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お嬢様は侵略者  作者: すだチ
10/13

その10『エリザベスたんがやってきた』

 愛する前人類の皆様、ごきげんよう。

 皆様のアイドル、冥土でございます。


 突然ですが、仕事が無くなりました。


 いえ、リストラとか派遣切りとか、そういう訳ではございません。

 わたしの代わりにお嬢様の身の回りのお世話をする人(?)が見つかったのです。


 その名も、使役生物「ショボス」!


『テケテ・ケ』


 ……前にお嬢様がお産みになった卵から誕生した、不定形の怪奇生物達です。

 なお、ネーミングはお嬢様自らが為されました。


 決してわたしが名付けた訳ではありませんので、「冥土ってセンス悪っ」とか思われないよう、お願い申し上げます。


 でもってこのショボス、知能はそれなりにあるのかお嬢様の言うことを良く聞きます。もしかしたらお嬢様のコト、母親と思っているのかも知れませんね。テキパキと良く動きます。

 まあそんな訳で、わたしの分の仕事は見事に無くなってしまった訳です。たはー、参りましたねぇ。


 じゃあここは一つ、暇潰しにゲームでもしましょうかね!? 一日中部屋に引き篭もって、心ゆくまで!


『何仕事全部ショボス達に任せてサボろうと企んでるの。

 アンタは地下室の掃除でもしてなさい』

「えー。めんどくさいです。

 ──って、地下室なんてありましたっけウチ?」

『ありました。今は物置みたいになってるけどね。

 たまには掃除しないと苔が生えちゃうでしょ? 頼むわね』

「えー、でもゲームがー」

『働かざる者食うべからず。追い出されたくなかったらとっとと行きなさい』


 へいへい。


 冥土として、お嬢様のご命令に背く訳には参りません。

 ダッシュで掃除用具を取りに行くとしましょう。


「あー。そこのショボス」

『テケテ・ケ?』

「箒とチリトリ取って来て。三分以内にね」



 ◇◆◇◆◇



 地下室への入り口は、お屋敷の裏庭にありました。

 ……入り口というか、どう見てもマンホールの蓋ですこれは。


 よいしょ、と開くと、遥か暗闇の底へと続く階段が見えました。

 お嬢様はここを降りろというのでしょうか。どこのホラー映画の世界ですか。


 独りだと若干怖いので、先程掃除用具を持って来てくれたショボスを連れて行くことにしました。

 右手に懐中電灯、左手にショボス、ショボスの中に箒とチリトリを取り込んで、わたしはいよいよ地下室へと一歩踏み出し──。


 ……見事に踏み外しました。



 ◇◆◇◆◇



 落下した先は真っ暗闇の中でした。


 当然何も見えません。床の冷たい金属的な感触から、人造の建屋内に居ることは間違い無さそうですが。


 てか全身がズキズキと痛みます。どうやらあちこち打ってしまったようです。痛いなんてものじゃないです。下手したら骨折してるんじゃないでしょうか。


 ショボスは……落ちる途中で放してしまったようです。

 まあ良いか別にどうでも。


『テケテ・ケ?』


 まずは視界を確保することが先決。

 手探りで懐中電灯を探していますと、何だか柔らかいモノに手が触れました。むにゅ。


 むにゅって何でしょうむにゅって。

 何だか、とても嫌な予感がします。


『……おい』


 はい。


 はっ!? 思わず返事をしてしまいました!?

 ここは聞こえなかった振りをしてやり過ごすのがセオリーだと言うのに! わたしとしたことが、致命的なミスを犯してしまいました。


『そうはいかない。わたしはお前が来るのを待っていたんだ。

 さあ、早く封印を解いておくれ』


 ……今からでも遅くないでしょうか。

 悲鳴を上げて、とっととここから逃げ出したい気分なのですが。


 ああ、それよりも懐中電灯。

 あれが無ければ、逃げることさえできそうにありません。


『何を言ってる。

 それなら口に咥えているじゃないか』


 あっ、そうでした!

 落ちる途中で、咄嗟に咥えたんでした。

 どうりで喋れなかったはずです。


 教えて下さり、ありがとうございました。

 それではわたしはこれにて──。


『てい』

「うわぷっ!?」


 あ、足払い!?

 いきなり酷くないですかそれ!?

 てゆか、床は金属製なんですよ!? 下手したら怪我しますって!


『いいから』


 いや、良くないですってばよ。

 ……とにかく、灯りをつけることにします。

 ふーいんがどうたらこーたらはその後で良いですね?


『ああ、構わんぞ。

 その方がお互いやり易いだろうしな』


 ではいきます。

 ──ああ良かった。電池は切れてなかったみたいです。


 淡い白色光が、地下室の様子を照らし出しました。

 思ったよりも広いスペース。少なくともわたしの部屋よりは広いです。

 そこに、何とも怪しげな物品が所狭しと並べられていました。家具というよりガラクタの山。成る程、物置ですねまるで。



 そんな中に、そのヒトは居ました。


『……よう』

「に、人間?」


 ショートに切り揃えた銀色の髪。

 こちらを見上げて来る、金色の瞳。

 漆黒のドレスを身に纏ったそのヒトは、どこからどう見ても地球人の女性でした。


 久方ぶりに見る、生きた人間の女の人──。


『残念。わたしはお前達と同じではない』


 彼女は笑ってそう言いました。

 その全身に、緑色の触手を纏わり付かせて。



 ◇◆◇◆◇



 彼女はエリザベスと名乗りました。

 触手の戒めから解放してあげますと、うーんと背伸びをして、ぴょんと飛び跳ねました。


『ああ。自由だ……!』


 良かったですね。

 でも、何でこんな所に?

 お嬢様と何かあったんですか?


『そうだ、あの糞餓鬼。

 まずはあいつの所に案内して貰おうか』


 はあ。別に構いませんが。

 しかしその前にお掃除をしてしまわないと、お嬢様に怒られてしまいます。


『そうか。ではわたしも手伝おう。二人でやった方が早く済む』


 ありがとうございます。

 エリザベスさんって善い人ですね。


『何、気にするな。

 長らく身体を動かせなかったからな。ちと運動した方が良いのだよ』


 わたし達は黙々と掃除を始めました。

 エリザベスさんは今まで拘束されていた割りに、元気良くテキパキとゴミを集めていきます。どこぞのショボスを彷彿とさせる動きです。


 ……てゆか、これだったらわたし必要無いような気も……。


 軽く凹みながら掃いてますと、何やら白い棒のようなモノを見つけました。それは一本だけではなく、あちこちに落ちています。

 中には、大きなボール状のものもありました。白くて硬くて、これはまるで。


「──人骨」

『ああ、そうだ』


 わっ、吃驚した。

 いきなり心の中に語りかけて来ないで下さいよー。


『ああ、すまん。懐かしいものを見つけたものでな』


 この骨、ですか?


『うん。わたしの夫なんだ』


 そう言って、エリザベスさんは頭蓋骨を大切そうに抱き締めました。


 ううむ。何だか複雑な事情がおありのようですね……。



 ◇◆◇◆◇



 ──という訳です、お嬢様。


『そういう訳だ、糞餓鬼』

『誰が糞餓鬼よ!?』


 はて? お嬢様のことでは?


『お前以外に誰が居る?』

『ううう。もうヤダこの人達』



 場所は変わってお屋敷の居間。

 わたしがエリザベスさんを連れて行くと、お嬢様は目を丸くして驚かれました。結構怖いのでやめて下さい、そういうリアクション。


『よくもわたしを閉じ込めてくれたな……!』

『だ、だって、あの場合仕方なかったのよ!

 貴女がいきなり襲い掛かって来たから!』

『それはお前達が屋敷に侵入して来たからだろうが!

 わたしと彼の安住の地を、土足で踏みにじって……!

 その上、地下に封印とはな! よくもやってくれたものだ!』

『封印って、一時的に施しただけだもん!

 後で警察に引き渡すつもりだったんだから!』


 ……えーと。

 じゃあ何でエリザベスさんは今まで地下室に閉じ込められていたのでしょう?


『そ、それは──忘れてたのよっ』

『…………』


 …………。


 さ、最悪の言い訳ですね。


『だ、だって。

 元々この家に住人が居るなんて知らなかったし、いきなり襲い掛かられて気が動転してたし、引越しの手続きとか忙しかったんだもん。

 しょうがないじゃない!』


 しょうがよくねーよ。


 すみませんエリザベスさん。

 我が主の不徳の致すところ、わたしが代わってお詫び申し上げます。


『……いや、もう良い。

 何だか、怒ってたのが馬鹿馬鹿しくなって来た』


 お気持ちは良く分かります。

 わたしだって何度、この屋敷から出て行こうと思ったことか。


『お前も大変なんだな……』

『えっ、何? 全部私が悪いことになってる!? 私だって被害者なのに!?』


 お黙り天然薄ら馬鹿。


 とにかく、元々このお屋敷はエリザベスさんのモノなんですから、わたし達は早々に出て行くことにしましょう。それが正しい引き際というものです。

 ね、お嬢様?


『やだ。何で私が出て行かなきゃならないのよ!? 高い金払って不動産屋から買い取ったんだから、この家は私のモノよ! 過去のことなんて知らないわ!』


 いいから。


『よくない! 何よアンタ、どっちの味方なの!?

 アンタだって嫌じゃないの? ここは私達の思い出が詰まった──』


 思い出なんて、これからも一杯作れるじゃないですか。

 でもエリザベスさんには、この家しか無いんですよ?


『ぐ。そ、それは』


 お嬢様。あまりわたしを失望させないで下さい。


『……分かったわよ。出て行けば良いんでしょ』


 OK。それでこそわたしのお嬢様です。


 という訳ですのでエリザベス様。これからは貴女がわたしのご主人様ということになります。不束者ですが、どうか宜しくお願い致します。


『──って、ちょっとアンタ!

 何勝手なこと言ってんのよ!? アンタは私のモノでしょう!?』


 はい? 何か言いました?

 元・ご主人様?


『○×▽◇qwty;dfkjlzxcvb〜〜〜〜〜〜ッッ!!!』


 あ、キレた。



 ◇◆◇◆◇



 良いんですかエリザベス様?

 あんなお嬢様、ウチに置いといて。


『ああ。何だか可哀想になって来てな。

 お前、アイツを苛め過ぎだ』


 えへへ。頑張りました。


『褒めた訳じゃないんだが……。

 わたしとしては、ここに居られるだけで満足だ。

 ここなら夫を──ジェームズを感じることが出来るからな』


 ええと、その。

 ジェームズさんは地球人なのでしょうか?


『そうだよ。元々この家はジェームズのものだったんだ。

 だが、地球人の寿命は短い。彼は死に、この屋敷にはわたし独りだけが残された。

 それからずっと、待っていたんだ。この場所に再び、ジェームズが現れる瞬間を』


 ……はい?


 でもジェームズさんはお亡くなりになったんですよね?

 それがどうして。


『亡くなる直前、彼は夢を見ていたよ。

 百年も後の未来の夢だ。

 彼は夢を通って、この時代を訪れていたんだ』


 だから、きっと現れる。

 たとえ肉体が死滅しても、いつか必ず。


 エリザベス様はそう応えて、窓の外に目を遣りました。



 ◇◆◇◆◇



 で、元・ご主人様?

 お庭の草むしりは終わりましたか?


『……まだよ。疲れたから休憩してたの』


 ハァ? 何ちんたらやってんですか。

 少しはショボスちゃん達を見習って下さい。


『ううう。何で私がこんなコトを』


 終わったら次は雑巾掛けをお願いしますね。

 お屋敷に置いて貰いたかったら、せいぜい頑張って働いて下さい。

 働かざる者、食うべからず、です。


 ……さて。

 それではわたしはゲームの続きでも──。


『今に見てなさいよ。

 アンタなんか、ショボスの餌にしてやるわ!』


 はいはい、ワロスワロス。



 ……などと調子ぶっこいてたのが二日前。


 現在わたしは、ショボスの影に怯えて逃げ惑う日々を送っております。


 いやー、まさか。

 エリザベス様がお屋敷の管理権を、あっさり譲渡されるとは思いませんでした。


『テケテ・ケ』


 怒れるお嬢様は本当に怖いです。

 くわばらくわばら。

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