表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/34

33話 皆が期待するハワード・ロック

「! てめぇ、ちょっとは空気読めよ!」


 ここで出てくんのか、あの野郎! くそ、ネロ!


『当然出てくるとも。完全なる形に作り上げた芸術、それを破壊する時こそが、もっとも美しく、儚い最高の瞬間なのだから』


 急いでネロに手を伸ばしたが、遅かったぜ。

 ネロの背後に人影が浮かぶなり、腕が胴を貫いた。腹を貫通されたネロは、そのまま倒れちまう。


「ね、ネロぉっ!」

「怪我人は黙ってろ、俺が行く! ブレイズ、そいつら守ってろ!」

「え、ええ!」


 くそ、間に合え!


『大丈夫、もうこの子に用はない。抜け殻は喜んで返してあげよう』


 ネロから腕を抜くなり、投げつけてきやがった。俺じゃなかったらキャッチ出来なかったぞこんにゃろ。


「ネロ、生きてるか? おい! 死んだら殺すぞこら!」

「せ、んせい……僕は、僕、は……なんて、事を……!」


 息はあるな。それに、どうやら自分を取り戻したみてぇだ。でもって、威圧感も消えちまってる。


「どうりで威圧感が増したはずだ。ずっとてめぇが、後ろに居たんならな」

『君もやはり人の子か。かつての仲間が産んだ子供、疑いを向けられない情の深さ。それが君の弱点だよ、ハワード・ロック』


 ネロから魔力を奪い取って、人影が実体化した。


 長い銀髪に、全身黒のタイツヤロー。そして俺と同じ腕を持つ……俺が唯一苦戦した魔王。


『さぁ、我が名を呼んでくれたまえ。我が唯一認めた、最も美しき人間。ハワード・ロックよ』

「自己紹介くらい自分でしやがれ、だがそうだな、たまにはてめぇの遊びにつきあってやる。……久しぶりだな、ルシフェル」


 やっとラスボスの登場だ、俺が魔界で出会い、右腕を奪った魔王、堕天魔王ルシフェル!

 こいつが、この事件の全ての黒幕だ。


『おお……なんて、なんて麗しい響き! 君ほど強く、逞しき人間から紡がれるその言の葉全てが、私にとって福音たる物だ!』

「気持ち悪ぃんだよ、馬鹿。こっちはイラついてんだぜ? 俺を出し抜いて、散々っぱら暴れまわってよぉ。むかつくぜ、腹の底からな」

『これは失礼した。だが怒る君も素敵だ、マイステディ』


 随分紳士的に手を振り、会釈をする。相変らず、キザな奴だ。


「ルシフェル……師匠が、倒した……魔王……」

『醜き弱者は黙ってもらおう』


 カインに向けて槍を飛ばすか。そう言う所も変わってねぇな。って事でキャッチだ。


「気が早ぇよ、まずは水でも飲んで落ち着け。バイキングでいきなり肉料理山盛りにしてくんのは、マナー的にもどうかと思うしな!」


 ルシフェルに高威力の水魔法をぶちかます。普通の魔物や魔王なら、一撃でバラバラになる魔法だ。

 だが、奴には効かなかった。


『それは失礼した。しかし、随分と威力が低くはないかな? 普段の君なら、私の体を半壊させるだろうに』


 水が無くなるなり、しれっと出てくるルシフェル。やっぱこいつは誤魔化せねぇか。


『もしや、思いのほか魔力を奪われているとか? 違うかい?』

「昨日飲みすぎて二日酔いなだけさ。ほっとけ」


 ウィットにとんだジョークで隠しても、無理だよなぁ。

 ネロに思った以上、持って行かれちまったからな。道中の戦闘をブレイズ達に任せてたのも、それが理由よ。


「先生、うち達に戦わせてた理由……そげなこつ……!」

『黙るがよい弱者。何度も言わせるな、我は醜い弱者が大嫌いなのだ』


 今度はレヴィに攻撃する気か? おいおい勘弁してくれ。


「社会科見学に来た将来有望の学生だぜ、そんな目くじら立てんなよ!」


 ルシフェルが攻撃する前に潰してやるか。じゃねぇとレヴィが死ぬからな。


「お前の相手は、俺がしてやる。お望み通りのワルツを踊ってやろうじゃねぇか、ルシフェル!」

『そうだ! そのために我は蘇ったのだよ、ハワード!』


 俺とぶつかり合いながら、ルシフェルは語りまくったよ。自分が蘇った理由をな。


『君と戦い続けたあの一ヵ月、まるで夢のような幻想的な日々……あれは今でも、忘れられない! どんな魔王も、人間も! まともに我と切り結べる者はいなかった! 君だけが唯一なのだよ! 我が力に撃ち負けない、最高に強い存在は! だから我は望んだ、もう一度君と愛し合いたいと! だからやられる直前、影武者を出して逃れた。だが弱ったせいで、人間界に迷い込んでしまってね……だが、君は戻ってきた! 我にもう一度、会うために! なんと、なんと喜ばしい事か! 我が最愛の人と今一度出会えた、これほど喜ばしい物はないではないか!』


「はっ、随分と熱烈な告白してくるじゃねぇか。それが、ネロをそそのかした理由かよ」

『勿論だ! 我のためによく尽くしてくれたよ。何しろ君に負けて、校舎裏で泣いているのを見かけてねぇ。同じ君に負けた者だ、利用するのは至極容易い! 軽い言葉かけで簡単に乗ってくれたよ。力を渇望する、幼い子供を誘うのは一興ではあったね』


「……じゃ、ネロからてめぇを求めたってわけじゃねぇのか」


 そう言う事だよな、カイン。言質は取ったぜ。


「少し気がかりな事があったんでな、その言葉が聞けて嬉しいよ。おかげで、心置きなく暴れる事が出来るぜ」

『それは良きことだ。さぁ、戦おうハワード! だがその前に、人間達には退場してもらいたいものだな。我は君と、永遠に戦い続けたいのだ。だから君と戦う前に、この世界の人類には、消えて貰わねばならない』


「おいおい! そりゃ極端じゃねぇか? 俺だけを狙えばいいだろう」


『いいや駄目だ! 戦いとは、アートでなければならない。限りなく無駄を削ぎ落し、極限まで磨き上げた、美の集大成! それこそが戦いという物なのだ!』

「だったらなんでネロを操った」

『勿論演出のためだ。すぐに結論で終わってしまっては美しくない、アートとはそこに至るまでの過程が重要なのだ! だがその過程が終わった今、余計な物は要らない。この世界には! 君と我のみが居て! 初めて美しいアートへと昇華するのだ! それが分からん君ではなかろう、ハワード・ロック!』


「ゴメン理解できねぇや。何しろ俺様は、もうとっくに綺麗なアートを手にしてるんでね。そいつに真っ黒な絵の具を重ね塗りされるのは、我慢ならねぇな」


 残った力は、ちょっと分が悪いな。ただ、勝てないわけじゃねぇ。

 必ず勝つさ、俺は。なぜって? 決まってんだろ。


「ってわけで、テメェらは邪魔だ。ここから先は……俺のプライベートタイムだ」


 壁をぶっ壊して、脱出口を作る。旧勇者パーティは動けねぇだろうが、新勇者パーティならどうにかなるだろ。


「おいガキども、そこの老害達連れて脱出しろ。お前らならそいつら連れて行けるだろ?」

「なっ、先生!?」

「何を、しよっとか!?」

「決まってんだろ、鬼退治だ」


 こいつの相手が出来るのは、俺しか居ねぇ。だったらお前らは、邪魔だ。


「師、匠……やめてくれ、これじゃ、昔と同じだ……また、貴方が……消えてしまう……! そんなの、俺……絶対、嫌だ! 嫌だ!」

「うるせぇな馬鹿弟子。ぴーぴー喚くな」


 歳考えろカイン、てめぇはもう三十も後半だろ? 妻子持ちだろ? そいつがみっともなく泣くんじゃねぇよ。


「ハワード、さん……許さないから……また、私達を置いて、居なくなるなんて……!」

「僕達だって、あの頃のままじゃない、なのに……どうして、動けないんだ……!」

「あのな! なんで今生の別れみたいなことになってんだ? 大げさすぎんだよお前ら」


 お前らがそうであるように、俺もあの頃のままじゃねぇ。むしろそん時よりも、遥かに強いぜ。俺もな!


「ブレイズ、ディジェ、レヴィ。言わなくても分かるよな。そんでもって、言わなくても分かってくれるよな。……ネロ、助けてやるぜ。お前から、全てのしがらみを取ってな」

「……先生……!」

「……行きましょう皆さん。私達は、邪魔だわ」

「離せ、ブレイズ……! 俺は、師匠を……師匠を!」

「大丈夫たい、皆さん。先生は、大丈夫でしゅ。だって、先生は先生やから」

「だけど……ハワードさん……!」

「くっそぉ……また、また僕達は……!」

「何言ってんだよ、親父。俺達のハワード先生は、絶対負けない。だから……」

『帰ってきて! 必ず! 皆の所へ!』

「おーよ、だから、大人しく待ってな。親愛なる家族ども」


 今回は大人しく帰ってくれたな、それでいい。そうじゃなくちゃ、俺もガチでやりあえねぇ。

 さぁて、気張るとするか。俺に期待してくれる連中のためにな。


『さぁ、邪魔者は居なくなったな。では、楽しもうじゃないか。我と君の、甘美なる舞踏会を!』

「うるせぇ、黙れよ」


 言ったろ、勝てないわけじゃねぇって。勝つんだよ、俺は!

 ルシフェルと二人だけの塔の中、前触れもなく始まるダンスパーティ。互いの身を切り、打ち砕き、魔法で激しく世界が揺れる、この世ならざる舞い。


 何人たりとも割り込めねぇ激闘に、ルシフェルはご満悦のようだが……生憎俺はてめぇを楽しませるために踊ってるわけじゃねぇ。


『どうしたハワード、ステップが弛んでいるぞ! そぉら!』

「ぐはっ!」


 とはいえ、やっぱこいつ、強ぇわ。俺の一瞬のスキを突いて喰らった、超火力の魔法攻撃。俺ですら意識が飛んで、全身が軋みを上げる。

 その一撃をきっかけに、防戦一方になっちまう。やっぱ、ネロに奪われた分が響いているな。ちょっと苦しいぜ。あ、腰が落ちた。


『せやぁっ!』


 体が脱力した瞬間に、重い一撃が入った。俺とした事が、無様に転がり、倒れちまう。

 こりゃあ、久しぶりのピンチだな……体が、痛ぇや。ちょっと動くのも億劫だぜ。こんだけボロボロになったの、いつ以来だ?

 へへ、けどなぁ……それでも俺、勝っちゃうんだよなぁ。だってよぉ、俺はよぉ……。


『やはり君と踊るのはとても楽しいな。それ故に分からない事がある。どうして君はそうまで他人のために戦う事が出来る? あの小僧を通して見ていたよ、君の暮らしぶりを。

 普段の君は粗暴で、女ったらしで、金銭面もだらしのない、自分勝手な男にしか見えない。なのになぜ、そうまで他人を想う事が出来る。一体どっちが本当の君だ。あまりに自分勝手にふるまう君、人を慈しむ心を持つ君。どう考えても相反するだろう。それが全く、理解できないのだ』


「……何言ってんだよ、そこまできちんと見てんのに、どうして俺を、理解できてないのかねぇ」


 もしかして、読者諸君も分かってないのかな。俺の事。

 あのなぁ、そんな「お前はなんだ?」なんて哲学的な事ぐだぐだ聞くんじゃねぇよ。そんなに難しい事じゃねぇだろうが。


「そんなもん……俺がハワード・ロックだからに決まってんだろうが!」


 俺は俺以外を表現できねぇ、読者諸君が見てきた全てが、俺の全てだ! それ以外の答えがあるのか? ねぇだろ!


「だから俺は、勝つんだよ。絶対無敵最強賢者に負けは許されねぇ。じゃねぇと、寂しがって泣き喚く奴らが居る。俺が俺であるために、あいつらの中の俺が、最高の俺であるために! 俺は最強の大賢者、ハワード・ロックで居なきゃならねぇんだ!」


 感謝するぜ、読者諸君。お前らのお陰で、力が湧いてきた。

 お前らも、負ける俺なんか見たくねぇよな? 勝ち続ける俺じゃないと、嫌だよな!

 俺に期待してくれて、ここまで見続けてきたお前らも、もう一人の登場人物(俺の大事なファミリー)だ! 諸君の前では、カッコいい俺であり続けたいのさ!


「俺の表現する俺を期待している連中に、ダサい姿は見せられねぇし見せたくねぇ! だからよルシフェル……勝つぜ俺は! この魔王の右腕で……大事なモンを全部守り抜く! 一つたりともてめぇなんかにゃ渡さねぇ! 俺は……ハワードは! 世界一欲張りな男だからな!」


『ははははは! ならば我はそれ以上の欲張りだ、君を奪い、我がものとしよう! ハワード!』


 遺言はそれでいいのか、ルシフェル。

 もう次の一撃で、全部が終わるんだからな。


『さぁ、もっと踊ろう、もっと、もっとぉ!』

「残念だが、フィナーレだ」


 魔王の右腕で、ルシフェルを刺し貫く。この右腕は、元々お前の物だろう?

 なら、こういう使い方、出来るんじゃねぇか?


「お前の全てを、奪ってやる」


 右腕に、魔王ルシフェルを吸収していく。封印じゃねぇ、同化でもねぇ。ルシフェルその物を、俺の力に取り込んでやるのさ。

 こいつ自身の腕だからこそできる物。魔力の波長が合っているなら、こいつを魔力に変える事くらい、余裕だぜ。


『なっ、や、やめろ、やめろ!? 何をしているのだ、ハワード!?』

「喜べよ、お前の大好きな俺様の一部になるだけだ。言っただろ? 俺は世界一欲張りな男だとな! 殺すなんざ勿体ねぇ! お前を骨の髄まで喰らい尽くして……俺は勝つんだ! そして戻るんだ! 大事な家族が、待っている場所へ!」


 あの時とは、俺も違う。

 あの時俺は、力がなかった。カイン達と別れるしか、魔王を倒す方法が思い浮かばなかった。……守るべき人達に、無用な涙を流してしまった。


 だからこそ、同じ過ちは繰り返さない。大切な人達の悲しむ涙なんか、見るのはごめんだ。見るならば、再会の喜びって涙を分かち合う方がいいだろう!


 それが、俺が最強であり続ける理由なのだから!


『嫌だ、消えたくない、消えたくない! 我は、まだ、まだ! 踊り足りな、あ、ぁぁぁぁあぁぁ!』

「消えちまえ、過去の亡霊!」


 ルシフェルの姿が消え去った。俺の中に溶けて、消滅したんだ。


「……どうだい、読者諸君(俺の大事な家族達)。少しはお前らの期待に、応えられたかい?」


 応えられてないと思った諸君にゃ、申し訳ねぇな。応えられたと思った諸君は、ありがとさん。これが、俺の表現する俺なんだ。

 カッコ悪いのも、不格好なのも、不器用なのも。お前らが見てきた全ての俺をひっくるめて、ハワード・ロックってわけなのさ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ