、式上ハクノはゴンとの建材の採取クエストの帰り、襲われた。
「!ご主人様!」
「おぉ!!?」
ゴンがハクノを抱えて跳んだ直後、自分たちのいた場所から何かが炸裂した音が。熱、焦げ跡、火炎弾と思われるそれを撃って来たのは……2本の鳥にも似た足、大きく発達した耳と嘴、羽の無い一対の翼を持つ者。
「ワイバーン?」
「鳥竜でございます。アレは分かりやすい上、さほど強くない奴です。さぁ、パパっとやっつけてしまいましょう!」
「あいさーい」
ゴンちゃんとの契約の証のおベント箱を、人差し指と小指を立てた状態で左手に持ち、簡単な狐ハンドサインを右手で作り、その両手を交差させて突き出す。手を上方から内を経由して一回転、開いたらベルトに装填(右手は抱き合っているかの様に顔の左に持ってくる)。三つの影がハクノに重なると姿が変わった。金のアンダースーツ、白色の狐の面、碧い目、明らかに意味の無い膝上までの袴、靴は下駄風、膝上までの白い装甲紺色の装甲(首元、胴、手甲)とオフショルダーの以上に取ってつけた様な魅せるための袖、左前腕の甲にくっついた扇。
「これが……!!」
「はい♪私を模した力です。何なりとお申し付けください!」
「ん?!今なんで持って言ったよね?」
「敵前で言い出す事ではありませんよ?!今は戦いに集中してください!」
「は~いと言うても使い方がわからん」
「え~、では。まず、「呪符・爆」のカードを引いてください」
「何分の1?」
「引こうと思えば1分の1ですよ」
「いやそんな、有ったら便利dあ、出たわ」
ベルトのデッキから取り合えず5枚ドローするハクノ。その結果は、「呪符・爆」「呪符・炎」「呪符・雷」「コール「ゴン」」「finish」と、何とデッキトップ置いてあった。今使わない4枚は仕舞い、次の手順へ。
「引いたら左腕の扇を開いて、スロットにカードを入れたら、閉じて読み込んでください」
「おぉ、ここか」
狐の大妖怪九尾らしく、扇は2つの親骨と7つの中骨から構成されており、その真ん中にカードを挿入するスロットが有る。そこへ「呪符・爆」をセットし、扇を閉じて発動。「curse」。その効果により、お札が手元に現れる。
「?……これを?」
「敵に投げてください」
「あぁ、うんなるほど。それーって飛ぶわけn」
呪いのお札とはいえ紙切れ、単体でうまく飛ばせるわけないと思いきや……。
「飛んだぁ!?」
創作物かと云わんばかりに綺麗に飛んだ。実はゴンちゃんが有る程度操っていたりする。
それまでずーっとゴンちゃんの張った結界の壁に衝突して、突っ突き続けていた鳥竜種の奴は、唐突に見えない壁(結界)が消えた事に驚く暇も無く、顔面を爆破され、脳を揺らせれる。ただ人間の足元に潜っているた虫が食べたかっただけなのにね。
ゑ?そのためだけ?
そのためだけの為に突っ突いた(火炎弾)。こいつの種は大型の割に少なく弱い。その上人間基準のAクラスでも討伐は十分できるし、その中の結構な数が「大型の魔物」とは認識していないからね。中型って認識だから。
「いざ!、決めましょうご主人様!」
「了解!」
ドロー!「finish」。必殺技に必要な謎エネルギーを強制的に絞り出すためのカード。このコンビの場合は……まずは鏡が出現し、敵の周りを球状に回りだす。
「いっくぞー」
そこにハクノが突撃、敵を蹴ったり殴ったりしながら周囲へ飛び回り、鏡を足場に四方八方から攻撃を加える。その間にゴンが自身に降ってきた呪符を入れ替え、組み換え、動かして、同種3つをそろえる。
「何に致しましょうか」
「全部一回は使いたいかな」
「了解!」
そろえばそれは1つになり、球状の何かに半透明な物に守られながら鏡が作る領域に入る。全方向からの攻撃の最中にこれをハクノがキャッチ、使い捨てるように叩きこむ。炎の呪符で敵を焦がし、水の呪符で敵を抉り、風の呪符で切り裂き、地の呪符で強く殴り、植物の呪符で……なんか強く叩き、光と闇の呪符で……なんか強く叩き。
おい。
はい?
なんで三つ雑なんだよ。
直ぐに影響が出る程強く打てないからほぼ無意味。そうで無くとも攻性の植物属性はよくわからんし、闇属性に至ってはどういう性質でもよくわかっていない。
あぁ……、うん。
氷の呪符で凍らせ、雷の呪符で電流走る。
「氷で凍らせて、音を叩きこめば!」
「出来ないことは有りませんねぇ」
実戦開始。氷の呪符を右手でキャッチしたら相手の右の翼を台に片手立ちの様な形で翼の触った部分を凍らせ、したらば鏡を足場に跳躍、音の呪符を足でキャッチし凍った部位に蹴りを叩きこむ。血肉が凍り、固まれば、衝撃を吸収出来ずにヒビが入り崩壊するのは通りの事。出来ればね。
「あれぇ?」
「まぁ、でしょうね」
表面の氷が砕けただけであった。それもそのはず。そもそもハクノは異能の適性が「慣らさない限り実用不可」とかその程度なのである。殆どがそうなので表記的にはBである(適正値は本人の平均から出る)。ゴンちゃん単体ならできただろうね。と言う訳で。
「私が凍らせます」
「んでこっちで叩く」
ゴンちゃんが片手間で作った氷色の小さな球体は、吐息でその手から離れるとふわふわと敵に近づき、接触した瞬間に敵を芯まで完全に凍結させる。そこにハクノが叩き込む特に理由の無い属性混合キックが鳥竜を粉砕する。ついでに破片で滑る。
「アイデッ?!」
「ご主人様!?」
こうして、彼女の緊張感の無い初めての大型戦は終わった。
同日、影月皐月は夜宵の分身と一緒に別の鳥竜種とホッパーマンに絡まれていた。
「叫び声を上げながら突進するは、特徴的な鶏冠が光るは、中々ユニークな奴だな。おかげでホッパーマンが寄って来たわ。皐月はあの五月蠅いのを仕留めろ。毒吐いてきてたし、気をつけてな」
「いよっしゃ!行くぞ、変身!」
左手にデッキを持ち、武術を魅せる様にポーズを取ったらセット。3つの影が皐月に重なり姿が変わる。深めの緑のアンダースーツに黒い装甲、茶色い甲冑の様な肩や後頭部の鱗はカラカラと鳴り、足手に装甲兼武器の鱗、チャイナドレスの様に腹部から股下に垂れた布。これが、ハクノとロンシェンのライダーフォーム。
「おぉ♪」
なんて喜んでる間に奇声を上げて突撃してくる鳥竜種に、とっさの判断で顎にアッパーを炸裂させる。鳥竜が毒も涎も撒き散らしながら狼狽えている間にチラッと確認した夜宵の姿は、「攻撃宣言」を当てたキックでバランスを崩したホッパーマンに、体をほんの少しだけの間だけ呪素に変換(戻)して消える様に敵の体内へ侵入し、敵の内部を滅茶苦茶にしてから出てくる姿であった。何あれ凄い。もっとも、戦闘後に聞いた話であるが。何それ凄い。大丈夫そうなので敵に向き直り、顎へ右のフック、さらに右足の上段回し蹴り。左によろけたら右の翼に飛びついて転ばせ、両翼の根元の関節を力業で外す。ここで一つドロー、スマッシュ「深気鎌」を、左前腕の甲の真ん中の鱗のの下に挿す。「Smash」。気を溜めた拳で(今回は相手の頭部側の首を)殴り、気で相手の気を刈り取る様に気絶させる。
「……よし」
「終わ……て無いな。さっさと止めを刺せ」
一息つく暇も無く声が掛かる。夜宵は呪素で刀を生成すると、ロンシェンが警戒しながらつっ突いていた鳥竜の心臓に、一切の迷いなく、自然に刀を突き刺し、首を切り落とす。
目の前で首が容易く斬られる光景にロンシェンも驚いている。
「……解体して帰る。一人で出来るか?」
「えぇ~……頑張りま~す」
ここでまたチラッと。夜宵とホッパーマンの戦いの痕は、甲殻を失い、五体をバラバラにされたホッパーマンが4体と、ホッパーマンによって抉れた環境が残っていた。……どこにしまってるんだろう?
同日の夜、ゴンは満月を見上げながら、町の外へと歩いていた。
「何やってんだ狐ェ。ん?」
後ろからよく聞いた声が掛かる。
「彼方でしたか、性悪。何の用です?」
「だから、どこ行こうとしてんだよって」
「……このままで良いのかと、ね」
「?良いじゃん」
「昔の私は」
「そっから先は知ってる。来た理由も、離れる理由も」
「でしょうね」
「だから言っておく。もう遅い、あいつは自分勝手だからな」
「どういう意味ですか?」
「ほれ、帰るぞ」
聞きながら少し振り返ると、自分勝手な「あいつ」が走って来ていた。
「ゴンちゃん!明日も早いんだから寝るよ。ほら」
そういうと私を軽々持ち上げ連れ帰る。……なんだかもう、抗う気すら起こらなくて。
ちょっと日付はいつでもいい話をしよう。
……抗うことも無く海に沈んでいくかのようにいる私。自身に挿す光と、その中に女性の影を見た。きっと彼女が語り掛ける。
……何も無い、光さえも。唯々無意味な暗闇に、自分以外に誰かがいる気がしたような、いなかったような……。きっとそいつが語り掛ける。
……薬品、消毒液の匂い漂う白い建物。スライドドアを開いて入り、椅子に座れば……白衣の見知った誰かが語り掛けてくる。
「気付いて貴方自身を」女性の影
「……」いる?
「気付け?」皐月
「とか、他だとそんな風にやってるんじゃないか?私も気付いてほしい、お前自身に」白衣
「え?解っているよ?」ハクノ
「解ってるって」
「把握しているが?」夜宵
「それじゃぁダメ」
「……」
「解ってないと?」
「一度は理性で、そしてもう一度本能で。出なくては任意に行使できないんだ」
「どうしたの????なんでぇ?」
「え~っと?……?????」
「何言ってるのかよくわからねぇな。お前は???????だろ?」
とうとうつに背後で開いたスライドドア。そこから黒い影がなだれ込んでくるように世界を染め上げる。いつものように……?見えない影から迫る殺気で場所は分かる。
「……」
「本能で気付いちゃそんなにダメかね?」
「任意で行使しきれないからな」
「……」
「使いこなせてないかね?」
「だから呼んでいるんだ」
「私は、貴女の……」
「……」
「「我々はお前の……」」
まだ見慣れない天井。硬い寝具。……ぼんやり覚えた、また、あの夢。身を起こし、着替え、彼ら彼女らはまた、何時ものように動き出す。
こちらも何日目でもよい話。夜宵の分身体はロゼと2人で、売り場を練り歩き、唸っていた。明日の献立を考えるために。今日の分?昨日の内に考えて下準備は終えている。
「やっぱ鶏が安く旨いんだよなぁ。だが、部位や調理法、味付けこそ変えてるがずっと続いているし飽きがな……。やっぱりここらで牛か豚を……」
「そうですね……こちらは如何でしょう?」
「う~~ん……。(正直鳥でも金額以下の質だが……)そうだな、そっちにするか」
今回は、ロゼ提案の豚肉にしたようだ。アルターの養殖の品なのだが、数も多くなく、質も、あまりいい品は無い。
そんなこんな品を見ていると、店の経営者のお子さんが話しかけてきた。
「ねぇねぇ!」
「ん?」
「どうしましたか?」
「2人はふうふなの?」
(!?)
「こら!ハル!」
「いや?違うが」
「そっか……」
唐突な質問に対して、雰囲気や表情こそ変化は無いもののロゼが衝撃を受けているのに対し、夜宵は何の動揺も無く返す。その内容に子供は少し残念そうだ。
「ごめんなさい、突然」
「いやいや、大丈夫ですよ。残念だな、俺はまだ若い方だし、子供が居ても一緒には遊べないぐらいには小さいだろうな。そういう浮ついた話も興味無いし」
この日は結局、本体が修行している所に落ちてきた「ストライカーグリズリー」と川魚がメインに加わることになった。
7日目、………………その日、森から光の柱が現れたという噂が立った。
ギルド―アルター王国・戦闘商街支部― 9日目 13:00頃。
疲れ切った様子の夜宵がテーブルに付き弁当箱を開けようとしている時、ちょっとした集団が扉を開けて入ってくる。暦達の教師、同級生数人に先輩である。
「先生、こっちで話しましょう」
「やっほー皐月~♪」
「yeah!」
ハイタッチしている皐月と藍染を無視しつつ、暦は強引目に夜宵達から離れたテーブルに着かせようとする。
「他の二人はどうしたんですか?」
「今かなり疲れてて、寝てます」
「え?大丈夫なんですか?」
「放っておきましょう!目上の人がいると力が入っちゃいますから!ね!」
席につきまして。
「本題に入りましょう。どうしたんですか?」
「皆さんを連れ戻しに来ました」
「というと?」
「超大型のドラゴンや光の柱の噂もそうなんですが、生徒が……死んでいます、確認できているだけでも二人。さらに3人が行方不明です」
「あれ?全員死んだんじゃなかったっけ?」
「夜宵がkン゛ン゛ッン゛ン全員確認しているな。もっとも普通、先生達じゃ見れない状態でだから」
「またあいつが何かやったのか!」
「「それは違う」こいつもう殺していいんじゃないかなぁ?」
「はっきり言ってトラブルの元でしかないからぁ。あまり好ましくない選択だけど」
「先生たちじゃ見れない状態ってどういうことですか?」
詰まる所「魂」である。3人が蜘蛛に喰われ、2人が繭に、再起不能とみて殺され死体が残った。死体が残っていないため確定できず、行方不明とされているが、魑魅魍魎が跋扈するこの世界、基本的に行方不明=死亡のような認識である。数週間もすれば死者として扱われるでしょう。
「それはいいよ。何をどういったって私も見れないし」
この辺りで暦に子狸の幽霊からメモが渡される。そこには、光の柱とドラゴンの話の真相と結末と、提案に対する夜宵の判断が書かれている。
「先生達の意見には乗れなさそうです」
「!?何を言っているんですか!?死者が出ているんですよ!少人数での行動は危険です」
「「それは百も承知です」端から殺し合いしろって言われてるんだよなぁ?」
「これに関してはこちらもたった今知ったばかりの情報ですが……当事者曰く、これが光の柱と超大型のドラゴンの話の真相です」
ハクノ語り。
突如として現れたドラゴンは強かった、とても。でも、私が私である限り、結末は変わらないんじゃないかな?強い覇気に、眼地へと向かっていたから、助けなくちゃって、止めなくちゃって。それでね?……。
「逃げてください!ご主人様!」
もう覚えている最後の方は、………………ゴンちゃんが倒れていて、ゴンちゃんに向かってドラゴンがブレスで仕留めようとしていた所だった。最近会ったばっかりでも、只モフモフでかわいいからってだけでもさ、助けたかったんだ。
「ヤ゛ァ゛ア゛メ゛ロ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛――――――!!!!!」
だから、普通なら届くはずの無い手を、力いっぱい伸ばしたんだ。
式上ハクノという女性は、あの日以降、何時だってそうだった。運動神経が悪い訳じゃないが、普段はバク転の一つもできない。けど、本当に殺し合いをしている時には、攻撃をバク中で避けながらドロップキックをかますなんて事が出来た。意識していたわけじゃない。他にも、詠唱の省略したり、届かないはずの距離、時間が届いたり、壊せなかったものが壊せたり、……命の危機、特に他者がそうであった場合、彼女は限界を超えた力を発揮してきた。
頭よりも、心と体が先に動いた。
心器、ブレイブの性質を覚えているだろうか?激情に比例した力を生み出す物だ。彼女のブレイブは、誰かを、ゴンを救いたいという思いに反応し、力を与えた。
で、その後倒れた。
ゴン語り。
煌びやかな光、消し飛んだドラゴンの首、危機が去った事理解すると直ぐにご主事様の方へ……。
「ご主人様!?」
前腕が消し飛び、二の腕が焼け焦げ、超過集束の症状を残したままで魔力の枯渇。あの時は私、光以上に驚きました。
傷は光の熱量で焼けていたので、直ぐに抱えた走り出した。なぜこうなったのでしょう……これが、愛した人が傷つくのが嫌だから、また一人になった筈なのに……。
私は人が嫌いでした。子供に好き勝手に触られモフられ、それが気に触れていました。宗教の心情もあって、害ではありませんでしたけどね?
そんな中で、ある一人の男に出会ったんです。こちらの心を見透かしたようで最初はこの気味が悪かったはず……何ですが、どうにも傍にいるのが心地よくて……。男が国を出て旅を始める際、私も適当に誤魔化して同行しました。そのために鍛えましたしね。
何度か旅をして、沢山の命を、心を見てきました、醜いもの、汚いもの、綺麗なもの、強いもの。そしてその果てに、以前のご主人様は、取るに足らないような醜く汚い連中(神格)によって殺されました。助けようとしました、必死に。でも、助けられてしまいました。何度この身を呪ったでしょうか……。
だから、必ず助けると全力を尽くしました。
えぇ、初めて会った時に感じていましたとも、重ねていましたとも。
……あぁ、どうしようもなく、こんな、馬鹿をみるような人が大好きなんだなって。
だから、このいけ好かない男(夜宵)を頼りました。
この街に医者はいる、が、いない。正確には、この世界において、医者というのは肉体面における高い医療系の能力の持ち主を指す。ゴンが求めたのは所謂「外科医」……しかし、この街、いや、国には所謂「薬剤師」と「整体師」しかいないのだ。
だからと言ってなぜあの男を頼ったのか?それは、何度も聞いていたからです。絵空事にもしたくない狂気に立ち向かい、たったの3年程で命を数多救ったというご主人様を超える数救い。そして、それ以上に何度もご主人様を救ったという男に。
夜宵語り?
最初観た時は驚いたよ。腕の妬けた女を、狐の女が抱えて来て、泣きじゃくりながら掠れるような声で「助けて……ご主人様を助けてください!」って。後は、外科手術して救って、機械の腕を作ってくっ付けた。終わり。おかげで全く寝てないし、頭もアレ(分身)もフル稼働してからの討伐行ったからもうだるい。
「もうちょっとなんか言うことあるだろう?」
「ねぇよ。義手作製の為に、ロゼに雑に命令した性でスッカラカンとかしかねぇよ」
「だから無理しておったのか……。待て、儂らの飯は!?」
「それを作るために東奔西走したんだろうが」
閑話?休題。
「それならなおの事」
「……ハクノの昔話になるんですけど」
……ちょっと昔の話。可愛らしい女の子を乗せたベビーカーを押していた夫婦が……車に轢かれた。即死である。しかし、その夫婦のなんと強いことか、引かれる直前に突き飛ばしたベビーカーは、溝に向かうも赤子は無傷であった。
少し時が経ち、その女の子は少女となった。少女は、迷惑を掛けまいと黙っていた結果、気味悪がられてたらい回しにされだした。
心が開きだしたのは、何の関係も無かった「式上」という家族の下だった。……あまりにも酷な当然で、その家族も死んだ。誰にでも優しい家族だったが、犯罪者を、そうとは知らず助けてしまい、お門違い?な復讐をされたのだという。
再び心を閉ざした後、拾ってくれた次の夫婦は、……子供が好奇心と謎テンションで放った火による、火事なっている家の中から助け出す際、父親は燃える柱を支え、母親は脱出した物の、煙を吸い、ハクノに、父親も好きだった「希望」の言葉で呪いを残し、死んでいった。
その後、アイホートの迷宮で巫女にされた。さらに、木曜会の者に引き取られ直ぐに、蛇人間に実験台にされ、そこを潰しに来た夜宵達によって救出された。
希望の呪いが回復を促し、病院での生活を2年で終え、一人暮らしに至る。
思考能力が落ち、全てが朧げで、絶望して然るべき状況だったが故に、まだ中学生の頃の裁けぬ者への殺戮者でさえ、太陽の様に輝いて、オアシスの様に救いに見えていた。
「……えっと、つまり?」
……。迷宮の時もそうだが、それ以降、彼女は怪奇的な事件によく巻き込まれるようになった。その中で、他の誰かを守るために、無謀にも、邪悪な神に挑むこともあるという。……いや、実際にその姿をこの目で見たけど。
「良いことじゃないですか。誰かを助けられる」
「解ってないなぁ。ハクノちゃんは「誰でも無理して助けてしまう」から、わざわざ弱い奴を傍に置いたら不要に無理をするのが分かり切ってるから悪手でしかないって言ってるんじゃないか」
「そうで無くとも、とことん夜宵を嫌っているのは夜宵を碌に知らない連中だからな。印象が悪いのは確かだけど、最悪夜宵が殺しにかかるし、同行は不可能と考えていいんじゃないか?」
「それh」
「夜宵が悪いとかいうなよ?何が有っても無くても、必ず夜宵が原因と押し付け、行動しているのはそっちだ」
「仮に夜宵君から仲直り……しようとしないだろうなぁ」
「そこはあくまで仮ですから」
「やってもだれも許容しないだろうな。特に敦」
「……出来ない出来ないって諦めて!絶対に連れて帰りますからね!」
その時、青天の霹靂が如く、殺意が現れる。
「夜宵!?stay!stay!」
今の夜宵は、竜獄へ突っ込んでいったあの時と同じ姿をしている。
「彼奴!」
「止めろ敦!」
「いい加減あいつら殺した方が安全だろ。なんで生かしてんのか本気でわからん」
「休んで?」
「やるなら他所でやってくださいよ?」
「止めて!職員さんも止めて!」
「この人に倒れられると困るのはこっちですから。それに、あっち(敦達)には何も期待できません。弱い」
少しして、考えをまとめたのか、元の姿に戻ると。
「……一回本当に寝る」
「お休み~」
バタン。ギルドを出ていった。
「殺されるかと思った~」
「日常的に今のになる事にしかならないから、お引き取りください。そして夜宵には一切かかわらないでください」
「皆ナイトメア化して処理されるのは嫌だしね~。ばいば~い」
「チョッ、話は終わっていませんよ!」
「あ?ねぇよんなもん」(怒)
「強いて言うなら、夜宵に関わらないように更生してからだ」
碌に話しも出来ねぇのか此奴ら。
不変と不変をぶつけているだけだから会話にはなってないね。無理に連れ戻せても夜宵に1人2人と殺され連鎖し、最終的には全滅だろうからこれで良いんだよ。
教師が自分の夢物語押し付けてるだけだしな。この日の夕飯は少し質素だった。
9日目、ギルドで朝食を取っていると最初にあった、あの職員さんが話しかけてきた。
「Bランク、場合によってはAランクに上がれるかもしれませんが……どうします?」
「ランクアップ?やったー」
「yeah!」ハイタッチ
「yeah!」ハイタッチ
「Aまでは良いんだな」
「そこまでは実力だけで上がれます。AA、AAAはAを超える実力と、何よりも信頼が必要です。少なくとも数年かかりますよ。普通は」
「例外も有るんだな」
「再生記から100年後にはこのギルドができています。長いですよ?で、どうします?」
「俺は可能な限り上がらせてもらう」
「では、試験が必要ですね。準備が有りますから、後日」
「了解」
「儂らも上がっておこうかの?」
「そうだな。さすがにまだ暇すぎるし、稼ぎが良くなるのなら夜宵の負担も減るだろうし」
「お二方は?」
「「やりま~す」」
「ちなみに内容は?」
「……秘密です」
「最悪逃げるからな」
「出来ますかね?ま、内容次第ですが」
翌日、に加えて当日。夜宵達は、戦闘商街にある闘技場に呼ばれていた。
地理的にも、商業的にも、戦闘商街の凡そ中心に在るのがこの闘技場。内装は、石造りで段になっているだけ客席に、選手の出入り口から先は全て真っ平らな戦場となっている。さらに……?
「あそこ、ウグイス嬢とか居そうだよね」
「あそこはただのモニターと放送席ですよ」
そう言いながら現れたのはいつもの職員さん。
「モニターあんのな」
「何を基準に考えてるんかよくわからない発言ですね。異世界っていうものは技術が進んでいるか進んでいないのか。いや、そっち基準だとミスマッチ何ですかね?」
「ま、そんなもんさ。パパっと始めよう」
「ですね。彼女が今回の試験官、という事になります」
そう言われ、歩いて来たのは、以前見た若い女性職員。
「あ!小昼のお姉さん」
「はい。お久しぶりですね。「小昼」の「阿隅 中和」、コザト辺に可能性の可、コザト辺に畏怖の畏、中和と書いて中和、です」
「誰から始めましょうか?」
「影月夜宵さん以外準備できていないように見えますが……?」
「ok。俺から行こう」
他三人は寂しい程、誰も居ない、何もない客席へ移り、舞台に只2人。半球状の結界が舞台を覆い、フェイズが進行する。
スタンバイフェイズ。
「スタンバイフェイズ?なんだそれ?」
「準備期間です。変身、変貌や装備の展開、切り替えはこのタイミングで行うんです。始まってからでも構いませんが。しかし、初めてでしたか」
「こっち(の世界に)来て2週間経ってないからな」
「全力で、来てください」
構え、気を高める中和に対し、夜宵は黒百合を帯刀。
バトルフェイズ……Fight!
開始直後、この戦闘は終わりを迎えた。
Fin、小昼 Win。
この瞬間、夜宵にとある光景が流れ込んでくる。只の「衝気掌」の一発、それが中和の持つ、究極、最速の「衝気掌」。そして、瞬歩で接近背れた瞬間、胸部ごと、余波で全身を砕かれる自分自身。
衝気掌……謎エネルギーの一つで、誰もが持ち、そのほとんどが気付かない「気」を使った技の一つ。気を込めた拳を叩きこむだけの技。深気鎌は細く鋭いイメージなのに対し、衝気掌は響く様に全体へと広がる技。
結界が解け始めるのと同時に他職員が駆け寄ってくる。
「中和さん!」
「お前さぁ、測る気あんの?」
「ゑ?これぐらいできないとA帯には成れないものかと思っていたんですが……」
「さすがに無理が有りますよ。貴女の今の技を見切れる人は、特化でもない限り「夜渡り」ぐらいでしょう?やりすぎです」
「「よわたり」って?」
「パンフレットにあったな。下から、「小昼」「始馬」「赤焦」「夜渡り」「日の出」っだったか?」
「ですね。「夜渡り」はギルドで言うランクA以上ですが、我々の基準なので普通より強いですよ?」
ルール上、旅に出られるのが赤焦以上であり、この時点で国が丸ごと敵になっても壊滅させる程の実力がある。実際のギルドのランクと比較した場合、赤焦の時点でA上位帯以上の力が有るのだ。ついでに彼女は「赤焦」である。小昼はあくまでギルド職員として新人、というだけなのだ。
「はい、測りなおしますよ」
「次は本気で来てください」
「簡単に言うねぇ」
死死死死死
腹立たしい。恥ずかしい。確実に死んだにも拘わらず生きていることが。今だ心臓が高鳴っている。
死死死:;.:...
なぜ生きているのか、無かった事になったのかも分からないが、今は。
―――殺
「……いい眼になりましたね」
黒き焔の影に隠れた和装と白い仮面。黒い刀身の刀「黒百合」も同様に隠れたソレからは、常人なら立ってはいられぬ程の殺気を感じた。
観客席にポツンいた童貞が呟く。
「……絶か」
フードを深くかぶった何者かがあらわれ、答えるように一言。
「だね」
バトルフェイズ……Fight。
開始直後、絶が振り上げられ、黒い壁ができるかのように斬撃が走る。間一髪にも見間違う差の中躱した中和は、即座に気攻弾を5~6発発射し牽制を狙うも、全て駆け、素通りされる。かと思いきや通り過ぎたあたりで全て真っ二つに裂ける。その様子を見た直後、テレポート紛いの速度で夜宵が目の前に現れる。振り下ろされた刀を気甲(気で形成した防具、今回は手甲)でイナス……心算が、絹ごし豆腐を包丁で斬るよりもすんなりと、気甲に入って行く。飛び退いた結果生まれた、切り離された部分を即修復したかった。敵を捉えながら動いたはずが、自身の視界の中には居ない。背後に感じた殺気を当てに回避しながら半回転、脇に拳を叩きこもうとする。……飛び退いた。理不尽を感じるほどの速度で刀が切り返され、自身に迫っていたからだ。夜渡り達の様に。加減できない。そう感じ、瞬歩を乱用と言わんばかりに使い、迫った先に、奴はいた。
消えては現れ打ち合い、消えては現れ打ち合い。そんな繰り返しが少し続く。
客席の様子は……。
「かっけぇ☆」
「どう見ても不吉な感じですよねぇ!?」
「超高速移動が基本な世界観の漫画アニメのバトルみたいだな」
(夜宵君……今、何を見てるの?)
「スピードとパワーな中和がギリギリ合わせてますね。何がそうさせるんでしょう?やっぱり殺意ですかね?」
「でしょうね。もっとも、光以外は結界に阻まれて、殺気を感じることは難しいですが」
「こわいね~」
「夜宵の殺気だからな。立ってるだけすごいよあの嬢ちゃん」
「そうそう、あの中実はこうなっててな」
そう言ってフードの男が見せた光景は。
「やな奴!やな奴!」
「こわいぃ、ごわ゛い゛よ゛ぉ゛~あ゛~~~」
「泣かないで、泣かないで。僕だって、僕だって、グズッ、こわいよぉ~」
「小さい子泣き出しちゃったよ!」
「困りましたね。私もすごく怖いんですが……」
カラカラカラカラカラカラカラカラカラ
「ガシャ髑髏、うるさい」
「いや~、骨ばっかのくせして軟骨が無いから、こう、音が鳴るんだよね」
「これ」
「そ、ファントムゼクターの中。ま、始まる直前辺りからなんだけど……お!動いた」
「ッ!」
気甲に刃が触れた瞬間に、黒い斬撃の波が「絶」から噴き出す。体勢を変え、瞬歩で離脱。その先にまた、奴が来る。声を出す暇なぞありはしない。外から見た者には、唐突に、何もない場所に黒い何かが現れた様にも見えるだろう。超高速戦闘に追いつけない波は、障害物となり、徐々に敵を追い詰める。
「冥黄裁断衝の乱用。派手だねぇ」
「あんな乱用できたか?」
「混ざってんじゃない?呪素とか」
さらなる進展。白雫・氷涙霰の展開。霰と名がついているが、雹以上の大きさを持つ氷の矢尻が、雨の様に降り注ぐ。さらに、冥黄裁断衝が放たれた周囲と、白雫・氷涙霰の着弾地点に氷が張られる。もっとも、それで滑る程、中和ちゃんは迂闊じゃ無いが。
「……中和ちゃん、もう、直感で動いてますね」
「超高速戦闘の最適解は大体、極めた感で出てきますからね。それでも、防戦一方になるほどのですか。虎も降ろしているというのに」
「虎……あぁ、中和ちゃんは白虎かぁ。私は剛鬼しか降ろしたことないなぁ」
「あなた、流す方が得意じゃありませんでしたか?」
「殺すなら力押しで良いんですけどね。殺さないために覚えたんですよ?大体そっち使ってますけど」
「降ろす?降霊術か?」
「と、いう体にしたプラシーボ効果パワー」
「つまり自己催眠か」
「幽霊とかを降ろしたりするパターンだと、実際に憑かれる場合も有るけどな。ちなみに技の名前は「憑くも・○○」とかそんな感じだ。憑くも・剛鬼とか、憑くも・獅子とか、憑くも・牛鬼とか」
「そろそろ終わるね」
直感で放つ「気攻焦山」(地面から噴火するような気のアッパー攻撃)や「気攻覇断」(自身を中心とし、気を放出した周囲一帯への無差別攻撃)で誤魔化してきたものの、段々と、体が追いつけなくなっていく。寒い。足元には氷が張り、霧も出て来て、どんどん体温を奪われていく。もう、直ぐ近くも見えなくなってきた頃合いに、奴は背を向け霧の中へと消えていく。今しかないと感じ、渾身の一撃を叩きこもうとしたが、触れるはずのあたりで影は消失する。
気を乱さず、姿勢を正し、眼を瞑り、気を整え、索敵。
……そして、後ろから首を切り落とされました、と。
fin、ランクC win。
「参りましたよ。気を隠すなら森、とはよくいったものですね」
飛び退いた。観てしまった。アレが……自分、アレが……殺意、アレこそが……。
「心器、絶。こういう事なのか……?」
理解しろ、とは。
「まだ、どうだろうね?怪しいかな?」
「と、言うと?」
「精神的に不安定だからね。それだけ」
「……ふ~ん?」
判定を下しに、ギルドの職員さんが降りてくる。
「さぁさ神様、彼の昇進は如何に?」
「あ?神格なのか?」
「そうですよ?一応ね」
神だというのは最初に会った、翡翠色の髪が肩甲骨の下に行かない程度……二の腕の中頃までの長髪と綺麗な顔立ち、十分豊満な胸部、そして長く鋭いようなエルフ耳が目立った特徴を持つ女性だ。
「で、彼方はAです。後でギルドで手続きを行いますね」
「あいよ」
「次は……」
「はい!私がやる!」
「はい、妹さんですね」
「姉です!姉!」
「知ってます」
「何を言うか、荷物だろ」
「なぁ!」
「それも知ってます」
「にゃー!」
「後、そいつとこいつを本気にさせたかったら取り合えず、瀕死に追いやった上で回避の余地のない攻撃かませばいいよ」
「なるほど」
「「いかん、危ない危ない危ない」」
皐月のターン。
初めの方は「危なーい!」とコメディ―リリーフなモーションで避けているだけだった。が、一度壁に追いやり、全方向から攻撃を仕掛けた瞬間……。
(消えた!?)
消えた当人は背後に現れる。
「あっぶな……!全くもう」
なんて言っている間に同じ手を使う。壁(結界)以外の方向には気攻弾が所狭しと、通常なら確実に当たる攻撃の牢獄から彼女は影も形も無く消える。そして……。
(また、気づかぬ内に殺された……。鍛えなおすべきでしょうか……?)
fin,ランクC win
「勝ったー!イェイ!」
「Bですね」
「なんで!?」
「能力上観測が難しいのに加えて、極限状態以外での戦績が酷いからですよ。何故続行出来ているのかも謎です」
「じゃぁもう一回!もう一回!」
「いいですよ?上がらなければ追加料金です」
皐月のターン2。
スタンバイフェイズ。
「変身」
最近よくやっているように、3つの影を重ね、姿を変える。
「そのタイプなんですね。名は?」
名は、以前ハクノに話した際に付けてもらった。「そうだね、それっぽい感じの……じゃぁ、」その名は。
「仙気」
「仙気ですね。彼方の様な方と戦うのは初めてです」
初手、左の拳での正面衝突。双方、この瞬間に感じた……互いに「同じ手の使い手」だと(皐月は最近、アーマー・エアこそ使っていたが、魔力よりも深気鎌ばっかり使ってた性で気の方がメインになった)。皐月はさらに感付く、相手の方が格上、正面からは攻める事が出来ないと。ならばと、即手を変える。敵の手は回避、その間に打……とうにも、敵が連撃に切り替え、打つだけの隙が無い。打開策となりうるカードもこれでは引けない。一度、大きく後ろに飛び体勢を立て直そうとするも、気攻弾と一緒に迫られ体勢を崩す破目に。そんな所に小さな勇士が現れた。ロンシェンは、等々に出て来たかと思えば、威嚇を挟んで無謀にも突撃する。まだ、生まれて間もない為、力も弱いロンシェンは、あっさり片手間で叩き落され……そうな所を皐月が飛びつき庇った。強制変身解除するもすぐに立ち上がる皐月。
「私の家族に……手をダスナァァ―!」
「無策に突っ込んでも変わりませんよ?」
牽制に出て来た気攻弾5発を躱し、接敵、確実に一発一発を叩きこむ。……が。
「勢いこそ良くなりましたが、乱れが酷いですね。気や魔力、波動もそうですが、使うなら激情した上で冷静、不変の形でなければッ、使いこなせませんよ?」
気で気を防がれまともに通らず、拳も2度目からいなされ、終いには胸部に一撃入れられ後退する。
「フーッ!フーッ!」
「随分呼吸も乱れましたね」
言われて気付く乱れ。
整え、日を呼吸を始めた直後、彼女が消えた。そして、呼応するように結界も消える。
「……気攻覇断で阻害するつもりが、間に合いませんでしたか」
「ヴゥ……!」
「止めんかワンコ」
結界解除直後、夜宵が皐月の頭をポンポンと叩いて宥め始めた。そこになにやら、独り言を言いながら職員達が降りてくる。
「やっぱり実力に差が有りすぎると測り辛いですね」
「魔力も殺気もぜーんぶ結界が遮断しちゃいますからねぇ」
「解ってたんならやめろや」
「まぁまぁ、研修の意味も有るし多少はね?」
「付き合わされる身にもなれ」
「夜宵さんは、その気さえ在ればこれ無しでAですけどね。力が測れてよかったです」
舌打ち&露骨に嫌そうな顔をする夜宵。それもそのはず、この人は基本、手の内を見せたがらないのだ。
「と、言う訳で、他の2人はこの人戦っていただきます」
「よう!」
その言葉と共に現れたのは「エイリス」……赤髪で、大剣を持つ、アルターの騎士の姉ちゃんである。
「興味があったんだ、アンタ(夜宵)力に」
「俺はもう終わってるはずだが?」
「ゑ?」
「はい、終わってます。やりたいのであればそちらで」
「俺は嫌だぞ」
「なんだい、がっかりだよ」
この後、ハクノは変身するものの力負けし、回避ばかりしている間にゴンが蹴りをつけ、暦は変身し、単純な力で大剣をへし折った後、一撃で終わらせた。ハクノはB、暦はAという結果となった。
おまけで、夜宵も戦ったが……。
Fight!
初手、何も考えていないかのような突撃から縦の大振り。が、夜宵にはすごく遅く感じた。先程の戦闘が超音速が最低レベルの速度だったから。やり甲斐の無い追撃の、横薙ぎに振られたの剣に手を着き、低い策や壁を超えるかのような形で顎に蹴りを叩きこむ。
「やるねぇ」
「力負けして、当たると危ないはずなんだが……どうにもやる気が出ねぇんだこっちは。ぱっぱと終わらせるぞ?」
「なら、やる気を出させてやる」
「面倒だ」
ブルータルファイル ガンモードをクイックドロー。射出された魔力塊の弾丸は、エイリスの切り札を跳ね飛ばす。
「何だ?あのカード」
「エイリスちゃんの?」
「そうだよ(肯定)」
「あれは「ビヨンド」って「神秘」の力で加護として貰える「エボルカード」だね。理を超えた力「神秘」の中で、神格自身と対象の信者の近い性質の力に長けた進化先の力を一時的に使えるって物をカード状にしたものだね」
「なんて?」
「剣の神なら剣の力を一時的に授けるよ、or、魔法の神なら魔法の力を一時的に授けるよ。ただ、無理してるから、安易に、長時間、複数を使うなって物」
「これ所謂メガ……」
「まぁ、そうだね」
この会話の間に、エイリスが夜宵に鍔迫り合いを仕掛け、カードと離され悪化するものの、無理に飛びついたことで剣聖の方のカードの力を発動。「グランドセイバー」に姿を変え、大剣とは思いたくない程の高速剣技と、その速度で振るには余りにも大きすぎる剣を幻視させる「巨影刃」を見せるものの、側面を足場に飛び回られ、全て避けられた挙句、ブルータルファイル アックスモードに剣を叩き折られ、即、もう一枚の魔法剣士のカードで、「ブレイジングブレイダー」に姿を変える。
「バーニングソウルか……。職種としてのバーニングソウルは、Aランクの中帯の炎の使い手の総称だ。今は結構数が少ないんだよね。彼女のスタイルなら「ブレイジングブレイダー」って感じかな?」
「自己強化以外にもあるのな、あれ」
「ハァッ!」
「へぇ、面白そうな技だな。ッ!……ハッ、猟犬か?」
変わってから直ぐに放たれた「チェイス・ブレイズ」。これは対象を決められる実力者なら、自動追尾の火の玉となり、そうで無くとも、術者自身の射程内なら自由に操れる火の玉とのなる。その軌道に興味を持ち始めた夜宵が放った魔力塊の弾丸によって消えるが、打消しと同時に剣による近接戦闘、それも足場にできない炎の刃を相手にしなけらばならなくなる。少なくとも、こんな手を使わずとも力負けしている上に、強化と炎で加速した剣を相手にするのはジリープアー(徐々に不利)だ。加えて、炎の熱気が体力を奪う。
……最終的に、複数のエボルカードの無理な行使、大技(ヒートウェイブ、ヴォルカニックバスター)の乱用、チェイスブレイズの熟練度の結果、生まれた隙から一気に押され、エイリスが敗北した。
ヒートウェイブは、炎の波、或いは炎の斬撃飛ばす技。ヴォルカニックバスターは、武器を叩きつけながら、叩きつけた位置から噴火するかの様な炎をぶつける技。
「負けたlイデッ!?」
だらしなく、騎士は舞台に倒れるかのように寝転ぶ。
「帰っていい?」
「良いですよ」
「勝利の余韻とか無いのか?」
「それ以上に疲れてるんだ」
「一帯の魔物を、一人で、3時間足らずで殺しまくったんです。金が無いからって」
これが、
「今も金欠だから休めないんだが?」
「しばらく出禁喰らわせますよ?こっちが困るのでやめてください」
「チッ……」
「あー、そうか……。こっちで王様に支援を頼んでみよう」
「他人の金で喰うつもりはねぇ。と、言いたかったかな」
無駄に無駄を重ねた気もするが、これで、今回の試験は終了した。






