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『もし〇〇(略)』世界シリーズ [彼方の平行世界記憶断片2]

令嬢は夢にいる

作者: 平泉彼方



 物心つく頃には疎まれていると気付いていました。


 両親はそれぞれが愛人や間男と遊び、私の育成は全てメイドや執事に任せていました。幸いなことに彼らは私を愛してくれましたが、それでもやっぱり雇用主の娘と召使という関係は変わらないのだとすぐに気付くことになりました。


 だって、お金が切れれば彼らはいなくなってしまったから。


 伯爵家我が家が窮地に陥ったことは、幼い私でも当時わかっておりました。商人と思しき知らない殿方がたくさん我が家にある日来て、『差し押さえ』と言ってベッドやソファー、それ以外にも色々持って行ってしまったのです。

 それから私を育てていたメイドも執事も、いつも笑顔でおやつをくれたシェフも、庭師の爺やでさえも、皆いなくなってしまいました。ごめんなさいと言って。

 とても悲しくなりました。1人になってしまったのねって。


 ですが、悪いことって続くことを直後、思い知ることになりました。


 その日そのまま唖然としていたら、今まで私へ関心の無かった両親が突然帰ってきたのです。そして、私をどこかに連れ出すと言い出したのです。私の身を担保にお金を借り入れたと言って。



「嗚呼これで、元通り。」



 モノを見る目で私を見ながら、大きなお城へ連れて行かれたのです。白くて、雄大で、豪華絢爛なお城へ。ガバネス(家庭教師)のお話にあったガーゴイルが確かにいましたわ。そして、我が祖国の紋章が中央にあるのが見えたのです。

 だから、あのお城は『王宮』だと気付きました。


 でも、両親はなぜ私をここへ連れて行くのかしら? 担保といえばお金の工面の筈でしょう?

 そんな疑問とともにお城に着くと、両親は清々しい顔で帰って行ったのでした。私を1人置いて。



「では来てもらうぞ。」



 そうして連れて行かれた場所は、お城の地下だったのです。お城の下にこれだけ大きな空間があったことに驚きました。でもそれ以上に、暗くてジメジメしていて、怖かったです。

 震えていても誰も手を差し伸べてくれなくて、途中で転びそうになったら手を掴まれました。そのまま私は引きずられて連れて行かれました。痛いと途中拒否しても、足が疲れたと言っても、無視され続けたのでした。



「待ち侘びだぞ。」



 そして連れて行かれた先には、黒いローブを着た人たちがたくさんいたのです。なんだか怖い雰囲気です。

 よく見ると、中央には棺が置かれていて、中には萎びた何かがあったのです。最初何かわかりませんでした。ですが、肉を乾燥させたものと似ていたからか、あるいはドレスを着せられていたからか、もしやと思いました。

 とても嫌な予感がして、近づきたく無いと思いました。


 だから、私は中央へ連れて行こうと掴まれた手をとっさに払いました。強引に掴もうとしてきたので逃げ出そうとしたのです。

 すぐに捕まってしまったけれど。



「連れて行け。」



 そして、棺の近くにあったからの棺へ無理やり入れられたのでした。



「これで、これで我が娘は……」


「ええ、あなた……」



 喜び合う声が聞こえ、私の意識は消えました。


 しばらくそこから夢を見たのです。男の子の夢を。私の暮らす世界と別世界の夢を。



 そこは小さな箱みたいな家がたくさん並び、一部の場所ではより小さな箱がたくさん連なって塔を作り上げておりました。

 また別の場所では鉄製の箱が一定の時間で同じ場所を行き来し、それをもっと小さくした箱がたくさん黒灰色の道で動き回っておりました。

 そして驚いたことに、夜が暗くないのです。夜も明るくて、まるで星空みたいに、いいえ、星々よりももっともっと明るく輝いているのです。


 全てがとても、不思議な風景でした。


 夢の男の子は黒髪黒目の男の子でした。

 両親と我が家よりずっと狭い家で暮らす男の子は、幸せそうに暮らしていました。私が欲しくて、でも得られなかった暮らしです。誕生日や学び舎へ行くことを祝ってもらい、怪我をして泣いていたら慰めてもらい、そして、嬉しいことがあったら笑いあっておりました。

 憧れてもあって、夢中になって見ていました。


 でも、ある日隣に突然家が現れてから変わりました。


 その家には男の子が1人住んでおり、両親がおりません。トモダチになろうと幸せな男の子へその男の子が声をかけます。幸せな男の子がいいよと答え、それから数日あっという間に幸せな男の子の持つものはトモダチになった男の子に取られて行ってしまいました。


 幸せでなくなった男の子はだけど、恨みもせず、幸せに暮らしました。


 トモダチを大事にし、何もかも奪われ命の危険にさらされても笑って許しました。そして無自覚に何もかも取り上げたトモダチは、その男の子のことをとても好いていました。好きすぎて、誰も近づけ無いようにするくらいに。

 嗚呼、だから許してしまったのでしょうか。


 ハラハラしてみていましたが、結局幸せだった男の子はトモダチに命を奪われました。崖を落下して行き、そして消えてしまいました。



 夢は切り替わります。



 ここは元の世界でしょうか? いえ、きっとまた違うのでしょう。

 青々と生い茂った森の中にポツンとお屋敷があります。我が家よりも少し小さめですが、砦みたいな石造りで威厳が感じられます。


 そこから突如、焦った様子の男女が使用人に馬車を走らせました。彼らは赤子を抱え、他の荷馬車共々急いて屋敷から離れていきます。もう夕刻ですので、普通ならば事故を恐れ明日出立するすると思うのですが。

 きっと急がなければなら無いほどの理由があったのでしょう。そう思っておきます。


 それからしばらく、屋敷の中からは鳴き声が聞こえました。


 家へと意識を向けると、家の中へ視界が切り替わります。

 家の中には誰1人として人影がなく、ものもなく、ガランとしています。それもそうでしょう、先ほど旅路に立ったのですから。

 なんとなく差し押さえを受けた我が家を思い出して、心が痛みます。あの後そういえば私を育ててくださっていた方々はどうなってしまったのでしょう。路頭に迷っていなければ良いのですが。

 橙色の光が差す部屋へ向かえば、そこには簡素なベッドが一つ。上には布に包まれた何かが居ります。


 いえ、わかっておりますの……赤子、ですわね。


 唖然としましたわ。え、これ、現なのですか、夢でなくて?! などと、つぶやいてしまうほどに。

 はっとして、火が着いたように泣く赤子へと手を差し伸べました。けれど、すり抜けるのです、私の手が。何度も手をかざして撫でたい、触れたいと思っても、すり抜けるのです。嗚呼なんて無力なのでしょう。


 そして、これだけ近づいて気付いてしまいました……この方、私の半身です。


 私の生まれたところでは『運命』というものがあります。これは例外なく万人に生まれた瞬間世界から与えられるものです。

 運命が何か、というのは未だ分かっておりません。ですが、将来愛を営む相手が決まるという意味でほぼ間違いはないのでしょう。当時の私は意味を理解しておりませんでしたが、幸せな男の子の世界を見たことで理解しました。


 尚、私の両親は政略結婚で、双方とも『運命』は出会う前に御隠れになっていたそうです。運命でなくても関係を育む夫婦はいるそうですが、両親は残念ながらそうではなかったのでした。関係が冷え切るのも仕方がなかったのでしょう。


 問題は、私の半身が今死にかけていることです。



(誰か、誰でもいいから彼を気付いてあげて!)



 私は叫びますが、手がすり抜けるように声もすり抜けます。理由はもちろん、私が実体ではないからです。これは予測でしかありませんが、私の肉体はあの城下にあるのでしょう。

 精神が死んでいないので、多分肉体は生きているはずです……生きていますわよね?


 嗚呼それよりも今はこの男の子。誰か本当に助けて差し上げて!

 遠くから聞こえて来る無数の足跡に、恐るべき『大暴走(スタンピード)』を思い出します。よく庭師の爺から冒険者時代のことを聞いていたのですが、その中に出てきたのです。

 巻き込まれたら無数の魔物に喰われると。逃げるすべはなく、起こる前に身を隠すしかないと。


 まだまだ遠いですが、黒っぽい粒が遠くに見えてきました。精神体でいるからなのか、大きな気配も感じます。嗚呼、本当に私の運命はここで……



 そう思っていたら、突如として黒紫の煙が立ち込めました。




〈かわいそうに……〉



 紫の煙は控えめに言って意地の悪そうな高齢な殿方の顔に形を変えました。そして、赤子を見ながら涙を流しましたのです。

 どうやら赤子を呪おうとしていたところで置いていかれるのを見て、気の毒に思ったようです。しかも私の存在に気付いている様子でした。



〈私が育てるから安心しなさい。〉



 私がどこにいるのかはきっとわからないのでしょう。ですが、確かに私の心配する気配へそう声をかけてくださいました。直後、高齢な殿方は若い貴族の青年へと変わり、赤子を連れて行きました。




 それからまた数年、赤子の成長が見たく探していたのですがついに会えませんでした。どころか、私は一度引き戻され、今度は別の場所へと飛ばされたのでした。

 そして今、私消えかかっております。



〈苦しい、タスケテ〉

〈一層のこと、殺してくれ〉


〈死にたくない死にたくない、許さ無い許さ無い許さ無い……〉


〈なぜ私がこんな目に!〉

〈ゲヒャヒャヒャヒャ〉


〈ママ、どこ、怖いよ〉



 他の強い幽霊たちが次々消えていき、いつ弱い私が消えてもおかしくありません。いえ、もうすぐ消えてしまうでしょう。


 私、何のために一体生まれてきたのでしょうか。



 せめて最後に、あの子に逢いたい。




「大丈夫、もう大丈夫だから!」


「絶対助けるから、助けるからそれまで待っていて!」



 そんな中聞き覚えのない、けれど、何故か愛おしい声が聞こえました。ほぼ一瞬です。同時にとらわれていたものから解放されました。


 消える心配はもうないのでしょう……ですが、声の主からは引き離されてしまいました。



 残ったのは寂しさ、虚しさ…………また、相見える日が来るのでしょうか。




 その後色々あって、本編プロローグへと続く(或いは、もっと前に出会うことになるかも知れ無いです)多分そのうち短編の続きは書きます。

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― 新着の感想 ―
[一言] >だって、お金が切れれば彼らはいなくなってしまったから。 お金が無くなると、いろんな人たちがどこかへ消えますよね (;'∀') でお金が戻ると、どこからか現れる……みたいな? 本編とあま…
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