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4話 嬉しすぎて狂っちまうぜ!

「ここが、教員寮、だってのか?」


 俺様がカインと契約してから早一週間。お忙しい勇者様に代わり、コハクに近郊都市ベルリックの教員寮に案内されて、そりゃまぁ驚いたね。


 すっげー豪華なんだよ。かなりでかい、屋敷のような建物なんだ。こんなアパートメントに教師を割り当ててんのか? すげぇなあいつ、誰もが羨むホワイト企業じゃねぇかよ。


「凄いでしょう? カインって経営者としての才能もあったみたいで、色んな事業を起こしているの。おかげで我が家はこのジルディック王国一のお金持ちになっているのよ」

「そりゃ、勇者様っつーブランド引っ提げりゃ、大抵の奴から無条件で信頼を受けられるだろうがよぉ……」


 だからって金持ちになりすぎだろ、なんかやる気なくなってきちゃったなぁ……。


 与えられた部屋も、一人部屋として使うにゃデカすぎる。ご丁寧にベッドに机、特殊な魔力を施した空調機に冷蔵庫……こりゃあちと、持て余すぜ。贅沢空間やないかい。


「落ち着かなくてムスコが縮こまっちまうぜ、溜まってたから放電しときたかったんだがな」

「真昼間から止めなさい、下品よハワードさん」

「いいじゃねぇか、生理現象だ生理現象」


 三日チャージしてから放電すると最高にエクスタシーだぜ野郎諸君、一度、お試しあれ。


「それよりも、貴方に会わせたい人が居るの。きっと彼も喜ぶわ」

「彼? おいおい、俺を満足させるのは美女だけって決まってんだ。ヤローと乳繰り合う趣味はねーんだよ、チェンジだチェンジ」

「あら、久しぶりに会う仲間に、そんなことを言っていいの?」


 仲間? おい、まさか会わせたいヤローってのは。


「は、ハワードさん……なのか?」


 噂をすれば影だ。確かに、こいつは例外のヤローだよ。

 ちと老け込んでるが、相変わらずの緑頭。昔よりも逞しくなったかね、華奢な小僧が、屈強な戦士になってやがる。


「ヨハン、てめぇ立派になりやがったなぁ!」

「ハワード……ハワードぉ!」

「おげらっ!?」


 いってぇ!? 出会いがしらに何殴りかかってやがる!?


「いったいあの時……僕たちがどれだけ悲しんだと思っているんだ……皆で生きて帰ろうって約束したのに、一人だけドロップアウトして! 卑怯だよ、あんたは本当に、卑怯者だよ!」

「~~~……悪かったって、謝るからよ、出会いがしらのジョルトブローは止めろや……」


 口の中が血塗れだ……いいパンチ持ってやがんな、畜生。


「けど、ハワードさんが魔界に残ったから、今の僕たちがある……それも、ちゃんとわかってる。だから、今度はお礼を言わせてもらうよ。……今までありがとう、そして、おかえりなさい」

「へいへい、どーいたしまして、ただいま。今のパンチで貸し借りもチャラにしとくか」


 改めて、ヨハンと再会のハグだ。男と抱き合う趣味なんざねーが、カインとヨハンだけは例外だよ。


「ヨハンは今、ハワード勇者学園の教員をやっているの。貴方の指導役にぴったりだと思うのだけど」

「助かるぜ、見知らぬ親父に上から口調で指導なんざまっぴらごめんだしよ。本音を言えばボンキュッボンな美人教師を割り当ててもらって、保健室で背徳な授業をご指導願いたかったが……まぁ、ヨハンなら我慢してやれるかな」

「はは、全然変わってない……僕の知っているハワードさんだ」


 俺様じゃなきゃ魔界で百億年なんざ発狂してるだろうな。このハワード様は手の抜き所を知ってるベテランなんでね。


 読者諸君も覚えておきな、人生ストレス溜めずに生きるには、何事もテキトーにやることだ。


 人間関係、仕事、プライベート。色んな場面で「やりたくねー」って瞬間は必ずあるだろう? そんな時はバックレちまえ、変に立ち向かって心ぶっ壊したら元も子もねーからよ。


 疲れたら酒でも飲みな、競馬に行けよ、女を抱け、女は男に抱かれちまえ。ミスっても平気平気! 案外、いい具合に帳尻合わせが来るからな。


「そうだハワードさん。あんたヘビースモーカーだけど、この教員寮は禁煙だからな。吸うなら外で吸ってくれよ」

「あー……ご期待に応えられないようで残念だが、俺もう吸えねぇんだ。魔界で百億年の禁煙生活したせいか、体がヤニを忘れちまってね」


 タバコがダメでも葉巻なら、って感じで吸ってみたんだが、口に含んだ瞬間むせちまった。全く、健康的な体になったもんだぜ、○ァ○クだな。

 まぁ最近はタバコ吸うのもうるせーらしいし、丁度いいか。読者諸君は吸うなよ? 俺様が怒られちまうからな。


「そうそう、クローゼットを見てもらえる? ハワードさんの教員服を用意してあるの」

「確かにいつまでも不良親父の恰好はダメだよな、ハワードさん」

「教員服ねぇ、俺フォーマルなの苦手なんだが……あん?」


 って、これが俺の教員服かよ?

 真っ白で、金のボタンを設えた、立派なコートじゃねぇか。シャツやズボンも結構伸びる素材で動きやすい。いいね、クレバーなデザインだぜ!


「お前ら、中年の自分をクールに見せる方法、知ってるかい? 服をどれだけ着こなすか、だ。その点で言えば俺様は……サイッコーにイかしてる。思うだろ?」


 鏡に映る俺様の姿に惚れちまうぜ。女性の読者諸君、この俺に惚れるなよ?


「長袖だから魔王の右腕も隠れるし、あとはこれ、皮手袋。右手に着けていれば、生徒に恐がられないでしょ」

「はっ、そんな輩を教員にするカインの根性に呆れるぜ。生徒に恐がられるってんなら雇うなって話だよ」


「そうでもしないと、貴方がまたどこかへ行ってしまいそうで、恐いのよ。私も、カインも。貴方には、できれば傍にいてほしいから」

「……あのな、リスクリターンの天秤ぶっ壊れすぎやしねぇか」


 俺なんかを匿ったらてめぇの身が危ねぇだろうに、馬鹿弟子が。


「今日は僕が街を案内するよ、見張っとかないとバックレそうだしね、ハワードさんは」

「バックレねーよ。てかてめぇも随分口悪くなったもんだな」

「あんたの口調が移ったのさ」


 は、言うようになったな、こまっしゃくれたガキがでかくなったもんだぜ。


「僕もあの頃とは違う、もう立派な大人なんだ。明日から仕事だけど、今日の夜一緒に飲まないかい? 金ないだろうし、奢るよ。ハワードさん」

「へへ、飲みの約束なら歓迎だ。あと勘違いしちゃ困るな、金ならあるぜ」


 おっと読者諸君、別にカインから金をせびったわけじゃねぇぜ。

 第1話で俺ちゃん、魔王を素材に武器を作ったっつったろ? そいつを質屋に売り飛ばしてやったのさ。いい金になったぜぇ~。


「逆にてめぇを奢ってやるよ、今日はべろべろになるまで飲ませてやるから覚悟しな」

「望むところだ!」

「二人とも、節度を守って飲酒なさい?」


 やべ、コハクがマジギレ寸前……こいつを怒らせるのだけは、勘弁だな……。


  ◇◇◇


 あーくそ、飲み過ぎた……。


 ヨハンの奴、随分酒に強いんだな。いや、この場合俺が弱くなったのか……魔界生活で肝臓がアルコールを拒否るようになりやがって、処女○戻りやがったな純情臓器が。


 だがしかし、あのガキンチョ戦士と酒を飲めるとはな。


 聞いた話じゃ、あいつも嫁さん貰って、この街で暮らしているらしい。ちゃんとガキも拵えて、幸せにやってるってよ。

 カインとコハクも、仲良くやってるようだし、俺が魔界に残ったのは、間違ってなかったんだな。


 ……命の肥料になるとか言っときながら、人間界に戻った身だ。ぶっちゃけると少し、情けねぇ気分だぜ。一生魔界で暮らすとばかり思っていたからよ、俺みたいな野良犬は、血生臭ぇ場所がお似合いなんだ。


 だってのに、あの馬鹿どもは……俺を無理やり綺麗な場所へひっぱりあげて、あれやこれやと世話焼いて……。

 ふざけんじゃねぇよ、俺ぁ幸せになる資格も権利もねぇ、ヤクザもんなんだ。てめぇらカタギにチヤホヤされたかねぇんだっつーの。


「……酔い覚ましに、暴れるか」


 確か、酒のつまみに聞いたな。こっから北に、危険な魔獣が居ついたとか。

 試しに行ってみたら、おーおー居やがったな。豚とワニを掛け合わせたような、どでかい化け物。魔界の暴君ベヒーモスだ。


「こんな奴まで出てくるようになってんのか、へへ、いいねぇ人間界。退屈しなくてすみそうだ!」


 あん? なんだよベヒーモス。鼻を鳴らして威嚇して。俺に近づけって言ってんのか? 冗談じゃねぇ。


「てめぇが来んだよ、豚肉」


 読者諸君に見せてやるぜ、魔王の右腕の力をよ。

 魔界で何匹もの魔王をぶっ殺しては、俺は右腕に力を蓄えてきた。そのストックした力を、俺様は自由に使うことができるのさ。


 魔王からパクった、重力を操る力。そいつを使えば、敵は俺に引き寄せられる。


「跪け!」


 近づいた所で拳骨一閃! 哀れベヒーモスの頭は砕けましたとさ!

 伊達や酔狂で魔界を生き残ってきたわけじゃねぇ。魔界で鍛えぬいたこの俺様に敵う奴は、間違いなく人間界には存在しねぇ。


 名実ともに、この俺様が世界最強ってやつさ。


「引きこもってるベイビーたち、出てこいよ! 優しい優しいおじさんが遊んでやるぜ、Hey Come,on!」


 おーおー、出てくる出てくる、ベヒーモスのタイムセールだ。いいぜ、全部食ってやるよ!


 俺ぁ、人間の屑だ。だがよ、屑にも屑の、矜持ってもんがある。

 魔王の右腕、外道の力。こいつを宿して戻った以上、俺の役目は一つだけ。

 この右腕が届く範囲で、大事なもんを守り続ける! そんだけだ!


「今日は壮行会だ、派手にやろうぜマイフレンズ!」


 畜生、奴らと一緒の新生活……嬉しすぎて狂っちまうぜ!

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