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お嬢様は侵略者  作者: すだチ
7/13

その7『お嬢様と妹様』

 前人類の皆様、こんにちは。

 毎度おなじみ、清く正しい瀟洒しょうしゃで完全な冥土でございます。


『……また過去の誰かと交信してるの?

 貴女も飽きないわねぇ』


 あ、お嬢様。

 おはようございます。


『おはよう。……ところで、ちょっと聞いて良いかしら?

 最近気になってることがあるんだけど』


 はぁ。何でしょうか?


『ウラスジってどういう意味か知ってる?

 何故か最近、この単語が頭から離れないんだけど……一体どこで聞いたのかしら』


 ウラスジ。

 響きから察するに、裏ごしの仲間じゃないですか?


『ああ、そう。料理用語だったのね。

 ありがと、後で詳しく調べてみるわ』


 いえ、どういたしまして。


 …………。


 ふふふ。

 睡眠学習の成果は上々のようですね。


≪うわー。間抜けな顔して案外狡賢いのねぇアンタ≫


 間抜けは余計です。


 ──ってぇ!? お、お嬢様!?

 な、何でここに!?


≪あはは。期待通りのリアクションありがとっ。

 けどね、残念ながらあたしは貴女のお嬢様じゃないんだなー≫


 そ、そう言えばテレパスの発信波長が微妙に違うような。

 それにリボンもしていませんね。


 ……じゃあ貴女は一体何者なんですか?

 不法侵入であれば、直ぐにご退去願いたいのですが。


≪あら、あたしをつまみ出すっての?

 いいけど、アンタに出来るかしら? 本気のクトゥール人を、力ずくで退かすなんてコト≫


 ぐ。そ、それは無理っぽいですがっ。

 とにかく、お嬢様を呼んで来ますから動かないで下さいよ!


≪ああ、それには及ばないわ。

 もう呼んだもの≫


 ──へ?


『私のメイドから離れなさい。

 死にたくなかったらね』


 あ、お嬢様!

 そうか、テレパスで呼んだのですね。


≪おお怖い怖い。分かったわ、離れれば良いんでしょ?

 でも、何を畏れているのかしら、お姉様。

 あたしがこの子に、何かするとでも?≫

『離れなさい!』

≪……ふん≫


 あの、お嬢様。

 今「お姉様」って聞こえたような気がするんですけど、この方ってもしかして。


『ええ。妹よ』



 ◇◆◇◆◇



 お嬢様に妹様がいらっしゃるとは知りませんでした。

 何でも、以前はこのお屋敷で一緒に生活していたそうなのですが、あるコトをきっかけに勘当なさったそうです。

 その理由までは、お嬢様の口からは聞けませんでしたが。


≪知りたい?≫


 ……って、妹様。

 勝手に人の心の中を読まないで下さい。


≪いいじゃん別に、減るもんじゃなし。

 それよりアンタこそ、妹様って何よ。変な呼び方≫


 お嫌ですか? お嬢様の妹さんだから「妹様」なのですが。


≪別にいいけどねー。下等生物に何て呼ばれようが。

 そんなことよりねぇ、知りたい?

 何であたしが、この家から追い出されることになったのか≫


 聞きたくないです。

 どうせロクでもない理由なんでしょ?


≪そうよ。ホント下らない理由。

 あたしがお姉様のペットを殺したっていう、ただそれだけの話≫


 さらっと。

 心底どうでも良さそうな口調で、妹様はとんでもないコトを抜かしやがりました。


 殺したって、まさか。


『──前に飼ってた子が居なくなった時、あの子自殺しようとしたのよ』


 思い出したのは、某藪医者がふと漏らした言葉でした。


 わたしの前の子。

 その子を、妹様が?


≪小動物って面倒よねぇ。

 ちょっと遊んであげようと思って弄ってたら、直ぐに壊れちゃうんだもん。

 ねえ。貴女は大丈夫なのかな?≫


 そう言ってゆるゆると何本かの触手を伸ばして来る妹様──って、ちょ、ちょっと待って下さいよ!?


≪何よ? あたしと遊びたくないワケ?≫


 仕事中ですから!


 それより、本当なんですか?

 貴女が前の冥土を殺害したっていうのは。


≪そうよ。だから勘当された。

 お姉様にとっては、あたしよりあの子の方が大切だったんでしょうね。物凄く怒ってたわ……それに、物凄く悲しんでた。あんなお姉様を見たのは初めてよ≫


 うーん。

 おかしいですね、それは。


≪は? 何が? 筋の通った話じゃないの≫


 わたしの聞いた話では、お嬢様の瘴気にあてられて衰弱死した、とのことでしたよ。

 それじゃあ、今の妹様のお話とは合いませんよね。


≪なっ……それじゃ、何だって言うのよ?

 あたしは確かにあの子を殺したわ。今もこの手が覚えてるもの≫


 確かに、直接の死因はそうかも知れませんが。

 本当は遊んでたんじゃなくて、襲われたんじゃないですか?


 お嬢様の瘴気にあてられて、完全に狂ってしまった彼女に。


≪な、何を≫


 だから反撃した。自分の身を守るために。

 その時、力の加減ができなかったのでしょう。


 誤って貴女は、彼女を殺してしまった。

 本当は、そうじゃないんですか?


≪何勝手なこと言ってんのよ!

 どこにそんな証拠があるの? 無いでしょ?

 証拠も無しに、憶測だけでモノを言わないで頂戴!≫


 確かにこれはわたしの推測です。

 でも自信はあるんですよ? こう見えてわたし、勘は良い方なんです。


≪ふん。馬鹿馬鹿しい。

 たとえアンタの言った通りだったとしてもよ。それをあたしが隠す必要性が無いじゃないの。何のメリットも無いわ≫


 ああ、それについてもある程度想像できてますよ。


 妹様がお嬢様に真実を隠す理由。

 ひとえにそれは、愛です。


≪……はぁ?≫


 真実を知れば、お嬢様はどうしますか?


 自分の放つ瘴気で冥土が狂った挙句、妹に襲いかかった。

 そんなことを知ったら、お嬢様は罪悪感に苦しめられることでしょう。ただでさえ喪失感に苛まれているというのに──追い詰められた結果、自ら死を選んでしまうかも知れません。

 ……まあ実際、服毒死しかけたらしいんですけどね。


 貴女はそうなることを畏れて、黙っていたのではないですか?

 だから出て行ったんでしょ、お嬢様が勘当するまでも無く。


≪ふん。根拠の無い推測。

 あたしはそんなに善良じゃないわよ。あの子を玩具にして、狂わせて、ぐちゃぐちゃに壊したのはこのあたし。全部あたしが悪いのよ。それで良いでしょ?≫


 まあ、わたしにとってはどっちでも良いんですけどね、別に。

 

 ……そんなことより、妹様。

 今日は何しに、お屋敷に来られたのですか?


≪別に用って程のもんじゃないわ。

 最後に、見納めに来ただけよ≫



 ◇◆◇◆◇



『…………』


 あ、お嬢様。

 妹様、今お帰りになりましたよ。


『そう。見送りご苦労様』


 妹様、もうすぐこの星から離れるみたいです。

 それで、最後に屋敷を見に来たと。


『そうみたいね』


 嘘です。本当はお嬢様に逢いたかったんです。

 たった一人の姉ですもの、逢って話をしたかったに違いありません。


『…………』


 でも妹様は素直じゃないから、言えなかったんですよ。

 どうですか、今からでも。


『……なこと……』


 はい?


『そんなこと。貴女に言われなくても分かってるわよ』


 ですよね、流石はお嬢様。

 それでこそ、わたしのご主人様です。


『もう。おだてても何も出ないわよ』



 ◇◆◇◆◇



 テレパシーでの交信は、ほんの数分間という短いものでした。


 お嬢様の心は、無事に妹様に届いたのでしょうか。

 そして、妹様の心は──。



 真実は宇宙の闇の中。


 深い深い暗黒の空に、きらきらと今日も、何万何億もの星々が煌いているのでした。

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