最終話 ハワード・ロックの物語。
「よぉ、生きてるかネロ!」
果物籠を抱えて、ディジェとレヴィを交えた新勇者パーティを引き連れて、ネロの見舞いに俺参上ってな。
ルシフェルに腹貫かれたが、幸い命に別状はなかったそうだ。コハクとカインが、懸命に治療したみたいだからな。んでもって、最近意識が戻ったとの事だ。
「この通り、元気ですよ。ディジェ、レヴィ。来てくれて嬉しいよ」
「空元気、ってわけじゃなさそうだな」
「心配したばい、だけん、元気ならちゃかった」
微笑ましいねぇ、学生共の集まりってのは。話す中でレヴィにしでかしたカツアゲ行為だったり、ディジェへの悪口だったりを謝る辺り、大分こたえたみたいだな。
ルシフェルをぶっ殺してから、早いもんで一週間だ。
バアルゼブルから戻るなり、カインとコハクにゃ号泣されるわ、ヨハンにゃ心配かけただの殴られるわ、ガキどもは抱き着いて来るわ……そりゃあ忙しかったぜ。
負けるわけねぇだろが。お前らが期待してんのは、絶対に負けない、最強無敵の俺様だろう?
だったら期待に応えてやんねぇとな。俺様は、エンターティナーなんだからよ。
「そうだネロ、中間の結果が出たんだぜ。どうなったと思う?」
「僕の勝ちかな?」
「残念、俺の勝ちだ!」
ま、勝ちって言っても一点差だがな。それでも、ディジェが明確にネロを上回った瞬間だ。
最終的に、演習試験での過程で差がついた。一人で戦ったネロに対し、ディジェはレヴィと戦った。仲間を守りながら、圧倒的な力を持つ相手に諦めず立ち向かった。その姿勢が、ネロを超えたのさ。
一応言っておくが、俺は演習試験の採点に関わってねぇぞ。正真正銘、連中が採った点数だ。
「うちは、六位たい。やけど、Aクラスん人達ちゃりも上なんやちゃ。凄いやろ」
「うん、凄いよレヴィ。そうか、僕は、負けたのか……残念だな、リベンジしたかったけど、もう僕は……出来ないから」
「なんでだよ、ネロ」
「……僕は、魔王の計画に加担してしまった、犯罪者だ。多大な被害を出した以上、もう学園には居られないだろう。このまま逮捕、退学処分は、明白さ……」
はー、しんみりしやがって。言ったろうが、お前を助けてやるって。
「残念だがネロ、そう言う悲しい話は無しだぞ」
「そうよ、ネロ。ハワードさんが言ったでしょう、貴方をしがらみから救うと」
ナイスタイミング、カインとコハクの馬鹿夫婦。言ってやりな。
「ルシフェルの発言からして、ネロは洗脳および魅了を受けて操られていたと判断できる。本人の意志を無視し、利用していたのであれば……ネロは被害者だ」
「被害者を罰する法律なんて無いわ。貴方は何も悪くない、全てはルシフェルが仕組んだ、許しがたい犯罪よ」
「父さん、母さん? ……僕を、庇うの? そんな事をしたら、周りからなんて言われるか……!」
「? 息子を守るのが、そんなに悪い事なのかい?」
「貴方を守るためなら、私とカインはどんな事でもしてみせる。今の地位を失っても、恐くないわ。皆が居れば、必ずやり直せるのだから」
「…………!」
感動のあまり、言葉も出ねぇってか? んじゃ、ヨハン。続き頼むぜ。
「学園内でも、君が魔王を呼び出したって認識はされていないようだよ」
「って、親父? いつから……」
「出てくるタイミングを計っていたのさ。それよりネロ、学園内をさりげなく聞き込みしてきたんだが、魔王が出現した瞬間を見た人間は、誰も居なかったようだ」
「え、でも、ハワード先生と、父さんが?」
「俺が見たのは、UAとか言う化け物だ。ありゃ人間じゃねぇよ、ネロとは似ても似つかねぇさ」
あの場にネロなんかいなかった、それじゃあ、目撃した事にはならねぇだろ。
「学園の連中は、心配していたようだぜ。崇高なる生徒会長様が魔王に誑かされて、酷い目に遭わされたってな。早く学園に戻って元気な姿を見せて欲しいって、全員言ってるぜ」
「……先、生?」
「てめぇがした事は、悪い事だ。だがな、一概に全部、ネロのせいってわけでもねぇ。てめぇをきちんと見ていられなかった、俺達大人にも責任がある。だから、今後はきっちり見といてやるよ。でもっててめぇも、仕出かした事に対する責任を果たせ。周りが期待するネロって男を、全力で表現しろ。俺みたいにな」
自分を表現しない奴なんかに、誰も期待なんざしてくれねぇさ。
思い切り泣いて笑って、怒り狂って。騒がしいからこそ、皆が見てくれるんだ。
「だからもう、自分を隠すな。困った時には、俺達が居る。友人に、教師に、両親に、そしてこの俺様が。今度は混じりっけのないネロを、見せてくれよ」
「……先生っ……父さん、母さんっ……!」
「ネロ……本当に、すまなかった……もう俺は、ネロから目を、離さない……こんな、情けない父親だけど……許してくれるか?」
「……うんっ……!」
へっ、泣くんじゃねぇよ。俺ぁ、安いお涙頂戴劇が嫌いなんだ。
しかし妙だな、外は快晴だってのに、顔に雨が落ちてきやがる。雨漏りしてんなら修繕しろよ、この病院。
◇◇◇
「お見舞い、終わったの?」
あいつらより先に病院から出るなり、ブレイズちゃんと出会っちゃった。ま、気配察知したから出て行ったのもあんだけどね。
「あらーブレイズちゃん。君は行かないのかい?」
「もう行ったわよ、貴方達より早くね。正直、なんて声をかけていいのか分からなかったから、すぐに出て行っちゃったのだけど。それに貴方に頼まれた、情報操作もあったしね」
「何の事かなぁ、俺ちゃんしーらないっと」
「はぁ……ネロがきちんと戻れるよう、学園とベルリックに魔王の悪評を広めとけって言ったのはどこのどなたかしら? 人気者の私なら皆信じるからって、頭下げてまで頼み込んできたのは誰だったかしら?」
「いやぁ、あの時頭下げたのはR指定確実なフリル付きハイレグショーツを見るためで」
「くたばれロマンティック変態!」
ほっほーう! 悪いけどへっぽこ剣術に当たる俺様じゃないのよねーん!
「ま、ともあれあんがとさん。おかげでネロも、後腐れなく元の生活に戻れるだろうさ。俺にとっちゃ、甥っ子みたいなもんだからな。甘いとは思うんだが、放っておけなくてよ」
「あら、珍しく素直ね」
「そういう時もあんのさ、俺様は天邪鬼だからな」
それに、嫌じゃねぇか。俺の大事にしているもんが、台無しになって終わるなんてよ。
俺にとって大事な物は、家族だ。こんな俺なんかを好きでいてくれる連中、それが、俺の大事な家族だ。
そいつらは二度と泣かせねぇ。俺が俺であるために、誓った事だ。
「さてと……どうするブレイズちゃん。少し早いが、ブランチでも行かねぇか? どうせなら二人きりであまーい時間を」
「師匠! 外に居るのなら、ケバブ買ってきてくださいよ!」
って、何上からパシろうとしてんだよカイン!
「あのな、病院でケバブとかアホだろお前! まさか、ネロに食わせる気か!?」
「そのまさかですよ先生! 僕も先生のようになりたいですし、ケバブ、食べてみたいんです」
「どんな理屈だよネロ! おいコハク、お前からも何か言ってくれ!」
「じゃあ私は甘口ね!」
「話を聞け!!!」
「観念しなよハワードさん、言い出したら聞かない事、わかってるだろ?」
「ヨハンまで……ぐぬぬぬぬ!」
「よかった、お陰で変態に連れ込まれなくて助かっちゃった」
「ってそりゃーないでしょーよブレイズちゃーん!」
全くどいつもこいつも! 俺様一番の年長者だってーの! もう少し敬意を払えっての!
「俺達も一緒に行くよ、先生。一人じゃ人数分持つの大変だろ?」
「えと、ひぃふぅみぃ……八個やね。先生じぇにいるけんか?」
「おい、さり気なく全部俺が奢る事になってねぇか? なんで俺がお前らの分までケバブ買わなきゃ……あー、もういいよ。買ってやる」
考えるのも面倒になってきやがった。もうやけだ、奢ってやるよ。
こいつらに振り回される俺も俺。これこそが、ハワード・ロックの物語って奴だ。
「そんじゃ、読者諸君。俺の物語は、一旦ここで終わらせてもらうぜ」
続きは是非とも頭の中で補完してくれ。諸君らの期待する、ハワード・ロックという男をな。
じゃ、また会う時まで、さよならだ。親愛なるもう一人の登場人物達よ。
ここまでご愛読いただきありがとうございます。
これより先は長い後語りになるので、飛ばしていただいても大丈夫です。
本作の趣旨は、「一人称視点でちょっと変わった事に挑戦する」という物です。
作中頻出していた「読者諸君」と言う表現ですが、このメタ発言は江戸川乱歩が多用していた表現でもあります。
それを読んでいて、読者の皆様を「主人公を傍で見守るもう一人の登場人物」にする演出に使えないかと思い、メタ表現を頻発させて頂きました。
この「読者諸君」と言う表現は使い辛い物で、思いきり振り切ったキャラじゃないとメタ発言に負けてしまいます。それで作り上げたのがハワード・ロックと言う男です。
性格も能力もキャラクターとして異常なレベルで強く、「読者諸君」と呼ばせても「ハワードだから仕方がない」で済ませられるくらい濃い男だったので、メタ発言自体が彼のキャラを際立たせる要素となって遠慮なく使う事ができました(裏設定で「長い魔界生活の末、第四の壁を認識できるようになった」と言うものがあります)。
そうした目的を抜きにしても、彼は描きがいのある男でした。
決して万人受けするキャラではありませんが、感情豊かで良い所も悪い所も全部オープンにする性格は制作時幾度も助けられました。何やらせても「こいつなら違和感ないな」と思ってしまう辺りにハワードの強さを感じます。
プロットはここまでしか作っていないので続編の予定はありませんが、またハワードで何か作れたら面白そうです。
それでは今後も私の作品をよろしくお願いします。




