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32話 冷たいガッツの正体は。

 塔の中は思ったより複雑な迷宮になってやがってよ、多数のトラップやらギミックやらがてんこ盛りになってんだ。

 例えば、多量の血を捧げないと扉が開かないギミック。道を間違えれば延々出てこれなくなる迷宮トラップ。でもって持っていると魔力を吸収し続けるボールを使わないと通れないルート。別ルートの連中と連携しなきゃ進めない場所もあって、いやまぁ、よくこんだけ思いついたもんさなぁ。


「けど全部ぶっ壊して進むだけだがな!」


 うん、全部俺ちゃんの右腕で粉砕しまくったけどね! トラップ考えたネロ君、ごめんねー。


「これ、ネロ報われないよな……」

「理不尽たい……」

「貴方、ちょっとはダンジョン作った側の事考えてあげたら……?」


「んなもんで時間食ってる暇はねぇだろが。それに、お前らにもきちんと見せ場やってるだろ?」


 魔物退治は下々に任せるぜ、雑魚の相手は面倒だからな。それに……ちょっと今は頼んねぇと。

 ほら、軽口叩いている間に出てくる出てくる。お決まりの雑魚モンスターどもだ。


「やらねぇなら全部俺が食っちまうぞ、どうする?」

「そんなの、決まってるでしょ。私が食べてあげる!」


 全身をねじ切るかのような、豪快な乱舞だ。まだ粗はあるが、バトルマスターは形になってきてるな。


「アートピアス!」


 剣を投げつけて、敵を磔にする。受けている間は敵が継続ダメージを受けるから、面倒な奴を食い止めるのに適した技だな。

 んで、その間にどうするんだい?


「当然、こうするのっ! バスタァー、ホームラン!」


 おー、剣を豪快に振り回して複数の敵をかっ飛ばしたか。満塁ホームラン、綺麗に決まったな。


「先生、あのスタイル、豪快と言うかやけっぱちと言うか、無茶苦茶じゃないか?」

「ブレイズ様、えずかたい……というか、体痛めるけんね」

「物理特化の一撃重視スタイルだからな。魔法が効かない相手への対応には、お前らのより効果的なのさ。それに……暴れまわるからパンチラ乳揺れ拝めるし♪」

「ってそれが狙いかぁっ!?」


 おっとぉ、あまり俺様に攻撃しちゃダメ。可愛いクマちゃんパンツが丸見えだよ♡ ぷるんと揺れるDカップ、うーん眼福眼福。


「ネロが危ないってのに、先生、ブレないよな」

「そりゃそうよ。どんな場面、どんな状況でも俺様は、俺様だ。お前らも覚えとけよ、どんだけ危険な状況でも、余裕を持ち続けるのがクールな奴ってもんなのさ」

『その通りだな、賢者ハワード。どんな時でも優雅にふるまうからこそ、君は美しい』


 ……ちっ、どんなタイミングでのラブレターだい?


『てめぇ、ネロをどう口説いたんだ? 幼気な子供心の隙間に付け入りやがって、やり口がせこいんだよ』

『せこいとは心外だ。私はただ、芸術を完成させたかっただけだよ。悲劇の少年の悲鳴、という絵画をね』

『売れねぇ作家気取りか、この野郎。……マジで生きてたとはな、驚いたぜ』

『ああ、私も君に右腕を取られた時にはどうなるかと思ったが……影武者を使ってどうにか逃れたのさ。君も見ていただろう、彼のドッペルゲンガーを』


 なぁるほど、随分昔に見た手を、俺はまた使われたわけか。ホーリシットだぜ。


『ああ……また君と戦える幸福、感極まって泣きそうだ! さぁ、早く来てくれ。我が愛しい人よ! また甘美なるワルツを共に踊ろうではないか!』

『お断りだ。俺ぁ、野郎が嫌いでね。男と踊るダンスなんざクソの価値もねぇんだよ。せめて美女の一人も用意しとけ』

『ふふ、では女性となって待っていよう。早くおいで、我が愛しい人』


 念話が途絶えた。好き勝手に語るだけ語りやがって、カスが。


「先生、どげんしたと? ずっと黙っちるけんども」

「なんでもねぇよ。処女の寝んねが気にする事じゃねぇさ」

「言い方。でもそれなら、先に進みましょう。カイン様達は多分、到着していると思う」


 だな。あいつらの方が早い、多分ネロと対面している頃だろう。

 せっかくのデートのお誘いだ、遅刻したら紳士失格だぜ。


  ◇◇◇


 長い道のり乗り越えて、やってきましたる最上階っと。

 もう既に扉の奥から剣戟の音が聞こえやがる。気の早い連中だぜ、ったくよぉ……。


「余計にあの野郎を喜ばすだけじゃねぇか、くそったれが……」

「あの野郎?」

「俺の右腕の、元々の持ち主だ。そいつが、全部の黒幕ってわけさ」


 思えば、節々に細かな伏線はあった。それに気づかなかった、俺も馬鹿だぜ。


「とっととネロをとっちめて、ご対面と行くぞ。懐かしい旧友にな」


 って事で扉を開けてみたら……ヨハンが思い切り飛んできやがった。


「おっとぉ、俺様見事にキャッチ! ヘイヨハン、ボロボロじゃねぇか」

「は、ワード、さん……!」


 タンク役のこいつが、相当削れてやがる。……戦況は、悪そうだな。


「信じられない、強さだ……ネロは、どうして魔王に……」

「いいから休んでろ。……カインと切り結んでるのか」


 UAの剣を握って、ネロは楽し気にカインと剣を交えている。でもってその足元には……傷ついた、コハクだと?

 ……あいつ、母親を傷つけたのか。


「はははっ! いかがですか父上、母上! この力、魔王の力! 素晴らしいとは思いませんか!」

「やめ、て……やめて、ネロ……貴方は、こんな乱暴をする子じゃ……」

「感想を答えてくださいよ、母上。僕は今、父上以上の力を手にしているんですよ。息子の喜ばしい瞬間を、どうして祝ってくれないんですか?」


 おい、何コハクを、足蹴にしてんだてめぇ。


「ネロ……コハクを、どうしてコハクをそんな!」

「決まっているじゃありませんか、力を示すためですよ!」


 ネロがカインを押し返した。あんにゃろうのブーストがかかってるせいか、力だけならカインより強くなってんな。

 いや、それだけじゃない。俺とカインから奪った力を、自分の物として使ってやがる。


「おいネロ! お前、一体、何をしているんだ!」

「ディジェ、か。丁度良かった……君にも会いたかったんだ」


 随分な威圧感を放ちながら、狙いがディジェに切り替わった。演習試験のリベンジする気か? やめておけ。


「僕は君如きに負けてはならないんだよ。格下相手に僕は、勝ち続けなきゃならないんだよ。そうだ、その力が今の僕にあるんだ……力、力、力! そうだ! 君にも見せてあげなきゃね、この僕が手にした、絶対的な力を!」

「力力って、馬鹿かお前は! そんな、人を傷つけるような力を得て、お前は何がしたいんだよ! なんで……自分の家族を平気で傷つけられるんだよ!」

「今回ばかりは、ディジェに同意見だぜ。ネロ」


 ディジェは下がってな、変な事して流れ弾喰らったら死ぬぞ。


「俺と全く同じ力を手にしていたか。そりゃ、俺様の目を掻い潜れるわけだぜ。てめぇの後ろに居る馬鹿野郎もだ。この右腕と同じ波長の魔力を持っているのなら、いくら探そうが探知できやしねぇ」

「それだけじゃありませんよ。以前、先生に腕を見せていただきましたよね? その際にプロテクトをかけたのですよ。魔王様と僕の蜜月が、見つからないように。念のために、ね」


 そういや、こいつが威圧感を持ち始めた頃、右腕触られたな。忘れた読者は11話を読み返しな。


「そこからの根回し、大変でしたよ。学園では優秀な学生を演じるため、裏では魔王様を復活させる準備のため。影武者を利用して上手く立ち回りました。その結果、最大の目的である勇者と魔王の魔力を手にする事が出来た。我が主を復活させる準備が、整ったのですよ」

「はー……こんなガキに出し抜かれるとは、俺様も焼きが回ったもんだ。褒めてやるよ、拍手でも送ってやろうか? パチパチパチーってな」


 こいつは心からの賛辞だぜ読者諸君。敵ながらあっぱれだ。


「だが、ネロ。どうして力を求めた。そんな苦労をしてまで、どうして魔王の力を手に入れようとした!」

「理由? それを、貴方が聞くのですか。父上」


 ネロの目つきが、急にきつくなった。


「どれだけ……どれだけ僕が、貴方を目指して頑張ってきたか……分かるわけないだろう! 勇者学園でAクラスに入れたのに、成績最優秀者になれたのに、生徒会長にまでなったのに! 貴方は一言たりとも褒めた事はない! なのになんだ! 顔を合わせれば父親面して、偉そうに説教垂れて! むかつくんだよ、その偉そうな態度が!」


 おい、コハクを蹴り飛ばすな! レヴィ!


「コハク様! 大丈夫けんね!?」

「あ、りがと、レヴィさん……ネロ、貴方……そんな事を……」

「母上も母上だ……僕がそんな苦しい思いをしているのに、仕事ばかり目を向けて……挙句の果てには僕達を遠くへ追いやって、寂しい思いをさせたのに……! 大体さぁ! 叱れよ! 僕はそいつに乱暴を働いたんだ、だったら早く僕を見ろよ! 甘やかすのが見るってわけじゃないだろ! なぁ、なぁ!」


 ネロの我儘な怒鳴り声が、ずっと続いている。カインもコハクも、押し黙ってなんも言えなくなってるな。


「だから、魔王の力を、手にしたんだ……僕が力を手にすれば、父上も、母上も、僕を見てくれる……だから、嬉しかったんだ……父上が僕に、手ほどきをしてくれた時が……なのに僕は、負けた。ディジェ如きに負けた! 負けちゃならなかったのに! 負けたらまた、誰からも見て貰えなくなるのに!」


 ……こいつの動機は、単純かつ幼稚だよ。「親に構ってもらえなくて寂しかった」。それだけの理由でここまでの事を起こし、俺達まで出し抜いた。その根性と行動力は、褒めるべきだろうな。


「だから……僕を、僕を見てくださいよ父上……こんなに、強くなったんですよ。僕は貴方より、強くなったんですよぉっ!」

「っ! ネロォッ!」


 癇癪を起した息子を止めるべく、カインが走った。互いの剣が交差して、最後に立っていたのは……ネロだったよ。


「が、はっ……!」

「カイン!」


 魔王の腕を伸ばして、カインを救助っとな。左肩から右わきにかけての裂傷、こいつはひでぇな。


「は、はは……やった、やった! 僕は、父上を、超えた……超えたんだ! どうですか父上! 魔王様の力を得た僕は、貴方よりもずっと、ずっと! 強くなった! これでもう僕から目を離せませんよね……そして貴方達を殺せば! ずっと僕を見ていてくれますよねぇ! あは、はははは! はははははは!」


「ヤンデレ理論全開たぁ、酷い壊れ方したな。斜め45度から叩けば直るのか? この壊れた頭は。ん?」


 ネロが笑ってる間に、ちょっと近づかせてもらうぜ。

 間近に迫った俺様に、ネロは目を白黒させていた。ふん、可愛げは残っていたようだな。


「殺せばずっと見て貰える? んなわけねぇだろ。そしてカインよりも強くなった? 違うな。お前はたった今、失ったんだ。無意味に手にした、無駄にでかい弱さのせいでな」


 って事で、ぶん殴ってやるか。家族を傷つけやがった、どうしようもない親不孝者をな!


「家族傷つけて、偉そうに笑ってんじゃねぇよクソガキが!」

「ぐはっ!?」


 二転三転、四転と。見事に転がっていくネロ。どうだ、痛いだろ。痛くなるように殴ったんだからな。


「親父が自分を見てくれない? お袋が叱ってくれない? アホだろお前。確かに、ネロをほったらかしにしていたこいつらも悪いと言えば悪い。だがな……そんな部屋の隅っこに引きこもって、自慰ばっかりしているてめぇもてめぇだ。

 そんな不満があんならよ、実家に殴りこんででも振り向かせりゃいいだろうが。親父が学校来てんなら、仕事中だろうと構わず怒鳴りこめばいいだろうが! お父さんお母さんを倒した僕は強い、僕を見て。ふざけんじゃねぇ! 自分の家族傷つけて、何が構ってくれだ!」


「……貴方なんかに、分かるわけがない……そもそも、貴方が発端なんですよ。貴方が僕を、打ち負かしたのが、魔王様と出会うきっかけだったのです」


 この期に及んで責任転嫁とはな。まぁ、聞いてやるか。


「誰かに打ち負かされたのは、初めての経験でした。僕にとって最大にして、最悪の敗北……そして聞けば貴方は、父さんと母さんの仲間、ハワードだと伺いました。貴方が現れてから、二人の視線は全て、貴方に向いた。僕の大事な物を、貴方は全て奪って行ったのですよ」


 ……要は嫉妬か、くだらねぇ。


「どうしてそう思った」

「決まっているでしょう! 二人は口を開けば貴方の事ばかり! 貴方に負けた僕は結局のけものだ! 父さんと母さんを奪って、僕をどん底まで押し込んで! そんな時でしたよ、あの方が声をかけてくれたのは……。

 あの方は仰ってくれた、力をくれてやると。力を手にすれば、望むものが手に入ると。そしてその力を愛する者に見せれば、振り向いてくれると。だから僕は魔王の力を求めたんだ! ずっと欲しかった物を取り戻すために! 貴方に奪われた物を盗り返すために! 貴方と同じ魔王の力を手にすれば、僕はまた、取り戻せるんだ。父さんと母さんを!」


「じゃあ取り戻せたのか? 親父は血塗れ、お袋は傷だらけ。この惨状を見てもまだ、そう思えるのか?」

「……えっ?」


 えっ、じゃねぇよ。こんな簡単な言葉かけで動揺しやがって。


「お前が得たのは、力でも強さでもねぇ。むしろ、失ったんだ。お前が取り戻すべき大事な家族と、ネロと言うブレない魂を。現にお前、俺が正論ぶつけただけでもう、揺れ動いただろうが」

「えっ、あ……え?」

「でかい力ってのは、時に……目を曇らせる。特に魔王なんてどでかい物を得ちまったのなら、猶更だ。お前、本当にこんな事がしたかったのか。力を持って、家族を傷つける。それが本当にお前のやりたい事なのか? 違うんじゃねぇのか!?」


「……そ、れは……」


「それに周りを見て見ろ。誰もお前を見てくれない? 居るだろうが、お前をずっと見ていた奴が。お前と対等の立場になろうと、愚直に進んできた馬鹿が、ここに居んだろうが!」


 ディジェがその証拠だ。それに、レヴィだってそう。こいつらはお前に勝つために、全力で特訓をこなしてきた。それって、お前を見ている事に他ならないだろ。

 それによ、ここにも居るんだぜ。お前をきちんと、見ていた男が。


「お前、結構寂しがりだろ。そういう奴ほど、自分の家族は大事にするもんだ。UAの襲撃時、コハクと一緒に居たお前は、嘘じゃねぇ。本当のネロだっただろ。それに結構臆病者だし、だけど相手の事を細かく気遣う繊細な所もあるし、かといって優等生ぶってるわけには、マジックに目を輝かせる子供っぽさもある。随分可愛らしい奴じゃねぇか。ネロって奴はよ」


「先、生?」


「親に構ってもらえず、寂しかったんなら、俺の所に来い。変に気取って隠さず接してくるなら、俺も受け止めてやる。自分の心押し込めて、俺や家族を傷つけたいなんて冷たいガッツ抱えて近づく位なら、自分を開けっ広げて甘えてくる熱いガッツ見せて飛び込んできてくれた方が百倍マシだ!」


 こいつの持ってる冷たいガッツの正体が、それだ。魔王にそそのかされ、自分を殺して、本音を隠すような馬鹿は、俺は嫌いだ。


 ディジェやレヴィのように、てめぇを解放して、本音ぶちまけてくる馬鹿が、大好きなのさ!


「とっとと戻ってこい! 魔王の力を手にしたままのてめぇに興味はねぇ。俺は、ネロって小僧と改めて話してみてぇんだよ!」

「そうだよ、ネロ! そんな思い抱えてたなら、俺達も頼れよ! Aとか、Dとか、そんなのもうどうでもいいだろ!」

「そげんたい! 思い切り喧嘩したばい。うち達、もう……友達なんやから!」

「……あ、あぁ……ああ!」


 瞬間、ネロが膝を突いた。濁っていた目が、輝きを取り戻してんな。


『ふふふ。美しい、実に美しい。人間の生の感情、なんと馨しい物なのだろうか』

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