9話 ニューヒロイン参戦。
「だからなんで俺様こんなのやってんだよクソ○ァ○キン!」
結局戦闘訓練室でディジェとレヴィの相手する羽目になっちまった俺様、反省。
いや、違うんだ読者諸君。放課後、気づいたら俺様はなぜかレヴィとディジェの馬鹿と戦闘訓練室に居たんだ。それに至るまでの記憶が全くなくてよ、まるで時間がワープしたような感覚だったぜ……。
つか、まさかレヴィまで来やがるとは。意外だったわい……。勇者になるため、強くなりてぇとか抜かしてよ。
訓練つっても、ひたすら実戦でゲロ吐かせただけだがな。レヴィはトンファー、ディジェはハルバードか。豪快な得物揃えやがって、突撃ばかりで芸がねぇ。
……ただ、まぁ、なんだ。
ガッツのある馬鹿は、俺様、嫌いじゃねぇよ。
「せ、先生……なして、素手なんにそげな、強かと……?」
「特に、右腕の腕力がけた違いだ……!」
あー、魔王の右腕ね。今の所生徒にゃ隠せているが、俺様自重しないしする気もねーし、いずれバレるかねぇ。
「俺様が強いのは当たり前だ、俺様だからな。俺様にいわせりゃお前らが弱すぎんだよ幼虫共。頭から突っ込むしか能のねーノータリンが、数の利があんなら一人が囮になるとか的を散らすとか策があんだろ。他にも地形利用したりよ」
「地形って言っても、こんな室内じゃ活用できないだろ」
「頭使え馬鹿。土属性の魔法で岩を出して、それをハルバードでぶっ壊せば、破片のスクリーンと土煙で目くらましができんだろうが」
ない物は作れ、ある物は利用しろ。それが喧嘩のセオリーよ。
「人に教えを乞いたくせして文句いってんじゃねースカポンタン、つべこべ言ってる暇あんならとっとと立って準備しろ! 今日はあと三セットゲロ吐くまで許さねーからな!」
俺様に指導を頼んだからには容赦しねーぞ、カインの時も毎日胃の中ぶちまけさせて強くしたんだ。
終わるころにゃあ、二人とも仲良く倒れて気絶しやがった。水ぶっかけて叩き起こしてやるか。
「ぶばっ!? み、水!? もっと優しく起こせよ!」
「なら気絶すんな、あと今日ぶっ倒れた数だけ殺されたと思っとけよ。実際の戦闘じゃ、倒れりゃ魔物の美味しい晩飯になるだけだ。反省点振り返って練習しとけ、明日同じ時間、ここで確認してやるからな」
「う……スパルタだ……」
「先生、容赦なしゃしゅぎたい……」
「……そういやレヴィ、君、随分訛ってたんだな」
「えっ! ちが、これは……!」
「いや、いいと思うよ……俺、方言好きだし。その地方の味があるよな。それに、レヴィ結構可愛いし、ギャップがあって、いいと思う」
「うわ……そげん褒めんでくれんね!」
けっ、案外素直な馬鹿だな。ヨハンがもっとしっかりしてりゃあ、存外真っ直ぐ育ったろうに。
「ま、文句混じりでもついてきた事は褒めてやる。そうまでして、親父を見返してぇようだな」
「当たり前だろ、親父はいつまでも俺を子ども扱いしてきて、ろくに俺を見てくれないんだ。だから、親父が振り向く位に強くなる。それで絶対俺を認めさせて、褒めてもらうのさ。それが、俺の目標だよ」
けっ、なんだかんだ愚痴垂れながら、結構ファザコンじゃねーかてめー。
大方偉大なる親を尊敬しつつも、てめぇの弱さにムカついて反抗しちまうタチか。目標が親父に認められるためとか、泣かせる話だねぇ。
「おいレヴィ、丁度いいじゃねぇか。次から昼飯そいつと食えや。いつまでも俺なんかと食ってたら、てめぇ変な噂立って余計に居場所がなくなるぞ」
どっからどーみてもヤクザもんの男が傍に居続けちゃ、こいつの未来にも悪影響が出るだろうしよ。ディジェと一緒に居て関係からかわれる方がよっぽど建設的だ。
「コミュ深めとけば、ちったぁ俺様を楽しませてくれるだろうよ。だから二人揃ってあがけや、チームガッツ」
「チーム……」
「ガッツ?」
「はっ、あのどんより沈んだ海鼠どもよかずっとマシだぜ、ガッツ溢れる幼虫さんよ」
読者諸君、言っとくが俺ぁ無駄な事はしねぇ。そんな天邪鬼が動く時点で、俺の胸中察してくれ。
「今日はもう上がりだ、てめぇらとっとと帰れ。特にディジェ、今日親父は定時上がりだろうから顔くらい見せてやれ」
「誰が、あんなクソ親父なんかに……」
「ヨハンの鼻たれボウズに不満があんだろ? ならその不満ぶちまけて喧嘩してこい、なんなら殴り倒しちまえよ。親と喧嘩できる程、幸せなもんはねーぞ」
俺ぁ、生まれてこの方親と喧嘩した事がねぇ。だからてめぇは存分に親とぶつかり合え、生きている間にな。それが出来るだけ、てめぇはかなり恵まれてんだからよ。
「どんな形であれ、ガキの内は家族と接しろ。俺に出来ねぇ事が、てめぇは出来る。正直、羨ましいぜ」
「……先生」
「おっと、気持ち悪い言葉かけはなしだ。野郎からのラブコールは受けつけねぇ主義でよ。せめて酒飲める年齢になってから出直してこい、奢らせてやる」
「って俺が奢るのかよ!?」
「授業料って奴だよ、ボーヤ。そんじゃ、俺ぁ野暮用があるんでな」
「仕事の、忙しいんやね、えらいそーたい」
ああ、大変だよ。余計な仕事抱え込んじまったぜ。
◇◇◇
カインと別れる直前、あいつが俺に依頼してきた事がある。
「上位の魔物?」
「はい。最近、街で通り魔事件が頻発しているのです。御存じないですか?」
「新聞は読んでねぇ。続けろ」
「その殺され方が、異様でしてね。その通り魔の被害者は、ミイラ化した状態で発見されるのです。まるで、魂を抜き取られたかのように」
「そいつは、きなくせぇな」
読者諸君にゃ、さっぱりか。教えてやるよ。
魔物には、ランクがある。
知能もねぇ脳筋が下位の魔物、知能も高くて腕っぷしもあんのが上位の魔物。噛み砕いて言えば、下位の魔物代表がスライムやゴブリンとかの完全化け物ルック、上位代表はデーモンやらハーピィやらのスタイリッシュルックだと覚えてくれればいい。
人間界に迷い出た魔物の餌は、勿論人間だ。だが、下位の魔物が直接人間の血肉を食うのに対し、上位の魔物は人間の魂が好物なんだ。
魔物に魂を食われた人間は、皆しわしわのミイラになっちまうって特徴があってな。死体の状態からして、間違いなく上位の魔物がこの街に迷い込んでやがる。
「上位の魔物による事件なので、勇者に要請を出し解決に向けようとしているのですが、中々尻尾を掴めなくて。それに次世代の勇者ではまだ、不安があります」
「それで、この俺様に解決しろってか。甘やかしてばかりじゃ次世代は育たねぇぞ、若い連中にやらせろ。もしくはてめぇが手本を見せな、平和の象徴さん」
「したいのは山々ですが、ベルリックに滞在できるのはあと二十分しかなくて。この後宰相と会談の予定があるので、俺自身が動く事は出来ないんです」
案の定、立場のせいでがちがちに縛られてんな。出世するのも考えもんだぜ。
「これ以上放置すれば、被害がより大きくなってしまいます。だから師匠、お願いします」
「へ、だが嫌だね。俺ぁサビ残がこの世で一番大嫌いなんだ」
「残念ですね、折角残業代を出そうと思ったのに。特別に二割増しで」
「任せてくだせぇ社長!」
ってな感じでカインの依頼を受ける事にした俺ちゃん、やっぱ単純☆ シットだぜ。
読者諸君、もし残業したらちゃんと残業代請求しろよ? 労働者の権利だ。
さて、俺様は俺様で仕事しねぇと。程よく日も暮れてきた。つか暑いな今日、腕でも捲るか。特に魔王の右腕って結構蒸れるんだよ。
……被害者は路地裏や街の隅っこみてぇな目立たない場所で発見されてる。=魔物の活動範囲もそうなる、ってわけだ。しかも、被害者は大抵夜にやられている。夜行性の魔物で確定だ。
夜にベルリック内の路地裏を片っ端から探しゃあ、星も見つかんだろ。
あん? 今サーチで探せばいーじゃんって思った読者諸君、わかってねーな。すぐに終わっちまったら、狩りは楽しくねーだろ?
いかに犠牲を出す前に、華麗に獲物を喰うか。スリルを味わうのがクレバーな男の流儀ってもんさ。俺様が超TUEEEからこそのヨユーよ、ヨユー。
ま、人命掛かってる以上真面目にやりますがね。ある程度気持ちに遊びがねーと、緊急事態に対応できねーぞい。
「止まりなさい、そこの不審者!」
ほらな、緊張してる時にこんな事言われたら動揺するだろ?
振り返って見りゃ、いきなり刺突を撃ち込んできやがった。俺様華麗に回避っと。
「誰だぁ、他人様に剣突きつけてきやがったのは、っとぉ?」
こいつぁ、意外だぜ。クレイジーな野郎だったらぶっ殺してたが、ワイルドないい女とはな。
「黙れ、貴様だな。近頃ベルリックを騒がせる連続殺人犯は」
堅物発言が良く似合うぜ、クールな切れ目の美人さん。オレンジの鎧でも隠し切れないグラマラスな我儘ボディ、金のロングヘアー。乳臭ぇレヴィとは比較にならん上物だ。
「何をニヤニヤしている! 私を愚弄する気か!」
「レイピアを下げなお姫様。どうしてこの善良なる俺様が人殺しなんざしなくちゃならねぇんだい?」
「愚問だな、善良な市民は異形の腕を自慢げにぶら下げないだろう!」
ま、そうだよなぁ。魔王の右腕、ファッションアイテムとしては失格だ。
「上位の魔物は高い知能を持ち、時に人に擬態すると言う。だがへまをしたな魔物め、丁度擬態を解除する時、私に鉢合ったのが運の尽き!」
「へぇ、ぜひとも名前を伺いたいねぇ、暗がりで迷子のアリスちゃん」
「ならば冥途の土産に聞くがよい! 私の名はブレイズ・レックマン! 勇者ランキング1位に君臨する、現役最強の勇者だ!」
ヒュウ! こいつは驚いた、次世代勇者のトップランカーかよ! こんな美魔女がランク1位とは、恐れ入ったぜ。
「って事は、まさか未成年か? 俺ぁ二十歳未満お断りなんだが」
「ふん、安心しろ。既に成人済みだ!」
そいつは良かった、こんな極上もんなのに守備範囲外じゃ勿体なさすぎる!
「私に殺される事を光栄に思うがいい、死ね魔物!」
「まぁ落ち着きなって。そんな乱暴しちゃ、折角の出会いが台無しだぜ?」
威勢よく剣を振っちゃって、可愛いねぇ。止まって見えるぜ。
「なんだこいつ……! 私の太刀筋を、読んでいるだと……!?」
「ま、俺様天才だし? しかし美しい剣裁きだ、まるで流麗なバレエだよプリンシパル」
ただし俺様はその上を行くエトワールだがね。それ女を示す言葉だって? 細かい事は気にすんな。
とりあえず口説けねぇから剣は止めさせてもらうぜ。ほら、剣持つ手首を掴んで壁に押し付けちまえば、君はもう動けない。えらく荒っぽい壁ドンだな。
「ぐっ!? な、これしきの事、で私が……動けない、だと!?」
「君さえよけりゃ、剣術を手取り足取り、腰取り教えてあげようか? ピンク色の天蓋ついたベッドの中で、朝までな」
「お断りだ! だ、誰が魔物なんかと! くっ……死ね!」
いいねぇ、じゃじゃ馬の調教は大好きだぜ、俺様。ただ……そろそろこの逢瀬を邪魔するゴミどもを処理するとしますかね。
「覗きはNGだ、魔物さんよ」
左手で銃を作って、右側に光弾をBang! 魔物の眉間に風穴が空いたな。
「え……?」
「何呆けてるんだい? 俺らのフラメンコに誘われて、観客が集まったのさ」
周りを見な、すっかり囲まれてやがる。赤い目をした、小鬼の魔物。ゴブリンだ。黒い体に鋭い爪の生えた手。魔界じゃポピュラーな雑魚だな。
路地裏にうじゃうじゃ居やがる、まるでゴキブリだ。成程、愛を語り合う俺らをディナーにしようってわけか。
「数は三十って所か。解放するから手伝いな、勇者さん」
「なぜ貴様なんかと共闘を!」
「しなきゃ食われるだけだが。なんなら全部、俺が食う」
ま、ゴブリンは魔界で飽きる程食ったからな。あんなクソまずい肉はもうごめんだぜ!
両手で作った銃で光弾を撃ちまくり、七面鳥撃ちだ。ブレイズお嬢ちゃんも華麗な刺突でゴブリン退治を手伝ってくれてるから、俺ちゃん楽でいいわ。
トップランクの勇者なだけあって、確かに強いぜ。若い頃のカインを思いだす。
「くそ、なんだこいつらは! いくら倒しても湧いてくる、貴様が呼び寄せたのではないのか!?」
「生憎こんなブルドックを飼う趣味はなくてね、大方俺らのラブシーンに見入って寄ってきたんだろう」
「どこまでふざけた態度を取るつもりだ……真面目にやれ真面目に!」
OK! 注文通り、ちょっとギア上げて戦うか。
ゴブリン共の中を駆け抜けて、通り過ぎる間際に眉間をぶち抜く! 無限に湧いて出るなら、それより早く殺せばいいだけの話だ!
本気を出した俺様に雑魚が勝てるはずもなく、あっという間に全滅しちまった。コンマ数秒も持ちこたえられないとは、前菜にすらなりゃしねぇ。
「な、なんだ、この戦闘力は……!?」
「呆けてないで、剣構えてな」
ゴブリンは底辺の魔物だ、仲間を呼び寄せる転移の魔法は使えねぇ。
連中はその弱さのせいで、上位の魔物に使役されるんだ。今回のケースはまさにそれ。つまり俺らを獲物に決めた、
「連続殺人犯様の、お出ましだ」
来たぜ、山羊の頭を持った、やせっぽちで血の色をした魔物。人間の魂大好きな上位の魔物、バフォメットだ。